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598.ほのかさんと銀香の夏4

更新ペース遅くてごめんなさいなー。二月がやっと終わる……

「おやっ、ルイちゃん! 今日は町歩きの日だったか」

「はいー! お邪魔させてもらってますよー」

「春先はいろいろあったからなぁ。うちらはお前さんに何があっても味方だからな!」

 これからもうちの町に遊びにきてくれよ! という男性の言葉に、はいー! ぜひにっ! と挨拶を返した。

 これで何人目になるのだろう。春の事件からちょっと敬遠してきたけれど、来てないってわけじゃないんだけどなぁ。

 あの事件の前も声をかけてはくれてたけど、心なしかそれは多くなったような気がする。

 なんか、心配かけてごめんなさいと思うルイなのだった。


「なんというか、恐ろしいほど声をかけられますね」

「まあ、ここ五年の町歩きの成果ってやつじゃない? あたしこれで、町の風物詩みたいな感じになってるし」

 初めて銀香を一緒に歩くほのかは、町の人達に声をかけられまくるルイに目を丸くしていた。

 さっきのおっちゃんもそうだけれど、他にも中学生や高校生、それに子供連れなんかにも声をかけられるほどだ。

 さすがに幼稚園児から妖精さんといわれることはないけれど。


「風物詩……まあでも銀香のルイですもんね。これがヤクルトのおばさん効果……」

「そこでその単語が出るというのが悩ましいところだけども」

 顔を合せる回数が多くなればそれだけ仲良くなるというあの仕組みのことなのだけど、自分がそれかといえばちょっとばかり首をかしげるルイである。

 なじみの町、という感じというのが正解じゃないだろうか。


「挨拶をするだけでも相手はこっちを見てくれるからね。そうすればああ、また来てるってなって、仲間意識ができる感じ」

 まあ、撮影もいろいろやってるし、実際マスコミが押し寄せたりとかで迷惑かけてるから認知度も高いところはあるけれど、と苦笑気味に言うと、お騒がせなルイさんですもんね、とほのかにくすりと笑われた。その顔はしっかりと押さえておく。

 女の子の笑い顔というのは、絵になるものだ。


「そこらへんをさらりと撮れるのはさすが、というべきなんでしょうね」

「ん? さすがもなにも、さくらとかだって今みたいなのは撮るよ?」

 まぁ、うちの写真館の男性陣がやったらちょっと、相手も気にするかもだけど……気にしないよね? とほのかに首をかしげて問いかけると、あー、まぁ、はい。とちょっとラグがあった気がする。

 さくらとかなら、カチっとルイと馨を切り替えたりするんだけど、ほのかは日頃あってるからなのか、そっちをちょっと引きづってるのかもしれない。


「それはそうと、ほのかはおなかの具合はどう? そろそろ頃合いだと思うんだけど」

「はいはい。わかってますって。朝ごはんは少しにしたので期待してますよ」

 久しぶりな奏のお弁当だ! というほのかに、あれはなかったことになったのですと答える。

 なにげにゼフィロスに行ったときはほのかと一緒にご飯を食べることが多かったけど、たいていお弁当だったのでそこでわいわい話をしたなぁとちょっと懐かしくなった。


「公園でいいかな? それともどこか間借りする?」

「ああ、公園でいいですよ? っていうか間借りって……普通のお店じゃ無理じゃないです?」

 軒下貸してくれるとかなんでしょうか? とほのかが首を傾げた。

 まあ、基本的にご飯屋さんでお弁当を広げるのは無理だけれど、知り合いのおうちというものはあるので、挨拶がてらという形はいちおうとれるつもりだ。


「場合によっては中学校に早く行って教室借りるとかね」

 冷房はつけてもらえないだろうけど、日差しだけは避けられるよ? というと公園でいいですとほのかは言った。

 ま、今日は風もそんなに強くはないし、日差しは強くてもそこまでは問題にはならないだろう。

 砂埃が立つっていうなら、ちょっと室内を選びたいけどね。


「はい、では目的地にご到着! こじんまりとした田舎の公園でございます!」

 どうよ、この落ち着いた感じ! というと、新鮮ではありますねとほのかは言った。


「もしかしてほのかって公園でわーいって遊んだことない感じ?」

「いや……今どき公園でわーいっていうのはあんまりないですって」

 っていうか、学校でマットで寝てたってのに驚いてるくらいですから! とほのかは口早に言った。


「ちなみにルイさんは小さいころ公園に行った経験は?」

「んー、この町に来るまではなかったかな。小さいころはインドア派だったので」

 公園で遊ぶ仲間もあまりいなかったのです、というとほのかは、あぁそりゃねと言い始めた。

 たしかに小学生の頃の友達はそんなに多くなかったかとは思いますし、姉の友人たちにかまわれることの方が多かったかもしれませんが、そんなに浮いていたかというと正直実感の薄いルイなのである。


「田舎の遊具はそろそろ危ないって話がいろいろあって、親からダメって言われたりするものですよ?」

 そこらへんどうでした? と聞かれて、首をかしげる。

 別にそんなことを言われたことはないルイである。


「遊具が危ないって小学校では問題なかったでしょう?」

「そこは……自治体のお金のなさとかそういうのですね。学校は安全対策するけど、町のは整備までできなくて、遊具があぶなかったりっていうのは、ニュースで出ちゃって、そこからうちの近所も危ないのではって流れで」

 そもそも、外で遊ぶより学ぶ方を優先ってこともありますが、とほのかは肩をすくめた。


「おおう、お嬢様だー! 生け花とお琴と、ピアノと……」

「ぬああ、そんなにやってないです! そりゃ一通りやらせようとはされましたけど、身につかなくて」

「一通り……ねぇ」

 弟くんはそこまでハイソな感じではないという話を聞いていたのだけど、ほのか自体はいろいろと経験はしているらしい。


「ルイさんは小さいころからなにかやってることあるんですか?」

「いや。あたしは別に、ちょっと書道教室いってたくらいの一般人です」

 君たちくらいになれば、文字とか執事が書いてくれるんですよね……というと、いえっ、さすがにそれは偏見ですっ! と返された。

 沙紀矢くんの家だとありそうだけど、さすがに代筆してくれる相手というのはそんなにいるものではないらしい。


「一般人とはあまり思えないところがつらい……」

「いや、一般人だよー。学校でもそうだと思うけど?」

「それも合わせてですね。というか正直、奏とアレと、ルイさんと合わせてなんか頭の中でぐっちょぐっちょ変な感じで混ざって、正直どう相手をしていいのやら」

 ほのかは首をかしげながら、どう接すればいいんでしょうね? と悩ましい声を上げた。


「あたしは基本、その(、、)撮影のためにスタイルを変えてるだけだから、今目の前のことだけ素直に受け入れればいいと思うのだけど」

 ほら、切り替え大切、といってぺしぺしと肩をたたくと、ああ……刹那を生きる人ですかとちょっと残念な子を見るような目をされた。


「ま、そんなわけで、お腹もすいたことだし、刹那的にご飯を食べましょう」

 公園も空いてるみたいだしね、とルイは銀香の町の公園を見ながら言った。

 いわゆる都会にある公園とは別の、近所の子供が遊ぶために作られたという感じのここは、遊具の類はブランコとか鉄棒とか、一般的なものが置かれている。

 砂場もあるけれど、遊んでいる子の姿は今日は見受けられないようだった。

 風景の撮影が好きというルイであっても、もうちょっと遊んでる子の写真も撮りたいよなぁなんて思うくらいである。


「あ、あそこのベンチでって感じですか?」

「そ。屋根もついてるからあそこでいいかなってね」

 ちょっと暑いといえば暑いけども、といいながらお弁当を取り出して、ほいよ、とベンチの一つの席にお弁当を置く。

 今朝作っておいたもので、今日は二人分だ。

 重箱とかでみんなで食べるというような感じではなく、今日は一人分ずつという形にさせてもらっている。


「おおぉ奏のお弁当だ……あ、今日のは割とオーソドックスですね」

「まあ、普段食べてるのがいいなってことだったので、そんな感じで。基本的にはお金と手間をかけないってのがあるからね」

 キャラ弁とか作ってる暇はないのです、というとでも、将来的には作りそうですよね、と言われてしまった。

 どういう意味だろうか?


「それじゃ、いただきます!」

「あ、アーメンじゃないんだ? いただきます」

 祈りの言葉が一般的になっている! と指摘するとほのかは、大根の煮物を口にいれてもくもく咀嚼して飲み込んだあとに言った。


「だってそこにおいしいご飯があるというのに、あんな長いお祈りなんてできませんから! あぁ、よく味が染みてておいしい」

 煮物ができるお嫁さんが欲しいです! とほのかは幸せそうに言った。


「いや、煮物は今や割と簡単にできるよ? 圧力なべとか使えば割と時短で。ちなみにそれ、昨日の夕飯の残り詰めただけだし」

「一晩経った煮物ってやつですね。あとは……ほうれん草のお浸しに、おぉ、ウインナーがタコさんになっている!」

 手間はかけないって言っていたのに、とほのかはお箸でタコさんをつつきながら言った。


「それくらいは手間のうちに入らないし。ああ、それとよかったら冷たいスープ用意してきてるけど、飲む?」

「いただきます。あ、冷たくておいしい」

 水筒の中にいれてあるスープを注いであげるとほのかは、ふぅとため息をもらしているようだった。

 もちろん飲み物は冷たいお茶とかでもいいのだけど、今日のはスープである。

 トマトを主体としたちょっと酸っぱさのある冷製スープを用意してきてみたのだ。

 夏で汗をかくから、塩分も適度に取れるし、暑くて食欲が落ちているのを緩和する意味合いもある。

 それと、飲み物に関しては各自で管理ということにしているのも大きいところだ。


「なんというか、これが付くだけでお弁当が一気にグレードアップしたように思います」

「水筒で持ってくるってのが手間といえば手間だけど、おいしくご飯食べたいので」

 冷たいスープとお弁当はいい取り合わせだと思いますというと、ほのかはこくこくとうなずいてくれた。


「なんというか、ご自分の欲望に忠実というか、そういうところには手間は惜しまないんですね」

「まあ、そういうのは当たり前にあるよ? やりたいことに対しては進んでいかないと」

 景色はすぐに過ぎ去ってしまうのです、というと、ぽそりとほのかは言った。


「それが少しでも恋愛のほうに振られると、安心する人もいるとは思うんですがね……」

「ん? なにか言った?」

「あ、いえ、なんでもないです」

 あまりに小さなつぶやき過ぎて聞こえなかったのだけど、聞き返してもほのかはなんでもないでーす、と言いながら白米もおいしいですとお弁当に興味を向けるのに必死になるのだった。

お弁当会ー!

今回はオーソドックスなお弁当に、スープを付けてみました。

ルイさんのお手製弁当を食べられる幸せ。ほのかさんうらやましいね!

そして写真仲間共通の、残念な子扱いはほのかさんとて健在でございます。


さて。次話ですが。町歩き最後な感じです。中学校の撮影はぶっちぎります。ほかにもいかねばならないところがこの町にはあるのです。

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