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592.新居とお引っ越し2

更新ペースが不定期ですまぬさんです。

「クマだ……」

「クマだねぇ」

 商店街についた木戸達の目に飛び込んできたのは、とりあえずクマだった。

 ああ、見間違えるはずも無い、あのクマである。

 今や、何体かいるらしい、あのきぐるみクマさんなのだ。

 ゆるきゃらは、一体しか居ない設定のもあるようだけれど、割と木村のクマは人気があっていろいろなところに呼ばれる関係上何体か制作したという話は聞いている。

 予算の関係もあるし、生地にばらつきがでてるのがちょっと気になると以前こぼしていたのを覚えている。


「本日は、商店街売り出し日でーす! どうぞ抽選会もありますので、じゃんじゃんお買い物をお楽しみくださーい!」

 クマさんはメガホンを持ってしゃべってるねーちゃんのわきで風船をくばったりしていた。

 小さい子供達がぽつぽつとクマさんに集まっているのを見ると、割と子育て世代が多い町なのかななんていう風にも思う。


「へぇ。二千円以上の購入でクマさん一緒に写真撮影かぁ」

 前もなんかそんなのやってたところあったっけなぁと、木戸は少し懐かしく思う。

 あのときのイベントよりは小さい感じではあるけれど、商店街を盛り上げるための催しとしては成功しているみたいだ。

 でも、そうなると普段はもうちょっと人が少なかったりするのだろうか。

 ちなみに、クマさんとの撮影は抽選会の参加賞扱いのようで、一等はなんと豪華国内旅行だったりするのだが、やはり気持ちはそちらよりもなじみのあるクマのほうである。


「その割にカメラマンの姿がないのが気になるところだけど」

「あはは。やっぱりそっちが気になるんだ?」

「そりゃな。あっちのおねーさんが実は……とかなのかね」

 ふむ。そういうのも有りと言えばありか、と木戸は一人うなずく。

 佐伯さんのところは、モデルを撮るようなことが多いわけだし、割と規模が大きいところを中心に仕事をしている。

 でも、こうやってカメラの事だけやればいいという規模ではなくても、兼任という形での仕事というのはありなのかもしれない。


「おや、おにーさん、いいカメラ持ってますねぇ。撮影が趣味のお方ですか?」

「趣味というか、生きがいというか」

 さて。そんな風に納得していたのだけど、木戸が足を止めたのを見た商店街のおねーさんは、こちらの胸元にあるごついカメラを見て声をかけてきた。


「いいですねいいですね。うう、うちの商店街にもそういう方が居てくださったらお任せができたのですが」

 というか、どうしてうちの商店街にはカメラ屋がないのかー! とおねーさんはなぜか嘆き始めた。

 ええと。どうしてそんな反応?

  

「写真屋ないんですか……まあ、今は家電量販店でカメラ買えるし、プリントもできますけど……」

「私が小さい頃は一軒あったんですけどね、後継者不足で潰れてしまって……」

 じっちゃんは引退して、好きに写真を撮るんじゃーっていってたけど、と彼女は苦笑を浮かべた。


「あの頃は楽しかったなぁ」

 ちらりと彼女は商店街を見ながら少し遠い目を浮かべる。

 まあ、懐かしそうな顔というのは、とりあえず一枚抑えておこう。


「って、今のを撮りますか!?」

「撮りますって。あ、クマさんも一緒に撮りますか?」

 え、2000円買い物しないとダメ? というと、クマの着ぐるみの形はきょとんと首を傾げていた。

 なにいってんのこいつとか思ってるんだろうか。


「はいはい、馨さん。お仕事の邪魔しちゃダメですよ」

 ほら、商店街の売り上げアップなイベントなんですから、と真矢ちゃんからも注意が入った。

 うーん、いちおうまだみなさん買い物中だから、少しお話していてもいいのかなとは思うのだけど。

 さっき風船もらってた子たちも、お母さんとかに連れられてお店の中に入っていったし。

「あの。食事でも2000円行けば撮影ってしてもらえるんですか?」

「……クマさんと? ええと、いちおう子供向けイベントではあるんだけど……」

 どうしようか、とちらりと彼女はクマさんの方に視線を向けた。

 そしてクマさんは、さらに首を傾げてきょとんといている。自分に聞かれても困るとでも言いたげである。


「それとクマさんとペアで撮るのはいいですけど、写真の写りの方に期待をされても困りますよ?」

 っていうか、そこまで熱意があるとなるとなんかいろいろ撮ったらダメだしされそう、と彼女は頭を抱え始めた。


「またまた。そんなに心配しないでも大丈夫ですって。ぶれずに、きちんと全部写ってれば大丈夫ですから」

 それにプロのカメラマンなら、問題はないはずです、というと、あー、と彼女は変な声をもらしはじめた。


「ええと……ものっすごい期待されてるようだけど、残念ながら私プロじゃないよ? イベントとしてお金はもらうけどその一環って感じで、特別カメラが上手いとかそういうわけじゃないし」

 商店街活性化のためのイベントを手伝ってるだけなんです、と彼女は言い始めた。

 え。いや、どういうこと?


「馨さん? カメラはどこにでもあって誰でも使えるものですよ? このお姉さんもそういうことですよ」

 ちょっと周りにごろごろ上手い人が居るから、感覚おかしくなってるんじゃないですか? と真矢ちゃんに言われてしまった。

 そう言われると確かに……そうなんだけど。

 撮影のイベントで、その、それはいいのだろうか。


「子供向けの商店街のイベントでやたら上手い写真をばんばん量産しなくてもいいってことです」

「えええぇ。そこはがんばろうよ!」

「素人にそれを求められても困るといいますか……」

 あくまでも、イベントのメインはクマさんとの交流なんですから、とお姉さんは苦笑を浮かべていた。

 そしてクマさんのほうも、ぽふぽふと木戸の頭をなでてくれた。

 中の人がなんだか、かわいそうな子をみるような対応である。


「で、でもっ。クマさんに抱きつくのはさせてもらいますよ」

 ちゃんと領収書はもらってくるので、というと、抱きつくのか……と真矢ちゃんたちは生暖かい視線を向けてきた。

 せめて、クマさんをもふらせてもらいたいと思ったまでである。



 そして。

「いやぁ、さすがに四桁のランチを食べる日が来るとは思ってなかった」

「あはは。経費で請求できるとなるともう、やりたい放題ですね」

 お昼ご飯を済ませた木戸たちはレシートを片手に抽選会場に歩いているところだった。


 商店街にある飲食店は五つ。

 そのうち、安くて早い系の三つは除外させてもらった。

 うどん屋さんとそば屋さんと、格安ファミレスである。

 おそばは高いお店もあるものだけど、大衆向けのリーズナブルなお店が入っていた。

 近所のサラリーマンが集まってるみたいで、スーツ姿の男性が多く居る感じだった。


 ファミレスも二人で二千円にはいかないので除外。

 メインを食べた後にデザートまでいけばそれくらいいくけれど、せっかくだからとちょっとお洒落なお店にでもということでイタリアンのお店に決めてみたのである。

 

「ま、雰囲気もよかったし姉さんたちに美味しかったですと紹介しようかなってね」

 ちゃんとご飯の写真も撮ったし、SNS映えもしちゃうよ、と言ってあげると、馨さんってホームページはやってるけどそういうのやってないじゃないですか、と言われてしまった。

 まあ、たしかにね。

 最近はみなさん、写真をネットにアップして、いいねを押してもらうことに必死になっているようだけれど、どうにも木戸としてはそこに参入するという気はあまり起きなかった。

 楽しそうだとは思うのだけど、かわいい写真を撮るために結構無茶をする姿というのが、いたたまれないのである。


 え、お前も無茶するだろって? そりゃそうなんだけど。無茶の方向性がちょっと違うのである。

 

「でも、正直その……とあるお金もち学校の学食の方が豪華だったのは、なんとも悩ましい気持ちになります」

 ゼフィロスの学食は世間の相場に比べれば安いという話は聞いていたけど、実際外でちょっとお高めのランチを食べるとそれが実感できてしまった。

 はぎれ丼はやはり幸せな味なのである。

 八月は合宿に行ってしまうから無理だけれど、九月になったら是非とも味わいたい一品である。


「でも、あれで夜だと雰囲気も良いんだろうし、デートとかに良さそうじゃ無いですか?」

 ほらほら、馨さんから誘ってみればいいじゃないですか、と真矢ちゃんが言い始めた。

 どうにも、新居にいたときからそうだけど、春先の崎ちゃんの件から彼女はいろいろと思うところがあるらしい。

 恋愛系の話ばっかり振ってくるなぁ、ほんと。


「真矢ちゃんもいい人がいるようなら、紹介してくれてもいいよ?」

 お義兄さんが見定めて上げましょうというと、それはお断りですと、彼女は肩をすくめた。

「あれ。そういう断り方だと、すでに気になる人でもいるように聞こえるけど」

「今のところまったくなしですねぇ。かっこいいレイヤーさんとかが居れば考えもしますが……そもそも、私、オタじゃない人と付き合える未来が見えない……」

「ああ、自分の趣味を肯定してくれる人じゃないとって感じ?」

 それを考えると、似た趣味の相手の方が付き合ってて楽しいのかもなぁと、木戸もちらりと想像してみる。

 カメラをやる相手と付き合うというのが、一番楽しく生活できるような気がする。


 実際さくらと一緒に撮影していたときは楽しかったし、今だって特撮研のメンバーと撮影しにいくときは楽しい。

 それで恋愛関係になるのか、といえばもちろんそんなことはないんだけどね。


「ほんと、クロキシさんのところは羨ましいですよ。レイヤー同士で付き合ってるとか」

「えぇー。あの二人は付き合ってるというか……ノエルさんがめちゃくちゃ人見知りの、男性不信だからなぁ」

 二人はかなり仲が良い訳だけど、色恋沙汰なのかといわれたら、ちょっと違うような気もする。


「さて。そんなわけで抽選会場に戻ってきたわけだけど……さっきよりだいぶ子供増えたかな」

「お買い物が終わってってところですね。あの回すやつは、子供なら誰でも楽しいと思います」

 良い光景だなぁと思いつつ、遠目から一枚撮影をしておく。

 商店街のイベント写真というやつだ。

 これくらい離れていればみんな気張らずに、自然な顔を見せてくれるのが嬉しい。

 小さな子供にガラポンのハンドルを握らせて回してるご家庭なんてのもあるようだった。


「さて、では我らの番だね。真矢ちゃん引く?」

「え、いいんですか?」

 ここは馨さんが引いた方がいいのでは? と言われて首を振っておく。

「俺は、クマをむぎゅっとできればそれでいいので」

「あはは。何等当たっても参加賞はもらえるのが嬉しいですよね」

 ありがたいことです、といいつつ、ほれと、彼女を抽選のガラポンのところに誘導する。

 もちろん、その姿も撮影である。


「ほんと、お客さんは撮影大好きそうですねぇ。おっと。白玉ですね」

 ことんと、玉がはじけるようにおちた。

 そして、ねーちゃんはあたりのベルを……ならしはしなかった。


「はい、残念。参加賞のみでーす」

「白はハズレでいっぱい入ってる感じですか」

「あたりは定番の金で、その次が銀。でも、まあおにーさんはクマさんをもふもふしたいだけみたいだから、はずれのあたりということで」

 さー、思う存分、もふって周りからの痛い視線を向けられると良い! とおねーさんは言い始めた。

 まーそりゃ、大の大人が着ぐるみに抱きつくのはどうなのかとは思うのだけど。


「そんなん気にせずに、抱きつきますけどね!」

 周りの目など気にしていたら、好きな事はできないので、というととりあえずクマさんを思い切りもぎゅっと抱きしめた。

 なんとなく、昔抱きついたやつと肌触りが違うなぁという感じである。

 それと、ちょこっと身長も高いのかもしれない。

 高校にきたのがオリジナルの一体ということだけど、ちょこっとアレンジがあるのは木村の趣味なのだろうか。


「いいもふもふですね」

「……って、馨さん! 表情緩みすぎですよ!」

「おにーさんだと思ってましたが……どうしてそんなに幸せそうな顔をしてるのやら」

 もふもふ好きすぎでしょー、といいながらおねーさんはコンデジで写真を撮ってくれた。

 さて。どんなものに仕上がっているのか。

 楽しみである。


商店街といえば、着ぐるみ! 着ぐるみといったら、あいつの出番です。

そんなわけで、クマさんとガラポンをしてみました。

にしても、かおたんのそばにはプロなカメラマンが多いので、どうしたってコンデジとかでの自力撮影っていうのが思考の外にいってしまっていますね。最近のカメラは機能がいいのでぶれない写真は割と撮れたりするのです。

そして、はぐっとクマさん。クマさんの中の人はいったいどんな気持ちだったのやら。


というわけで、次話はクマの中の人とちょっとお話になります。

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