プライベートビーチに行こう7
遅くなりました!
本日はルイさんがでないのでナンバリングなしです。
脱衣所を出ると、そこには広い石づくりの風呂があった。
「んわー! これがエレ姉さまから聞いていたお風呂なんですねー! 広いし貸し切りとは思えない」
「ええ。久しぶりにきたけど相変わらず、広いしいいところね」
風呂に入るに当たって、彩が歓声を上げた。
それを受け入れるように珠理奈は久しぶりのここのお風呂に頬を緩める。
のだが。
「お風呂もあれですが、珠理奈さんのそのボディーはなんというか……」
「そういうのを含めて、国民的美少女……いや、そこから育った姿というやつでしょうか」
周りから見られることで、自分を律することができるとお姉さま方も仰っていました、と彩がいう。
女子高の憧れられる先輩と、芸能人と。さて、類似点はあるんじゃないだろうか。
彩と楓香はじぃーっと珠理奈の体に視線を向ける。
別にどこかの誰かさんみたいに胸が大きいというわけではない。そうではなくバランスが本当にいいのである。
そして、ケアをしっかりしているのであろうお肌も、水をはじいてかなり質が良いことがうかがえる。
「なんかお風呂でじろじろ見られるのって慣れないわね……」
「あれ? 学校とかでのお風呂はどうだったんですか?」
「それは……デビューが早かったから。仕事が忙しくて正直あんまり友達と遊ぶなんてこともなかったし……」
そう考えると、馨の関係の付き合いができたというのは、珠理奈的にはかなりありがたいことなのである。
「確かに、テレビいっぱいでてましたもんね。もしかして修学旅行に参加できなかったっ! とか?」
「それはさすがに……でも、いちおう芸能学校って言われてるようなところだし、周りからの視線っていうのはどっちかというと嫉妬とかのほうが多かったかな」
まあ、じゃれついてくる子もいたけどね、と苦笑気味に珠理奈が答える。
馨を学校に案内したときのことを思い出したのだ。
最初に話を聞いたときは本当にパニックになったし、あの完成度である。最初は馨がいろいろだましていたんだと本気で思った。
「あー、仕事の方を優先して学校には最低限くればいいみたいな感じだったんでしょうか?」
「うちの学校だと考えられないです。学業優先って感じですから」
あとは、慈悲と寛容の心を育てることとかですかね、と彩が苦笑を浮かべる。自分が通う学校は確かにお嬢様学校としてキラキラしているとは思うけれど、それでもどこか自由度が足りないと思っているのである。
「そんなところかな。でもお風呂自体は好きなのよ? 仕事の時に近くに温泉とかがあると入ったりするしね」
しかも人が居ない夜とかに行くこともあってね、と少し遠い目をする。
そんな話を馨にしたら、きっとずるいとか羨ましいとか言うんだろうか。
「むしろそっちの方が騒がれそうな気がしますけどね。温泉でばったり他の人に会ったりとかはないんです?」
「んー、まぁ公衆浴場だとみんな他の人をじろじろ見ないものだしね。特別騒ぎになったことはないわよ」
いろいろ行ったけど割と大丈夫だったというと、きっとこそこそちらちらしてたんじゃないかなぁと彩と楓香は顔を見合わせた。
「お風呂というとエレ姉さまと一緒にテレビに出たところも気になります」
「確かにあそこは行ってみたいかも」
「冬になったら連れて行ってもらおうとエレ姉さまにはおねだりしてます」
あの貸し切り風呂もですが、大浴場の方も入ってみたいです、と彩はにこやかに言った。
温泉の中に入っているので表情の方もとろけそうである。
「あそこはいろいろ撮影の時にあったんだけど、結果的には良かったわね。エレナはあれでかなりの美人なわけだし、ファンは大興奮だったっていうし」
でも、あそこあの子の家の経営なのよね……と珠理奈は少し遠い目をする。
自分もお金はある程度持っている方だと思っているけれど、さすがに経営者といわれる人達のそれは桁が違うのだろうなと思う。
普段のエレナはなんというか、若干小憎たらしいところがある子という印象ではあるけど、実際はそういうバックグラウンドを持っているのである。
「エレナさん、あの件で実は女の子派大勝利って言われてるんですよね。実際を知ってる身としては、あーまあそう思いますよねーって感じですけど」
秘密を持ってる優越感みたいなのって、あるっていいますけど、正直エレナさんの件だと逆に本人を疑ってしまうところなんですよねーと楓香が肩をすくめる。ぴちゃんとそれで水面が揺れた。
「ああっ! わかります! 私も最初に兄さまから、この子彼女だけど、その彼女じゃなくて、ええと、なんつーか、なんて紹介を受けましたけど、私の中ではもう彼女というか、お嫁さんっ! って感じでしたから」
あんなに可愛い子が男の子の訳がない! と彩はいう。
「はいはい。それを言うなら、あんなに可愛い子が女の子のはずがない、なんだってさ」
「あはっ。珠理奈さんもずいぶんとこう、オタク文化に染まりましたよね」
仕事だとそういうの全然見せるそぶりはないですけど、と楓香が楽しそうに言う。
そのネタ自体は知っているようで、そうですよねー! やっぱり可愛い男の娘は正義ですよね! と拳を握ってにこにこしている。
さすがは、自分の兄が女装レイヤーだと知って兄妹仲が急接近した人である。
「馨と触れてるとどうしても、そっち系が多くなるというか。実際あいつ自体はアニメとかコスプレとかにそこまで限定していないんだろうけど、周りがだいぶね……」
「エレ姉さまはどっぷりですし、それにクロ……さまも、コスプレをされるんですよね?」
「女装レイヤーとしては割とクオリティが高いって言われてるかな。それでもエレナさんのどっちだかわからんっていうあの領域までは無理って日々いっているけど」
「あれは、まあなんていうか、恵まれてる人っているからね、って千歳も言ってたっけ」
二人とも、薬なしであのレベルっていうのはちょっと納得がいかないです、とげんなりしていた姿を今でも覚えている。
千歳自体は、珠理奈からみても特別、男の子っぽさなんてものは皆無で、自信をなくす必要なんていうものをまったく感じなかったのだけど、まあ、単純に比較してしまっているということなのだろう。
女性と比べて、というわけではなく、男の娘と比べて自分を計るあたりが、それでいいのかと珠理奈は思ってしまうのだが、そこらへんはそれぞれの感覚というものなのだろう。
ま。エレナも……不本意ながらルイも見た目は美少女というか、芸能プロダクションが目を付けるほどなのである。
それと比較してしまったら、正直そこらへんの一般女子でもへこむような気がするのだが。
比較はしてもいいけど、それが成長につながるようにと考えるのが珠理奈なのである。それでへこんでいてはしょうがない。
「あの、珠理奈さんは千歳さんのことはよくご存じなのですか?」
「あー、うん。まあ前にここを使った時が初めてだったけど、そのあとはほら、あの子、シフォレの従業員やってるから」
月一回くらいは食べにいくから、割と話はするのよね、と珠理奈は言った。
「噂に聞くスイーツ店ですね!? えと、楓香さまは行かれたことは?」
「ああ、私もなんどか連れて行ってもらったことがあります。どのケーキもほっこりするというか。甘すぎるのもあるけど、おとなしいのもあって。ルイ姉とかはアップルパイ大好き! って、割と毎回食べてるかな」
「あいつ、アップルパイ大好きよね……でも、プレゼントで渡してもたぶん、シフォレの方が美味しいかな? とかさっくり言うのよ」
ちくせう、と珠理奈が思いきりお湯に入ったので、少し波がたった。
「いやぁ、さすがにルイ姉はプレゼントに他のモノを引き合いに出すことはそんなに無いと思いますよ? まあベタベタな悪意にそまったものなら、ぷいってしますが」
ああ、身内の恥をさらしたくないので、これ以上はノーコメントです、と楓香が言う。
うん。自分の親が、好きな人の息子にぞっこんで、いろいろ贈り物をしているだなどと、ノーコメントとしかいえないだろう。
いくら可愛かろうが、お年玉くらいで勘弁してあげて欲しい。ほんとまじで。うん。無理。だと楓香は思う。
たぶん、シフォレのアップルパイを用意しても、おっさんからの甥へのプレゼントに、本人はすさまじく嫌な顔をするのだろうと思う。
「プレゼント? あんまり詳しく聞いたことないけど、贈ってくるやつは多いの?」
「んー、可愛い着ぐるみパジャマとかを翅さんから贈られて、ぶち切れてやだーとは言ってましたかね。あとは……うちの親の話になるのでシークレットで」
他は、謎な人なので手渡し以外はないと思いますよと、楓香がいう。
そう。ルイの住所を知っている人というのは、本当に少ないのだ。
それでも今の状態になるというのは、本当にルイというのは魔性のなにかなのかもしれない。
「あいつ、外歩きしながら買い物とかしたら、なんかいろいろサービス受けそうよね。はぁ……どうして男にもてそうな見た目してるんだろう……」
前に聞いたのは、撮影で被写体が萎縮しないように、同性で! ということだったと思うのに、女性としての魅力が上がりすぎな昨今である。もうちょっと男状態に似せてもっさい女子にできないものか、と思う珠理奈である。
「その点は、ルイでは買い物しない……絶対にだ! っていってましたよ? ああ、SDカードが切れたらコンビニにはいきますって、さらっと言ったけど」
ちなみに、カメラ系の買い出しは、ルイでも馨でも気にしないルイさんである。
むしろカメラ関係だと、値札より値下げするようなことはほとんどないし、安心というのはあるのだろう。
いちばん、サービスしてもらえそうなのは、個人の裁量でなんとでもなる個人経営のお店である。
「下心対策はキチンとできてるか……」
そこはちょっと安心と、珠理奈は頬を緩める。
そんな姿を見て、彩が首を傾げる。
「私の学校にも珠理奈さまに憧れを持っている方は多くいるのですが……実際お会いしてみると、エレ姉さまが仰るとおり、可愛らしい面もあるのですね」
「のわっ。いちおう言っておくけど、素がでるのは本当に近しい人だけだからね? 撮影所だと馨の話もできないし」
どこからリークされるか解らないし、そういう意味でも外の友達第一号がルイで……その……と珠理奈は頬を染めた。
「私としてはどうして、馨兄なのかは不思議なところです。まえに大学の学園祭でエスコートしてもらってたときは、馨兄は、女装だったし、実際どういう形でのカップリングをお望みなのでしょう?」
「かぷ?」
「ああ、すみません、こちらの業界用語で、カップルの属性とか、相性とか、場合によっては性別とかを考慮して、カップリングするんです。おにいちゃ……ああ、クロ姉さまや、エレナさんたちなら解ってくれるものなのですが」
ご理解いただけるだろうか? と楓香がじぃーっと、珠理奈をみていると、ううむと悩み込んだ彼女は言った。
「なるほどね。実際の恋愛とは別に、「属性」とか「性別」とか、そういうのも気になるわけね」
「そうですそうです。実際あの記者会見ではその……女性同士だったわけじゃないですか?」
「うぐっ……あれはその……ルイのやつが変な事を口走らないようにしただけよ」
ただの口封じなんだから、と珠理奈は恥ずかしそうにちゃぷりとお湯に浸かった。
そしてそれとは反対に、彩は目をきらきらさせながらカップリングという言葉に食いついてきた。
「まあ。楓香お姉さまは、恋愛についてだいぶお詳しいのですね?」
「うわぁ……ピュアな視線がつらい」
あまりに純粋な視線すぎて、あー、全部オタ趣味の見解ですよという感じの楓香なのだった。
二次元の恋愛は大好物だけれど、残念ながら三次元ではあまりそういったお付き合いのない身である。
兄や従姉妹は異性との付き合いが多いほうだが、自分はどちらかというと同性の友達の方が多いのだ。
まあ、大学生になってからちょっと気になる相手というのはできたりはしているのだけど、女子高出の身としてはちょっとすぐにお近づきになるというのはハードルが高いことなのだ。
「ほかに、恋愛についてなにか、これだ! っていうのはありませんか!?」
うちは、女子高でもあるので、そういう話はみんな嬉々として話したがるのです、と前のめりで言われてしまった。
そこまで大きくない胸が水面をはじいたけれども、お湯が揺れても嫌がるメンバーはいない。これくらいの慎ましい波ならば特別どうということはない。
「私も女子高出だから、そこまでは……むしろエレナさんの方が恋愛の経験値は高いんじゃないかなぁ?」
「あはは。エレ姉さまは、兄さまにべったりですからね。あんまり他の恋愛にはそこまで詳しくないと思いますよ? あーでも、世の中の男の娘はボクのもんだー! って時々言っていますけど」
「うわぁ……そこまで好きだからこそのあのクオリティだもんね。でもうちの兄さまは渡せません!」
未来のお嫁さんにプレゼントしてあげてください、と楓香が苦笑気味に言うと、お嫁さん……と彩が目をきらきらさせる。
そういうものに憧れるお年頃なのである。
「そういえば、クロくんはその……好きな相手って女性なのよね?」
さっきの反応を見るに、ノーマルみたいだけど、とお湯から浮き上がってきた珠理奈が疑問を口にする。
そこは大切なところである。
「そこはそうですね。兄は女装レイヤーなだけであって、別に千歳さんたちみたいに自分、女っすからっ、みたいな感じはないですから」
「……楓香……千歳はそんな、ぶっきらぼうではないと思うのだけど」
「えー、なんかノリというか伏線ですね! 姉御っぽい感じでも女の子に見えるーみたいな」
「全然伏せてないし……言いたいことはわからないでもないけど」
はぁ、と珠理奈がため息を漏らすと、彩が不思議そうに首を傾げる。
いまいち会話の内容がわからないようだった。
「ああ、あたしらの知人に、その……体は男なんだけど心は女性っていう子がいて。その子のお話をしてたんだけど」
「なるほど。 明日華おねえさ……けふけふっ。なんでもないです」
「ん? 彩さんのお知り合いにも似たような人がいるの? 最近はそれなりに珍しくなくなってきてるとは思うけど」
「いえ。口止めもされてるので言わない方がいいかなって」
アウティングというんでしたっけ? と彩は記憶から言葉を絞り出す。
明日華のことだけをとってもそんなに他人に言ってしまっていい話ではない。さらに男の子が女子高に潜入しているだなんていうのは本当にトップシークレットなのだ。
このメンバーなら、まぁルイ姉もだし、なんて言われそうではあるのだが。
「ともかく。珠理奈さんが、自分女っすから! とかぶっきらぼうにいっても可愛いだけなんですよ。男装してもネットの評判、かわいいー! 新境地とかそんなのばっかりだったじゃないですか」
「たしかにその点は認めるけど……」
「だから、性別を超えることを願う千歳さんには、女らしさがなくても女性だと認識されるというのは一つの到達点だと思うんです。女性よりも女性らしくなきゃいけないっていうのは、必要ないのではー? ってね」
まあ、うちの兄とかは演技をする上で女の子らしさを出すこともあるようですが、と補足が入る。
そう。千歳とクロ達は違うし、目指すところも違う。
「ずいぶんややこしい話ですね。クロさまはコスプレのできが大切で、千歳さま? は女性であることが大切で。エレ姉さまは男の娘であることが大切で」
似たような感じなのに、求めるモノは違うものなんですね、と彩は少し考えるように顎に手をあてる。
「ルイのことは?」
「え? ルイ先生は女性の先生だとしか思っていませんから」
特別、比較すべきとは思いませんが、と彩はほぼ素で答える。
そんな反応に珠理奈はうっ、と頬を引きつらせる。
そんな姿を見て、楓香ははぁと軽くため息をついて、じぃっと珠理奈に視線を向けた。
「なんだか。珠理奈さん。こんがらがってる気がします。まあ、常識っていうのがあるとどうしてもそうなっちゃうとは思うんですけど」
まだ時間もあるし、長湯をしてもいいですか? と楓香は苦笑気味に言った。
男の娘湯は簡単に書けるのに女湯はほんと書くの大変でな……
でも、書き始めたら珠理奈さんのお悩み相談が終わらないという……
次話も女湯が続きます! 盛大にのろけなさいよもー! という感じで。