表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
666/793

628.男四人のプール会1

木戸くんの誕生日過ぎてしまった! おめでとー!

そして、プール会といいつつ、準備で一話使ってしまった……

(時期的に、咲宮家訪問の前のシーンです)

 時は少し遡る。

 それは夏に入る前。前期の講義が片付いたころのこと。

 

「夏だねぇ」

「暑くなってきたね。ほんと今年は薄着ができるのが幸せすぎる」

 ナベシャツがないのがこんなに幸せだとはー! と服をぱたぱたさせてる清水くんは、食堂でカレーをぱくついていた。

 正確には去年も無くて良かったはずなんだけど、きっと毎年ありがたいことなのだろう。

 さて。学校でのご飯は、特に約束をしているわけではなく、食堂やらサークル棟でのメンツで、その都度一緒に食べる相手は異なるのが木戸の日常である。

 いろいろと仕事だったり集中したいことがあったら、ぼっちスペースで一人ご飯を食べることもある。

 

 みんなはそういう木戸の事を見ても、あぁ、いつものあれな、で済むのでご飯に誘われることはない。

 ほんとうにいい人達である。

 これが女子同士となると……おっと。あまりつっこまないほうがいいよ、と肩をたたかれたのは斉藤さんにだったか。


 そして今日はといえば、お昼時にかちあった清水くんと、赤城と一緒にご飯という流れになったのである。

 もちろん木戸は一人お手製のお弁当なので、席の確保は木戸の役目である。


「去年はがっちがちだったんだっけか?」

「去年の春先にやったから、夏にはけっこうすっきりだったんだけど、なんていうかこう、夏になると感じる幸せというか……」

「余計なものが出てるの、やだっていう話だしなぁ。もー、FTMさんは胸オペ早くできてうらやましー! って後輩が言ってたっけね」

 ま、あの子もそろそろ、やる予定らしいけど……彼氏にちゃんと話してるのかどうなのか、と木戸がいうと、清水くんは言いにくそうだなぁと苦笑を浮かべた。


「カミングアウトのつらさは俺も解ってるつもりだが……そもそも付き合う前に言うもんじゃねーの?」

 赤城は冷やし中華の麺をすすりながら言った。

 夏の食べ物と言ったらこれだろ! という感じで大変に涼やかである。


「それはどうだろね。僕としてはお付き合いするときに先に言うっていうのは、なんかヤかな。そういう人(、、、、、)って先入観はもたれたくないし」

 木戸くんだって、付き合う相手に女装が趣味です! とか言わないでしょ? と顔をのぞき込まれた。

 うーん。


「俺の場合は恋愛より撮影が前に来るから、君より撮影の方が優先になるけど、いいかい? とは言うかも知れない」

「……ちょー上から。おまけに慈悲もない」

「くっそ。これだからモテるやつはいけすかねぇ」

 二人して、なにやらむむむ、と呆れとか嫉妬混じりの視線を向けてきた。

 解せない。


 ちなみに清水くんの言う、付き合う前に自分の「レッテル」を張られるのは嫌だ、というのは千歳にも言われている。

 いづもさんも、自分の事を「一般女性として」愛してくれる人がいたら、最初からマイナスの情報は入れたくないといっていた。

 ちょっと泣きそうだったのは、自分自身のコンプレックスもあってのことなのだろうけど。

 人となりを知ってもらってから、カミングアウトをする、ことと、最初からすることについては。

 ケースバイケースとしか言えないと思う。清水くんは、見た目でわからないのもあって、あとからカミングアウト派だ。

 最初に言うべきか、後にするかについては、本当に個人の問題だ。


「俺がもててないのは、二人とも承知だと思うんだけど? そりゃ、告白されたりはあるよ。あるさ。中学のはノーカウントとしても二回は」

「二回……それ、勝ち組では?」

「清水くんは、男の子から告られた回数はカウントにいれていますかね?」

「……思い出したくない」

 がぶりとカレーとライスを口にいれながら、ぷぃっと彼はそっぽを向いた。

 清水くんはなんというか、中性的なFTMさんである。やさしげな印象もあるし、なにげに女子をやっていた頃は人気があったんじゃないの? とか思ったのである。


「知り合いのFTMさんは、若い頃からヤンチャで、男友達と悪ガキみたいな感じでつるんでたっていうけど、まあそこは人それぞれだね」

 今時は、別にそういうのなくても、女の子が外で遊ぶのはありですから! というと、清水くんは微妙な顔をしはじめた。


「たしかに子供の頃の、らしさ(、、、)ってのは減ってきたと思うけど、いざ、性別を変えようとしてどうして、自分が男性であると思うのか、を表現する方法として、それが使えないのはつらいところかなぁ」

 男性的傾向がある、そういう根拠を今までの生活に求めても、他の子もそうですけど? っていわれちゃうと、反論できないのさ、と清水くんが肩をすくめた。


 今、ずれていることだけで、精神科医の診断が降りるわけでは無いのだ。


「おまけに、好きな相手の性別も、判定の考慮には入らない、わけだしね。ほんと、性別ってなんだろうね?」

「木戸がいうと、なんつーか、とたんに台無しだよな」

「ちょっ。俺だって性別についてはいろいろ一家言あるほうなんだけど?」

 両方使いこなそうという人としてはそれなりに詳しいほうだよ? というと。


「普通の人は使いこなさないから。両方とかないから」

「どっちでも、どーでもいいのなら、それが一番羨ましいかなぁ」

 木戸くん的には、とつぜんおっぱいがあったらどうするの? と聞かれて、ちょっと悩む。


「姉さんくらいのサイズだと邪魔だけど、BとかCくらいなら別にいいかな。撮影の邪魔にならなければそれでいいし」

「……駄目なやつがいるな」

「改めて、木戸くんは異物なんだと思った」

 理解はしてくれるけど、仲間ではないや、と清水くんに言われた。

 まあ、そりゃ、別に木戸は性転換願望はないし、清水くんや、千歳の気持ちを十分に理解できるとは思っていないけれども。

 ダメとか、異物とかはさすがにどうなのだろうか。


 ぱくりと、たこさんウインナーをつまみながら、むぅとほっぺを膨らませる。


「じゃあ、赤城はおっぱいあったらどうなんだよ?」

「そりゃ、気持ち悪いだろ。なんだこの肉腫ってな」

「にくしゅ……い……いや、なんでもない」

 たとえば、他の人に聞いたのなら、そこまでおっぱいを嫌がらないような気がしたけれど、なんせ赤城である。

 女性のおっぱいに一ミリも関心がない御仁なのだ。


 そう考えると、目が覚めたらおっぱいがありました! な状態で、おいたをしてしまうのは、「オトコノコ」の感性というか、異性の身体への興味からのものなのかなと、思った。

 最初から肉腫だ! といいきるのは、赤城ならではのことだろう。


「おっぱいって考えるから、変な風になるだろうけど、たとえば、頬にこぶができるとするだろ? だったらとりたいと思うよな?」

 まあ、その結果両方ともこぶになったらアレだが、と有名なこぶとりじいさんの話から赤城は苦笑を浮かべた。


「胸に膨らみがあるのは、女子にある普通の特徴に過ぎないからだ。男にその特徴ができたら、それはコブ以外のなんでもないだろ」

 だから、とったんだろ? と赤城に言われて清水くんは、解ってくれるのは赤城くんの方だった! と、がしっと男同士の握手を交わしていた。

 ま、まー! なんだろう。この、目の前でお前の感性はおかしいと言わんばかりなのは!


「さすがに俺も変なところにコブができたら気になるよ? ただ、撮影に関係なければどうでもいいだけで」

「……赤城くん」

「お察しというやつだな」

 二人から、可哀想なものを見る目を向けられた。

 はいはい。どーせこちらがおかしいですよーだ。

 このままこの話題を続けていても、変な扱いを受けるだけなので、そろそろ別の話題に行こうかと思う。


「そうだっ! それで夏の予定なんだけど。去年一緒にプールとか海とかいけなかったから清水くんも夏遊びどうかなって思ってたんだけど」

「おっ。そうだな。去年は俺達だけでプールいったしなぁ」

 じぃ、と赤城の視線がつきささるものの、そうはいっても、HAOTOの蠢の件は偶然の出来事だったのである。


「び、美少年と一緒できてよかったじゃんかよぅ」

「……まぁ、それは蠢くんと一緒に遊べたのは良かったけど」

 そういや、あんときは磯辺さんたちと一緒にプールにこれてうれしーとかいってたんだよなぁ、とわしりと肩に手をあてると、うぐっと彼はまずそうな顔を浮かべた。去年のあれは全部演技だったわけである。


「えっと、いまさらなんだけど、赤城くんって、その……」

「あんまり大きな声で言いたくはないがな」

 さらっと流してくれ、と周りをちらりと見ながら赤城がなんでもないことのように言った。

 うん。さすがに食堂でカミングアウトできるようなやつじゃないしね。


「木戸くんの周りには集まりやすいのかなぁ。そういう体質の人はいるっていうけど」

「出会う可能性という意味では、割と多い方だとは思ってるけど、みんな出会っていてもそのまま流してるだけじゃないの?」

 もくもくと、とっておいたミートボールを食べて、咀嚼する。

 昨日、ハンバーグを作るときに、お弁当用に作っておいたやつである。

 しっかりとソースが絡まっていて、さめていてもとても美味しい。


「そう言われると、うん。木戸くんくらいの距離感っていうのは結構めずらしいかも」

「だよなぁ。なんつーか、ぐいっとくるでもなく、疎遠になるでもなく。それがなにか? みたいな感じっていうか」

 俺からすれば結構大問題なんだけど、そこがこう、どーでもいいというか、と怪訝そうな顔を向けられた。

 清水くんも、うんうんとすさまじくうなずいています。


「そうはいっても、俺にとっては別に当人の問題でしかなくて、介入してないだけだよ? 困ってれば手は出すし、笑ってなければかき回すし」

 二人は自力でなんとかしてるから、言うこと無いだけだっての、というと、清水くんは目を点にしていた。

 そんなこと言われたことがないという感じだ。

 一方、赤城は、これぞ友情だぜ! とにこやかである。


「あっ、木戸さんっ!」

「みなさんでお昼ですか?」

 三人でご飯を食べてるところで、こちらを見つけたのか二人はとことこと顔を出してくれる。

 沙紀矢くんとまりえさんだ。

 二人はもう、付き合ってるんだろう? というくらいの感じに自然に二人生活で学生生活を送っている。


「えっと、お取り込み中だったでしょうか?」

「いや、そんなことないよ。席も空いてるし、二人がよければ合流してもいいかと思うのだけど」

「……沙紀矢くん! さ、どうぞ! 座るといいよ!」

「……きらきらさんだぁ……」

 さて。二人の登場への反応は三者三様だ。

 赤城は、沙紀矢くんを見るとあがるのはしょうが無いよね。従兄弟どのと仲良しなのだし。

 清水くんはあんまり交流がないので、一般的な沙紀矢くんたちの呼び名を使っていた。


「えと、木戸先輩のお友達の方ですか?」

「あ、はい。清水といいます」

 ご丁寧にどうも、と清水くん達は挨拶を交わしていた。


「そして、まりえさんは今日は、キッシュですか。オシャレさんだ」

「オシャレもなにも、好きな具材が入っていたので」

 別に、いろいろなものは食べてます、とまりえさんがぷぅと膨れた。

 可愛いので一枚撮影。

 お嬢様学院にいたときよりも、いろいろなものを試してみることができているようだ。


「あの、ちらりと聞えたのですが、木戸先輩と、水辺(、、)に行く、と?」

「ん? 清水が海パンデビューってこともあって、遊びに行こうってなってな」

 赤城が、沙紀矢くんの心配げな声に答えた。

 うん。間違いない。

 ルイの夏休みのスケジュールはけっこうみっちりしているけれども、それでも友達と遊びに行く日くらいはとりたいのである。


「では、その場所は僕にまかせてもらえませんか? 母校のプールを貸し切りにしようとすればやれるので」

「え?」

 これにはみなさん騒然である。

 いきなりの貸し切り宣言など、普通にできるものではないのだ。


「まりえも一緒に連れて行きたいけど、男子校なんで、ごめん」

「うん。それはもう。トラブルの元は最初に摘んでおきたいのはわかるし」

 ひとり仲間はずれにされたはずのまりえさんは、ぐっじょぶデス! というような感じである。


 会場を決めてくれるのはありがたいし、VIP待遇してもらえるのはありがたいのだけれど。

 さてはて。沙紀矢くんが用意する会場というのはどういうものだろうか。

 

「ええと……」

「ああ、すみません。ついまざる方向で話をしてしまいましたが、ご一緒してはいけませんか?」

 少ししゅんとする沙紀矢くんの顔は、半分は演技なのだろうけれど、たいへんにかわいらしい。

 イケメンがしゅんとすると、きゅんときてしまうのは、どこでも同じことなのだろうと思う。


「ご一緒は全然かまわない。っていうか、俺からも是非一緒にって思ってたくらいだし」

「みんなでわいわいできるのはいいかな。知り合いは多い方がいいし」

 うんうんと、二人からは同意の声が聞こえた。

 まあ、沙紀矢くんとも遊べるならそれはそれでいいかなと思う。


「それならあとで都合を合わせましょう。使える日は確認しておきますので」

 一応、部活の子優先ですから、と沙紀矢くんは言った。


「あの、もしかして母校って、咲宮家の経営なの? ゼフィロスの姉妹校的な」

「そうなりますね。ゼフィロスは母がやっていますが、男子校のあちらは若葉の父が理事をやっています」

「ほー。そっかそっか」

 なるほど。

 ゼフィロスを卒業した沙紀ちゃんなわけだけれど、一年間の通学が男子校のほうでのカリキュラムに該当するということで、男子校のほうでの卒業証書も持っているとのことだったけれど、一族経営だからこそなせる技だったわけだ。

 これはきっと若葉ちゃんにも適応されることになるのだろう。

 あの子の場合は、二年までゼフィロスにいるから、果たして三年でいきなり転入してうまくやれるのか果てしなく心配ではあるのだけど。


「なら、撮影の許可などをいただいてもよろしいでしょーか!」

 びしっと手を上げて言うと、みなさんからは、おまえ、またかよ……という視線を向けられた。

 だって、ゼフィロスがあの景色である。

 その姉妹校にどうどうと入れるチャンスを逃すのは間違いである。


「風景だけなら、特別許可はいらないと思います。でも生徒を撮るのはちょっと控えてくださいね」

「りょーかい。っていうか、イベントでカメラマンが必要ならぜひご用命を」

「……みんな赤面しながら写るようになるので、却下です」

「えー」

 推薦できません、とばっさり沙紀矢くんに言われて、思わず女声で不満の声を上げてしまった。

 そういうところが推薦できない理由なのですが、と言われたけれど、男子として男子校にいくのは別に悪くないと思うのだけど。

 無名すぎて駄目ということなのだろうか。


「ともかく、プールならちょっとはしゃいでも大丈夫ですし、屋内だからのぞき見される心配もないということで」

「なんかいきなり話がでかくなったな……」

「でも、助かるかも。まだちょっと海にいくとかは自信ないし」

 では、また後日予定を決めましょうということで、プールに行く約束が決定したのだった。

普通のプールや海に連れて行ったらどうなるか。

それは……はい。危険が危ないのです。

そんなわけで沙紀矢くんぐっじょぶですね!


次話こそプールにいくよ! 屋内プールできゃっきゃうふふするのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いっそ、特殊メイクを習って付けひげつけて年齢偽装するのはどうだろう。 そうすれば、女性っぽさも減るかもね。 (所作に現れる女性っぽさが、オネエ系に見られなければだが)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ