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617.そのころ三枝邸では

合宿の話の合間に、ちょっと箸休めでございます。

それと誤字のご指摘感謝です! まさか花雪さんの名前が別に一回出てたとは……花雪さん確定でヨロシクお願いします。

 目の前にじたばたと足をばたつかせながら、あーもー、とうめいている有名女優がいた。

 きっとファンからしたらそんな姿を見せられたら、幻滅……いや、違うプライベートの一面をみせられたとでも言われそうだが。


 はぁ。エレナは自宅に招き入れた友人に、白い眼を向けていた。

「あんまりにも自由奔放じゃないかな?」

 くつろぎすぎでしょう、というと、彼女はソファの上でだらーんと足をぱたぱたさせながらスマートフォンをいじっていた。

 気晴らしに昼食会にご案内はしたけれども、ここまでへろへろになるとも思っていなかったのである。


「いいじゃない。友達のうちにきて、でろーんとするとか、あたし初めてだし」

「それはなんか、ぼっちがなんか勘違いしちゃったみたいな……」

 ちょっとは遠慮してくれても、といっても、もー緩むんですーというぐだっぷりである。

 ソファのふかふかっぷりでは、彼女の家だってそんなに差はないはずなのに、である。

 エレナとて、別にこうやってだらしなくさせるために彼女を呼んだわけではない。

 今度の旅行の計画と、二人の仲を取り持つことがちょっとでもできるイベントはないだろうか、なんていう思いがあったからこそだったのだけど。


 まさかのこのだらしなさっぷりである。


「っていうか、どうしてうち? 他に痴態をさらせる友人とかいないのかな?」

「いるわけないじゃないの。あたしは女優なの。友達もみんな俳優で弱みは見せられないもの」

「珠理ちゃんは、もうちょと同性の友達を作る努力をすればいいんじゃないかな……」

 業界以外でも付き合いはできたのに、どうして押し寄せてくるのがうちなの!? とエレナはため息を漏らす。

 まあ、一緒に仕事をした中でもあるし、有名女優が自分の可愛さを認めてくれて、ロケを一緒にしたってのは、ちょっと嬉しいとも思っているけれども。


 それでも、エレナと崎山珠理奈は、まだ友達どまりのはずだ。

 こう、ぐいぐいぐいぐい痴態をさらすのは、全部、あの馨ちゃんがいけないのだと思う。


「同性の友達……ねぇ。まあ。さくらとかは友達だとこっちは思ってるけど、あっちは被写体! っていう……うぅ」

「自爆したよこの子」

 さて。何を思い出したのかといえば、それはルイのことだろうというのはよくわかる。

 やれやれと、首を振りながらエレナは今日の昼食の準備に入った。

 ゲストがいるのなら、軽食くらいは用意しようというのが、この家の考え方である。


「心がささくれたときは甘いもの……ってのも、心が折れそうだから、ここはボクなりに、刺激的な軽食を出してあげようかね」

 ううむ、あの時旅行に出ただけの相手は、友達扱いは厳しいか、とエレナは苦笑を浮かべながら、香辛料を取り出した。

 くしくも、貸切風呂での同行をお願いしたメンバーは、それなりに彼女に対して好感情を向けているはずなのだけど。

 それでも、個人的に連絡を取り合っているのはさくらくらいなもので、あいなさんは仕事込みだったらぜひ連絡を! というスタンスだし、あの姉妹は本人たちのことでいっぱいっぱいで、自分から女優さんに声をかけるというようなことは難しい。

 なら、よーじはといえば、そんなことをしたらエレナが可愛くぷんすか怒るので、連絡をすることはほぼない。


 さて、そんなことを思いつつ取り出したのは中華鍋だ。

 このキッチンにはフライパンをはじめいろいろな調理器具があるわけだけれど、その一つがこれ。

 チャーハンを作るときはもとより、少し水っぽいものを作るときにもこれは重宝するのである。


「それで? 今回はどうしてそんなにへろへろ? 今度旅行にも一緒に行くんだし、今はテンション上がる時期じゃないの?」

 かくいうボクもよーじと一緒に旅行は楽しみだよ! とにっこりエレナは言った。

 それに珠理奈はリア充爆発しろというような怨嗟の視線を向けた。

 ぐぬぬという擬音が似合いそうな感じである。


「そりゃ、ルイが女子校の合宿についていってるからに決まってるじゃないの」

 もう、とぷんすかいう女優さんにエレナはあー、あれねー、と苦笑を浮かべつつ、ネギを切り始めた。

 まな板の上でリズミカルな音がなると、食材はきれいに切り分けられていく。


「ちょうど今頃一日目なんだっけ?」

「そう! それで、メール送ったんだけど、返事があれよ!? わーい、しんかんせーん、よ? これ、どうしろと」

「いいじゃん。他の女子高生が可愛くて仕方ないでござる、とかじゃなくて」

「……そりゃそう……なんだけど。あああもう、そう言われたほうがまだマシというか……」

「恋愛感情向けられる可能性がちょっとでもあるのならって?」

 まー、馨ちゃんはその点ポンコツだからなぁとエレナがいうと、ぺたっとへたり込む音が聞えた。


「あの、ちょっと聞いておきたいんだけど。エレナはその……そういうことについては、その……興味はあるのよね?」

「ん? どういうこと?」

 おっと、じゅーっとか香ばしい音がでちゃったから聞えないなぁというと、なぁっ! と珠理奈は顔を赤くして、もごもごと言葉を濁した。

 

「珠理ちゃんってさ。中高で恋バナしたことないクチでしょ?」

「なっ。そりゃ……騒がれるし、控えてはいたけれど」

「とかいいつつ、いいなぁとか思ってたクチでしょう?」

「うぅ、うりゅさいっ。あんただって……あ」

 おっとと、珠理奈はそこで相手の顔を見て口をつぐんだ。

 すっかり自然の流れで言ってしまったのだが、よくよく考えれば相手だって(、、、、、)中高のときに恋バナなんてものはしていたのだろうか。


「そこらへん気にしないでいいというのもいいし、途中で気づくのも嬉しいかな。でも、残念。ボクは学生時代恋愛話でこまったことはない、んだよね」

「ええぇ!? 学校でそういう話ってでるでしょう?」

 年頃なんだし、と珠理ちゃんは驚いた様な声を上げた。

 高校の部分は女子校、男子校で違うとは思う物の、中学ではそういう話はでなかったものだろうか。


「まあ、当時はボクだって性別不明じゃなくて男のコだったわけでね。しかもちょっと年下っぽい属性持ちだったわけ。となると、男友達は、この子にそういう性的なことを言って良いんだろうか? なんて思っちゃうみたいでね?」

 女の子だったら中学生あたりでかなり、大人の恋愛みたいなのに近い感じになっていくんだろうけど、中学生男子はそこまで大人でもない。せいぜい週刊誌のマンガのグラビアに釘付けになるくらいだ。


「興味があったかでいえば、ボクはあんまりあの頃はそういうのは無かったよ。ただただ、お父様に従って生きるこの生き方がいいんだろうかって思っていて。そこで、ばったり男の娘の生き様ってのにね、魅せられた」

「前も言っていたわね。男の娘と、ルイみたいなのとどこがどう違うのか、教えて欲しいところだけど」

「ボクとルイちゃんが同じに見えるのであれば、それは……ちょっと、と思うのだけど」

 親友ではあるけど、ボクとルイちゃんが違うのは明白ではないの? とエレナは小首を傾げた。

 きっとここに、あの写真馬鹿が居れば、かわいいといってシャッターを切っていたところだろうか。


「さすがに同じとは思わない。でも、違いについては、男を好きにならないってことくらいしかわかんない」

 ぷぃと、珠理奈は頬をふくらませながら、顔を背ける。

「ははっ。そうだね。ルイちゃんは男に告白されて……ずいぶんと狼狽してたみたいだし。男の人が好きってのはないとは思うけど」

「だからといって、恋愛感情そのものがほったらかしじゃないの」

「ん。そこが、一番違うところかな。あの子は、好きな人より好きな物をとる。典型的なだめ男の姿じゃないかな」

 まあ、性別が女子であるなら、それでいてあの見目なら、身体を許す代わりに自由と資金を提供する男の人は多いかもだけど、とエレナがいうと、やめて! と険しい声が響いた。


「そんな身体を売るみたいな話、あって良いはずがないじゃないの」

「でも、物語ではよくあるよね。振り向かない相手を自分の物にするための手段の一つとしてね」

 さぁ、そろそろ豆腐の投入といきますか、と、さいの目に切ったそれを中華鍋にいれる。

 じゅっと、いい音が出て、味付けにいれている唐辛子の匂いが周囲に広がった。


「正攻法で落ちないならば、パトロンはどうか、というのは一つの示唆だよ。珠理ちゃんはこれから自分の仕事をきっちりするのだろうし、売れ続けることができれば、相手を買い続けられる」

 ほら、どうぞ、と、深皿をだすと、うわぁと彼女は驚きの声を漏らした。


「軽食で麻婆豆腐ってどういうことなわけ?」

「ん? もうお昼だしね。ボクが食べたかったから用意しただけ」

 食べないなら、ボクが食べるけど、というと、彼女は、たべりゅ、と起き上がりながら言った。

 ニンニクのにおいを少し強めに出したのがよかったのだろうか。ぐぅ~とお腹までなってる始末だ。

 ほんと、少しうらやましくなるくらいに可愛い子だな、とエレナは思う。

 テレビの中での彼女は、とにかく美しい。そして可愛い。

 でも、個人的にはこうやって素でちょっと幼い感じを出していた方がエレナの好みなのだった。


「まあ、ボクもそれなりな付き合いだけど、ルイちゃんはほんと写真の事にしか興味はないよ。キミは被写体として興味を引くけど、さぁ恋愛対象としてどうなることやら」

「あんた、前の告白の時も同じような事を思っていたわけ?」

「上手く行けば良いな、とは思ってたよ。万に一つね」

「万に一つって……」

 はぁ!? と珠理奈が目を見開く。何を言っているんだこの相手はという感じだ。


「でも珠理ちゃんが馨ちゃんと上手くいく未来ってのをどう作るのか、正直あんまりビジョンが見えないんだよね。一緒に居られるだけで幸せって思っておくのでいいとは思うけど」

 もう一人の方はなかなか会うこともままならないわけだしさ、とエレナは弟子の事を思い浮かべて肩をすくめる。

 あちらはイベントの時しか接触できないのだから、それを考えると月一回デートできる珠理奈のほうがリードしているようには見える。


「あの子は三大欲を前にしても、カメラをとる。それが動くのかは、試してみるといいとは思うけど。まるで色仕掛けで迫ったとしても、そのポーズいいよね! ってシャッター切るんじゃないのかな?」

「……図星刺さないでくれるとありがたい」

 いただきます、と珠理奈は涙目になりながら、麻婆豆腐を口にいれた。


「どう? お味は」

「辛い……人生が辛い……」

 こうして、夏の日の珠理奈さまの一日は、変なルイへの信頼と、恋愛が進まない葛藤に包まれたのだった。


最近、崎ちゃん分が足りない! ってことでちょっと書いてみました!

夏はプライベートビーチに行く! って約束の再確認という感じですね。

大きな海。そしてコテージ。楽しみです。


そして恋愛相談できる相手がエレナさんしかいないのは、崎ちゃんにとってはいいんだか悪いんだか。

もうちょい素直になれば、ルイちゃんだって落ちると思うのですけどね……


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