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614.学院の写真部の合宿4

「長旅お疲れ様。疲れたでしょう?」

「いえいえ、電車に乗っていただけですので。それよりもお迎えありがとうございます」

 デッキを降りて待ち合わせ場所に向かうと、そこにはミニバンというのだろうか? 割と人数が乗れる車が駐車していた。

 本日からご厄介になる合宿所の方ということで、ご挨拶をすると、あぁ貴女があの、というような反応をされてしまった。

 その女性は、年代的にはルイ達の親世代と同じくらいだろうか。落ち着いた感じの人でどこかで見たような印象を持つ人だった。


 そして、車にどうぞとメンバーを座らせる。

 荷物を置いてもそこそこの余裕がある車で、ルイとしては運転するのがちょっと怖いなと思うくらいのものだった。

 シートベルトを着用したのを確認して、車はゆっくりと走り出した。


「若葉様も無事にお越しいただけたようで」

「若葉様?」

 はて? と彼女の言葉にみなさんがはてな顔を浮かべる。

 若葉ちゃんは確かにお嬢様ではあるけれど、見知らぬ女性に様付けをされるようなことはないとは思うのだけど。


「母様……さすがに様付けは。みなさん驚いていますよ」

「母様って……えと、志農さん?」

 どういうこと? と首を傾げながら聞くと、ええとと、志農さんは少し恥ずかしそうに言った。


「あの、こちらは私の母でして。普段は若葉様のお屋敷を取り仕切っていますが、夏のこの時期だけは合宿所の方のお手伝いをしているんです」

 夏場は人手が足りなくなるのです、という彼女の言葉は確かにそうで、日程を決めるときに他の部との調整は必要になるなんて話もあったくらいだ。

 だからこそ、咲宮の家で働いているであろう彼女にも声がかかったのだろう。

 そこらへんの人間関係を隠さなくてもいいのかな、とは思うのだけど、みなさんとしては合宿所のおばちゃん扱いになるから問題にはならないらしい。

 もともと、若葉ちゃんと明日華さんは主従関係っていうのはみんなに知られているわけだし、その親がそういうことであったとしても別段おかしいとも思われないのだろう。 


「志農さんのお母様だったのですね? どうりで雰囲気が似てらっしゃるなぁと思いました」

「しっかりとメイド教育はしましたからね。それに写真部のみなさんの事は明日華からよく聞いています」

 ルイ先生の事もいろいろと伺っていますよ、とおばさまはちらりと意味ありげに視線を向けてきた。

 さすがに運転中なので、ちらっとだけだ。


「どんな話をしているのか気になるところですが……今日はこれから地元で有名なスーパーによってから合宿所ということでよろしいですか?」

「その通り。ここらへんだと大きくて立派なスーパーだから、必要なものがあったら買っていくと良いよ」

 まあ、晩ご飯が入らないほどお菓子を食べられたら困るけどね、とおばさまは苦笑交じりに言った。

 明日華さんは割と、必要な事しかしゃべらない子だけど、おばさまは割とフランクなようだ。


「志農さんのおっしゃるとおり、ちゃんとゴハンは合宿所ででますから、必要なものだけ買うようにね」

「はーい」

 部長さんからの一声にみなさん素直に答える。

 実際、合宿所に全部そろっているという話なので、わざわざスーパーによる必要はないのだけど、それはそれ。

 これから向かう場所は、観光名所といえるくらいの大きいところで、品揃えも素晴らしいと評判のところなのである。


 これでいわゆる自炊系の合宿だったのなら、お買い物ももっと楽しかったのかもしれないけれど、そうでなくても胸が高鳴るスーパーなのだ。

 貧乏性なルイではあるけれど、ウィンドウショッピングは楽しみなのである。


「おっと、そんな話をしていたら、もう到着だね」

 さすがに近い、といいつつそのスーパーの駐車場に入る。

 うん。なんというかすさまじく広い駐車場である。車が400台止められるというのだから、もう相当な広さといってしまっていいだろう。

 しかもその先に遮蔽物があまりないというのも広さを感じさせる原因の一つなのかもしれない。


「それじゃ、私はちょいと買い出しさせてもらうから、ルイ先生。この子達のことはお願いしていいかな?」

「了解です。2,30分くらいと思っておけばいいですか?」

「そうだね。買う物はもう決まってるし、あとはお嬢様方のお買い物次第かな」

 ま、時間はある程度決まってるのはわかっちゃいると思うけれど、と志農さんはちらっと明日華ちゃんの方を見た。

 あの子ならいろいろわかっているはず、というような信頼でもあるのだろう。


 けれど、その当の明日華ちゃんはぼそっと言った。

「われら生徒は十分その時間で買い物は終わりますが、約一名それだけだと撮影が終わらないと言う御仁が居ますが……」

「なんとっ。明日華ちゃんさすがにあたしもそこまで撮影に集中して時間がわからなくはならないよ?」

 大丈夫だよ? といってあげると、あらあらと志農さんは楽しそうににこにこした顔を向けてきたのだった。



 さて。

 このスーパーが観光名所の一つに入る理由というのが中に入ると嫌なくらいによくわかった。

 中に入った途端にくる、涼しい風というのはエアコンが効いているのでどこも同じではあるものの。


「うわ……品揃えがなんというか……オシャレだね」

「もともと、ここは別荘の人達向けの高級食材を扱ってたところですから。ちょっと普通のスーパーよりは高級志向ですね」

 あまり見たことがないものばっかりだよ! というと部長さんがそう解説してくれた。

 普段買い物をしているルイではあるから、スーパーの中が一般的にどうなってるのかはよくわかっている。


 そして。

「でも、結構いいお値段しちゃうんだね……」

 底値も。頭にしっかり入っているのである。

 値札を見る限り、これはお安い! というものは確かにある。

 ここらへんで作られているキノコ類なんかは珍しいものもあるし、安いのだけれども、加工品の類いはなんというか……高級品なのである。

 

「ルイせんせいの顔がちょっとばかり遠いものになっていますが……」

 一年生の部員にそんな声をかけられてしまったものの、うん。

 こればかりは経済格差というやつなのです。仕方ないのです。


「えと、ルイせんせい。社会人であれば好きに買い物ができるものだ、と思っていたのですが……」

「そこはバランスの問題というか。あたしの場合カメラ関係の道具に使っちゃってるから、普段は質素なのです」

 最近は多少使えるようにはなったけど、それでも遠出して撮るのも考えてるから節約はしちゃうかなぁというと、相変わらず写真バカですね、と明日華ちゃんに言われた。

 とはいっても、友達とゴハンを食べに行くくらいはやっているし、コロッケ一個買えなかった頃に比べればずいぶんと経済的にはマシになったように思う。


「むしろ、今はまだ親元にいるからいいけど、一人暮らしを始めたらそれなりに稼がないとなぁ……」

 適正価格で、と佐伯さんたちが酸っぱく言ってる意味がうっすらわかるところです、というと、世知辛いところを聞いてしまったような……と写真部の子達は少し困惑した顔を浮かべさせてしまった。

 いけないいけない。

 まだまだ彼女たちは学生で、しかもお金にそこまで困らないお嬢様である。

 今の時間を十分に楽しんでもらうことが大切だろう。


「でも、この品揃えはちょっとわくわくするね。あのジャムコーナーとかやばいよ!?」

 ほらっと彼女たちの視線を誘導すると、そこにはずらっと並んだジャムコーナーがあった。

 同じサイズの瓶に入った色とりどりのジャムがワンコーナーに並んでいるのは、美しいと言ってしまってもいいのではないだろうか。

 若い娘さんたちは、すぐに新しいものに飛びつくもので、キャーキャー言いながらそのジャム瓶の列を眺めていた。

 

「すごいグラデーションというかなんというか」

 中身の色がきらきらしてて綺麗だよねぇといいつつシャッターを切った。

 ベリー系の深い紫に、オレンジ系の黄色、いちご系の赤と、キウイの緑。

 良い感じに照明が当たっているので、もうそれだけで宝石箱みたいにも見える。


「食品って、宝石になるんだねぇ……」

 きれいー、と言っているとみなさんはわいわいと、あ、この味美味しそうと食い気の方を発揮してくれていた。

 まあ、明日の朝はパン食だという話は聞いていたし、マイジャムを持っていてもいいのかなとは思うけどね。

 ルイさんは買いませんよ? 現地に絶対美味しいジャムあるに決まってるし。


「そして、若葉ちゃんもご購入?」

「……おいしそうだったので、つい」

 二泊三日なので、帰りの日でもいいのかと思うのですが、という姿は悩み込んだ上というような感じだった。


「せっかくだから、クラッカーとかも買ってかない? 夜のパジャマパーティー用に!」

「ぱ、ぱじゃまぱ……」

 あう、とその単語を聞いて、若葉ちゃんが身体を震わせた。

 このメンバーとそんなことしちゃうの? というような感じである。

 でも、いくらメンバーが違うと言ってもこの反応はおくゆかしさを通り越しているような気がする。


「寮でもパジャマパーティーはするみたいだけど……先生も混ぜてもらってもいいのかな?」

「それはもちろんです! 他の先生ならいざしらず、ルイせんせーなら大歓迎です!」

 っていうかどんな可愛いパジャマで登場するのかとても楽しみですー! と部員のみなさんからキラキラした目を向けられたのだけど。


「パジャマ的なものはジャージしか持ってきてないよ? いっつも泊まりの時って徹夜で撮影とかだし、あんまり可愛いパジャマというやつを持っていないので」

「なっ……んと」

「意外です。それこそ若葉ちゃんみたいなゴージャスな寝間着で、ぬいぐるみとか抱っこしていそうなのに!」

「そこでぬいぐるみが何故出てくるのかよくわからないけれど……」

 まあ、嫌いじゃないけど、それはちょっと幼女のイメージじゃないのかな? といってあげると、大人でも似合う人はいると思いますと言い切られてしまった。


「でも、そっか。若葉ちゃんはあのゴージャスな寝間着をみなさんに見せるのが恥ずかしかったんだね」

 そうかぁ。そうだよねぇ、あれだけゴージャスだもんねぇといってあげると、えぇー、と非難がましい視線を彼から向けられた。

 そうはいっても、普通の女子がパジャマパーティーを嫌がる理由なんて、そんなに多くはないのですよ?

 拙者は一人を所望でござる! なぼっち気質なら参加しないだろうけど、そもそもそういう人はこういう集まりにも参加しないだろうし。

 

 だったら、体調が悪いとか、まざるのに躊躇する理由が必要になってくるものだ。

 

「いいえ。若様は、あのごうじゃすな服を毎夜毎夜着ていて、だんだんと可愛いなぁ、綺麗な生地だなぁとその魅力の虜に」

「おー、でも納得かなぁ。アレ可愛いしね」

「うぅ。お母様の趣味なのにー!」

 ひどいです、二人ともと、若様はくすんと泣き真似をした。

 いや、うっすらほんとに涙混じりだったので、ガチで嫌だったのかも知れない。

 もう、そろそろ一年半くらいになるのだから、そこらへんは日常だと諦めてもいい頃合いだと思うのだけど。

 

「そのお母様の趣味に間違いはないんじゃない? 寮の子達の評判はいいんだしさ?」

 ほらほら、すべすべですねーってさわさわされてたりさ! というと、なんてことをいうのですかっ、と可愛く反論されてしまった。

 焦っていても、女声というのはポイントは高いと思う。


「寮の友達から、若葉お姉さまの寝具はとても愛らしいという話は伺っています。是非ともパジャマパーティーで拝見したいです」

「そうです! 寮の子たちから話をきいて、あぁこの機会に私たちも当事者になれる! と楽しみにしていたのですよ?」

 だから、パジャマパーティーは楽しみなのです、と後輩にいわれて、ううぅ、と若葉ちゃんがうめき声を漏らした。

 うん。ルイさんはラフな格好で参加をするところだけれど、ここには人気の人がいて、そちらの方が注目されるというのはとても新鮮で、それでありがたい状況である。

 こちらはカメラマンに専念することができそうだ。

 

「沙紀お姉さまならきっと、余裕でこなすよ?」

 ぽそっと耳元でそうささやいてみたら。

 ルイ先生の吐息……とか、なんか変な事をつぶやきながら、はっ、と若葉ちゃんは我に返った。


「そ、そんなにみなさまが見たいとおっしゃるのであれば、パジャマパーティーに参加することは、嫌ではありません。ですが、あまり、噂にしないでくださいね?」

 学院中にあの姿であることを流布されたら、さすがに私も立ち直れません、と、その衣類が不本意であることを彼は伝えた。

 個人的には、可愛い格好をして、みんなに褒められることは良いことなんだけれども。

 若葉クン的には、それはどうにも受け入れられないことのようだ。

 

 男の娘が可愛くて何が悪いの? というのはエレナの言だけれど、さすがに若様はそちらのほうではない感覚をお持ちのようだ。

 ま、それでも明日華ちゃんのために、ゼフィロス生活をしているっていうのは、男らしいっちゃそうなのかな?

  

「はいはい。若葉ちゃんの可愛い姿が見れるというのも確定したことですし。お夜食の準備はしっかりしていきましょう」

「せんせー! バナナは夜食に入りますかー?」

「チョコソースとかがあれば、カットしてちょっとしたスイーツになったりはします」

 定番のおやつネタを出してきた子がいたので、さらっと答えておく。

 バナナはお腹にも溜まるし、栄養もあるし、調理次第ではお洒落にもなったりするのでとてもいい食材である。

 

「バナナならわざわざ買わなくても合宿所にあるよ?」

 というか、私が買うのでちょっとなら分けてあげます、というのは志農さんのお母様である。

 すでにカゴには必要なものをぎっしり入れていてなかなかの荷物になっている。


「母はそういいつつ、合宿所で労働を求めてくるに違いありません……バナナは我々で買いましょう」

「って、明日華!?」

 うぅ、娘の反応が厳しいとおばさまはがっくりと肩を落とした。


「そうはいっても昔からそうではないですか。ご褒美っていいつつその後いろいろと……」

「それはしつけと教育というものです。お嬢様方にそんなことさせようとは思わないから」

「ほんとにー?」

 じとー、と明日華さんからおばさまへジト目が向けられる。

 まぁ、そんなやりとりが珍しくてルイは一枚写真を撮った。


「って、ルイ先生。なんでこれを撮るんですか!?」

「そりゃねぇ。なんかそっか、親子かぁ……ってほっこりしたので」

「ほっこりしないでくださいよ……」

 もう、なんか言い争いがバカみたいじゃないですか、と明日華ちゃんは膨れたのだった。

 

 ちなみにバナナはケチなルイさんが買うということで。

 この場でのお買い物は終了となったのである。

さあ志農さんのお母さん登場です! 保護者会はあとでやるとして。

ちょっと母親と一緒だと少し雰囲気が変わる志農さんでした。

そしてスーパーですが、これもストリートビューにおまかせでございました。

一度くらいは行ってみたいものではありますけれども。


次話は合宿所について撮影タイムと入ります。


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