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610.合宿の前に~咲宮家へご訪問2

 あのあと。

 学院長先生と、合宿の話を詰めた。

 撮影の指導に関しては特に指摘はなかったのだけど、やはり必要になるのは宿での部屋割りとお風呂の問題というところだった。


 合宿施設はゼフィロス保有のところなわけだけど、お嬢様学校だけあってかなり豪華なものになっている。

 選択肢が多く選べるようにというのもあるのだろう。

 洋室の三人~四人部屋もあるし、十人以上が泊まれる和室もある。

 では、どの部屋を使うか、というところなのだけど。


 一般的には一つのサークルや部活で一緒の部屋に泊まれる方が人気があったりする。

 夜、仲間同士で一つの部屋に泊る。

 それが楽しいであろうことはわかるし、一体感というものだって感じやすいだろうと思う。


 けれども。

 今回はあっさりと個室の方を採用させてもらった。

 何人かから、ぶーぶー、横暴だー! って声が出たのだけど、いちおう小部屋の方に賛成な人達もいたので押し切らせてもらった。

 若葉ちゃんと志農さんももちろん個室の方を希望である。

 寝るまでは研修室は使っていいという話をして、ようやくみなさんが落ち着いたのは、それから少ししてからのことだった。


 感じとしては、寮のそれに近いだろうか。

 談話室が研修室に変わるだけで、就寝時間まではそこは利用可能。

 パジャマパーティーをしてもOKという形になっている。

 これなら最大限若葉ちゃん達を守りながら、思い出も作れるんじゃないかと思う。


「そしてやっとお屋敷の撮影ができるー」

 やったね! と思いながらルイはまず廊下の景色を撮ることにした。

 うっすらと明かりが差し込むのは、それを計算して家が作られているからなのだろう。

 照明がなくても、キラキラと飴色の廊下が輝いて見えるのである。

 もちろんそこも数枚抑えさせてもらう。


「これ、豪華だよねぇって思ってたんだ」

 さて。おつぎは廊下の先のスペースにある壺である。

 正直、壺の目利きなんてものはルイにはできないのだけれど、でんと置かれたそれはここが自分の居場所ですと言わんばかりに周りと調和しているようだった。

 それも何枚か撮らせてもらう。


「まさかまりえちゃんが言ってたみたいに数百万とかしちゃうのかな」

 ちらりと前に聞いたまりえちゃんの秘密を思い出して、心なしか遠くからの撮影になったのは言うまでもない。

 でも、別にカメラから怪光線が出るなんてことはないので、撮影自体は全く問題は無い。


「次は玄関かな」

 お庭もまた撮りたいけれど、と思いつつ、玄関に向かう。

 和風のおうちの玄関ということで、ともかくここは玄関もゴージャスなのである。

 エレナの家の洋風の玄関も立派だけど、こちらのほうが格式が高いというか、ご立派感は高いように思う。

 

 そんな風に思いながらいそいそと玄関へと向かった。

 他にもお風呂や台所なども撮らせてもらいたいとは思うところだけど、とりあえずは玄関である。

 中から玄関の風景を数枚。

 壁や天井、あとは段差になっているところなんかもしっかりと撮る。

 旅館の玄関と同じような作りをしているといえばイメージが伝わりやすいだろうか。

 

「玄関にこれだけの広さがとれるっていうのは土地を持ってないとできないよね」

 格差を感じる、なんてつぶやきながら引き戸になっている玄関にカメラを向けた。そんな時だった。


「ただいま帰りました」

「……お、お邪魔します」

「あ……」

 カシャっとカメラが音を出すと、玄関の引き戸がカラカラとあいた。

 そして、顔を出したのは、二人の男性である。

 思い切り撮ってしまったけど、これはあとで削除な案件かもしれない。


「おかえりなさいませ、お二方」

 さて。三人でちょっと硬直していたのだけど、先に復帰したのはルイの方だった。

 撮影して気まずいというのはあったのだけど、せっかくのご帰宅写真をあわよくばコレクションしたいと思ったための行動だ。

 さきほど話題にでていた咲宮の一番上のお兄さんである、花雪氏はなおさら顔を硬くしていて。

 そして、一緒に姿を現した赤城は、へ? なに? と困惑気味である。


 そう。一緒に居たのはなんとあの赤城なのである。

 まあハナさんとの関係は木戸として知っているルイさんなので、なんで一緒にいるのかっていうのは驚かないけど。

 こんなところでばったりとルイ(こっち)で会うというのに驚きはあった。

 なんせ、赤城のやつとは生活圏が大学以外被らないのだ。

 

「どうして、当屋敷に豆木さんがいらっしゃるのでしょう?」

「理事長先生、いえ、沙紀矢くんのお母様に仕事のことで呼ばれまして。それが終わったら屋敷の中をある程度自由に撮って良いよ! ってお許しをいただきましてね」

 こうして、楽しく撮影タイムなのです、というと、えぇー、と二人して残念な子を見る目になった。

 いや。ハナさん!? あなた劇団の時ルイの撮影方法を見ていたじゃないですか。


「姉さんが許可をだしてるならいいですが……さすがに先ほどのはちょっと」

「そうですか? 特別なんてことのない写真だとは思いますが」

 ほい、とタブレットに写真を落とし込んで表示させる。

 そこには実家にご挨拶にきた二人……ではなく、ただ友人をさそって家にきましたの絵が表示された。


「うわ……俺、こんな顔してたのかよ……」

「……無駄に綺麗なできなのがつらい……」

「どうでしょう? なんならこれはプレゼントということでお二人にお渡ししますよ? ほらよくあるデートスポットとかで写真を先に撮っておいて、気に入ればご購入していただくようなのと一緒です」

 報酬は、この写真をコレクションさせてもらうことで! というと、うぐっとハナさんは露骨に嫌そうな顔を浮かべた。

 こいつ、どこまで知ってるの? というのもあるのだろう。


「で、デートって……別に、俺達そういう関係では……」

 ハナさんは、いろいろ相談に乗ってくれる友人というかなんというか、と赤城がもごもご言っている。

 それをチラリと見て、ハナさんが言った。


「良いでしょう。でもこの写真は誰にも見せないように。特に腐女子のみなさんには絶対に」

「カップリングされちゃいますもんね。そこは了解です」

 やったぜ! と思いつついい顔をしていると、赤城はその顔を見て、ん? と首を傾げた。


「あの……豆木さん。俺、前に会ったことってありましたっけ?」

「え?」

 いきなりの赤城の発言に、ルイはぴきっと固まってしまった。

 会っているか、と言われて記憶を呼び覚ましてみても、木戸としてしか赤城には会ってないと思う。

 それでも会っているかもと思う赤城はどうなのだろうか。

 ……しのさんとの共通点というのは、結構あるのだけど。シルバーフレームの眼鏡とウィッグが違うので結構印象は違うはずである。


「お恥ずかしながら、テレビに映ったりもあったので、それで見たことがある、とかじゃないですか?」

「そう……なのかな。いや、そりゃそうか」

 いや、でもな……と赤城は顎に手を当てて考え事に夢中である。


「ええと、とりあえず中で話さないかい? 客間は空いているかな」

「おかえりなさいませ。坊ちゃま。お部屋へご案内いたします」

 さて。そんなやりとりをしていたら、お手伝いさんがこちらに気づいたようで、ぱたぱたとお出迎えにやってきた。

 そして、そのまま和室の部屋に案内された。

 もちろんルイもそちらにつきそう形だ。


「なにはともあれ、当屋敷にようこそ! 立派な屋敷だろう?」

「あ、はい。それはもう」

 素晴らしいです、と赤城は十二畳の和室を見てぽかーんとしていた。

 生活水準が違いすぎるとかそういうのに驚いているのかもしれない。


「君は、その……どこでも撮るんだね……」

「はいっ、許可はいただいていますからっ」

 二人の姿が写らないように部屋を撮影すると、カシャリとシャッターの音が鳴る。

 その音が少し気になったのか、ハナさんは不愉快そうな顔を浮かべつつ、はぁと深いため息をついた。


「この屋敷はお祖父さまのものでね。私はもうずいぶん前に一人暮らしなんだけど。君に一度見てもらいたくて」

「こんな素晴らしいところにご招待いただいて、その……なんといっていいか」

 あわあわと、赤城は別世界に連れてこられたような感じで、ぼんやりとしてしまっている。処理がきっと追いつかないのだろう。

 うわ。これは……あれですか。お金もちがすっごい豪華なところに連れて行って、思い人の気を引こうとかそういうやつなんでしょうか。


 でも、赤城がなんかすっごくいい顔をしていたので、思わず一枚撮影。

 い、一枚だけだよ? ちょっとだけ。ちょっとだけね?


「……豆木さん……どうしてそこで撮ってしまうのか」

「あ、どうぞどうぞ。好きに撮りますので、お二人はリラックスしていてください」

「空気を読んでくださいよ……」

「年下の子を家に呼んで見せびらかしたいというのはわかりますけど、それならむしろその表情を写真として残しておこうとは思いませんか?」

 シャッター音くらい無視してくださいな、というと、たはぁとハナさんは目一杯ため息をついた。

 どうしてわかってくれないのか、という感じだろうか。


「俺はその……別に写真撮られるの嫌じゃないですよ?」

「しかし……その。せっかく二人でと思っていたのに」

「では、席を外しましょうか? 流れでついてきちゃいましたけど、別にお二人のことをとやかくいうつもりはないわけですし」

 うん。それでいいんじゃないかな? と提案をすると、赤城が、ん? とまた首を傾げた。

 その視線はなぜか胸元あたりに向かっていて。


「豆木さん、ちょっといいかな?」

「なんでしょうか?」

 こそっと、赤城に言われて廊下へ誘導される。しかも結構距離を開けている感じである。

 ハナさんに聞かれたくない話でもあるのだろうか。


「ちょっと手を見せてもらってもいいかな?」

「えっ? 唐突にどうしたんです?」

 いきなり手を見せろと男に言われて困惑しない女子はきっといないだろう。

 でも、いきなりがしっとつかまないあたりは、さすがは赤城である。


「触ったりはちょっと勘弁ですよ?」

 さすがにちょっと抵抗があります、といいつつ見せると、ふむぅーと赤城はじっくりとそれを見た。

 手相がどうだとかそういうことを言うヤツだっただろうか。


「ふむ。いろいろわかった。んで。木戸(、、)おまえ、そんな格好してなんでここにいんの?」

「……はい?」

「いや、しのさん(、、、、)って言った方がいいか?」

 ちょ。ちょいまった! なんで今までのやりとりでそこまで断定できるのだろうか。

 正直、木戸としてじっくり手を見せたことはないよ。


「ちょ、ちょっと何を言ってるのかわからないんですが……」

「俺がどれだけお前のことを見てると思ってんだよ。二年半だぞ、二年半。わかってみて改めて顔を見ると確かにしのさんだよな」

「えぇー」

 わかってみれば、か。それを言われると確かにちょっとつらい。

 性格や仕草は違うものの、顔の造形がそこまで変わると言うことはないし、今の素顔に眼鏡を付けた状態を想像すればある程度わかってしまうところでもあるのだろう。


 でも、なんで気づくんだ、こいつは。


「気づいたのは、なんつーか、カメラの持ち方と手なんだよな。顔を見ただけじゃさすがにわかんねぇ」

「胸元じっと見るのは感心しませんね」

 むぅ、とむくれてると、あれ? 別人だった? と赤城が焦った声を上げた。

 ま、しのさんはあんまりむくれませんしね。


「こっちの方がダイレクトに性格がでるからね。自然にテンション上がるし。で? 結構な秘密を知っちゃった赤城クンはどうするのかな?」

 ん? と言ってやると、うっ、と彼は後ずさった。

 正直、赤城の前でルイとして接したことがないから、そのギャップはかなりのものだろう。


「なんもしねーって。ただ、なんつーか、やっぱすげーなぁって思っただけ」

「ほんとに? ハナさんとの仲を取り持ってくれーとか、そういうのじゃなくて?」

「そうしてもらえると嬉しいけど……そっちは、自分でなんとかするよ」

 つーか、お前がかき回したら絶対、ぶっ壊れるわっ、と言われて、えぇーそんなことしないのにー、と答えておく。


「んじゃ、一つだけ。ハナさん社長さんと別れてるから、それで君に目を付けたのかもしれない」

 でも……と言いかけて、いや、と言葉を止めた。

「上手くいかなかったら、ご飯おごってあげるから」

 まあ、ガンバレ、というと、彼は、お、おうっ、とだけ言った。


 その後ハナさんに、二人で内緒話かい? なんて言われたのだけど、ハナさんに惚れるなよって言われただけです、と答えておくと、それはまた……と唖然としながら彼はルイと赤城の顔を交互に見比べたのだった。

さぁ花雪さんご帰宅です。赤城さんったらこんなところでばったりですよ。

そして当初ばれるとは思ってなかったのに……このやろう気づくでやんの。

それだけ木戸くんのことをじろじろと見ていたというわけですね! 


しかし、ルイさんったらばれてもブレないよねぇ……全然、男の状態にならないというか、おくびにも出さないとか、もう素がルイさんなんじゃないかと……


あ、次話は合宿いきます。


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