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597.ほのかさんと銀香の夏3

不定期更新中にございますー。

誤字指摘はありがとうございます!

なんでかんで、は仙台弁らしい! ということで修正させてもらいました。

「校舎の中が終われば外だけど、あっついねぇ」

 ふむぅ、と夏の日差しを手で遮ると片目をつむる。

 今まで校舎の中にいたのでまだ目が明るさに追い付いていないという感じだ。


「まあ夏まっさかりですからねぇ。ああ、ファンデが汗で流れそう!」

「あははっ。日焼け止めはしっかりとしておかないとだね」

 日焼けは女子の大敵なのですっ、と言ってあげるとその通りですねっ、とキラキラした目を向けられた。

 そこはなにか突っ込みがくるかなぁと思ったけど、どうにも彼女の意識としてはルイと一緒に一日を楽しんでいるという感じなのだろう、まったく当たり前な同性同士の反応が返ってきた。

 これなら、たとえ盗聴されていようが問題はなさそうだ。


「小学生はこんな天気でも外で遊ぶんですよねぇ。うぅ、通った道だと思ってもちょっと信じられない……」

「ま、子供は風の子っていうしね。あたしはインドア派だったけど、外で遊ぶ方が楽しいって子はいっぱいいたし、体動かしたいんじゃない?」

 今は、外でうろうろってほうが多いけどね! というと、充実してますねぇとほのかに言われた。

 もちろんそれを否定するつもりもまったくない。最近トラブルが多かったけれど、撮影に関してはいつだって楽しくやらせてもらっているつもりではいる。


「それで、まずはどこから撮ります?」

「んー、まあ児童の中での有名ポイントから、かな」

 ふむ、と校舎にくっついてる時計をちらりと見てから、移動を開始する。

 この後は中学校の撮影も控えているから、お昼くらいまでしかこっちに時間は取れない。

 昼ごはんの時間を削るのは正直、ほのかがいるから避けたいところだ。

 一人なら昼ご飯は短時間でもいいのだけど。


「では、この学校の児童おなじみ、平和の像でございます!」

「……これ、いっちゃいますかぁ」

「まー、そりゃ校庭の中でのポイントの一つなので」

 ええぇ、とほのかがその像を前にげんなりした声を上げていた。

 まあ、この像自体は校舎から離れた校門付近の、ちょっと木々がうっそうとしてしまっているところの下にある、というのもあるのだろう。

 学校の設備に関しては、公立の学校はそんなに芳醇ではないだろうし、美観を整えてー! なんていうのは私立のしかもお金持ちなところじゃないとそうそうやれないことなのだと思う。

 もちろん、危険だって思われたらそこはちゃんと予算はつけるだろうけれど。

 美観より安全。それが公立の学校というものである。


「ええと、これは自然の中で朽ちていくイメージとか、わびさびとかそういうのなんでしょうか?」

「いやぁ、ただ朽ちてるだけだと思うけどねぇ」

 さて。

 果たしてこの像の制作者は、「経年劣化」ということまで込みで美術品を作ったのだろうか、というのはちょっと気になるところだ。

 

 町中にも、こういった像はちらちらと目に入るのだけど、そっちは補修が入っているのかここまでぼろいものはそんなにない。

 怖い、と思われてしまうレベルまで朽ちた美術品は果たして、どういう価値があるのかなと思ってしまう。

 写真だと、最近は耐久インクなんてのも多くあるので、プリントアウトしても長持ち! っていうのはあるけれど、それでもプリントしたものが劣化することは考えられるかもしれない。

 でも、五十年後に劣化前提で作品を残すかっていえば、まあ、ないなぁと思うルイだった。


「ここまで朽ちてると、なんか怖いというか……夜中動いてそうです」

 ちょっと、怖いとほのかは体を小さくして震えている。

 まあ、ちょっとはわかるけど。


「動かないものが動くかもっていうのが、七不思議的なものなのかなぁ。でも、どうしてこういうのを見るとそう思うんだろう?」

 ほれ、写真を通して撮ってみれば、普通にいい感じに苔むした石像じゃないですか、というと、ほのかは首を横にふるふるとふりながら朽ちすぎなんですよ! と言った。

 うーん、さっきほのかもわびさびっていってたのになぁ。


「周りの木の生え方とかも問題なのかなぁ。ちょっと薄暗いというか、うっそうとしてしまってるというか」

「でも、木があるからこの程度の朽ちっぷりなのかもとも思います」

 撮るのはあれとして、学校のパンフレットにはちょっと使われなさそうとほのかにも言われてしまった。

 うーん。ちょっとした遺跡みたいにも見えると思うんだけどなぁ。

 いい感じに光が差し込んでいて、ちょっと幻想的な仕上がりにはなっているのだけど。


「それで、次はどこいきます?」

「校庭から撮るものといったら校舎が一つと、あとは……遊具、かな」

 小学校だからこそ! というと、まあそうですねぇとほのかは言った。

 このあと中学校の撮影も控えているわけだけど、そことの違いというのの決定的なものは遊具の有無だと思う。

 中学校だと、せいぜいあるのは鉄棒と砂場くらいなもので、ほかのものというのはあまりないように思う。


 たとえば。

雲梯(うんてい)、とかね。正直懐かしすぎて、こんなのあったねーってレベルで」

「ルイさんはあまりこれで遊んでないように思います」

「そもそも外で遊ぶという習慣があまりなく……」

 そもそも、カメラ持って雲梯なんてやったら危ないよ! とにやにやしているほのかに言い返しておいた。

 雲梯は、水平にはしごを伸ばしたような遊具なわけだけれど、これで落下事故やら窒息事故やらを起こす遊具でもあるのだ。

 無茶をしない、ふざけない、というのならば問題はなくてもそれなりに危険なものなのである。


「ですよねー、スカートでこれやったらもう、丸見えという恐ろしい事態に……」

「結構みんな下にもう一枚はいていたような?」

 ちなみに母様の時代だとブルマをはいていたという噂を聞いております、と答えると、あー、うーん。まぁそうですねぇとほのかはちょっと遠い眼をした。自分が小学生のころを思い出しているのだろう。


「あたしは、小学生のころズボン派だったからあんまりスカートはいてなくてね。ほかの子を見てて見られてもいい感じのにしてるんだろうなぁと思っていたんだけど」

 でも、体操服がハーフパンツになってしまって、あれではスカートからはみでるではないですか、と首をかしげておく。

 当時はそこまで女の子のファッションに意識を向けていなかったけれど、今にして思えばスパッツな子が多かったような気がする。

 え、姉様たちのおもちゃになってたときは、スカートの下は下着だけだよ? とかなんとか言われていたので、特別そういうのにこだわったことはありません。


「ルイさんがズボン派とか……それはそれですっごく可愛いような気はしますが……」

 こんな可愛い子がそれとは……これがギャップか! とほのかはなにかを想像してはぁはぁしていた。

 落ち着こう。小学校でそれだと、まんま変質者さんである。


「やるにしても、体操服に着替えてって感じかな。まあ今やっても最初の方は足ついちゃうわけだけど」

「途中にいくと足つかないけど、これ男子だったら普通に真ん中でもそのままつかめますよね」

 そこが小学生サイズというやつですかといいながらほのかはシャッターを切っていた。

 ルイのほうでも何枚か押さえておく。これで遊んだ子の記憶はそれなりにあるだろう。


「次は、体育倉庫付近に……ここかな」

 うんうん、といいつつ、倉庫に向かう。

 隣には動物を飼っている飼育場所があるので、ちょっと鳥の鳴き声とかが聞こえたりするのだけど、まあ、それはそれである。

 あとできちんと撮らせてもらおう。


「そこって、思いっきり横になっちゃって……それ、服汚れますよ?」

「濡れてるわけじゃないから大丈夫! それに汚れてもいい格好をしてきているので!」

 今日のはみんな家で洗えるのです! とどや顔をすると、いきなり校庭に横になる感覚がわかりません! とほのかはあわあわしはじめた。

 いや。まあ、芝生ってわけではないのだけど。

 これはねぇ。先生たちから聞いたポイントだとこれは撮っておいてもいいかなと思ったのだ。


「ここね。いつもそこの体育倉庫からマット出してるんだって。今日はさすがに休みだからしまってあるんだけどさ」

「それで、そこに寝てる子がいるに違いない、ですか?」

「……まあ、そういうことです。ほーら、ここから撮る空とかめっちゃいいし」

 そして、起き上がってからの周りの撮影もと、いろいろ視線を向けて撮影をしておく。

 ちょっと背中に砂がついているけれど、これくらいならはたけば済むだけだ。


「マットで日向ぼっこする小学生ってどれくらいいるものですか?」

「それなりにいるんじゃないかなぁ? ぼけーっとするの楽しいよ?」

 ピクニックにいってるのと同じ感じで、と言ってやると、そういわれるとそうなのかな? とほのかは首を傾げた。

 ちょっと小学校の運動会とかそういうのを想像しているのかもしれない。


「ゼフィロスだとあんまりピクニックでって感じにはならないかもだけど」

「そうですねぇ。小学校の時は土に触れることはありましたけど、高校ではあまりなかったなぁ。キャンプやる部活とかはあったけど、割とみんな変わり者だったし」

 おしとやかより、美しい景色を見たい! って感じらしいですとほのかは楽しそうに頬を緩めた。


「あ、写真部とも交流ありそうだね、そこ。いちおう運動部とかは写真部への撮影依頼きたりするから把握してたんだけど、そんなところがあるとは知らなかった」

「割と仲良しですよ。うちも写真大好きな子が多いですから。まぁ……下の世代はちょっと若葉ちゃんとか入ってからワンランクハイソになった感じはあるけど」

 メイドさんを連れた子がいるとさすがに、ちょっとしっかりしなきゃって感じになるとほのかはいうのだけど。

 寮にいったり、学校に顧問として行った感じだとみんなわりとのびのびやってるように思う。

 もちろん若葉ちゃんが、いろいろばれないように行動している結果で、こういう地面に直接座るというような行為をしてないというのはあるだろうけれど。


「ま、そっちの話も聞いてみようかな。キャンプで夜の景色を撮り放題とかすっごくよさそう」

 場合によっては、車借りて車中泊とか! というと、キャンプに目覚めちゃいますか、この人はとほのかにじーっとあきれたような目で見られてしまった。

 いや。

 でも、ちょっとこの前旅に行ったとき思ったんだよね。

 あんないい車じゃなくていいので、24時間レンタルとかでキャンプ場までいってばんばん撮影するのってありじゃないか、なんて。

 家の車は残念ながら、女装した状態じゃ乗せませんと母様から言われてしまっているけれど、レンタルならばなんとかなりそうなのである。

 もちろん車買っちゃうっていうのも手段の一つではあるのだけど、それはもうちょっと収入が増えてからのことだ。

 少なくとも、駐車場と税金という維持費がかかるので、簡単に所有できるようなものでもないのだ。


「山での撮影はすっごい好きだし、そういうのもありかなーってね。なんだかんだでいままでいろいろけちってきたので、貧乏性になってしまってるけど、余裕があるときは動かなきゃって感じ」

 結局山とかって、部活関連でしか行ってないしねぇ、というと、まぁ、これがルイさんですか、とほのかはちょっと嬉しそうにしながらも、仕方ないですねとため息をついた。




「屋上からの写真も撮ったし、これでお仕事完了!」

 だいたい時間通り! と校舎にくっついてる時計を見てルイはカメラを持ち上げながら万歳をしていた。

 そこをほのかに撮影されたりしているのだけれど、もうそこらへんはあきらめている。

 

 それにしても校舎といい校庭といい、見どころが多いところ満載で小学校も面白いところである。

 体育館の撮影と、あとはプールも撮らせてもらっているので、枚数は結構なものになってしまっている。

 それぞれの用途で使ってもらえるとありがたいなぁと思うばかりだ。


「これだけ撮って無料ってのも、なんだかいいのかなあと思ってしまいますが」

「んー、半日の拘束だしうちの料金テーブルだと二万くらいかなぁ。ほかのメンバーならもうちょいお高いです」

 特に佐伯さんとかだとモデル撮影とかになってもっと高くなるだろう。


「プロを雇うとそうなるんですねぇ……なんかスペシャルなときしか雇われなさそう」

「そうなんだよねぇ……ちなみにほのかさん。貴女の卒業式は一日拘束なのでもうちょいお値段がいたします」

「……そうだった。普通にお願いしてみたものの、あれは結構な無茶ぶりだった……」

 記念だからって出してくれたけど、結構な額ですよね、とほのかは庶民感覚を発揮してくれた。

 まあ、沙紀矢君たちよりはほのかのほうが庶民なのだろうけど、それでも従妹殿達と似たような空気を感じないわけでもない。

 ちょっと出世が早いだけだと健とかは言うけど、それでもルイから見ればハイソサエティなのである。


「まあ、ご家族が納得してくださったのなら、こちらとしてはありがたい限りだよ。その前は藤ノ宮の姫だったけど……そっちは保護者の方から喜ばれました」

 それ以上は個人情報なので言えませんというと、ですよねー、とほのかは視線をそらした。

 まあ、そりゃそうか。

 実際、お母さんである理事長先生からも、あの写真集はうちの宝物にするわっ、なんていうお言葉もいただいている。

 ご当主でもあるおじい様は、おおおぉ、まさかこんなに可愛いとはぁー! とかガクブルしたそうだ。

 まあ、なんだかんだであの人、孫の教育のためーとかなんとかいいつつ、そういうの好きなだけなんじゃないだろうか。


「でも、うちの学校だったら卒業式にカメラマン呼ぶ人は少なくないですしね。娘の晴れ舞台を残しておきたいって人は、割といるんじゃないかなぁ」

 特に、お忙しい両親が多かったりするので、とほのかは苦笑を浮かべた。

 学校が出す卒業式のアルバムなんてのも、割とみなさんお買い上げだそうで、うらやましい限りである。

 それを見て、過去を懐かしく思ってもらえるのなら、撮るほうとしてもうれしいものだろう。

 今年は卒業式の撮影、任せてもらえないか、といった感じだけど。あいなさんに持ってかれそうな気がしてならない。

 

「イベントの時に呼んでもらえるように、いろいろ頑張っておこう」

 きちんと稼がないと、お仕事として成り立たないのです、というと、そうなんですか? とほのかにはきょとんとされた。

 さっきの値段帯から見れば、もうけも十分なんじゃないの? という感じなんだけど。

 依頼料全部がお給料になるわけではもちろんない。

 佐伯さんがピンハネしてるとは言えないけどね。いろいろサポートしてくれたうえで、その分がちょっと引かれる感じ。

 ルイに関して言えば、仕事量に関してもちょっとばかり、悩ましい問題を抱えている。

 

 仕事を多く入れすぎると、税金の兼ね合いでの問題が出てしまうのである。

 今はコンビニでのお仕事も入れているし、ちょいちょい入るお仕事をいれていった結果で、課税対象になる可能性が十分にでてしまうのである。

 いちおうは、そうなっちゃっても大丈夫なように、佐伯さんからは木戸馨名義でのお給料としていただいているわけだけど。

 今後、お仕事をしていくとして、佐伯写真館という表に立ってくれるところがなくなると、正直どうしようかなと思うところだ。

 フリーでやっていくとしたら、ルイとしての名前とは別に報酬の受け取り方の話にもなる。


「ま、どっちで仕事していくかも、まだわかんないしなぁ」

 大学も三回生になってまで、実のところ木戸は、将来をどうすればいいかの答えを出していない。

 ああ、写真で生きていければいいね、というのは確定しているけれど。

 ルイとしてなのか、木戸としてなのか、だ。

 その答えを、先延ばしにしている状態なのである。


「? とりあえずは、これで職員室に戻る感じでいいですか?」

 少し深刻そうな顔をしていたからか、ほのかは小首をかしげながら、そう問いかけてくれた。

 うん。

 今は撮影のお仕事の方を優先しないとね。

  

「あ、その前にキーホルダーを回収ね」

 あいつをなくしてしまってはいけないのです、といいつつ職員室の近くのその場所に向かう。

 あっ! あの猫さんがいない! なんてことは、もちろんないわけで。

 

「ああー、有ってよかったねぇ。うっかり置いてっちゃったけど」

「ですねぇ。ほかの撮影に夢中になっちゃいましたしね」

 なくさなくてよかったです。とほのかが白々しいことを言い始めた。


「じゃあ、これで職員室に行きましょうか」

 ちゃんと施錠もしたし、これでオッケーかな、というと、その通りですとほのかが言い切った。


 さて。職員室に戻ると年かさの方の先生は昼食に出てしまったらしく、若いほうの人だけいたのだけど。

 まあ、それがどうなったのかは、ご想像にお任せしようかと思う。

 カメラは武器。爆殺はちょっとアレだけど、まあそれなりに威力のあるアイテムだと痛感したものである。


校庭のマットですーすー寝息を立てているかおたんの写真が欲しい! とか思いつつ。雲梯ってスカートでやっちゃあかんやつだよなぁとしみじみ思った次第です。

そしてブルマ話ですが、最近の事情を調べて見た結果がこれでございます。

もはや絶滅せし装備なのであります。


さて、次話はお昼ご飯食べる感じですね。中学校版は……コンパクトにまとめる予定です。


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