637.プライベートビーチに行こう4
一週遅くなって、すんません。
エタる予定はないから大丈夫ですよ!(きりっ
そして今回はちょい長めです。
そしてそして誤字指摘感謝です。
「よいしょっ!」
「きゃっ、ぎりぎりっ」
さて。目の前ではビーチボールが砂浜の上を舞っていた。
それを受け止めるのは、肌色たっぷりな美少女達。
燦々と輝く太陽の下のきゃっきゃうふふな光景というやつである。
「いいよいいよ! ほらっ、そこだっ! 楓香も滑り込むような感じで!」
がんばれー! といいながら、カシャカシャシャッターを切っているのはもちろんルイである。
現在のビーチバレーは、崎ちゃんと彩ちゃんのペアと、楓香とクロのペアがやりあっている。
まあ、コートまでしっかりして採点をしているか、といえばそこまで本格的ではないけれど、受け損ねたら負けくらいのルールは存在する。
それなりに盛り上がっているようで、みんなの顔はそれなりに真剣だ。
真剣なのだが。
「カメラの音が邪魔」
「ですよねー、集中できないですよー」
「ルイ姉。今は控えてくんない?」
「無様な姿は写されたくないわね……」
さて。大満足で女の子のきゃっきゃうふふを撮影していたわけなのだが。
どうにも、被写体のみなさまはそれがご不快なようだった。
うーん、後で絶対、思い出としていいものになると思うのだけど。
「そこでシュンとした顔されるの割とずるいですよね……」
「これが性悪女というものか……」
「学校では絶対に見れない姿ですね。役得です」
「……」
ちらっと四人を見ると、みなそれぞれ思い思いの反応をしているようだった。
従姉妹殿達は、またルイ姉ったらという感じだけれど、崎ちゃんだけちょっとブリザードである。
この夏空の下で、そこまで冷たい視線を向けられるというのもどうかと思う。
「はいはい! 被写体の同意が得られなかった時点でルイちゃんの負けね」
エレナが明確に敗北宣言をすると、えー、とルイは不満声を上げた。
正直、この撮影スポットは外したくないやつなのである。崎ちゃんは別格として、他の三人だってまったくもって負けてはいない。
そりゃ、みんな慎ましいほうなので、揺れたりはあまりないのだけど、そこらへんではなく、余計なお肉とかもあまりついてない健康的な身体をしているので、とにかくラインが綺麗なのである。
クロやんだけ、ちょっと女性的なラインか、といわれると悩ましいけれど、それでも特に違和感らしいものはないし、これはこれで可愛らしいと思う。
「ビーチバレー組は続きやってていいよ? ルイちゃんは……そうだな。一人海岸撮影の旅にでも……」
「それはそれでいいね! 確かに被写体のご機嫌損ねちゃう撮影は駄目だしね」
海岸の撮影もとっても興味深い! と満面の笑顔を向けると、被写体のみなさんはえー、という不満顔を浮かべるばかりだ。
クロやんあたりは苦笑交じりだったけれど。
「見られたいけど、撮られたくない、というのは割とルイちゃんには拷問だよねぇ」
「だよなぁ。あの写真馬鹿に、自分だけを見てっていうのは、難易度高いだろ」
心のフィルムに収めてくれって、言う間もなく撮るからなと、よーじ君にまで突っ込まれた。
「べ、別に撮るなって言ってるわけじゃないのよ? ただ、もうちょっとこう、肉眼でも見て欲しいというか」
「お。他の女子は撮っても良いけど、自分だけは記憶に留めておいてみたいな感じですか?」
にまにまと、クロやんが崎ちゃんに絡んでいた。
二回目の逢瀬のはずなのに、なんだか距離感はわりと近いらしい。
「でね。ちょっとボクが思ったのは、ルイちゃん的には撮影したい。したいしたいヘンタイ! なわけで、カメラないとお手々ぷるぷるしちゃうジャンキーだから、カメラは握らせてあげたいのね」
場合によっては、ボクの水着写真集とか撮ってくれて、冬のイベントで出すのもありだけど、とかエレナさんは言い始めた。
コスプレではない、プライベート写真集である。
どこまで売れるかわからないけれど、面白い提案だ。
「あの。エレナさんや? 水着写真集はまじでやらない? この前じーちゃんに聞いて、レフ板とか持ってきてるよ?」
「……うん。人物撮影に目覚めるのはいいし、お祖父さまにご教授いただいているのはいいんだけど。でも! ちゃんと今は目の前見よう? コミュ障だといい写真撮るの大変だよ?」
愛されキャラだからまだいいものの、普段からルイちゃんだってTPOとか、周りの反応が大切っていってるじゃないと言われて、ルイはうぐっと身を引いた。
ちょっとばかり、よい被写体ばかりが周りにいるのでテンションが上がっていたらしい。
「一部の本音。撮影なしにして見て欲しいは別として、みんなとしてはカメラの音が鳴ってると気が散るってのはあるよね。そこで! ルイちゃんには、望遠レンズでちょっと離れたところで狙ってもらうってことでどうだろうか!」
これなら、話も聞かれないし思い出も残せるしどうでしょうか! というエレナさんの提案に、うーんとみんなは首を傾げた。
遠距離から撮られているということについて、どう思うのかというのはそれぞれあるのだろう。
「わたしが写ってる写真に関しては、これはないってのがあったら、他の方が写っていても削除依頼してもいいですか?」
そんな中で手を上げたのがクロだ。
一番撮られ方についてシビアなのがこの子だろうか。
崎ちゃんもシビアではあるけれど、下手なのが撮られたら人生も危ういという危機感を持つのが、四人の中で唯一な女装っこである彼なのである。
端から見てると、別にタックも完璧だし、ポロリがあるとは思えないのだけど。
胸もいちおう、ルイ同様に、というか、小さい胸な仲間達! という仕上がりである。まあ上手いことお肉を集めてちょこっとはあるように細工はしているのだけど。
女子高潜入するには、もっと立派なおっぱいが必要かなぁとか、物騒なことを口走っていたのだけど、ここらへんだったらそこまでやらなくてもいいかと思います。
「そういうのがでるかどうかは解らないけど。心配ならいいんじゃない?」
どうせ今は遊ぶ時間なのだし、と崎ちゃんはぼそっとつまらなさそうに言う。
「それじゃルイちゃん、レンズ換えて離れた草場の影から撮影を楽しんでもらいましょう」
「草場て……はいはい。みんなが緊張するっていうならおとなしく距離をとりますよーだ」
でも、水着写真集の話は考えておいてね! といいつつルイはビーチバレーの場所から少し離れることになった。
「さて。余計な外野は居なくなったわけだけど」
にこにことエレナがプレイヤー四人に笑顔を向けた。
撮影の音が集中をそぐというのはもちろんあるとしても、それだけでわざわざルイを遠ざける必要があるかといえば、そうとも言えない。
「別にルイ姉がいてもよかったのかなと思うんですけど」
「んー、まぁ、フラストレーションたまってそうだなーって思って」
なので! ボクも参加しつつバレーを楽しもうかなと、といいつつエレナが彩ちゃんの隣に陣取った。
ボールを持ちながら、すぐにプレイスタートである。
ただ、エレナさんは新たにルールを一つ付け加えることにした。
「じゃー、もやもやした心の叫びをしながら、ボールを打っていこう! かわいい男の娘がもっと増えればいいのにー!」
「って、わたし狙いですか!? いきなり無理ですよって!」
ボールはそれなりな勢いでクロの前に飛んでくる。それをレシーブして、楓香につなぐ。
「うちの兄だけでは不満ですかっ、てやっ」
軽くジャンプをして、楓香がボールを打ち込む。
「男の娘……あの子ともっと親しくなりたいっ!」
「あれ? 彩ちゃん知り合いにいるの?」
おぉっ、とエレナがボールを打つ彩にキラキラした目を向ける。
まだ見ぬ男の娘の姿を想像しているのか、とてもいい顔をしている。
「それなら是非、わたしとも仲良くしてくださいっ!」
クロがボールを打ち返しながら苦笑を浮かべる。
女装レイヤーなだけで男の娘といっていいのかとちょっと思ったせいだ。
「はいっ、よろこんでっ!」
「いい返事だね!」
彩ちゃんが思い切りボールをレシーブすると、ボールがふわりと宙に舞う。
「はい、珠理ちゃんも心の叫びを是非」
ボール行ったよ! とエレナが声をかけると、あわわと珠理奈はボールに向かいつつ、何を言えばいいかと迷う。
「わわっ、いきなり言われてもこまっ、困るってば!」
少しジャンプのタイミングを逃したのか、軽くぽんとボールが宙に浮いた。
「それ、いただきます!」
楓香が狙ったようにジャンプをしてボールを砂浜にたたきつける。
叫びながらバレーをやっているからか、先ほどのきゃっきゃうふふなものよりは力強い。
「もー、珠理ちゃん? いくらなんでもそこで慌てて、ってのは……」
「いや、エレナさん。なんとなく対応したけど、それは普通難しい」
「ですね。しかも、演技するのが仕事な珠理さんですし。いくら周りの人が知り合いばかりでも、素を出すのは恥ずかしいのかも」
「う、うっさいわね! 確かにその……方向性を決めて役柄として、叫んだりはできるわよ。でも、普段から叫ぶのは……こ……いえ」
何でもないと崎ちゃんは言いよどんだ。
どういうときなら叫ぶのだろうかと、みなさん興味津々なのだが。
「この子ったら。そこまでいって言いよどむとか」
「あーもう! 母校の恥を言いたくなかっただけよ。スカートめくり魔な後輩がいて、ちなみにルイ……というか、女装した馨がめくられたときはさすがに悲鳴が漏れたわよ」
「……うちの従兄弟がさーせん」
「ほんと、ごめんなさい。なんかやらかしてて」
従兄弟組がすごく微妙そうな顔で謝罪をした。
「はいはい、じゃー、ここからはみんなルイちゃんの関係者ってことで、ルイちゃんについて思っていることを叫んでみようのコーナーにしようかと思います」
叫びじゃなくてもいいし、ルール自体はゆるゆるでいいです、といいつつエレナはボールをもった。
これならば、話題も絞られているし叫びやすいだろう。
「早く次のコスロムがだしたーい!」
「えっ、それっ、ちょ、こっちからもお願いした……」
「クロ姉様は黙ってて! ルイねー様のご飯もっと食べたい!」
ばしぃっ。楓香のほうにボールが行ったので、そこで自己主張が展開される。
美人な従姉妹に期待するのは、残念ながらご飯のお話なのである。
合コンをセッティングして欲しいなんていう、狂気混じりのことが言えるはずもない。
「それは、私も食べたいです!」
是非誘って下さい! と、彩ちゃんが普通にボールを打ち返した。
そこまで威力の強くないボールではあるけど、レシーブをしないで打ち返せるのはすごいものである。
「できれば、エレナさんちのお食事会にお招きいただきたいですっ!」
ぱしんとボールがさらに打ち返されて、今度はエレナの方に向かった。
「うちは男の娘を連れてこないと、ダメです」
えいやっ、とエレナも危なげなくボールを返す。
スマッシュを打つのではなく、ゆるっと返す感じだ。
これだけを見ると、きゃっきゃうふふなボール遊びである。
「なっ……じゃ、じゃあ! クロ姉さまも一緒に!」
「ふつーに、仲間としてつれってって欲しいんだが……」
ボールを打つ楓香の言葉にクロが不満の声を上げる。
まるで献上品のような扱いを受けて不満だったのだろう。
「馨の手料理……あたしもつれてけー!」
さて。ここまできてようやく珠理ちゃんにボールがわたった。
自然の流れで、話が続くような叫びだ。
そこまでボールは強くないけど、しっかりとぱすっとビーチボールは相手コートに飛んだ。
相手コートではレシーブがあるものの、そちらの声とは代わりにエレナが言った。
「当家にくるためには、男の娘の存在が……」
「だー! それ、あたしに翅さんを誘えってことかー!」
帰ってきたボールに対して、珠理は思い切りカウンターをする。
まあ、そんな無理なカウンターが通るわけもなく、変な方向にボールは飛んだわけなのだけど。
「コートなし、ネットなしのお遊びバレーで、変な場所にやっちゃうのは、ちょっと……」
「うう。あんたらが変な事いうからでしょーが!」
「まあ、さすがに翅さんを誘えとは言わないよ。ボクとしては男の娘がいっぱいいると嬉しいなってだけでね」
んー、珠理ちゃんなら若手俳優とかを、午後の秘密授業とかで男の娘開眼とかしてくれないかなぁとか、悪い事を思ったのです、とエレナは素直に謝った。完全にてへぺろ状態。
そう。さすがに男の娘といって、翅の事を思い浮かべる事がなかったのである。彼は女装が趣味なイケメンなだけである。
「指導はあっても、さすがにそういう矯正をするつもりはないわよ……」
男の娘だから好きなわけじゃないわよ、と珠理奈はぶっきらぼうにいいつつ、ぷいとそっぽを向いた。
ちなみに、遠距離からこの顔は撮られているのだけど、今は気づきようがない。
「あー、俺としては翅さんも、今度メシに招待してほしいんだけど、だめかな?」
「え? よーじ、突然どうしたの?」
「んー、なんつーかな。どうせ意味なんてないんだろうけど、片方に肩入れするのもどうかなって話」
難攻不落の要塞の攻略に行くのは、一人である必要はないだろう、とさらっとよーじ君は言った。
彼の介入でバレーはいったん中断だ。
「なー! ここで! ここであいつを出してくるとか!」
「あいつだって悪いやつじゃないし、それに今でもルイさんの事大好きって言ってはばからないじゃん」
あのルイさんを彼女にしたいって頑張れるあの姿はちょっと、感動すら覚えた、とよーじは言う。
まあ、ここらへんは先日の指輪の話の見返りではあるのだけど。
そんなことはおくびにもださない。
「買収……された?」
「よーじ兄さま。いつ、翅さんとの距離が縮まったのですか?」
つもりだったのだが、周りにはある程度伝わってしまったみたいだ。
今までそんなにアクションをとっていなかったから、その関係もあるのだろう。
「イケメン二人の秘めた恋……あり……。けれどもさて、よーじさんと翅さんとどっちが受けかしら……翅さんの女装からの逆転よーじさん受けとか……あっ、一緒に可愛い格好をしてからの……」
そんな話を聞いていたら、楓香がうっとりしながら視線を少し上の方にしながらほっぺたを押さえた。
そこに二人イケメンがいたのなら、カップリングさせるのが腐女子というものである。
「あの、ふーかさん? パートナーの前であまりに腐った妄想すると刺すよ?」
「……あ、はい。さーせん」
刺す、が何を意味するのかもわからないまま、その視線だけで楓香は素直にその言葉に従った。
さん付けというのも、時によっては怖い物だと思った楓香である。
まあ、家に帰ったら妄想のネタには使わせてはもらうのだけれど。今は一時停止なだけである。
「よ、よーじは、別に、その。翅さんとはなんでもないんだよね?」
「ってか、エレナが動揺してどうするよ……俺が好きなのはお前だけだから」
ほら、といいつつよーじ君は素直にすっぽりエレナを抱きしめた。
頭をなでなでしたり、ぎゅっとしたりと、余人を交えているのに大公開である。
翅との関係を、誤解されたくない思いもあるのだろう。
さて、そんな二人のやりとりを見ていた珠理奈は一人ビーチボールをむんずとつかんでいた。
あんまりな、あんまりな状況にもう、やるせなさ満開なのである。
ボールは自分で持ってきたので、もう、こちらから打っても良いだろう。
「馨がもっと、あつあつな恋愛気質だったらよかったのにー!」
さて。そこで思い切り放たれたボールはというと。
ぽちゃんと海の方へと緩やかに不時着してしまっていた。
「でも、馨ちゃんがミーハーなら、出会いとか好感度上昇とかもなかったという皮肉……」
あー、とみなさんから不憫な声が上がった。
「今回の旅で巻き返すんだから! そのフォローはお願いね!」
とぼとぼボールを拾いに行った珠理奈さまは、がっかりした顔のみなに、ちょっと強い声でそうお願いするのだった。
さて、同刻。
みんなの元から距離をとっていたルイは海岸を見据えていた。
「シャッター音くらいで目くじら立てて、みんなどうにかしてるなぁ」
いつもはちゃんと撮らせてくれるのに、とご不満を隠しきれない顔である。
「水着でドキッ、美少女写真集とか、普通に売れそうなんだけどねぇ」
まあ崎ちゃんの写真は載せられないにしても、他のメンバーだけでも十分に需要がありそうな話だ。
え、男の写真はいらんて? んー。まあ、クロのあの姿を見て男だって思う人がどれだけいるかなって思うけど。
「そもそもみんなひどいよね。シャッターの音が邪魔とか……」
はぁ、と大切なことなので二度目にそう思いながらみんなを望遠で狙えるスポットに向かった。
そしたら、なんというか、すでにカシャカシャと、シャッターの音が聞えていた。
「おや、これはルイ様ではないですか」
「……中田さん。様づけはやめて欲しいです」
むぅと、カメラの主に注意をすると、主の友達ですから、いまさらですと言い換えされてしまった。
以前は、さん付けだったような気もするのだけど、そこからステップアップしているらしい。
「そこはなんとも。三枝家の執事としては、その恩人である貴女に礼を欠くことはできませんし」
「うん。今はそれでいいとして……あの中田さん。今日のこと全部見てました?」
「はて……妙なことを。私は三枝家の執事。お嬢様がそこに居るのなら、付き従うのが使命……」
さっとカメラを隠すところあたりは、少しやましいところはあるようだ。
「撮影者の心得として、被写体の許可は必要。ご存じですよね?」
「うぐっ。こんな僻地から撮影しているルイ様に言われることじゃないと思いますが……」
僻地といわれて、みんなが居る場所からかなり離れているのが解る。
それこそ、なんでここでカメラ持ってるの? ってレベルである。
「あたしは許可を取ってますから! っていうか、中田さんこそ今日は参加しないと伺っていましたが?」
「ええ。お嬢様がご自分達で支度はしたいと仰っていましたから、準備は全部任せました。立ち寄るところには、すでに前触れをやった上で、便宜を図っていただけるようにしておりました」
「……うあ……なんか笑顔が多いと思ったらそっちだったか……」
材料の買い込みをした場所のおっちゃん達がやたらいい顔をして、親切にこれもどうだい! なんて言ってくれたので、楽しく買い物をしていたのだけれど、まさか事前のお願いがあったとは驚くばかりだ。
こちらとしては、可愛い子達一杯だし、オマケしちゃうよ! からの、奥様に怒られるのでは!? という流れでばつの悪い顔を浮かべるところを目撃していたのだけど……
「そこらへんは、エレナ様の美貌によるものかと。ルイ様のも多少はいってるかもしれませんが……」
エレナ様を前にして、サービスしない男性などあまりいないですよと、確信顔だ。
そりゃまあ、エレナのお願い♪ はすさまじい威力だろうとは思うけど……
話を聞いてる限りだと、いろいろお膳立てはあったってことだよね。
なくても、正規の価格で普通のやりとりをしていただけ、というのが切ないけれども。
「これが一般のビーチだったらなおさら大変そうですね」
「……ええ。一度だけそのような話がありましたが、全力で止めさせていただきました」
ご当主様からも、プライベートビーチだけでね、ということで言い含めていただきました、と中田さんは涙目だった。
うん。大多数の一般人がいるビーチにエレナさんが登場したら、それはもう、大混乱になるかと思います。
「ちなみに、エレナの撮影自体はOKなんですか?」
「それはもう、旦那様からボーナス付の依頼を受けてるくらいで……」
それ以外が写ってしまうのは事故でございます、と中田さんはしれっといった。
うわぁ。写り込みはなかったことにしようというタイプか。
「いちおう、被写体のプライバシーとかはしっかり守る方向ですよね?」
「それはもちろんです。ルイ様もそうですが、うちのお嬢様だって、同じ秘密を抱えていますからね。やすやすデータ流出なんていうのをさせては溜まりません」
どこかの誰かのように、と中田さんはすこしだけ、剣呑な表情を浮かべる。
春先にお前、やらかしただろう? ってことなんだろうけど。
「はいはい。反省してますー。本当の秘密はしっかりと完全に揉み消すというか、他には変なデータ渡したりはないので」
うん。あのときはHAOTO側が撮ったものと、こちら側が撮ったものとがあったので、露見をしたのだけれども、こちらの保管体勢は万全。最近はネットと写真管理用のパソコンを分けたくらいである。
まあ、ちょーお気に入りのはタブレットに連れて行ったりはしちゃうんだけどね。
「他には、ですか?」
「……そこらへんは中田さんだって、愛しいエレナ様の写真を消したいとは思わないでしょう?」
いやなら、いままでのエレナの写真は全部断腸の思いで……と手をぷるぷるさせると、だめです! と静止の声がかかった。
「そこまでは求めてないです。お嬢様の写真はむしろその、コピーして当家にお譲りいただければと……」
「エレナ自身が了承すれば、かまいませんが」
そうしたら商売成立ですと言うと、ぜひ前向きにご検討下さいと中田さんはいい顔で言った。
「じゃあ、ここから、エレナさんたちの、ドキッ、ちょっと胸がーみたいなのを撮っていきましょう」
「さすがのルイ様でもお嬢様の破廉恥な姿の撮影は許可できません」
あのバランスのとれたボディーを汚すなど……といいつつ、カメラの音が鳴り響く。
そしてビーチバレーが終わるまで、しばらく二人で撮影は続いたのだった。
というわけで、海です。崎ちゃんの扱いにすっごく難儀するというか、どうしても突破口をみつけられないもどかしさが、筆を遅らせる原因となっております。無念。
ちなみに後半はささっと一日で書いてるんだものね……
でも、ビーチバレーはとてもよいと思います。