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ep.12_1 春井洋次 婚約指輪1

旅行に行くかとおもいきやーー! その間になにかを挟みたいと思って、これが思いついてしまった……

二話分使います。

「今年で丸四年、か」

 夏休み。春井洋次は、一人カレンダーを見ていた。

 夏。夏には今年も三枝家のプライベートビーチに行く予定がある。

 それなりに楽しい予定が詰まってはいるのだが。


「就職の事がちらつくと……さすがに、ちょっと思うんだよな」

 さて。洋次が悩んでいること。それは。


 エレナさんにプロポーズするかどうか、である。

 エレナと洋次は、恋人関係だ。

 それは本人につきあって、といって、軽いのりでいいよー! なんていう感じから始まり、今では学校でも一緒だし、楽しい時間は過ごしている。

 妹からも、兄様はほんと、果報者ですなんていわれるくらい。


 でも、それは相手が「男の娘」であることを前にすると、いろいろ悩み事はあるのである。

 というと、語弊があるか。男の娘であることに関しては特別問題はないのだと思う。


 エレナのことを嫌いかといわれればそんなことはない。まったくない。ゼッタイない。

 というか、客観的に見てもそこら辺に居る女性よりもずっと、これでもかというくらい魅力的だし、テレビに出るほどの美人さんである。

 あれはルイさんが絡んだ偶然ということだけど、あれほど可愛らしいのだ。

 会社のマスコットガールなり、宣伝部長なりっていうことは、十分にあり得ることだろうと思う。


 そうなったら、あのエレナさんである。

 いくらでも、男性を引きつけて、笛吹きをしながらいろいろと誘導しそうである。

 うん。エレナがOKするのは、きっと女装が似合いそうな人だけで、ぞろぞろ連れて行った後で、新しい世界を開くことになるのだろう。

 エレナお姉さま! だなんて言われそうである。


「本人とエレナが幸せならそれでいいんだが」

 いや、とそこで、ため息を漏らす。

 彼女にとってはそれは憂さ晴らしみたいなものなのではないか、ということだ。

 本気で男の娘をプロデュースするのであれば、それは「本当に困ってる子」とか、「才能にあふれてる子」になるのだろう。

 そこらへんに居る子を、好き勝手に女装してまわる、というのはやっていないはずだと思いたい。


 以前ルイさんに相談したときは「信じてあげて? ね?」と軽く言われてしまった。

 我が恋人殿は、枠を越えて活躍をしているようだ。


 そういうのを見ているとどことなく置いてきぼりになったような気がしてしまう。

 もちろん、洋次も、知識は吸収しているし、世間での話題やニュース、そういった話には敏感になっている。

 でも、なかなかエレナの行動力についていけてるか、といわれたらまだまだなのである。


「だからこそ、でもあるんだろうけど」

 それはそれとして、プロポーズだ。

 付き合おうという言葉は受け入れられて、今がある。

 でも、それは「付き合う」までの話。

 その次のステップ、結婚を前提として、というような約束はしていない。

 もちろん、現在エレナも男性であり、戸籍上での入籍というのは難しい、どころか三枝のおやっさんが恐ろしすぎて、今はまだ自分の力を高めるのが優先課題ではあるのだけれど。


(でも、婚約指輪くらいは渡したいって思うのは悪い事ではないはず)

 なんていったところで、結局はエレナさんが可愛すぎて、最近特に学内で、男でもわかっていても声をかけてくる男性生徒が増えているというのも焦りの一つだった。

 本人は、んんー? 嫉妬しちゃってる? もう、うれしいなぁ、えへへ、なんていいながらちょっと背伸びして頭をなでてくるところなのだけど。(この背伸びのところとかもすっごく可愛くて、悶絶しそうになる)


 幸いなのは、女性からの告白がないことなのだけど。

 これはきっと、洋次が一緒にいることが多いからだし、スキンシップをとってくることが多いから、ああ、あの子、男の子が好きなんだという風に思われているんだろうからのことだろう。

 これで、女子生徒までエレナに、らぶらぶになったら、正直だいぶ精神的にはしんどい。

 今のところ、恋愛感情ではなくて、コスメとか服の話で盛り上がってくれているので、彼女たちもエレナを女友達くらいに思っているのだろうと思う。


 エレナは自分を好いてくれてるとは思う。

 それでも、実際それがなんなのか、どこまでなのか、というのに、時々不安になる。

 あいつはいつも、かわいーねー、とか言いながら、いろんなものに興味を示すからだ。

 そんな悩みをルイさんにしたら、え? キミとの子供を作ろうと頑張ってるんだから、そこは、不安がる必要ないのでは? と呆れ顔で言われた。ルイさんは写真の事だけ考える脳みそお花畑な人だから、きっと不安とかあまり感じないのだろうけれど。

 恋人が可愛すぎるとこれもまた大変なことなのだ。


「はぁ? 指輪!? そんなん俺達の年代で詳しいやつなんていねーよ!」

 さて。プロポーズのためには婚約指輪というものが必要というのはなんとなくわかった。

 エレナのあの細い指に指輪がはまっていたらかなり可愛いだろうなという風には思う。

 しかしながら、指輪の知識なんてものは洋次にはまったくないのだ。

 友人に質問をしたら先ほどのような台詞を思い切り言われた。


 ちなみに、妹の彩にも聞いてみたけど、指輪ですか? そうですねぇ、選ぼうと思えば選べなくもないですが……やっぱりご自分で探した方がいいのでは? と言われてしまった。

 また女性をつれていくのはおすすめしないとも言われた。

 そうはいってもあまり女友達の居ない洋次ではあるのだが。女性がダメというならルイさんなら!? なんて思っていたら、それすらもダメですよ兄様と釘をさされてしまった。


 こうなってくるともう一人で勇気をだしてジュエリーショップにいくしかないのか! なんて思っていたところ。

 ちょっと大人で指輪とかも詳しそうな人、というのを思い出したのだった。 

 そう。少しだけ年上の同性の友人。いや洋次からすれば、知人としか言えないのだろうが。

 たよる相手がいない洋次にはその選択肢しか浮かばなかったのである。




 待ち合わせ。

 町の駅前で一人、その相手を待つ。

 洋次が選んだ相手は、割と多忙な人間に分類されるのだろう。

 その日ならいいよ、と簡単に返事が来たので、よろしくとお願いはしたのだけれど。

 ちゃんと、対価は払ってなといわれているのでちょっとドキドキしている。


 他の友人の迷惑になることはやめて欲しいとは言っているけれど、どうせルイさん関係だろうなというのは、解っている。

 自分の価値というのは、ルイさんの友達というポジションかと思うと、ちょっとがっくりきつつ、将来的には自分を頼ってくれるようになりたいなと思う。

 ただ、今は、協力をしてくれる交渉カードを自分が持っていたことに、感謝といったところだ。


「しっかし、師匠なら何をもらっても、ありがとうって笑顔で言うと思うんだけどな」

「それはそうなんですが。でも、こう……驚かせたい、というか」

 うん。いつだってエレナは贈り物をすると喜ぶし、ありがとね? って上目使いで感謝をしてくれる。

 贈り物って言っても、そんなに高価なものじゃなくて。

 それこそあいつは、消しゴム一個で、わーい、とかいうのである。ほんと可愛くて困る。


「男として、婚約指輪を贈りたいって言う思いは、俺もすっげぇよく解る。つーか、俺もルイさんに婚約指輪とか、送って良いなら送りたいし」

 ま、最近は、余計なモノは送らないで! とかいわれてるから、せいぜい食べ物くらいしか送れないんだが、と翅さんはしゅんとしていた。


 そう。今回エレナの指輪選びに付き合ってもらっているのは、あのHAOTOの翅さんなのだった。

 ルイさんから残念芸能人という話を聞いてはいるものの、これでもテレビはそれなりに見るので、近くで見るとそのオーラに圧倒されたりする。

 あ、いちおう本人いわく、ばれないように変装をしているとのことで、うさんくささの方がかなりやばいのだが。

 夏に、サングラスとマスクとマフラーはやばい。


 よーじがなんで連絡先を持っていたのかは、簡単。

 エレナが、翅さんの女装の師匠だからだ。一緒になることも多かったし、おっ! ししょーの彼氏ならこりゃ、仲良くしていてそんはない! とかいって、アドレス交換をしていたのだった。


 もちろん、連絡をとったのはこちらからは初めてのことだ。

 翅さんからは、これからよろしくなー! 的なのがあって、返事をして今にいたるわけだが。

 なんというか、フットワークの軽い人というような感じだ。


「でも、一般的には婚約指輪って、男には送らないものなんだよなぁ」

 つっても、師匠にカフスとか送っても、可愛くないよ! とか一蹴されるんだろうけど、と翅さんは肩をすくめた。

 それはその通りで、当然一般男性のカテゴリとして考えると、エレナの趣味はその中にはない。

 かといって、女性として認識しすぎてしまうと、ボク、オトコノコだよ? とか小悪魔的に言ってくるのである。

 絶妙なタイミングで。ああ、もう、そこで言われたらそのまま抱きしめるよねってタイミングで!!


「あいつには、指輪がしっくりくるように思うんですよね。指もすっごくきれいだし」

 それに、すでに指輪関連はちょっと持ってるみたいだし、というと、あぁと翅さんはうなずいた。


「コス関連で指輪付けてるキャラは、再現するからなぁ。まー、男の娘ってことで、付けてる子がそんなにいないっつーか、そもそも指輪付けてるキャラって、ふっ、俺の左手の封印が……とかそういう意味ありアイテムになるつーか」

 不思議と漫画のキャラって、結婚指輪とかつけてないよな、と翅さんは言った。

 そもそも、マンガは少年などの若い人相手というのもあって、「大人のディティール」はどうでもいいということもあるのだろう。


「そんなわけで、俺はエレナ師匠の薬指のサイズとかもわかってるから、そこは大船に乗っていていいからな!」

「その点はマジでありがたいです。指を触るとか手をつなぐとかはしても、さすがにサイズまではわからないので」

「のろけきたー! くっそ、俺もルイさんと手をつないだり、恋人つなぎでデートとかしてぇー!」

 ちくしょー、と翅さんは空を仰いだ。

 とはいっても、なぁ。


「春先の事件で、事実上接触禁止でしょう? 珠理さんにまるまるもっていかれたというか」

 っていうか、あのルイさんの顔をみるに、なんか変なの飲ませたのはたしかなのでは? と洋次は疑問を向けた。

 うん。前から思っていたことだ。

 ルイさんは写真馬鹿な上に、女性としての貞操観念みたいなものが欠落している。

 撮らせてくれるって話があれば、ほいほいついていくのがあの人の習性みたいなものだ。


「それはノーコメントで。ただ、本人からはあの件はしゃーないってことで、お許しはもらってます」

 その分、いろいろ撮られたけど、と翅さんは苦笑気味に言った。

 ルイさんが欲するのは「良い被写体の撮影」だ。葛藤があろうが無かろうが、撮りたいものに貪欲というか。

 そういう人(、、、、、)なのだ。

 本当ににこやかに撮影だけに興味がある、残念美人。


「そういえば。前から思っていたのですが、翅さんはどうしてそこまでルイさん好きなんですか? そりゃ、可愛いし、最初にあったときは俺もこういう子が彼女ならとか思いましたけど」

 今じゃ、あの残念美人はちょっとって感じですけれど、と洋次は付け足す。

 今は圧倒的にエレナにぞっこんな洋次なのである。


「俺、結構変なモノっつーかさ。常識をこえていく! みたいなのが好きなんだ。ルイさんはそれにばっちりあたってたっていうかぁ」

 見ていてとても楽しいし、予想外な動き方をしてくるからなぁ、と翅さんは嬉しそうに言った。


「例の動画の時も確かに、あー、って感じの反応してましたしね」

「演技だけどな! 演技だけどな! エロかった……むしろ、あれでやられた」

「初対面でしたっけ?」

「ああ。蠢のことを守ってやらなきゃって、みんな必死だったしな。そしたらあのギャップにやられた感じで」

 そっから付き合ってるけど、やらかしてくれるのもあるし、なによりその、いろいろ、見せてくれるのが楽しいんだよね、と照れたように翅さんは頬をかいた。

 ここらへんの顔、きっとルイさんならげひゃーとかいいながら撮影するんだろうなぁと、洋次は思った。


「これからもいろいろ見せて欲しいなって思うし、一緒にいたい……んだけど、まったくもって、うまく行く気配がない」

「まー、ルイさんですし」

「だよなぁ」

 はぁ、と翅さんはかくんと肩を落とした。


「っていうか、翅さんくらい大人気なら普通に、言い寄ってくる女性とかいるんじゃないんですか?」

「ま、今は恋愛禁止令も解けてるから、そういう話がないわけではないんだけどなぁ。洋次くんよ。キミが学校で女生徒に声をかけられて一緒にご飯を食べに行こうなんて誘ってきたらどうする?」

「うぐっ。からかわれる時はありますけどね。でも、俺の場合エレナとの関係が学校公認みたいなもんだから、二人きりでメシとかはまずないですよ」

「すでにもう、知らないものはいない、か」

 あーもー、羨ましいと翅さんは頭を抱えた。


「ちなみに出会いっていうか、付き合うきっかけとかは?」

「エレナのやつがさ、学校でにこにこするようになって、日曜日とかに何やってるのか気になってその……」

「師匠のコスプレを見て一目惚れした、と?」

「……ま、まぁそんなことです。でも、もとから目が離せないヤツではあったんですよ」

 だって、あんだけ可愛くて男子の制服きてるんすよ!? というと、あぁー師匠ならそうだよなぁと翅さんはうなずいた。


「ちなみに高校の頃のルイさんは、もさ眼鏡男子ですからね?」

 残念! というと、い、いや……確かにあっちの姿も知ってるけど……むむむ、と複雑そうな顔を浮かべる。

 ふむ。いちおう少しショックは受けているのだろうか。


「そういう洋次くんはどうなんだい? 俺はルイさんの中身がなんであれ、むしろ面白いと思うけど」

「俺は別に自分が同性愛者だっていう認識はないですよ。エレナが男の娘なんだっていうなら、それは受け入れるけどだから男が好きってわけじゃないし」

 男と男の娘は違うよーってエレナなら言うし、と誰でもいいってわけじゃないですしね、と洋次は顔を背けながら言った。

 なかなか言葉にしたことは無いけれど、実際こうやって人に話してみるとちょっと恥ずかしい。


「ほんと、上手くいっていてたまらんよなぁ。あ、ついたぜ」

 ここが、俺がおすすめのジュエリーショップだ。

 さぁ、行こうかといわれて、洋次はそのきらびやかな店先にごくりと息をのんだのだった。

デレ男子の描写を出したいけど、あんまり恋愛してる子がこの作品にはいないのですよね。

それで、洋次くんのいちゃこら感をだしたかったなぁというわけで!

彼女が可愛すぎて不安となると、指輪くらい付けてて欲しいですよね!


次話ではジュエリーショップに行く予定です。

怪しいマスクサングラスの男と男子大学生が一緒にジュエリーショップに行く絵面をお楽しみいただければ!

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