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616.学院の写真部の合宿6

「食堂はっと……」

 さて。一時間のミーティングを終えて写真部のみなさんは移動の最中なのだった。

 え。ミーティングはどうだったのかって? それはもう筆舌に尽くしがたいほど、とても濃い内容で。

 先生はちょっと黙っていてください! と部長さんに怒られました。とほほ。

 まあ基本的に顧問のスタンスとしてはぐいぐい前に出るよりは好きに撮らせてあげたいというのはあるのだけど。

 それでも、あわあわと口を挟みそうになってしまい、そのたびにステイ! というような対応になってしまったのだった。


 でも、みんなしっかりと自分の撮りたい物っていうのを考えられたみたいで、これからの撮影が楽しみというような感じではあったと思う。


「あっちのテラスの方ですね」

「学食もいいですけど、ここも綺麗って噂なんですよ」

 ほら、と部長さんが言ったとおり。

 目の前には、わぁっと広がる光のカーテンが見えていた。

 なんというか、ガラス張りの壁から光が差し込んでいて、いわゆるテラス席といわれるような感じのものが、この食堂の大半を占めているのであった。


「すご……話にはきいてましたが……」

「実際に見るとすっごくきれい」

 初めてでもある一年生と、若葉ちゃんは、その景色に心を奪われているようで、ルイさんはそんな姿を撮影しつつ、さらにはそこをいれつつ、輝くテラス席をしっかりと撮影させてもらった。


 まるで別世界。そんな中でちゃんと感動できる若葉ちゃんは十分潜入試験合格だと思う。

「あの、これ、撮影してもよろしいですか?」

 食堂の脇で待機していた志農さんに声をかけると、他の子がくるまでならば、という返事をいただけた。

 というか、それぞれのサークルでの昼食時間が同じ事もあるけれど、ずれることもあるのだそうだ。

 今回は、どうせルイ先生がここを撮りたがるでしょう? ということであらかじめ少し早い時間設定にしてくれたようだった。


 なんというか、いろいろルイさんはこうだからね! っていうのでいろいろ配慮されているのは嬉しいのだか、悲しいのだかである。


「撮影していいなら、お言葉に甘えます!」

 お料理冷めないレベルで! とやけくそにいうと、志農さんは話に聞いてる感じねぇと、楽しそうに言った。

 まったく明日華ちゃんったらおうちでどんな話をしているのだろう。


 そして、昼の日差しが入るテラスを撮影させてもらった。

 さすがに腹ぺこな学生さんを待たせるわけにも行かないので、五分程度である。

 それだけで、大きな窓から差し込む光や、お庭にある植物たちを十分にカメラに収めることができた。


 テーブルは基本的な仕様なのだろう。

 四人がけの席がずらっと並んでいる感じなのだけど、ウッド調にまとめられていて、本当にお洒落なカフェに来たような感じになるつくりになっていた。


「ご満足ですか? ルイ先生」

「はい。十分堪能しました。朝と夜も撮りたいですけどね!」

「あはは。まあ、生徒がいない時間ならいいですよ」

「理事長先生に、パンフレットの写真として売り込んでみようと思います」

 そういうことも含めてなのです、というと、お? と志農さんは驚いた様な顔を浮かべた。


「ただ、わーいって写真を撮ってるだけの人だ、と伺っていましたが、そういうことも考えるのですね」

「それはもう。大学を出たら本格的にカメラでご飯食べていきますし。今からそういうのは抑えておかないとです」

 顧客大切! というと、ほんと世知辛いわねぇと、志農さんは苦笑を浮かべた。 

 まあ、ビジネスチャンスはちゃんと物にしろっていうのは、佐伯さんやあいなさんに散々言われてて染みついてしまってることではあるのだけど。


「では、本日は私めが、姫様がたとご一緒しようかと思います」

 部長特典です、と部長さんが四人席の一つを埋めた。

 若葉ちゃんは、基本的に明日華ちゃんと一緒にいることが多い。

 これは、潜入をする上で関わり合いになる女子を減らすためのものだ。

 けれども、今回は四人席なのである。

 電車では3、6だったけど、4に割り込める余裕というものができるのだ。

 他のテーブルはちょっと3、2みたいになってコンパクトになってしまうのだけど。まあそっちはそっちで楽しそうに話をしているのだから、いいのだろう。


「ちょ、姫って……私はそんなキャラじゃ」

「そうですよ。若は姫というよりはその……」

「えええ、従者が居る人は姫でしょ? もう、ほんと被写体として撮りたいくらいなのに、従者の方があまりいい顔しないし」

「だよねー、ぶちょーちゃんはよーくわかっている!」

 撮りたいよね! というと、ダメですと明日華ちゃんに両手でバツを付けられてしまった。

 前はそれなりに撮らせてくれたというのに、最近はガードが激しいような気がする。


「くっ、最近明日華ちゃんのガードが前よりひどいのです」

「ですよねぇ。過保護というかなんというか」

 写真くらい撮られるのはいいと思うのに、と部長さんは肩をすくめた。

 ここらへん、彩が気づいた理由を二人に伝えたことが原因なのだが、ルイが知ることは当然ない。

 撮らせてもらえなくなったと、しょんぼりするだけなのである。


「お待たせしました。ランチの始まりです」

「……うあ、なんか自分がお客として座ってるのにそわそわしますね」

「今日は明日華もお客だからね? しっかりとお母さんの給仕を見ておくといいわ」

 小さかったあの頃を思い出すーと、志農さんはちょっとテレながら、そつなく給仕を済ませていった。

 最初は定番であるスープからだ。

 ちょっと黄色い感じのそれは、コーンスープなのかなと思いきや、口に入れると涼やかな甘い味が広がっていった。


「本日のスープは、カボチャの冷製スープでございますってね。ま、お屋敷と違ってこっちだとそんな説明はしないのだけど」

 娘の友人達だものと、志農さんはいいながらお盆を片手に調理場に戻っていった。

 スープの後はなんだろうか。

 それを完食するころに、次はサラダがサーブされる。


 鮮やかな緑にプチトマトの赤が映えているけれども、さらに他に紫のものとか地元の野菜がたっぷり使われてるようだった。

 そしてドレッシングは豆乳ベースのものが用意されている。

 自分で好きなだけかけていただいて良いらしい。


「うぅ、ドレッシング美味しい……残ったら持って帰りたい……」

「ルイ先生ほど貧乏性にはなれませんが、たしかに美味しいですね……」

「ふんわり香るドレッシングで、野菜の青臭さが完全に消えてる。美味しい」

 もちろん、野菜そのものも新鮮で美味しいというのもあるのだろうけど、と若葉ちゃんは嬉しそうに野菜を頬張っていた。

 隣の明日華ちゃんにつねられたのか、食べるペースがゆっくりになったのは、ご愛敬ということだろうか。


「あははっ。ルイ先生が二人の間に入るとこんな感じになるんだ」

 面白いなぁといいつつ、ゲストである部長さんはカメラを手にかけず、にこりとそんな光景をみながらサラダにはむついた。

 まあ若葉ちゃんは撮影に敏感になっているし、撮影しても消してっていわれそうだから、正しい判断だとは思うけど。 


「それは、サラダが美味しかったからで、別にルイ先生のせいってわけじゃ」

 もぅ、変な事いわないでくださいと、若葉ちゃんが抗議をする。

 お姉さまにあたる相手なので、口調は丁寧なものである。

 こういうのを見ると、可愛いなぁなんて思ってしまうルイだった。


「そうですよ。部長さんもサラダ美味しそうに食べてるでしょうに」

「それは……まぁそうなんですけど。ちょっとこう、気を許してるというか?」

 んー、普段より若葉ちゃんはリラックスしているというか、と部長さんはにんまりとした顔を浮かべる。

 そうはいっても、若葉ちゃんは今回の旅行中はずっとびびりなような気がする。

 ただ、美味しい物を食べてにまりとしただけ、というか。

 特別このメンツでいるから、ということはないように思う。


「許すわけないです。こんな色っぽいお姉さんと同じ部屋で夜を過ごすとか……」

「色っぽいかで言われたら、全然あたしなんてセクシーより純真路線だと思うけど」

 おっぱいないしな、というと、ぶふっと若葉ちゃんは噴き出した。

 もぐもぐしてないタイミングで良かったと思う。

 もう、若様、ばっちいです、と明日華さんがナプキンを差し出していた。さすがの主従関係である。


「そっかぁ。たしかにルイ先生は女性同性愛者(れずびあん)の疑惑がある方。となると一緒に泊るのもそれ相応の覚悟というものがー」

「あのね。君たちだって好きな人が居たら、速攻でゲットしていたずらしようとか思わないでしょう?」

 そもそも、あの件はドラマの演出のためってことで片付いたはずで、その疑惑を肯定することはできません、とルイはぷいとそっぽを向いた。

 

「大丈夫ですよ。先生が若様に手を出そうとしたら、私が一命をとして止めますから」

 ええ、なんなら私がルイ先生の相手を務めて見せますとも、と明日華ちゃんは拳を握った。

 ちょ、まったくそういうつもりはないのだけど、なんか盛り上がられてしまった。


「ふふ。私としては若葉ちゃんより、明日華ちゃんがリラックスしていそうに見えますけどね」

「なっ……」

 あわあわと、明日華ちゃんが口をぱくぱくしているなか。

 次のメインディッシュがサーブされた。


「メインはハンバーグね。昼だからこれくらいだけど、満足してもらえると嬉しいわ」

「昼からミニコースになってるのは贅沢だと思いますけど」

 学校でもお昼はプレートまでですし、というと、ここは合宿場だからねー、と志農さんはにこにこしながら言った。

 まあ、そんな注釈とか、さっきまでの会話とか全部ぶっ飛ぶくらいに、でてきたハンバーグの香りにやられてしまっているんだけれども。


「しかもホイル焼き……開けた途端にキノコの香りがやばい……」

「うぅ、ほんと幸せすぎる……ハンバーグのお肉の匂いとキノコの匂いがやばいよう」

 他のテーブルからそんな声が漏れていた。

 まあ、それは間違いが無い。

 志農さんはあっさり、ハンバーグといったけれど、これはホイル焼きのハンバーグなのである。

 中に野菜を一緒に入れて焼いてあるこれは、開けた途端に香りが広がって、それだけで食欲を一気に持って行かれるのである。


「これを前にしてしまったら、誰でもリラックスはしてしまいそうだけど」

「それは若葉さまへの皮肉ですか? もうよだれをだらだら垂らしてしまいそうです」

「って、垂らしたりはしないよ!? そりゃちょっと、じゅるりって感じではあるけど」

「あははっ。若葉ちゃんははらぺこキャラか! お姫って思ってたけど、こうやって一緒にご飯たべるとイメージ変わるねぇ」

 やっぱりこうやって新しい顔を見れるのは合宿の醍醐味だね! と部長さんはハンバーグを切りながら言った。 

 もちろんルイのほうもハンバーグにナイフを入れる。匂いだけでわくわくして温かいのを逃す手はもちろんない。

 あむり。ほろりとハンバーグの肉がほどけて、口の中にソースと一緒にジューシーな味わいが広がった。

 幸せである。


「あれ? お昼ご飯って、若葉ちゃんどうしてるの?」

 一通りお肉の味を堪能したルイは、一つの疑問が頭に浮かんだ。

 教室の子と一緒とか、部活の子と一緒とかじゃないの? と首をかしげると、あー、と部長さんは残念そうな声を上げた。

「食堂で明日華ちゃんと食べてるのが基本かなぁ。正直、余人の関与をさせないというか」

 まあ、だから写真部に入ってくれたことは嬉しいなって思ってるんだけどね、と彼女は言った。

 二年前、池の前でおろおろしていた彼女もここ二年でずいぶんと鍛えられたようだ。


「お昼ご飯……むぅ。またはぎれ丼食べたいなぁ」

 さて。そうはいってもそんな部長さんの話に、面を食らってしまってる二人を前に、ルイは少し話の方向性を変えることにする。

 嘘をついていること。それは二人の中には確かにある。

 なるべく関係を広げないこと。それでも写真部に入ってくれたこと。

 そして、そもそも若葉ちゃんとしては一年間転校を先延ばしにしたこと。


 その秘密はさすがに本人達にフォローさせるのは難しい。

 センセーらしいこともできるルイさんなのである。

 

「先生もはぎれ丼ファンなんですか?」

「まあね。でも臨時講師は食堂使っちゃだめなんだってさ」

 ほんとあのときのことを絶望混じりで再現してあげたいくらいだわ……というと、よしよしと部長さんは頭をなでてくれた。

 ほんと、良い子である。


「なので、あたしが食堂を使うには学園祭とか卒業式の公式カメラマンとしての地位が必要なのです」

 学園祭のは学校のオファーだから、もうちょいすればわかるんだけど、あとは卒業式の方は個人オファーがあれば食堂使えるので、写真撮られたい子がいたら是非三年生でご紹介ください! と言うと、ご飯のためですかこの人は……と明日華さんから冷たい視線を向けられた。

 そうはいっても、ご飯おいしいんだもの。


「なら、正式にうちの学校の先生になってみる、とかは?」

 こそっと若葉ちゃんが可愛らしくそんなことを言ってくれる。

 言ってくれるけれども、それはなんというか。


「無茶ですね」

「あー、無理っすわー」

 自分でいうのを先を越されて、明日華ちゃんに全面否定されてしまった。

 まあ、もちろん自分でもよくわかってることなのだけど。


「教師になるには、資格が必要なんだけど、そこらへんがちょい無理でね。外部顧問をって話も異例ってことなんだけど……とはいっても、指導者がいないままってのも、ねぇ?」

「いつだって技術は進歩しますし」

「ま、アナログからデジタルへ上手く移行できてなかった部だしなぁ。っていうか、そもそもゼフィロスだとみなさん、写真を撮るならカメラマンを呼べば良いじゃないって感じだったのかもだけど」

「って、せんせい! うち、そんなに写真家呼べるほど裕福じゃないですよ!」

「いやいや。価値を知ってもらったのなら、十分大丈夫な金額ですって」

「売り込みが始まった……」

「ハンバーグ冷めちゃうけど……」

 ほんとこの人は、と若葉ちゃんからも冷たい目を向けられてしまった。

 さすがにご飯を後回しにするのはまずいだろう。


「はいはい。じゃあその話はおいおいということで。ハンバーグ食べましょうか」

「温かいうちにね」

 ナイフをいれるとハンバーグはすっと簡単に切れてしまった。

 しっかりと煮込まれたこれは、口の中に入れるとほろりと崩れる。


「くぅ。学食も美味しいけどここのご飯も幸せ」

「美味しいですよねぇ。お昼からこんなに豪華なのがいただけるのは贅沢」

「そんなに気に入ったのなら明日のお昼はお出かけやめて、ご飯ここでいただきます?」

 はむはむとハンバーグを食べながら明日華さんがしれっとそんなことを言った。


「いやぁ、そこはちゃんとお出かけしようよ。せっかくの合宿なんだからさ」

 きっと新しい道に踏み出せばそこにも美味しいご飯はあると思うよ? というと写真部のみなさんは苦笑交じりに、先生は食いしん坊キャラですね! と総つっこみを入れてくれたのだった。

 志農さんのお母様ったら、ほんと娘に甘いわさー、としみじみ思う感じです。

 いづもさんあたりには、「なによ、今の時代ハッピーすぎ!」とか、普通にいいそうです(苦笑)

 昔はVS社会、なりVS他人だったりだったんだけど、最近はVS自分の在り方って感じがします。

 

 なんとか生存できる、から、生き方を考えられるになったっていうのは、時代の移り変わりを感じますね。


 それで、カボチャです! 女子供が大好きなカボチャ! 

 包丁で割るの大変ですけど、美味しい食材だと思います!

 もちろん、コーンスープも好きなのですけれども。

 くっ、せっかくなのでオシャレにしたかったのだけど、カボチャも調理すればきっと、オシャレに……

 そう。大丈夫です! 作者が高級料理っての知らなくても、きっとこの子達は楽しんでくれますとも!

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