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606.夏のイベント参加2

「ようやく入場できた……」

「やっぱり一時間以上かかっちゃったね」

 ははは、と苦笑をあげると大変でしたー、と巫女さまは疲れたような声を漏らした。

 けれども、残念ながら大変なのはここからである。


「二人は企業ブースってことなら西だね。あそこ右に進んでいけばいけるよ。まだごみごみしてるけど」

「これは、人がゴミのようだぁーとか言いたくなりますね」

「沢村くん。人をゴミとか言っちゃだめっ」

 ごめんなさい、と沢村くんから弱々しい反省の言葉がでてきた。


「満員電車と違って動いているところがマシなところかな。これなら痴漢のリスクも少ないだろうし」

 巫女さまはぽやぽやしてるから、警戒してないと危ないかもねっ、と注意を送っておく。

 いちおう、ルイのほうは今までこのイベントでそういう目にあったことはない。

 撮影の時にローアングルを狙う不届き者がときどきいたくらいなものだ。


「あとはスリにもご注意ね」

 みんな善良でけなげなオタク仲間なはずだけど、紛れ込むこともあるので、というと、えっ、そんなこともあるのですか!? などと言われてしまった。

「これだけ人がいるから、いちおうは警戒しておいたほうがいいって話だね。貴重品は目の届くところに置くべきというか」

 巫女さまはバッグはちゃんとだっこしてたほうがいいと思います、というと、バッグを抱っこだと……と沢村くんは驚いたような声を漏らした。

 なんだろうか。ぬいぐるみを抱っこしてる姿でも想像したのだろうか。

 まあ、ちょこんと胸元になにかを持ってる女の子って可愛いとは思うけれども。


「男の子なら前ポケットに入れておくっていうのができるけど、女子だとそこまでポケットいっぱいの服ってそうそうないし、それにラインが崩れるから、バッグに入れるのがマストなんだろうね」

 あたしは貴重品はバッグの前の方にしまってるけど……基本、現金と名刺とスイカくらいしかもってきません、と言っておいた。

 運転免許とかはどうせ乗らないし、本名も書いてあるのでおいてきているのだ。

 もちろん、銀行系のカード類もがっつり置いてきている。まあ、ルイはここに買い物に来ているわけではないので突然お金が必要になることは滅多にないのである。


「そこまで徹底しますか……」

「ほら、あたしったら謎のカメラマンさんだからね。本名ばれとかはやめておいた方がいいし」

「あぁ、木戸のおじーちゃんも、そんなミステリアスなルイちゃんが大好きなんじゃー! って言ってましたっけ」

「……まあ、そんなわけでここでお別れだから、二人ともこの戦場でなんとか生き延びて!」

 じーちゃんの事をいわれて一瞬うぐっとなったけれど、気を取り直してそう伝えておく。

 ここは西と東の分岐点。

 ルイはまず東の方の出店を見る予定なので、ここで二人とはお別れなのである。


「じゃあ、あとでエレナさんのところで会えたら、またよろしくお願いします」

 それではーといいつつ二人と別れることになった。

 一緒に西の企業ブースを見に行っても良かったのだけど、午前は圧倒的に混むのがわかっているので避けるつもりだ。

 すでにもう、ちらちらとそちらでゲットしたであろうアニメ絵のついた紙バッグを持ってる人達がいるけれど、まだまだ入っていくお客が途切れる感じはない。

 午後は午後で混むのは確かなのだけど。


 それなら東の方にある、男の娘ブースをチェックするというのと、カメラ関係の出店があったらなぁというところである。

 他の萌え路線に関しては……敢えて言えばコス系の写真集とかをチェックくらいだろうか。


 もともとこれだ! っていうのを探してはいないので、本当に冷やかし以外の何者でも無いのだけど、そこら辺はしかたない。

 八瀬たちほどこっちの世界にずぼっと入り込んでいるわけでもないのだ。


「ま、それでも人は多いよねぇ」

 階段を降りるとすでにもう会場の外の廊下部分には、戦利品をチェックしている人達がずらっとそろっていた。

 それを横目に見ながらいくつもある入り口の一つに入る。

 今でも、壁のサークルは行列ができているみたいで、以前は販売に精一杯であまり見れなかった光景だなぁなんて気持ちになる。

 冬は参加するのかどうかだけど、そこはやるキャラがいるかどうか、というので決まるのかもしれない。

 やるならいつでもとは言ってあるので、エレナのお仕事の兼ね合いがどうなるか次第、といったところだ。


「ああ、ルイさんが一般参加してる……」

「まじかよ……ほんと、相変わらずごついカメラ持ってるけど可愛い……」

 ひそひそ、とブースの人達から声が上がっているようにも思えたけどとりあえずはちらちらと、出店の内容をチェックしていく。

 それぞれのカテゴリで出店場所はある程度固まるので、興味の無いところはさらっとスルーである。


 このイベントだとコスプレとかエロのイメージが強いかもしれないけれども、実際はいろいろと自分の興味があるものを形にできるので幅広いものを展示していたりする。

 例えば、自作のアクセサリーなんかの販売だってできてしまうところもあるのだ。


「位置的には、男の娘ゾーンが先、か」

 ふむ、とすでに下調べしてある地図をチェックして、近いところから見て行くことにする。

 さて、都会だと迷子になるルイさんではあるものの、ここの場合それぞれの縦列にアルファベットやひらがなの表示があり、そこから1から順に並んでいく、というようなシステムになっているので、標識さえちゃんと見れば迷うということはないのだった。



「こうみると割と多いんだよねぇ」

 みなさん、マンガや小説で男の娘ものをばんばんと書いて販売をしているのがわかる。

 一つの島どころではなく二つ三つは男の娘ゾーンである。

 男装系もあるはずなのだけど、ぱっとみると男装物はあまりない。このイベント、日によってカテゴリが分かれるからそれの意味合いもあるのかもしれなかった。


「あ、あの作品、エレナと撮ったっけ」

 ふむ、とちょっと古い作品でも見かけたりするのは、それだけみなさんがそれを好きという思いが強いからだろう。

 エレナ曰く、男の娘の新キャラがあまり生まれないんだもん! というところもあるそうだけど、でも作品自体が好きというのも間違いではないのだと思う。

 ちなみに、島のほうは壁の大手ブースと違って、人はまばらな感じだ。

 ぽつぽつ人が入って、話をしたりというような感じが見える。

 うーん、最初にエレナと参加したときはこんなところに列を作っちゃったんだよね……そりゃちょっと迷惑だったかもしれない。

 

「……うは」

「爆撮天使アールちゃん、新刊ありまーす!」

「今回は新キャラも登場でーす! 是非ともお手にとってみてくださいですにゃー」

 さて、そんな感じで物色していたのだけど、どうにも聞き覚えのある声が聞えた。


「ほう……つぐたんと、にゃーさんじゃあないですか……」

 じぃと、そのブースの前に立つと少しごごごと、不穏なオーラを表に出して見せる。

 あちらも気づいたようで、にゃ、これはルイさんじゃーにゃーですかー、とか言っていた。

 

「どうして、もう二巻がでてるんですか!? しかもその格好!」

 どういうこと!? というと、女装にカメラ装備のつぐたんは、やばっ、と思い切り声に出していた。

 これだけ広ければ見つからないだろう、とか思っていたのだろうか。


「あれだけでお話が終わってしまうだなんて、もったいない! そして前回はかなり売れたしこれはいける! と思っても仕方ないと思います」

 ボクは悪くない! とつぐ……いや、八瀬は開き直った。


「っていうか、何故にコスプレ!? しかも、つぐたんが爆撮天使バージョンで、にゃーさんが学ランとか……しかもお化粧済みで学ランはどうなのか……」

「お化粧してないと、普通にやろーが学ラン着てるだけになっちゃうのにゃ……アールちゃんみたいに、超可愛いわけじゃないのにゃ」

 そりゃ、無茶ぶりなのにゃー、とにゃーさんが頭を抱え始める。

 ちょっとまった。別に、アールちゃんの普段だって男子高校生って設定だったじゃん。

 たしかに可愛い感じに書かれてはあったけれども。


「それで? 二巻は……爆撮ピンクと、爆撮ブラックが仲間になると……」

「そ、そうだよ? 魔法少女と特撮のコラボレーション。爆撮だけに」

 べ、別に悪い事してないしー、という八瀬は思いっきり目が泳いでいた。

 なので、ぺらぺら見本誌を見せてもらう。


 相変わらず春先に見せてもらったように、町のピンチだ! から始まって、アールちゃんが怪人と戦っている。

 でも、今回の二巻は、そこに乱入してくる爆撮ピンクと、爆撮ブラックが登場していた。

 そして、三人で怪人をぼこぼこにしてからの、お話がスタートである。

 前半部分であっさり戦闘を終わらせて、そのあとぶらつくのがアールちゃんの持ち味である。


「うぐっ! これ、どう見てもこの二人って、あの二人だよね?」

 じぃーと、女装姿の八瀬に視線を送ると、さーなんのことかー、とぷぃと視線をそらしてとぼけ始めた。

 こいつ、いろいろわかっていてキャラを作っていらっしゃるようだ。


「ピンクは勝ち気な乙女にゃ。アールちゃん大好きにゃね。ブラックは影からアールちゃんを守る好青年にゃ。密かにアールちゃんに淡い恋心を向けているんにゃー。次の三巻では触手にまかれたアールちゃんを颯爽と助けて、抱きつかれて鼻の下を伸ばす予定にゃ」

「う……学ラン状態で抱きつくならまだあれですが、アールちゃんモードで抱きつくのはどうなの?」

「どうもなにも、学ランで抱きつく方が、業が深いってもんですにゃ?」

 はにゃ? 女装×男子の方が一般ウケしますのにゃ? とにゃーさんが首を傾げた。

 そして、ぽんと、何かを思いついたのか手を打った。


「にゃるほど。ルイさんはがっちがちの百合さんだったにゃ。だとしたら薔薇の方にも興味びんびんに違いないのにゃ」

 それで、学ランとブラックというカプかにゃ……おぉー、となんか感心されてしまった。

 いや、別にそういう意味合いで言ったわけではないのだけど。


「はい、つぐちゃーん。目をそらさないでこっちを見ようか」

 ほれほれ、目を見てはなそうよー、というと、怒られるー、と彼はそっぽを向いたままだ。

 さて、どうしたものか。

 ちょっと、いちおうは自重というものはして欲しいところなのだけど。


「はい、つぐたーん。目を見て弁解を述べてもらおうかーおりゃ」

「ひゃっ、ほっへらは、らめー」

 さて、ときどきさくらがやってくるように、ルイもつぐの両ほっぺをぷにりとつまんでみた。

 さぁ、それでこっちを見な状態である。


「うぐっ、あんまり乱暴にするとファンデーション崩れちゃうにゃ」

 ただでさえ、汗でまずいのに、というのはにゃーさんだ。まあ女装にメイクはかかせないから、そういう感想にもなるのだろう。


「それは、誠意を見せていただいてからですね」

「わふぁった! わふぁりましたー」

「それならよろしい」

 あぁ、ほっぺたを堪能いたしましたー、とにこやかにしてると、まわりからひそひそと、ルイさんが女装の子に手を出しているだと、とささめきが広がっていた。

 なにもんだ、あいつ、なんていう声もちらほらと流れている。


「とりあえず、あたしだけじゃこれ、許可だせないから、二人にも聞いてみないと」

 ほんと、生ものの同人は危険が危ないからね! というと、そ、そうですねー、とつぐたんはへたり込んでしまった。

 お祭りの勢いで楽しくなんでもやってしまおうという気分になるのはわかるのだけど。

 こればっかりは、下手をすれば損害賠償なんて話にもなり得ることでもある。

 あの二人なら、大事にはしないだろうけど、例えばこれを許してしまうと、崎ちゃん×ルイ本なんてのがたくさん出てしまいかねないのだ。

 実際、女性向けの日にいくつか出ていた、という話は聞いているから手遅れ感はあるのだけど。

 

「発売中止は勘弁っ。こんなによくできたものを、販売できないだなんてっ」

「それは先方次第だよ。なんか二人とも今日はレイヤーで参加してるっていうからさ」

 確認を取ってみます、というと、まじで!? とつぐさんは言い始めた。


「いつの間にかエレナたんの弟子になってた、翅さんも来るの!?」

「なんのコスやるかは知らないけれど、なんか合わせでやるっていってたよ。崎ちゃんも一緒に」

「まじか……アールちゃんコスやってくれないかな」

「それはない」

 あほか、と言うとですよねー、という気安い返事が来た。

 高校時代一緒にいた相手だからこその、こういったやりとりである。

 周りは、おい、あいつなんであんなにルイさんと馴れ馴れしいんだよ、なんて声があがるものの、そこらへんは気にしたら負けである。


「でも、エレナと翅さんが合わせをするとなると、身長低めの男の娘と、そこそこの子がいる作品を選ばないとなんだよね。それとも合わせではなく、コラボみたいな感じになるのかな」

 高身長の男の娘か……どんなの居たっけかなぁ、と思い浮かべても、どんなのをやるのか思い浮かばなかった。


「えっと、撮影は午後からやる感じ?」

「いちおうその予定だね。お昼まではちょっと会場をぶらぶらしていたい感じで」

 あ。と、そこで言葉を切った。


「つぐたんは来ないで?」

「えぇー、そこまで言っておいて来るな発言とかっ。ルイさんがひどい!」

「ま、あたしとつぐたんの仲なので。エレナんところには可愛い男の娘が合流する予定でね。そうなると、おまえの事だし、確認作業をさせてください! とか言い出すじゃん」

 あんな可愛い子のあんな大切なところを触らせるわけにはいきません、というと、ざわっと、まわりの気配が変わった。


 はっ!? なに。触るってなに!? みたいな声が上がっていた。


「ちょっ、変な言いがかりはつけんなって。そう、ほいほい男の娘をお触りなんて……にゃーさんくらいにしかしてないし!」

「おおう、そうにゃ。つぐたんはにゃーのものにゃ」

 さぁ更衣室でにゃんにゃんするにゃー、とにゃーさんがフォローに入る。

 それで、あぁ、男の娘同士の更衣室か、と周りはそっちのほうに意識を向けてくれた。

 ここは男の娘ブースである。つまり、周りも似たような人達がそろっているのだ。

 そんな中でリアル男の娘同士が更衣室の話をしてくれるだなんて、垂涎ものに違いは無い。


「そういうことなら、来てもいいけど。ほんと、粗相だけは絶対にしないように」

 ほんと、なんかやったら、3巻は許可しませんから、というと。

「イエスっ、マム」

 なんていいながら、つぐたんは敬礼をしてきたのだった。


 なんというか。お祭りのテンションというものは怖い物だなぁと思ったルイだった。

どうにも八瀬くんとしゃべってると、テンションがおかしくなりますね!

実際、ルイさんとの絡みはそうはないものの、やっぱり日常の友達というのは違うなと思います。


そして、生モノはなかなかに同人誌つくるのは難しいのではーと思う作者でございました。

さて、次話は撮影にいくと思いきや、お昼ご飯でございますよ。

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