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603.病院とお見舞い3

「さて。任されては見たものの……」

 ふむ、とルイは一人顎に指を当ててどうしようかと首をひねる。

 仲良くしなさいと言ったところで、それが無理なのはその通り。となると当然それなりに詳しい話を聞く必要は出てくるだろう。

 少なくとも、理由を話してもらわないといけない。

 

 かといって、カメラを向けて撮るぞって言って吐かせるのはちょっと大人げないとも思うのである。

 そもそもカメラはいい写真を撮るためのものであって、自白を強要するためのアイテムではない。


「ああ、いたいた」

 そんなことを思いながらも、少し離れたベンチのところに看護師さんと一緒のコウくんを発見した。

 なんだかご機嫌は斜めのようで、看護師さんもちょっと困ったような顔を浮かべているようだった。


「やぁ、先ほどはどうも、コウくん」

「な、なんだよ……さっきぶつかったのはもうどうでもいいだろ」

「ぶつかったこと自体はまあ、気にしてないけど、ちょっと話を聞きたいな、と思って」

 あとは引き継ぎましょうか? とスタッフさんに伝えると、じゃあ部屋につれて帰ってもらえる? とお願いされた。

 病状的にもあと一週間で退院ということもあって、任せても問題ないとの判断をしたのだろう。


「まずは、自己紹介をしておきましょう。私は豆木ルイ。写真を撮るお仕事をしています。君は……コウくんって呼んでいいかな?」

 あたしのことは、ルイお姉さんとでも呼んでくれればいいよ? というと、誰が言うかと、ぷぃとそっぽを向かれてしまった。

 うぅ。この年頃の男の子は難しい。


「それで? おばさまたちから聞いたけど、最近イライラしてるんだって?」

「……お前には関係ないだろ」

「関係がないってわけでもなくなっちゃったので」

 さてと、隣の席に座りこんで話を続けることにする。

 少し距離が近くなったことで、コウくんはちょっと鼻白むような姿勢を見せた。


「ねえ、コウくん。どうしてレアちゃんと喧嘩なんて始めちゃったの? 照れ隠しってやつ?」

 退院が近いのにイライラするなんてそれ以外にないんじゃないかなぁ? といってやるとあからさまに彼は不機嫌になった。

「そんな簡単な話じゃねえよ」

「そうかな? レアちゃんのこと好きならそれはそれでいいんじゃない?」

 ほらほらー、素直になりなさいな、と言いながら指でフレームを作って彼の姿を写す。

 わたわたとする姿は、ルイの想像があながち間違っていないことを物語っている。

 いくら朴念仁といわれるルイであろうと、ここまであからさまな反応だとわかるものである。


「ねーちゃんはなんもわかってねぇよ……」

 でも、そんな彼からだめ出しをされてしまった。

 胸のあたりを手でぎゅっと握っているのは、どういうことなんだろうか。


「そりゃ、今日あったばっかりだから、二人がどういう風に仲良くなったかとかはわからないけどさ」

 同じ病室でのつきあいとかも正直よくわからないけど、レアちゃんの方はずいぶん君のことを気に入ってるみたいだよ? と先ほどの印象を素直に伝えておく。

 隣同士ということもあってなのか、二人の仲はそれなりのものだというように感じたのだ。


「気に入ってるっていっても、あいつのはただ暇つぶしのおもちゃが欲しいだけだろ」

「たしかに退屈そうではあるけど……でもおもちゃって」

 それはちょっと言い過ぎじゃないのかな、と首をかしげておく。

 普通に会話をして、あーでもないこーでもないってやるくらいなら、おもちゃとまでは言わないだろう。


「ねーちゃんは知らないからそんなこといえるんだ。あいつ……俺が入院したときに話しかけてきて……」

 これからしばらくよろしくねって、すっごい笑顔でさ、とコウくんはうつむいて顔を伏せた。

 これが一目惚れというやつなのだろうか。

 いや。綺麗な子にそんなに優しくされたら、そうなってしまうのが男の子というものなのかもしれない。


「そりゃ最初は夢みたいな時間だったさ。学校のがさつな女子と全然違うし、なんつーか、俺の話にも楽しそうにしてさ」

 普通、サッカーの話とかしてもあんまり乗ってくるのはいないと、コウくんは言った。

 なるほど。自分の話を熱心に聞いてくれるというのは、男の子にとっては結構重要なことなのかもしれない。

 ルイとしては、撮影さえできればなんでもいーやー、って感じではあるけれども。


「そして、いつしかレアちゃんのことばっかり考えるようになってしまったと?」

「ちげーし! そりゃ……仲良くなりたいって思ったけど……」

 でも、あいつ、言ったんだよ、と彼は頭を抱えながら言った。


「ボクも男の子だよって」

「最初は黙ってたってことか……」

 そうかー、とルイはため息を漏らした。

 さて。あの部屋にいたレアちゃんのことなわけだけれども。

 言うまでもなく、男の子である。というかこの病院は臨時でなければ性別で部屋を分けているところである。

 コウくんと同じ部屋にいるレアちゃんが男子であって、特におかしいことはない。


「って。ねーちゃんリアクションうすっ。あんな見た目なのに自分は男だって確かにいったんだぜ?」

「わかってますって。っていうか一目見ればわかるじゃん、そんなの」

「……なにいってんの?」

 え。ここは俺が悪いの? とコウくんは愕然とした顔を浮かべた。

 うん。表情がころころ変わってかわいいものです。


「で? それを聞いたから不機嫌になったの?」

「不機嫌っていうか、わけわかんねーって感じ。病室の他の奴らも退院の時に、がんばれよとかなんとか言って行くし」

「うわぁ……」

 先に入院してた子たちは知ってたのか……と、少し遠い目をしそうになった。

 子供の悪ふざけといえばそうなのだろうけれども、自分だけレアのことを知らなかったコウくんはちょっとかわいそうだ。


「それで、その……実際、男だってのがわかってどうするの?」

「いやいやいや。ねーちゃんなにそれを決まったことみたいにいってんの? レアが俺をからかってるだけかもしれねーし」

 あんなにかわいくて男とかありえねぇだろ、とコウくんは再び頭を抱えた。

 あ。どうやら事実を受け止め切れていないようだ。


「そういう漫画は読んだことあるんだよ。実は男だって言ってるけど、実際は違うーとかそういうの」

 だから、レアもきっとそうなんだとコウくんは必死に言った。

 そうはいっても、現実はそう簡単に変わるものではないのである。漫画と一緒にしてはいけない。


「つまりはレアちゃんは実は女の子だった! という超展開を希望と?」

「超展開って……まあでも、そうだよ。なんでそんな冗談言うのかわからねぇけど」

 いろいろ考えたらいらいらして、それでついあいつの顔を見ると喧嘩になるんだとコウくんは言った。

 思いっきり大混乱といった感じだろうか。


「まあ、言いたいことはわかった。でも、あと一つ教えてくれないかな?」

 たいしたことじゃないから、素直に答えてね、というとコウくんはあからさまに警戒態勢になってしまった。

 別にそんなにたいそうな質問ではないのだけど。


「レアちゃんが実際、男の子だったとして、それで君たちの友情は終わってしまうもの?」

 ほら。そこのところどうなの? と聞くと、それは……と、彼は視線をさまよわせた。


「男のこと好きになるなんて、おかしいことだってみんな言ってるじゃん。ヘンタイって言われるのは嫌だ」

「みんなって……」

「テレビとかでよくやってるだろ」

 ねーちゃんテレビ見ないの? といわれて今度はルイがうーんと、首をかしげてしまった。

 正直、あまり木戸家はテレビを見ないおうちである。知り合いが出ているのはチェックするけど、それ以外は結構うといのだった。


 さて。どうしたものか。

 ここで、そんなことはないよと言っても、通じるのかどうか悩ましいところだ。

 そしてさらにややこしいのがレアちゃんが美人さんであることだろうか。

 コウくんがゲイにネガティブなイメージを持ってることも問題だけれども、コウくん自体はノーマルなのだと思う。

 だからこそ、レアちゃんは女子であって欲しいと思ってしまうのだろう。


「じゃあ、コウくんはレアちゃんが男子だったら距離を開けて、女子だったら急接近ってこと?」

 若干不潔な気がしますが、というと、彼は言われたことに、あっ、と固まった。

 実際言葉にしてみて、その意味を理解したのだろう。

 恋愛に発展するかどうかは本人達の好き好きだから、とやかくいう必要はない。

 けれども、それを理由に友情までなかったことにしてしまうのはもったいないと思う。


「でもレアちゃんとしたらそういう考えの子を好きになるものかなぁ」

 接近しても逃げられそうだね、といってやるとうぅ、とコウくんは情けない声を上げた。


「じゃ、じゃーどうすりゃいいっていうんだよ」

「どうすりゃいい、か……」

 わたわたと慌てながらすがりつくような視線を向けてくる彼に、ルイはうーん、と人差し指をあごにあてながら少し考える。

 ふむ。

 ここは、是非とも一回ぼけて場を和ませることにしよう。


「たとえば、レアちゃんが男の子だったとして、まるで女の子っぽいわけですが」

「そりゃな。すげー可愛いし」

「なら、コウくんも可愛くなってみる、とかはどうだろうか?」

 ほら、人は同じ行動を取る人を仲間と見なして仲良くなるものだよ? というと、えぇー、とコウくんから怪訝そうな目を向けられた。


「いやっ、なにいってんのこいつみたいな顔してるけど、別に小学生を可愛くすることなど、私の手にかかれば造作も無いことだよ?」

 ほんとだよ? というと、まじかー、と彼は目をまんまるにして驚いていた。

 まさか自分がそんな風になれるとは思った事は無かったのだろう。

 けれども、まだまだ身体ができあがっていない小学生である。無駄な毛も生えていないのだから、それこそやりたい放題やっても問題はないに違いない。


 けれど、そのときである。

 とんっ、と後ろから肩をたたかれた。

「あの、人の息子に変な事吹き込まないでくださいます?」

 そして、振り返ってみるとおばさま、コウくんのお母さんが怖い笑顔で仁王立ちをしていたのであった。

 どうやら場を和ます話題は、大失敗だったようだ。

 でも、おばさま。

 本人がやりたいと言ったら否定はしないで上げていただきたいのです。


「それで? コウはこんな美人なお姉さんと話をして、イライラは取れたのかしら?」

「び、美人じゃねーし。でも、いろいろ話は聞いてくれた」

 変なねーちゃんなんだ、とコウくんは首を傾げながら素直にそう言った。


「なら、レアちゃんと仲直りだね!」

 さあ、それでツーショットを撮らせてくださいな! とせっつくと、それは無理と言われてしまった。

 なぜ? 別にいいじゃん! 撮らせておくれよ。


「どっちにしてもあいつが俺をだましてた理由が納得できないと、落ち着かない」

 ちらりとおばさまの顔を見て、コウくんはそれだけ言った。

 ううむ。そこまで介入するとなると結構時間がかかりそうだけれど。


 どうやら、ナースセンターに一言断ってからの方がよさそうだ。

 30分で落ち着く気配は全くなさそうである。

さて。コウくんのターンです。まーあんなこと言われたら純朴な子ならパニックを起こしますよね。大人でもカムられたらなんぞー! ってなりますが、子供の場合は理解しがたい! が先に来るのかなと思ってこんな形に。


次話はレアちゃんの事情ということになりますが……実は今だ理由付けで悩んでいたりして。

重い話はあまりやりたくはないしね……

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