表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
639/793

 第18621回 円卓会議

エイプリルフールにやりたかったけど、しかたなし!

ちょい長めの、「ルイさんと仲良くなるには会議」のはじまりはじまりー。

「今日はよく集まってくれた……」

 その部屋の中。四角いテーブルを囲んで、六人の人物が集まっていた。

 そんな中の一人になっている、遠峰さくらこと、あたしは、口元で両手を組んでちらりとメンバーを見ている彼の前で、ごくりと息をのんだ。

 さすがは、人気アイドルである。整った顔でやるとずいぶんと絵になるなぁと思ったのだ。


 けれども、その後の発言を聞けば誰しも、ぐだぐだになるのは仕方が無い。

「では、これより第18621回、円卓会議を始める!」

「これのどこが円卓よ……」

 彼の対面に座っている、崎山珠理奈嬢は会議の開始の言葉に反応した。

 すさまじく不機嫌そうな顔を、彼、HAOTOの翅に向けている。

 まさに修羅場というやつである。


「あの、俺、なんでここに呼ばれたのかまったくわかってないんすけど」

 あたしの向かい側に座っている木村くんが、恐る恐る手を上げてそう発言した。

 まぁそれはそうだろう。

 円卓会議などと言われても、どうしてここに呼ばれたのか彼はいまいちわかっていないらしい。


 でも、それは今集まっているメンバーを見れば自ずとわかる。

 六人のうちすでに四人は名前がでたので、残りの二人を紹介するとしよう。

 あたしの左側には、斉藤千鶴嬢が座り、そして木村くんの隣には佐々木陽子嬢が座っている。

 つまりは、とある人物とそれなりに親しい間柄の人間ということである。


「会議の内容は、どうすればルイさんに好いてもらえるのか、である」

「……アイドルなのにどうしてそんな厨二病な感じなんだろう……」

「あのね、ちづ。アレは絶対エレナたんのせいなの。人気男性アイドルを思う存分にヲタに染め上げてしまったの」

 ひそひそ、と隣のちづが感想を述べてくれたので、それに答えておいた。

 はぁ。なんだかんだで変なところでノリがいい人である。


「ちょっ! それは違うわ! 今日は馨に好いてもらえるか、でしょ?」

 ルイじゃないんだからっ、と珠理さんが声を荒らげる。

 ああ、そこからこの二人、犬猿の仲なんだよなぁとがっくりきてしまった。

 きらきらしている人気アイドルと、人気女優がそろって一人の人物を奪い合う構図というのは、どうなのだろうかと首を傾げてしまう。


「んー、あの! 珠理さん的にはルイさんとお付き合いしてるって認識でいいのかな?」

 どうなのかな? と佐々木さんが確認をとっている。

 春の一件はなんだかんだで、うやむやに終わってしまい、結局のところHAOTOスキャンダルよりもエルもののドラマの話の方でずいぶんと盛り上がったのであった。


「してるわけねーじゃん。進展してるならこんなところにいねーもん」

「うっさいわね。あんたよりマシだしー。月一回はデートしてるしー」

 ほらほら、うらやましがりなさい、と珠理さんが言うと、くそーうらやましーと、素直に翅は呻いた。

 今のところ珠理さんが一歩リードという感じでいいのだろうか。


 でも、ここに参加している。その意味を考えればまぁ、どんな感じなのかは簡単に想像がつく。

 というか、それがなくてもあいつを相手に恋愛をしようなどという無茶なことを考える二人なのだ。そんなに簡単にいくはずはない。


「あれ。でも珠理さんが好きなのは、かおたんってことでいいの? でもデートしてるのはルイさんとだよね?」

「ああ……今回のメンバーはみんな二人のこと知ってるってのが最低条件なのね」

 木村くんはちらりとメンツの顔を見ながら、なるほど、とそんな感想を漏らした。

 たしかに、それはその通りのことである。

 

 会場としてシフォレを貸し切りにして使っているのも、部外者を排除するためだし、この人選もルイと木戸くんが同一人物であることを知っている人で、それなりに仲がいい人というので集められてるのであった。

 ちなみにこの店のオーナーであるいづもさんは、ちょっと離れたところでゆっくりコーヒーを飲みながら読書をしている。

 場所を貸すのは良いけど、同席させなさいよ、というのが彼女の言い分なのだった。

 恋バナは好きなようで、会話には参加はしないものの、聞いてはおきたいというような感じなのであった。


「そう……本命は馨よ。でも将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言うでしょう? だからまずはルイから攻略することにしたの」

 一緒に出かけて親密度アップが目的です、といいつつ彼女はがっくりと肩を落としているようだった。


「それじゃー、ルイさんに好いてもらうーで、まずはいいんじゃね?」

 ほら、馬なんだろう? と言われてうぐぅっと、珠理さんは拳を握りしめた。

 現状、男女スキャンダルになるにはいささか早すぎる状態なので、もうちょっとルイと相手をするしかない状態といってもいい。

 一年も経てばレズビアン疑惑も遠い昔のことになって、一般男性とお付き合いすることになりました、と言い切ってしまっても問題はないのだろうけれど、今のところはどのみち疑惑を生みかねないと判断しているのである。


「というわけで。今日はルイさんと高校時代を一緒に過ごしてたみなさんから、攻略のためのアドバイスをもらおうと思ったわけなんだ」

 仲のいい人達だろうから、なにかないかなと思ってね、と翅さんは打って変わってぱちりと王子ウインクをしながら明るく言った。

 ギャップが激しいな。


「でも、それこそエレナたんに聞けばいいのでは?」

 このメンバーに聞くよりもっとあいつの生態をわかってる子がいるじゃないとあたしは素直に聞いてみた。

 一緒に撮影もしているあの子のほうが断然詳しいと思うのだ。


「それはすでに経験済み……あの子、煽ってくるけどそれをきいて今の状態というか」

「師匠は、そっちの味方ばかりするからな。強引に襲っちゃダメ、だからね? とか可愛く言ってみたりとかして」

「そりゃ誰だって言うから」

 襲っちゃダメだろ、と周りから突っ込みが入った。強引に行くのはよろしくはないのである。


「それで、まずは木村くん。初めましてですまないのだけど、君から見たルイさんの印象を教えてくれないかな?」

 というか、どうして知り合ったのかも教えてもらっていいだろうか? と王子スマイルのまま問いかけた。少し迫力がこもっているのは、男で仲良くしてるヤツという部分もあるのだろう。

 いまいち、なんでここに呼ばれてるのだろうと思っている木村くんは、えっ、と口をぱくぱくさせている。

 芸能界に面識のない一般人の反応である。


「俺っすか? ルイさんの印象っていっても俺はあんまりルイさんとは交流ないですよ?」

 高校の体育祭のときに写真部として参加してたり、あとは卒業パーティーに来ていたのを見たくらいだ、というと、普段の顔のほうが気になるんだ、と翅さんは言った。

 なるほど。男だとわかっても好きだと言い切れるとは、なかなか彼も大人物のようだ。


 あたしにとっては、ルイと木戸くんは割と別人扱いである。というか呼び捨てかどうかぐらいに違うのだ。

 けれども、好きだからいろいろ知りたいと、男な部分まで知りたいというのだからよっぽどである。

 珠理さん大ピンチである。


「あー、私も木村くんが木戸くんと急に仲良くなった経過は知りたいかも」

 ミステリーの匂いがするというのは佐々ちゃんである。

 正直、奇妙な間柄ではあるなと思うところはあるのだ。

 木村くんはどちらかと言えば運動系の方だし、木戸くんはがっちがちの文系……かと思いきやアウトドア派で体育も実はそこそこできたりするけど、だからといって仲良くなるかといわれると不思議なのである。


「高校で仲良くなったのは、俺の秘密があいつにばれて、それからですね。そんなに隠さなくてもいいじゃん、すっごくいいと思うよって言われて、それでも納得できないでいたら、じゃあ交換条件だ! みたいな感じで体育の環境改善なんてのをやらされて」

「あぁ、あのことね」

 ちらりと珠理さんが訳知り顔を浮かべる。あれ? この二人って知り合いなんだっけ?


「その秘密ってのはあまりおおっぴらに言えないことかい?」

 僕らは口は堅いぜ、と翅さんは食ってかかる。迫力のあるスマイルである。

 きっと、こんなの見せられたって言ったら、ファンの子たちはきゃーきゃーいうだろう。

 っていうか、少し移動してツーショットをばっちり撮りたい!


「ま、このメンバーなら、いいかな。こいつ、知ってます?」

「あ、クマさんだ」

「あたしも持ってるけどね」

 バッグの脇にちょこんと付けられているのは赤いリボンをつけたクマさんである。


「で、その制作者が俺なんです。珠理さんは知ってることだけど」

「お? クマ仲間?」

「木戸に見つかって、じゃあ作ってよっていわれて、あいつのパーソナルカラーと、珠理さんのパーソナルカラーで作った感じですね。俺ってオレンジなイメージ? とか言われたんですが……ねぇ? どっちかというと暖色系ですよねぇ?」

 どうよ、みんなと木村くんがいうと、うむうむとみなさんうなずいていた。

 きっと本人だけが、俺、男子だからブルーとかそういう色に違いないとか思っていたのだろう。


「ちょ。珠理ちゃん、それ木戸くんからのプレゼントってやつなわけ?」

 なに、それ羨ましいと翅さんは騒ぎ始めた。

「ふっふーん、いいでしょう? しかもハンドメイドの一品物! 最近ゲームセンターにあるやつらとは違うのよ!」

 おそろいのぬいぐるみとか、恋人っぽーいと彼女がいうやいなや、周りからは、いやいやそれはないと首をひねる顔ばかりが見えた。

 

「そのぬいぐるみはきっと、おばちゃんの飴と同じ理屈で渡されてるんじゃないかと……」

「少なくとも、男の子が好きな女の子にプレゼントしたの図ー、ではないねー」

 いやぁ、ミステリーと、佐々ちゃんまで断定である。

 うん。高校を一緒に過ごした女子ならきっと、そうは思う、かな。


「おばちゃんの、飴……」

 どういうこと、と珠理さんの視線が木村くんに向く。


「俺に聞かれても困りますって。でも、ルイからそれを渡されたのなら、お裾分け以外のなんでもないんじゃないかな」

 つーか、あいつ、料理が美味く行ったりすると、お裾分けっていって、弁当のおかず分けてくれたりするんだよなぁ、と木村くんは遠い目をした。

 あ。まじでお裾分けルートである。


「それをわかっていて作ったのね……」

「俺は依頼を遂行しただけです。それにあれはいちおうかなり力入れて作ってますからね? あいつのお願いだったので」

 まあ、渡す相手も聞いていたから気合いをいれていたのだが、そこらへんは内緒だ。


「で、でも、プレゼントだもんっ。ていうか、翅さんはなんかもらったことってある?」

 ほらほら、どうよ、と目の前で醜いどうしようもない言い争いが始まった。


「も、物より、俺らの場合は、その……形じゃねぇっていうか」

 すげぇいっぱいお世話になったし! と翅さんも乗っかる。

 お世話になった大本はたいていが、翅さん由来ではなく、蠢さんが原因のトラブルなのだけど、こんなに協力的アピールでもしたいのだろうか。


「そうねぇ。どこかの有名男性グループのおいたを押しつけられた馨はほんと不憫よねぇ。あんな事件たち(、、)が無かったのなら、去年も一昨年もさくら見物とかできたんだけどねぇ」

 あー、どこの誰が問題をおこしたのかなー、というと腕組みしながら珠理さんはじぃーと、目を細めて視線を向ける。

 うむ。芝居がかってはいるけれど、そういうジト目っていうのも可愛い。

 きっとルイなら絶対撮ってるだろう。てか、撮れ。えいや。


「……さくらはここで撮るのね」

「我慢してたけど、検閲を受けようが撮る。これがしがない写真家の宿命なのです」

 てか、珠理さんはどんな顔してても、ええのですと言ってやると、まっ、あたしだしねっ、とふんぞり返ってくださった。

 

「ルイさんに迷惑をかけたって自覚はもちろんあるし、忘れないけど、今日の集まりはそういった話じゃねーの。原点回帰。高校の頃の同級生のみなさん! ルイさんのエピソードをプリーズ」

 ないとは思うけど、恋愛エピソードとかもください! と翅さんは開き直ったように言った。 


「木戸くんの恋愛エピソードかぁ」

「あれは……どーなんだろねぇ」

「恋愛じゃねぇよなぁ」

 あー、とみなさんが渋い顔をした。

 ほんと、残念なやつである。


「お? 心当たりあるのかい?」

「心当たりっていうか、まー、男子に告られて悩んで、断ったというだけの話……」

「じゃないのが、つらい……」

 ほんと、青木のやつはどうしてあんな蛮行に及んだのか……と、木村くんはため息交じりに言った。

 事情を知っている人間からすれば、ルイさんに告白して振られたと、木戸くんが唇を奪われる事件として、印象に残りすぎているのである。


「っていうか、そこらへんに一番詳しい八瀬をここに呼ばなかったのがよくわからないんだが」

「あー、そこはねぇ。声かけるか考えた上で……きっとぐだぐだになるなぁって思って」

 だって八瀬くんだよ? と佐々ちゃんは言った。ミステリー大好きな彼女なら、カオスになるのを前提でつっこんでくるとは思いはするけど、さすがに分別はつくらしい。

 エレナたんを呼ばない理由とはまた別で、八瀬くんを呼ぶのも危険と判断したのだろう。

 

 ルイから聞いた話では、その道にずぶずぶ突っ込んでいって、だいぶ可愛らしい状態になっているのだそうだ。

 前に連れて行った男の娘カフェで大人気というのだから、あーあ、こりゃルイ仕込みだわ、と思ったくらいである。

 きっと、今日この場にいたら、フル女装で来て、一波乱あったことだろう。


「で? 恋愛話っていうのは?」

「珠理さんには報告済みではあるんだけど、うちのクラスのバカがルイに告白してね。んで、まぁ、ちづに相談に行ったんだっけ?」

「誠実に対応しなきゃいけないとは思うけど、どうすればーみたいになってたから、デートするとこうなるよ? って伝えたらあっさり振ったわけです」

 撮影できないだなんて、ありえない! とかなんとか言ってたっけ、とちづが無慈悲な一言を言い切った。


「お前が犯人か!」

 くわっと、珠理さんが目を見開いてダンっとテーブルを叩いた。

 まあ、言いたい気持ちはわかる。


「えええぇ。別に悪いことを吹き込んだわけじゃないですもん。ただ想像してもらっただけ」

 っていうか、澪が犯人ですからっ! とちづは思い切り言い訳をした。

 好きな女優さんにお叱りを受けるという現状から回避しようとしているようだった。


「ルイさんって、性欲が撮影欲に置き換わっちゃってる感じだから、撮影の邪魔になるなら割とすぐに切り捨てちゃうんだよねぇ」

 ほんと、ミステリーと佐々ちゃんが言った。その通りである。

 撮影のために女装するようなヤツがミステリーでなくてなんだというのだろうか。


「ええと、他には学校ではどんな様子だった?」

 こー、趣味とかそういうのがあったら是非にと翅さんがちらりとみんなに視線を向ける。

 こうやってみると、イケメンさんなのだけど、ルイを追っかけてるあたりは本当に不憫だ。


「学校にいる間はカメラ持てないんで、普通に授業受けてたよね?」

「割と勉強はできたんだよねぇ」

「成績落ちると女装して出歩くの禁止って言われてたみたいだからね」

 おばさまも女装には反対だからなぁとあたしは言った。

 そう。木戸家はルイを放任しているところはあるけれども、受け入れているわけではないのだ。

 お姉さんあたりはしゃーないなぁと思っているとは思うけれど。


「ふっふっふ。翅さん! どうやら木戸家のみなさんは馨として生きていって欲しいと思ってるみたいよ?」

「えぇー。でも世の中のみーんなルイちゃんを求めてるって。ネットの掲示板とか見てくれよ。お嫁さんにしたい人っていうのでいろいろ妄想してるの多いから!」

 家事とかまで完璧なんだし、朝ご飯を作ってくれる姿に癒やされること間違いなし、と翅さんは拳を握りしめた。

 時々ルイを語る掲示板で出るネタである。

 確かにあんにゃろうのスペックだけを見るなら、お嫁さんにしたい男子ナンバーワンだろう。二位がいるかは知らないけれど。


「どっちにしたってあの残念美人と恋人関係ってのは難しいと思いますけどね」

 俺はもう、はかない初恋を木っ端みじんにされてますからね、と木村くんが肩をすくめた。

 ああ、そういえば高校の文化祭の時に女装したかおたんと一緒にお祭りを回っていたのが彼だったっけ。


「初恋って?」

「10歳くらいの時に、うちの姉とその友達がかおたんを着せ替え人形にしてたころがありましてね。そのときの白ワンピ姿が可愛すぎて、実はちょっとくらっときてしまったといいますか」

 まあ蓋を開けたら残念美人なんですが、と木村くんは遠い目をした。

 まさか、そんな昔から付き合いがあるとは思わなかった。

 確かに、お姉さん同士が友人関係ならば、お互いの家に行き来することもあるだろうし、そこでばったりということもあるだろう。

 というか、昔から慣れてるといっていたけど、お姉さんたちは今頃きっと大変後悔していることだろうなぁ。


「くぅー! なにそのレア光景。写真っ、写真はないのかい!?」

 まじでその姿は見てみたかった! と翅さんがツバを飛ばしながら前のめりになった。

 いちおうその写真は持ってるけど、いざというときのために取っておこうかと思う。

 たしかに、撮影の仕方に問題はあったけど、ルイのあんちくしょうが可愛かったのは確かである。


「でもあれよね。再会したときはまったく気づかなかったのよね?」

「それは、あんなもさ眼鏡ですもん。気づくわけがないというか」

 いろいろ交流するうちに良いやつだってのはわかったんですが、まさか同一人物だとは思わなかったですよ、と木村くんは言った。

 そりゃそうだ。最初にあたしもあの格好を見せられたときは、はぁ? となったわけだし。


「俺なら、いくら男装していても見抜く自信があるんだけどな」

 愛あればこそだなっ! と翅さんは上機嫌だ。

「とはいっても、大学のイベントの時は思いっきり、ただの一般男子学生って扱いで接したっていうじゃないのよ」

 なにが愛よ、とぼそっと珠理さんがつっこみをいれる。

 まさに修羅場。骨肉の争いというやつである。


「ぬあぁー、そんなこと言っても珠理さんだって、最初は別人だって思ってたんだろ?」

「うぐっ。あたしは割と早めに気づいたし!」

「自分からばらしたってあんにゃろうは言ってたような」

 しかも、話をしても男装してる女子だって思われて手が付けられなかったって肩をすくめてたけど、とあたしは無慈悲に言ってあげた。

 うん。いい加減そこの手落ちは認めた方がいい。


 愛があろうがなかろうが、木戸くんのあの化けっぷりがおかしいだけで、気づかないことはけして恥ではないのである。


「むぅー! さくらぁー!」

「はいはーい、その顔、いただき!」

 むきーとなってる珠理さんの顔を一枚カシャリ。

 そして、おいおい、そこで撮るのかよという顔にもカメラを向けてカシャリ。

 おおぅ。こういう撮影をルイはいっつもやってるのよね。


「……さすが錯乱だねぇー。ほんとさくらが木戸くんと付き合ってないのがミステリー」

 すっごく気が合いそうなのに、と佐々ちゃんに言われた。

 あっ。二人の視線がざっくざく突き刺さる。


「あたしの接点があるのは、ほっとんどルイなの。学校での木戸くんなんてあたしからしてみたら、ルイの憑依するための身体に過ぎないわ」

「えげつない……さすがさくら」

 そうは言ってもなんだかんだで、木戸くんとも仲良しなんだよねぇーと、ちづからにやにやした顔を向けられた。


「カメラマンが一番の危険因子かしら」

「だな。つまりは俺のライバルは佐伯さんかっ」

「……ダメだこの人達」

 会議はしばしば空転するという。

 ルイさんにもっと好かれたい会議だったはずなのだけど、独占したい会議になってしまっている。


「だったら二人ともカメラ始めればいいじゃないですか」

 てか、翅さんはカメラいじり始めました的なこと言ってませんでしたっけ? と問いかけると、騒動とかで今あんまり触れてないと言った。今は本業の方に集中しなきゃあかん、ということらしい。

 それをいうなら、ルイのおしりを追っかけてる場合ではないと思うのだけど。


「あたしは、カメラ選びからこう……なにを選んでいいのやらーでわけわかんないし。お金かけて良いのを買えば買ったで、馨に羨ましそうな、けしからんような反応されないか不安で」

 結局どれをどーすればいいのかわからない、と珠理さんもへたれたコメントをくれた。


「なんなら、今度のデートはルイと一緒にカメラ店にでも行けばいいんじゃない? あの子、カメラ売り場だったらよだれ垂らしながら、何時間でもいるわよ」

「……楽しそうな馨を見るのはいいけど、それ、比重があたし<越えられない壁<<<カメラってことじゃないの?」

 うぅー、やっぱりカメラマンがライバルだぁー、と珠理さんはぺたんとテーブルにへたりこんだ。

 ま、でもそこは仕方ない。ああいうヤツを好きになった自分を恨むしかないのだ。


「なんつーか、もう木戸の事を大好きな二人で付き合っちゃえばいいんじゃないの?」

「「はぁ!?」」

「なんだって、こんな残念な国民的美少女と……」

「失礼な……破廉恥王子め……」

 あ。木村くんのひとことで思いっきり険悪な空気が流れ始めた。

 さすがは恋敵同士である。


「そんなに気が合うなら、かおたんでもルイさんでもいいから、共通の話題で盛り上がれそうじゃん」

「ああ。あのときのルイさん的なー」

「……それ、はてしなく、夢破れてキズをなめ合ってる感がひどいよー」

 有名スターと、女優がやることじゃないー、とちづががっかりしたような声を漏らした。

 でも、それくらい残念な二人なのだから、そんな話がでるのも仕方ないのでは無いだろうか。


 さて。そんながっかりな空気が満ち始めた頃だった。

 ことりと、テーブルにお皿が置かれる音が聞こえた。


「はいはい。話し合いが煮詰まってるみたいだから、ここらへんで甘い物タイムとしましょうか」

「いづもさん、これ……」

 いきなり現れたケーキと、紅茶のふわっとした香りに、ついついこの店のオーナーの方に視線を向けてしまった。

 こう見ると、確かにちょっとごつい感じはあるものの、それでも大人の女性という感じのする人だなぁと思わせられる。


「お店のレンタル代には、ケーキのサービスもつくものなので」

 まさか食べていかないとは言わないでしょう? といづもさんに言われて、みなさんそれは嬉しいですが、と困惑を浮かべていた。

 わーいケーキだぁーとか言ってるのは、佐々ちゃんくらいなものだ。

 でも、そんなものは一口ケーキを食べ始めると変わるもので。


「なんつーか、深刻な話も甘さに溶けるなぁ」

「紅茶の香りもいいし、ほっこりするー」

「幸せじゃー」

 はぁーと緩んだ顔をとりあえず一枚。いっつもルイがやってることの真似だが、これだけ緩んでる顔というのもそんなに撮れるものでもないだろう。

 甘い物はすっごい武器である。


「! これかっ。そうかっ。これだっ!」

「ああ、そうだな! これに違いない!」

 さて、部外者四人はケーキを食べながらほっこりしていたのだけど、珠理さんと翅さんは一口ケーキを口にいれて、なにかをひらめいたようだった。


「いづもさん!」

「「ケーキ作り教えてください!」」


 二人の声が綺麗に重なった瞬間だった。

 どうやら、カメラがダメなら甘味でね、作戦が始まるらしい。

 

 いづもさんはというと、やれやれだわ、と肩をすくめていたのだが。

 他にも参加者いるから、そのときに一緒ってことならいいわと答えたのだった。


 しかし珠理さんはいいとして、翅さんはケーキを作ってはたしてどう渡すつもりなのだろうか。

 そこらへんは気になった物の、とりあえずおいしくチーズケーキをいただくことができたのだった。

会議の結論は「餌付け」となりました! カメラがダメなら甘味だよね、ということで。

ちなみにクマの制作者について明かしていますが、あのロリータクマ服の記事の件に誰も突っ込まないのは優しさ故です。

崎ちゃんは、クマの着ぐるみの件に話がいくと嫌だから、触れてないだけなのですけれど。


しかし。気がついたら割と周りはどろどろだなぁと感じました。

二人とも、自分が欲しいものは頑張って獲得しようってタイプなので、こーなりますよねー。

さぁ、二人の恋が実るのか。それとも実らないのか。

それは、作者にすらわからぬことでありましたとさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ