595.ほのかさんと銀香の夏1
おまたせしました。ゆるっと撮影スタートです。
夏休み中、一回はルイさんの撮影についていきますよ!
大学で周りに人が居ない中、そう言われたのはきっと、ほのかのほうにも相当のフラストレーションというものが溜まっていたのだと思う。
ほのかさんといえば、言わずと知れたゼフィ女潜入時の友人なわけだけれど、実年齢としては二つ下。
今年大学に入ってきて、特撮研にまで追っかけてきたというような具合ではあるのだけど。
彼女には一つの目標がある。
卒業したらルイさんと一緒に撮影にいく、という大きなものが。
彼女の中でそれが、奏と一緒なのか、ルイと一緒なのかはわからないけれどもね。まあ奏さんはあのとき限定キャラなので、再現をするのはちょっとばかり難しいのだけど。
本来であれば、こまったなぁとかいいながら、四月五月の新入生がはいってきた時に、しかたないなぁと一緒に撮影に出るっていうこともできたのだけど。
まあ、HAOTO事件というものがおきまして。
特撮研の活動の中で木戸と一緒に撮影をするというのはわりとしているのにも関わらず、ちくせう! と乙女らしからぬ声をあげていたわけなのだ。
同じ人だよー? ほらー? とか言ってみたけど、先輩が奏であるものですかっ、とかぷぃっとされて実はちょっと傷ついた木戸である。
おかしい。奏はあくまでも木戸の女装姿であるはずなのにだ。
けして、ルイさんのほうではないはずなのである。
「よーやくこの日がやってきました……ああ、あのルイさんと一緒に撮影できるこの日がっ」
長かった……ほんと長かった、とほのかは拳をぐっとにぎりながら感動に打ち震えているようだった。
「普段あれだけ一緒に撮ってるはずなんだけどね……」
「それはそれ。これはこれです。それにわざわざ女装しているのは、やっぱり違いがあるんじゃないですか?」
朝からテンションも違うように思うんですけど? とほのかはずいと顔をのぞき込んでくる。
「それはまぁ、違うところがないではないけど、技術的には差はあんまりない……と思いたい」
そーっと視線をそらしながらルイは自分に言い聞かせるように言った。
うん。馨の方でだって最近はかなり上達したと言われている。
相手を怖がらせず、自然に表情を引き出すことだって、かなりできるようになったのである。
「差が無くても女装する意味ってあるんですか?」
ほらほら、素直に認めちゃいなよー、とほのかはカメラを向けながら言う。
なにか変な表情でもでないかなと思ったりしてるのだろうか。
「まー、こっちで撮った方が楽しいってのが一番なんだよね。ほのかだって服装で気持ちが変わるってことあるでしょ?」
制服と私服で気分変わるみたいな感じ、というとほのかは、うーんと腕組みをして首を傾げていた。
でも、そこは結構あると思うんだよね。
可愛い格好してるとテンションあがるというか。
制服姿だときりっとしたり、私服だとふわっとしたり。
それに着る側としてもそうだけど、撮る側としても衣装が替わるのはとても良いと思っている。
修学旅行でみなさんの私服姿を撮れたのは、正直かなり楽しかった。
おまえはもっさりかよ、と散々いわれたけど、まあ、さすがに女装して学校行事に出ようというメンタルはあまりなかったもので。
これでも、求められたときにしか学校イベントでは女装はしていない、はずである。
え、うっそだーとか言われそうだけど、それは、プライベートでルイさんをやってるインパクトが強すぎるのかもしれない。
「ゼフィロスだと、私服のほうもある程度制服に準じた感じになるというか……」
「まりえさんをはじめ、みんなお嬢様だからなぁ……」
さすがに、カジュアルな感じよりはそっちのほうになるか、と言うと、ああ……と、ほのかは物言いたげな視線を向けてきた。
「あの。前から聞きたいとは思っていたんですが……あの、まりえお姉さまのそばにいる殿方って……」
「あの二人ねぇ。美男美女のカップルさんだよねぇ。本人たち曰く、まだお付き合いしてるかどうか、みたいな感じみたいなんだけど」
早く付き合って、早く結婚しちゃえばいいのにねぇというと、いや、そうではなく、とほのかは言った。
「変に藪はつつかないほうがいいよ。庶民のあたしよりほのかのほうが、咲宮家の影響力ってのわかってるだろうし」
「う……それを言われると、もうなんもきけない……」
危うい。それは危うい! とほのかは引き下がった。
わかっていても、触れてはいけないことというものはあるものだ。
それを暴くのが写真家だろう! という考えももちろんあるのだろうけど、少なくともルイとしては、咲宮の試練をスキャンダルにするつもりはまったくなかった。
もちろん、無理矢理女装をさせて女学院で過ごさせることに、思うところはある。
あるのだけど、すごくひどい事かといわれれば、咲宮の男子を見ていればわりと女装しやすそうな細身体型の子ばかりで。
見た目的にも化けるのが難しいっていう感じでもなく。
その上、トラブルが起きたら権力でもみ消す気満々のバックアップともなれば、試練である、というそれに拒否感というものはあんまりなかった。
そりゃ、彼らが現地で女の子に手を上げるっていうなら反対だけど、大丈夫っていう前提と信頼もあっての決行なのだと、信じたい。
もし、何かがあったらお金で保障というのも……あったんだろうけど。
少なくとも、今試練を受けてる若葉も、沙紀矢くんも変な事はしない子だ。
問題はないと言っても良いと思う。
「やましい動機ではないから、そこだけは信じて欲しいかな」
っていうか、それをいっちゃうとあたしがゼフィ女の写真部受けてるあたりも、黒になるので、と苦笑をすると、あー、でもそれは、とほのかは首を振った。
「そのことを否定するつもりは全くないです。っていうか、前にもそれなら卒業したくないって話したはずです」
「それは、わかってるって」
ほのかはもとから、ルイがゼフィロスにいることを許している。
それは、真実を知ったとしてもだ。
そこらへんは卒業式に呼んだこととか、それでも糾弾しなかったことですでにわかっている。
「合宿の話も、正直すっごく羨ましいです。できればくっついていきたいくらいです」
「そこは、現役生のみってことなので」
無理っぽいというと、やっぱり留年するべきでしたかと、ほのかはぷぅと頬を膨らませた。
「写真はいっぱい撮ってくるから、それを見て満足してもらうしかないかな」
それと学園祭ではいろいろと交流もできるのだろうし、というとそれで我慢しろというのは酷です、と彼女はまだ膨れていた。
そうはいっても、タイミングが合わなかったのだから仕方ないと思う。
「さて。そんな話をしてたら到着だね。時間はちょうどよさそう、かな」
「最初が小学校でそのあと中学でしたっけ?」
「その通りです」
話をしながら銀香の町並みを歩いていたのだけど。
今日の目的はなにも、ほのかと一緒に銀ブラをしようというだけではない。
本日は、銀香の商店街の会長さんの紹介で、ちょっとしたお仕事を手伝うことになっていたのである。
仕事に後輩連れて行くのはどうなの? という話ではあるのだけど、それは先方も了承済みだ。
それに、今回のに関しては町内会から頼まれての、完全ボランティア。
佐伯さんは安売りするなってよく言うのだけど、銀香での仕事に関しては知名度アップといつも大銀杏を撮らせてもらってるからというので、いいよと言われているのだった。
「いちおう報酬はでないけど、良い物をしっかり作る必要あるから、真剣についてくるようにね」
「……それは、わかってます」
お仕事だから、というとほのかはこくんと生唾を飲み込んだ。
彼女としては初めてのそういう場面というやつである。
本人がこれを仕事にしていくかどうか、というのは正直わからないけれど、それでも体験くらいはさせて上げたいものである。
「お休みの日の学校……部活とかもやってないんですね」
「小学校の方はそうみたいね。もうちょっとすれば吹奏楽部あたりが練習がんばるみたいだけど」
校門を素通りして、校庭の脇にある通学路を進んでいくとほのかはしんとしてしまっている校庭やら校舎の方を見て、ちょっと不思議そうな顔を浮かべていた。
「なんというか、あらためて小学校とか来ると新鮮ですね……しかも守衛さんとかいないんだ」
「あー、それは公立だからね。ご用の方は職員室までーみたいな感じらしいよ」
それをいうとあたしの通ってた小学校もそんなんでした、というと、信じられないっというような反応が返ってきた。
ほのか自身は自分はお嬢様ではない、というようなことを言っているわけなんだけど、それでもあそこに入れるっていうことはそれなりなのではないかと正直思ってしまう。
そういう学校の方がセキュリティ関係はしっかりしているだろうし、入り口に守衛さんが立ったりもするのだろう。
「ルイさんの小学生時代ですか……なんというか、あまり想像できないですね」
「いったい、どんな感じを想像したんだかわからないけど。まあ、写真に興味を持ったのって中学からだからね。小学生の頃はちょっと変わってる子あつかいだったようで」
同窓会とかでると、みんなそう言うんだよね、と言うと、ほのかはへぇーと素直に驚きの声を漏らした。
「てっきり幼稚園のころから玩具のカメラもって、通りすがりのカメラマンだ! とか言ってたのかと」
「言ってないから! っていうか、どこでそういうの覚えてくるかね、この子は……」
お嬢様学校だとあまり触れないでしょう、そういうのというと、ほのかは、それはまぁと、いった。
「特撮研にいれば嫌でも耳にしますよ。しかも今年はアニバーサリーですよ? 今までのライダーが勢揃いで興奮! って先輩が」
「……奈留先輩あたりだろうなぁ。もしかして過去の作品全部おすすめされたり?」
「これが名作だ! って、特撮研の中で揉めてました」
まぁ、それぞれ自分の中での名作があるというのだから、こればかりは仕方ないのかもしれない。
「時間と興味があったらどうぞってレベルかな。あたしはあんまりアニメとか見てこなかったから」
そういうのに触れたの高校に入ってからだよ、というと、へぇーと言われた。
「てっきり、将来はカメラを操る戦士! とかになりたいとかだとばかり……」
「カメラネタの作品はいくつか見たけど、ほんわか系とかのがいいかな。爆撮! はちょっと」
あれはあれで物語としてはよかったのだけど、と、エレナに見せられた古いアニメを思い出した。
でも、あの作品だって、ルイとして、というか木戸として一桁の歳の話だ。
「いちおう姉がそういうのに年相応にはまっていたから、そういうのをちらっとみながら、ってのはあったのかも知れないけど、三つ離れてるからねぇ」
自分で見ようかっていうような感じにはならなかったし、あんまり記憶もございませんとお答えしておいた。
木戸家はそこまでテレビを付けっぱなしにする家でもないし、見るとしても教育テレビばっかりだったような気がする。
オタク系の話がずいぶんとできるようになったのは、高校で八瀬からいろいろ布教されたのと、エレナ様の導き以外のなにものでもない。
そのおかげでレイヤーさんの撮影も上手くなったので悪い事ではないのだろうけど。
「ま、好きなものだけチェックする、でいいと思うよ。さてと、そんなわけで職員室だね」
さて、やった結果が世の中にでるから、がんばろー! というと、はいっとほのかは元気よく返事をしてくれた。
いくらなんでも、張り切りすぎである。
自分の初仕事の時はもうちょっとおろおろしながら、それでぴりっとしていたものだけれどと思いつつ。
あのときは佐伯さんに無茶ぶりされたんだったっけ、と思い直した。
おろおろするのも当たり前というものだ。
「おはようございます! 豆木ルイと申します。本日はよろしくお願いします」
ご用の方は職員室へ、と書かれていたとおり、外側から声をかける。
中をちらりと見ると、待機している先生がたはまばらな感じだった。
まあ、夏休みだから学校よりも外にでていたりもあるのだろう。
「おおっ、生ルイだっ」
「こらっ、うちの若いのがすみませんね。いらっしゃいませルイさん。本日は我が町のお願いを聞いてくださってありがとうございます」
「いえいえ。いつも撮らせていただいてるお礼もかねてですから。それにむしろ学校を撮らせていただけるのならご褒美です」
そして、こちらは今日の助手ですと、ちらりとほのかを紹介しておく。
若いと思われそうだけれど、ルイとて二十歳すぎなのだ。特に変な目で見られることもなかったようだった。
「それでは、依頼の確認なのですが。学校の敷地内の写真をとにかく撮って素材を作る、でいいんですよね」
「ええ、それでかまいません。ただし一点だけ注意がありまして、児童が行っては危ないところからの撮影はやめておいて欲しいのです」
具体的には、ここと、ここと、ここです、と先生はすでにプリントアウトしてあった航空写真から、印を付けてくれた。
まあ、妥当な判断というものだろう。子供は写真を見たときに、自分の目でそれを見てみたい、なんていう好奇心に駆られてしまうものだ。となると、一人でいっては危ないところは撮らない方が良いというわけである。
「屋上は大丈夫なんですか?」
「いちおうは立ち入り禁止にはしてますが、しっかりしたフェンスも張ってますからそれは大丈夫です」
もし立ち入るようなら今日ならかまいませんよ、と彼は言った。
屋上からの写真というのは、やっぱり一枚は抑えておきたいものだからね。
ドローンとかでの撮影もありといえばありなんだろうけれども。
「では、我々のどちらかはここにいるようにしますから、なにかありましたらお声かけください」
写真楽しみにしています、と彼に言われてここから撮影開始。
さて。どんな風景が待っているのか、とても楽しみである。
次は誰にしようかと思いつつ、そういやあの約束が果たされていない! と思ってこうなりました。
なにげにほのかさんったら、良い感じの関係になっているものの、妹ポジって感じでしょうかね。
写真撮影できるってだけで仲良しになれるのは、羨ましく思います。
次話は小学校と中学校とって感じで撮影してまいります。三日後更新はちょっと危ういかもです。