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612.学院の写真部の合宿2

「わーい、しんかんせーん!」

 いえーいとカメラをホームに向けると、ゆっくりと電車が入ってきた。

 さて。

 いま、走っているのはルイ達が乗る電車では無かった。

 一本前の電車が入ってきたところを、大はしゃぎで撮っているだけである。


「わーい、じゃないですよ。撮り鉄にだってマナーは必要です」

 びしっと明日華ちゃんに注意されつつ、さーせんと答えた。

 とはいっても、ホームに入ってくる新幹線の雄姿はしっかりとカメラに収めている。

 別に、乗り出して撮っているわけでもないし、ちゃんと安全なところからの撮影である。


「ルイ先生、引率なのにまったくブレないですねぇ」

「いちおう、引率だから無茶はしないけどね」

 でも、新幹線のホームに入るなんて滅多にないし! というと、確かにホームは別れてますけど、とじと目を向けられてしまった。


「みんなも新幹線のホームって珍しくない?」

「家族旅行の時にそれなりに使っているので……」

「他の駅でしたら割とお見かけしますし」

 特別、そんなにテンションはあがりませんが、とどうにも写真部のみなさんは平常運転のようだった。

 うぐっ。生活の違いを感じてしまうところだ。


「そんなことより、ルイ先生もちゃんと列に並びましょう? 夏休みってのもあって結構混んでるんだから」

「そりゃそうだけど……指定席だよね?」

「指定席でもきちんとした準備が大切です」

 きりっと明日華ちゃんに言われてしまいつつ、あー、なんかこの子もまりえちゃんに似てるなぁなんていう風に思った。

 部長さんは、仕方ない人ですねぇという感じで微笑ましく見てくれているんだけどな。


 仕方なく列に並ぶと、十番目くらいだった。

 自由席の方は人がたくさんいるのだけど、こちらはまだそこまででもない。

 途中で乗ってくる人達というのも当然いるので、座席すべての分の人がこの駅から乗るわけではないのだ。


「でも、割と参加率低めでちょいと先生は驚いちゃったよ」

「あはは。みんなぜひ参加したい! って言ってたんですけどね。それでも習い事が多い子が多くて、どうしてもって感じです。合宿所も借りれる日程ってある程度きまっちゃってますし」

 ちょー悔しいって言ってましたよ、というのは部長さんである。

 さて。本日の参加メンバーは、三年から、部長さんと志農さん。二年から若葉ちゃんを入れて二人。一年生が四人という感じである。

 二割くらいは欠席というような状態なのだった。


「でも、その分良い写真撮って帰って部室で発表会しようって話になってるんですよ」

「勉強熱心でよいことだね。おっと、電車来たみたい」

 おぉー、と一人テンションをあげていると、ちらりと視界にどよーんとした若葉ちゃんの姿が入った。

 潜入中の上、まさか合宿にまで引っ張り出されるとはさすがに思っていなかったのだろう。

 そんな彼をはげます感じで、軽くぽんと肩をたたいておく。

 安心しなせぇという感じである。むしろもっと肩の力を抜け、だろうか。

 ただでさえ大きめなおっぱいを装着しているというのに、それでは肩こり必至である。


「では、みなさん。それぞれ最初に決めた席配置でいきましょう」

 本日の参加者は合計九名。その席割りはすでにチケットを取ったときに確認済みだ。

 三人席を前から三つ取っている状態で、その中の一番前の席を、まわす(、、、)予定だ。


「すみません、こちらの椅子を回転させたいのですが、よろしいでしょうか?」

 前後には影響はでないものの、それでも音はそれなりにでるので、お隣の二人席の二列に座っている方々に声をかける。

 そこらへんは代表して部長さんの声かけだ。

 後ろでそれぞ監督しているルイさんとしては、問題が起きなければ表にでない姿勢である。

 学院長先生からは、うちの学生は礼儀正しいのでクレームなどは滅多にないですが、その分、お嬢様とお知り合いになりたい人達のターゲットになるのでそこらへんは気を付けてください、と言われている。

 

 まあ、ルイさん自身がターゲットになる未来はみえてますが、というのは理事長先生のため息交じりの補足である。


「ああ、いいよいいよ。みんな同じ制服ってことは、学校の行事……にしては少ないなぁ」

「学校の部活での合宿なんです。学校の合宿所でお泊まりでして」

「そうかぁ。それは楽しみだねぇ、顧問の先生も……って、はぁ!?」

 部長さんが周りに声をかけていたので、とりあえずそれを心配そうに見ていたのだけれど。

 そっちのおじさんたちは、こちらの顔を見るなり、おまっ……という顔をし始めた。


「あの、うちの生徒達がなにか粗相をしましたでしょうか?」

 心配になったので、とりあえず口を挟んでおく。慣れない引率行為だけれども、しっかりとフォローをしてあげないといけない。

「い、いや、なんでもないです。その、いろいろ物珍しかったもので」

「制服でというのも珍しいですよね。あまり騒がないようにさせますので、よろしくお願いします」

 さて、お隣さんが静かになったところで、椅子を回転させてもらう。

 まあ、これをやっても向かい合って話ができるのは六人だけなのだけど。


 そこらへんはもう、席を割り振るときに決めていたので、文句が出ようはずもない。

 残りの三つの席は、臨時講師であるルイと、若葉ちゃんと志農さんである。

 うん。肉体的に、男女に分かれた感じ! といえばいいだろうか! 見た目は全然みんな女子なんですが。

 ていうか、志農さんにすれば心も女性ということではあるのですが。


「この席順だとちょっとは落ち着ける……」

「若様。こういうときはみなと和気藹々と接しないとと何度も」

「若葉ちゃんはどこまでも奥ゆかしいということで」

 写真部に入ったことをこそ、褒めてあげないとです! というと、もっともっと若には社交的になってもらいたいのです! と明日華ちゃんに言われてしまった。


 その発言がブラフなのはわかるけれども。

 なんというか、一般男子がそれについていくのは難しいのかもしれない。

 それを覆すためには、ルイと同じようになにかの強い思いというものが……あ。

 あるじゃん、それ。


「明日華ちゃんのために、って思えば落ち着けるかもよ?」

 ぽそっと耳元でそうささやいてあげると、なぜか若葉ちゃんに赤い顔を向けられてしまった。

 反射的に撮った。うん。赤面顔ゲットです。


「……ど、どど、どうしてそれを撮るんですか!?」

「可愛かったから?」

 他に何か理由でも? というと、この席やばいー! となぜか若葉ちゃんは志農さんのほうにもたれかかって、くすんと嘆き始めた。


「ルイせんせい。いちおうは教えを受けてる身ではありますが、若をいじめるのは許しません」

「いじめてはないよー! っていうか、明日華ちゃんこそ、慰めるふりしてぎゅってするの、逆効果じゃないかなぁ」

 さて。きっと若葉ちゃんとしては幼い頃からいろいろと、こうスキンシップはしているのだろうけど。

 久しぶりにやってみたら、明日華ちゃんがいろいろ育っていて、え? あ? へあ? みたいな感じになってるのかもしれない。

 一緒にお風呂入ってるくせに、その成長を無視するとか、どういうことかと思う。

 

 ああ。触ればわかる、いや、触らないとわからないと言うことか。

 見ただけで、結構明日華ちゃんあるんだけどなぁ……ルイさんより遙かにね!


 なんてやりとりをしていたら、思い切り部長さんに写真を撮られた。

 カシャリというシャッター音が鳴って、そしてそちらを見ると、席の後ろを振り向くようにして、にやりとしてやったりという顔を浮かべている。


「撮影は他の人の迷惑にならないようにね」

「ルイ先生にそれを言われるとは、明日は三温糖の雨でも降りますかね」

「それはすごく甘そうだ」

 ふふっと笑いつつこちらも、軽く身を乗り出している部長さんの写真を撮る。

 まるで修学旅行のバスの中みたいな風景だった。

 はしたないと思われる行為ではあるけど、まぁこういう席順だと仕方ない部分もあるのだろう。


「というわけで、まずは私が若葉ちゃんの人生相談をしようかと思います」

「朝からなんか顔色悪いですしね。こっちはこっちで盛り上がっておきます」

 そのポジション羨ましいんだけどなぁとちらりと若葉ちゃんを見ながら部長さんは六人掛けの席の方に戻っていった。

 タブレットを開いているのを見ると、写真の鑑賞会でもやるらしい。

 ちょっと、そっちにも混ざりたいのだけど、今は我慢だ。


「そんなわけで、若葉ちゃん。とりあえず深呼吸でもしようか」

 ほれ、ヒッヒッフーってするといいよ、というと明日華ちゃんがなんですか、それはとじと目を向けてきた。

 ちょっとした場の和みというやつである。

 

「にしてもここまでお出かけできょどるとは……普段は寮に閉じこもり切りなの?」

 学校ではあんなに普通なのに、と言うと、それは……と困ったような顔を浮かべられてしまった。

「若はちょっとした人見知りですからね。学院の中は庭みたいなものですが、外となるとちょっと抵抗があるようです。最近は彩さんに連れられて買い物に行くことも増えましたが……」

 同い年の友人には感謝をしなければなりませんね、と明日華ちゃんが少しさみしそうに言った。

 あ、もしかしてあれかな。買い物一緒にいけなくてしょんぼりとかそういうことなんだろうか。


「明日華ちゃんとは一緒にお出かけしないの? カフェとか似合いそうだけど」

「カフェくらいなら良いのですが、その……下着売り場とかは一緒にいくのは恥ずかしいと」

「……だって、仕方ないでしょう? いくら幼なじみでもその……明日華と一緒に下着売り場はつらい」

「こんな風に申してますが、ルイ先生は下着売り場はどうなんでしょう?」

 ちょっと恥ずかしそうにする若葉ちゃんをもう一枚撮影すると、明日華ちゃんからじと目を向けられつつそんな質問を受けた。

 お前は下着の入手はどうしているんだ、と言わんばかりである。


「行きつけのお店があるから、そこで相談したり、あとは通販とかかなぁ。ああ友達に誘われて一緒にってのはあるよ?」

 誘われたら行くけど、必要な時に行くだけかな、と言うと、あぁそうですよねと明日華ちゃんからはちょっとがっかりした顔を向けられてしまった。

 いちおうあんたも女子じゃないんだから、下着売り場とかは躊躇するんじゃないか、若の手本になるんじゃないか、なんて思ったのかもしれない。

 でも、下着だよ? 別にやましい気持ちはさっぱりないわけだし、必要なものを買うために行くだけである。


「でも、試着は基本しないかな。胸がないのがばれる」

 うん。それは切実だ、というと、あれ? ルイ先生胸ないの気にしてたんですか? と前の席からひょっこり顔を出して一年生の子が驚いた様な顔をした。

 はい。そりゃもう。気にしますとも。


「人と比べても悲しいくらいないからねぇ。まー大きくても大変そうだとは思うし、なきゃないでいいんだけど」

 せめてBくらいは欲しいのです、と答えると隣で明日華ちゃんが若葉ちゃんにこそこそ耳打ちをしていた。

 あのようにはなってはいけませんよ、とかそんな類いの言葉のようだった。


「私もあまり無い方なので……それでも立派にいきてるルイ先生はすごいなって思っていたのですが、先生でも悩むんですね……」

「そりゃ人並みにはね。でも首からカメラをつるときは安定していい、という話もあるし、まったくないのもちょっとなって話だから。あ、そうなると人並みよりもあんまり気にしてないかも」

 いちおう、一般論としてルイをやっているときは胸を気にする設定にはしているものの、一般女性並に胸に対して思うところがあるか、といわれたら、どうでもいいやというのが本音のところである。


「高校一年ならまだまだこれからだよー! 大丈夫ー」

 先生はもう、育たないだろうけどー、と部長さんがほわほわした声でひどい事を言ってくれる。

 まあ、あんまりそれでダメージは食らわないルイさんなのだけれど。


「ま、胸の話は回りの耳目もあるから、夜合宿所でやるように」

 さあ、写真の話でもしているといいよ、というと、はーいと、六人組の方は元気に返事をしてくれたのだった。


 さて、そんな中お隣の席では、胸の話……夜に胸の話……と、若葉ちゃんが一人ぶつぶつつぶやいているのだが。

 まあなんだ。習うより慣れろ、である。

 いつも寮で生活しているのだから、その延長線上だと思っていただきたいものである。

さぁ若葉ちゃん合宿の巻でございます。

一人きりで潜入するのよりもずっと楽なはずなのに、なぜか一人だけ疎外感な若様は、まだまだノーマルで安心いたしました。

しかし、一年たっても胸の話一つで赤面するとか、ほんと初心でございますね。


新幹線の席は場所によっては回せないところもあるとのことですが、今回はぐりんとさせていただきました。指定席を早めにとっていたので、こんな席の配置となった次第でございます。

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