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633.男四人のプール会6

前話の続きでございます。

木戸くんの高校生活は? といったところからスタートです。

「どこにでもいる普通の高校生……」

「うそだー!」

 おっと。三人から同時に否定の言葉がきてしまった。

 そんなわけが無いだろうと言わんばかりである。


「失礼な! 普通だよ? 学校にカメラ持って行けないから普通に学校に行って勉強して、バイトして放課後は女装して撮影周りしてただけだから!」

 どこが普通じゃ無いのさ! というと、その勢いに流されて、あれ? 意外と普通? とみんなは首を傾げた。

 うん。どこもおかしな事はない。普通の高校生として立派に高校を出た木戸である。


「……なぁ。女装して放課後徘徊、ってのは、普通なのか?」

「え? 木戸くんなら普通だよね?」

「いまさら言われてもなぁ……しかも放課後だけなんてなんと分別のある」

「え? ちょ、みなさん!?」

 なに、納得してるんですか!? と田ノ上くんはきょろきょろみんなの顔を見渡した。


「一応言っておきますが、先輩がた。それ(、、)は木戸先輩にとっての普通であって、普通の男子高生は放課後女装して出歩くのは珍しいかと思います」

 まったくいないってことはないでしょうが、というと二人は、え? そういうもん? と困惑し始めた。

 ずいぶんと大学での生活で、女装というものの一般性に目覚めてくれたらしい。

 

 そんな空気が許せなかったのか、田ノ上くんは頭を抱えながら言った。

「女装っつーと、おまえ、学園祭の時、女装カフェやろうって話になったとき、思いっきり断ったよなぁ……調理班の方がゼッタイに力を発揮できます! みたいな感じで」

 おおう。男子校でもありますか、そういうのは。

 ちらりと沙紀矢くんを見ると、長い髪がちらりと一房顔にはらりと落ちた。


「俺らぜってー、お前が女装したら超美人になるって言い合ってたんだぜ? 髪も伸ばしてるし、そもそも体型もほっそりしてるだろ? メイド服なり和装なり、着飾ればぜってぇ綺麗になるだろうってな」

 それ目的であの企画にしたといっても過言ではないというのに、こいつったら裏方に収まりやがって、と彼は恨めしそうにいった。

 言ったあげくに、なんだか何かを思い出したみたいで、ぺたりとテーブルに体重を預けた。

 なにを思い出したのだろうか。


「まあ沙紀矢くんはやきそば小僧ですし」

 料理できるから、そっちをサポートでも解る気はするけど……というと、沙紀矢くんはこくこくうなずいていた。

 留学という名の、女子校潜入が決まっていたあの頃は、沙紀矢くんは絶賛髪の毛の伸ばし中だったわけで。

 黒いあのつややかな髪の毛状態で男子校生活を送っていたということになる。

 そうなれば、これ、女装いけそうじゃね? とか考える人がダース単位で出てきてもおかしくないわけである。

 

「でも、女装は似合いそうだよね、とは思うかな。せっかくだからやってみようよ、なんていままでも誘ってるんだけどねぇ」

「そ、それは……その。まりえに悪いですし」

 その、彼氏が女装してるとかちょっとこう……と、ごもごも沙紀矢くんは口ごもった。


「あら。付き合ってるってことでいいんだ?」

「……好きに報告してくださっていいです。でも、学生のうちはその……特別なことは控えようって話はしているので」

「いまさらお前に彼女がいようと驚かないんだが……ずいぶんとこう……」

「父が色欲というもので、やらかしてるから。ちょっと慎重にはなるかな」

 いろいろ事情があるのです、というと大変なんだなお前も、と同情的な声がかかった。


「ちなみに俺の先輩に、彼女と付き合い始めてから女装をやめた人がいます。すっきり卒業してるかといえば、あれはどーなんだろうねぇ」

「あー、あの先輩な。男装状態でも色気がやばいって言ってるヤツいるな」

 細身だし、仕草までは抜けないっつーか、と赤城が苦笑を浮かべた。

 なにか思い出しているんだろうか。


「たしかに、あの人の場合大学生活ほっとんど女装だったし、癖はなかなか抜けないんじゃない? っていうか彼女のほうはなにか抱えてるってわかっていても、それが親との確執と女装癖ってことまではわかってなくてなあ」

 女装とか日常生活の一つでは? とかいう考えの彼女なので、というと、ん? と清水くんが首を傾げた。


「そちらの彼女さんの方と木戸くんは面識あるの?」

「ああ、うん。高校の頃の友達だからね。バレンタインチョコを一緒に作ったり、相談に乗ってもらったり、撮影で困ってるところを助けたりもしたし」

 斉藤さんとはいろいろと和気藹々とお付き合いをしていたっけなぁとちょっと懐かしく思う。さすがにお風呂で一緒になったなんてことは内緒だけれど。


「じゃあ、その彼女さんが志鶴先輩の仕草とか受け入れちゃってるのって、木戸くんで慣れちゃってるからってことになるのかな」

「……はい? いや。俺は普段普通の男子高校生としてやっていたわけなんだが」

「普通普通詐欺がまた発生している……」

「あれだけ大学でもやらかしてるのを見ると、普通の高校生とは思えんよなぁ」

 放課後はアレだったとしてもだ、と赤城に言われた。

 アレっていうのは、放課後ルイさん生活のことだろうけど。


「そう言われればまあ、文化祭の出し物でちょいちょいやらかしたりもしたけれども。そこらへんはどこにでもある文化祭あるあるじゃない?」

 実際、田ノ上くんたちもやったんだよね? と小首を傾げると、あ、ああ、と彼は頷いた。


「確かにやりましたけど、木戸先輩がやったであろうものとは多分別物ですよ?」

「えぇー」

「じゃあ、男子校の学園祭ってどんなもんなのさ」

 ほら、やっと話が本筋に戻ってきたよ! と言うと、あー、うー、と沙紀矢くんは話したくないのかいまいち反応が悪かった。


「男子校特有の馬鹿話と、あとはあれだな。むさ苦しいところに舞い落ちる一輪の華! って感じで、クラスメイトの女性の兄弟とかに目を血走らせたりするんだ」

「そこまで女子女子って、そんなに夢中になるものなのかな」

「……木戸。俺でもなんか今の言葉は残念に思うぞ……」

 そういうところがおかしいっていわれるところだからな、と赤城につっこまれた。

 おかしい。赤城だって別に女子と仲良くなりたいっていうのはフェイクだったわけだし。


「男子校ならではの悩みってやつですよ。男子高校生なんて異性にモテたいまっさかりなんですから」

 なんなら、是非とも姉妹校のゼフィロスとの交流を! なんて話も毎年でてもいつも夢は夢で終わるのだと彼はがっくり肩を落とした。

 どうにも、ここに入ればゼフィロスの女の子達と仲良くなれると思って受験してくるやつらもいるらしい。

 不憫なものである。


「ゼフィロスとの共同学園祭を、という提案も毎年蹴られてるみたいだしね」

「そうなんだよ。でもな、沙紀矢。今年はなんとっ、学園祭が終わったあと交流会ってのがあるらしいんだよ」

「え? 交流会?」

 なんのこと? と沙紀矢くんに視線を向けると、あぁと彼は納得げに声を漏らした。


「生徒会役員だけの交流会を今年はやってみようかって話になったそうですよ。ゼフィロスももうちょっと開かれていた方がいいのではないか、ということでお試しだそうです」

「まじか……ねぇ。沙紀矢くん。俺なんも聞いてないんだけど?」

「そりゃ、部外者の木戸先輩に特別お知らせする必要はないと思いましたし」

 うっ。そう言われると確かにそうなのだけど。

 ルイとしても特別、生徒会の関わりにまでは関与しなくていいものだとは思っている。

 でも、なんというかフラグが立ったというか、どうにもその場に関わりそうな予感がひしひしと……ね。


「どうだ? そういう理由なら生徒会やりたいとか思うだろ?」

「別にそこらへんはどうとでも。そもそもまりえがゼフィロスの卒業生だし、入ろうと思えば経営のお手伝いということで入れないわけでもないし」

「別の意味ではいれなさそーだけどねー」

 ぼそっと木戸が口を挟んだら、ぽんと肩をたたかれて軽くきゅっと握られてしまった。

 黙っていてくださいね? にこり、というやつだろうか。


 でも、沙紀矢くんが男子の格好でゼフィロスに行ったらいろいろと問題になりそうじゃない? あの沙紀お姉さまにそっくり! みたいな。そりゃ極力写真は残さないようにしていたし、当時を知っている人はすでにもう三年ということではあるけれど、今年は行っちゃダメな気がする。


「くぅ。これだから万能王子は……」

「万能っていっても僕にだってできないことはあるよ?」

 大学に入ると、自分の小ささというものがよくわかるもので、となぜか沙紀矢くんは木戸を見てしんみり言った。

 そりゃ、一人で全部ができる人なんていないわけだから、その言葉は正しいのだろうけれども。


「例えば?」

 どういうことができないっていうんだよ。女装以外で! と田ノ上くんに言われて沙紀矢くんはうーんと、可愛らしい声を上げながら言った。


「例えば、後輩のためにふらっと母校にきて、水泳の指導をする、とかね」

 そういうのは、しっかり高校生活を送った君だからできることだろう? と言われて田ノ上くんはうぐっと声を詰まらせた。

 うん。なにか良い感じなの来るかなと思ったけど、ここで沙紀矢くんは良い仕事をしたと思う。

 

「よっし、いい顔いただき」

 やったね、と一人にこにこしていると、赤城にぽんぽんと軽く肩をたたかれた。

「あのよう。木戸。せっかくいい話風にまとまるところを、どーしてお前はこう、木っ端みじんにするかね」

 男同士の友情に涙するところだろうに、と赤城に怒られたものの、けれどもこればかりは仕方ないのである。

 

「ま、久しぶりに同窓会みたいになってよかったよかったということで」

 これからもうちの沙紀矢くんと仲良くしてくれるとお兄さんは嬉しい! というと、いや、その……はい、ととりあえず同意をいただけたのだった。

 高校時代の男友達が少ない沙紀矢くんの今後がとても心配になる木戸なのであった。

木戸くんにとっての当たり前が周りにも浸食しているという異常事態が発生しています。

でも日常で見続けていれば、まーそういう人もいるよねーって感じでだんだん慣れていくのがニンゲンというものです。


しかし、いい話風に終わるはずが……ブレずにいこうよ、というわけで。

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