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588.妹を心配する姉からの相談1

誰にしようかーと言ってましたが、ちょっとリハビリ的にこの子にきめました。二話くらいで終わる予定です。

「うわぁ……こういうお店ってほんとにあるんだなぁ」

 ちらりと少し離れたところからその店を眺めて、ちょっとばかりその外観に圧倒されてしまった。

 七月の後半。

 本日のルイは珍しく、都会のショッピングビルの中にいるのだった。

 地元の聖さんの居るところではなく、もう、見事に都会のまっただ中! という感じのところである。

 さすがにオフィス街ではないので迷わないで済んでいるけれど、人も多いしなかなかこの環境というのも慣れないなぁというのが正直な意見なのだった。


 じゃあ、なんでこんなところに来てるかと言えば。


「千恵がおかしいんです」

 そんなご相談を受けたのは、七月も下旬になってのことだった。

 最近は、いづもさんにべったりな千歳は、もちろんシフォレに行けば、ウェイトレスをやっていたりするので会えるのだけど、あんまり個人的なかかわりというものはなかった。先日旅行先でばったり会ったときだって、ちょっと話をしたくらいだ。


 もちろん、青木と付き合ってるから少し遠慮をしているというのもある。会えば挨拶はするし、ケーキうまー、とか言い合ったりはするのだけど。

 深刻な話をするのは本当に久しぶりのことなのである。もちろん彼女の方の問題があらかた片付いた、という意味合いもあるのだろうけれども。最近めっきり相談事は減っていたのだった。


「こっそりでいいので、千恵の様子を見てきてもらえないでしょうか」

 そんな後輩に頼られたのがちょっと嬉しくて、バイトの合間に千恵ちゃんの様子を見に来た、というのが本日のお話なのである。

 姿に関しては、ルイの方を採用しているのは……まあ、なんというか、その千恵ちゃんが足繁く通い始めたというのが、女性向けのお店というやつだからだった。

 ああ、前に行ったBLカフェとかではないのだけども。


「なんというか、ここまでいっぱいいろんな種類があるとは……」

 目の前の光景を前にルイはちょっとばかりぽかーんと口を半開きにしてしまっている状態だった。

 だって、目の前に広がるそれは、店舗いっぱいに展開された人形(ドール)達の群れなのであった。

 千恵ちゃんが通っているというのが、まさにここで。

 家に買って帰るということはないようだけれども、割と頻繁に訪れているというようなことなのだった。


「女の子なんだし、別におかしいことじゃないとは思うけど」

 並んだドールさん達は、それぞれメーカーが異なるのか、かなり特徴が異なったものがそろっている感じだった。

 等身もそれぞれ違って、リアルなのもあれば三頭身くらいなのもある。

 ルイには人形趣味は正直ないのだけど、可愛いかったり、綺麗だったりというので、つい見とれてしまいそうになるのがいくつもあった。

 ふもふなのに首ったけなので、こちらにはそんなに興味はなかったのだけど。

 これはこれでかなりの見応えのあるお店である。


「お、お客様! 店内での撮影は禁止です!」

「うあう。はいっ。わかってますって。入口でちゃんと見てきたし、カメラもバッテリー抜いてるからっ」

 ごついカメラを首からつってるせいなのか、いきなり店員さんに注意されてしまった。

 さて。ドール屋さんはもちろん撮影禁止である。

 ルイにとってはずいぶんとつらい環境なのだけれども、さすがにちょっと様子を見るくらいなら問題はない。

 そんな風に思ってのカメラの扱いだったのだけど、店員さんはご不満のようだ。

 

「ええと、できればカメラは中にしまっていただきたいのですが……っていうか、バッテリーを抜くって行為をするなら、きちんとしまってくださいよ!」

「えぇ、そこまでやれと……」

「むしろバッテリーを抜くより、バッグにしまう方が簡単じゃないですか。どうしてバッテリーのほうが先ですか」

 いわれて、ちょっと考えて納得がいった。

 ああ。ごめん、こっちの考えの違いだった。


 あくまでも「撮影禁止の場所」は、そこまで厳重にする必要はさっぱりないというわけなのだ。

 ルイの場合は女子トイレ=撮影禁止の場所と思っているから、どうしたってバッテリーまでぬいて完全に撮ってませんアピールをする必要があるわけなのだけど、普通の撮影禁止の場合はカメラをしまう、なんてのでいいというわけで。


「他のお客さんの目もあります。うちは外国人の人も結構きて、きゃーニホン、カワイーっていって写真撮るんですよ。やめてっていおうにも、言語が……なんで。張り紙とかみんなみないし、ほんとちくしょう、どうしてみんな文字よまねぇんだよこのう」

 ちゃんと英語で書いてあるじゃねぇかよう、と彼女はぐったりしていた。


 ほとんど観光名所みたいなものになってしまっているらしい。

 でも、張り紙読まないってのは、わかる気はする。

 世間なんてそんなものである。


「まあまあ。えっと、これでいいですか?」

 手持ちのバッグにカメラをしまうと、店員さんにチェックしてもらう。

 これならうるさく言われないだろうけれど、正直かなり手持ち無沙汰だ。

 胸元がちょっとすーすーする感じである。

 別に胸がないからすかすかってわけじゃなくて!


「それなら問題なしです。それでお客様はなにかお探しの商品などはございますか?」

 とりあえず納得してもらえたようで、店員さんは先ほどとは打って変わって友好的な笑顔を見せてくれた。

 お客に向ける顔というよりは、仲間に語りかけるような感じだ。

 楽しそうで、つい撮影したいと手を伸ばしても、残念ながらカメラは今バッテリーを抜いてバッグの中だ。


「あまりこっちに知識があるわけじゃ無くて。ちょっと見させてもらおうかなって感じで」

 冷やかしです、と言うと彼女は、あぁなるほどと言いながらも嫌な顔は浮かべなかった。

「誰しも初めてというのはありますからね。一回はまるともう、抜け出せませんよ」

 ふふふ、お客さんみたいな綺麗な人が、可愛いドールを愛でるのはさぞかし絵になるんだろうなぁと彼女はぐいぐいと前のめりになっていた。

 

 おや。

 どうやら店員さんはルイのことを知らないらしい。

 そりゃみんなに知られていて当然という風には思っていない。ここは銀香町でもないわけなんだけど、ここのところイベント関連だったりとかでこちらの姿をしていると、ああ、あのルイさんねと言われることが多いので、こういう反応は新鮮だった。


「店員さんは人形歴は長いんですか?」

「そうですね。もう十年くらいはみっちりと。でも、結構お値段しちゃうからこうして頑張って働いて、パーツを集めてるところなんです」

 でも、ほんといろいろカスタマイズもできるしちょー楽しいですよ、と店員のねーさんはうっとりしながら言った。

 ほんと、人形大好き! というのが全身からあふれ出ている感じだ。


「やっぱりお高……うわっ。60センチの子で七万ですか……」

「はいっ。それだけよくできてるシリーズですからね。でも一体お迎えすれば、いろいろとオシャレさせたりもできますし」

 服はもちろんのこと、ウィッグとか、眼の色とかも変えられるんですよ! と彼女は嬉しそうに語った。

 なんというか……もしかしたら写真の事をしゃべってる自分もこんな感じなのかも、と少しばかり反省するルイである。

 たしかに、綺麗だったり可愛かったりという子がそろってはいるけれども、お値段のほうもまた衝撃的で実はそこでふっと醒めてしまったりもしたのだけど、さすがに店員さんの手前そんなことは言えない。


「お迎え?」

「そうですよ? お人形は購入するものじゃなく、お迎えするものですから」

 小物とかもいっぱいありますし、あとは……そうですね、人によっては100均のアイテムでアレンジしたりっていう方もいらっしゃいますと彼女は店員としてどうなのか、といえることを言った。

 どうにも、初心者さんにドールの良さを伝える伝道師みたいな感じになってしまっている。


「もちろん正規品もすっごく可愛いんですよ? 三分の一スケールくらいですから、それに併せて通常より小さいグッズがいっぱいありますし」

 例えば椅子とかは絶対欲しいですよ! と彼女はテンション高めで椅子コーナーの前に移動した。

 ほんと、一日好きなところで働けるとは幸せな人である。


「きちんと背景とかも作ってあげるとこれでもう撮影とかもできそうな感じですしね」

 あぁ、可愛い帽子とかかぶせて愛でたいーと店員さんは目の前に鎮座しているドールに熱い視線を向けていた。

 ちなみにこちらは限定品らしくお値段は十万円とか書かれていた。

 確かにいろいろついているし、可愛いとは思うけれど、衝撃的なお値段だ。

 貧乏性のルイさんでは到底太刀打ちができなさそうである。


「えと……これ、割とみなさん購入……じゃないや、お迎えしてる方って若い人もいるのですか?」

 さて。人形ばかり見ていても仕方が無いので、ここらへんでちょっとお客のほうのリサーチをしておこうかと思う。

 正直、すごくお金がかかる趣味だと思う。

 カメラだってそうだろ? と言われそうだけど、こっちはいいカメラを買ってしまえば、あとはレンズ……あ。レンズ欲しいとなってしまうと確かにお金はかかるかもしれない。

 用途に応じて使い分けるわけだけど、確かに一個レンズ追加すると数万とかって形にはなってしまうから、どっちもどっちなのかもしれない。


「そうですね。確かに一般的な人形に比べると割高なので、高校生くらいだと厳しいかもしれませんけど、でも二十歳くらいの方でもわりと興味もっていただく方もいらっしゃいますよ」

「……富裕層」

 くっ、と思っているものの、ルイとてカメラを三台とか持っているので、生活費を自分で稼ぐというような形にならないでいいのなら、お金自体は溜まるかなぁとも思う。

 ようはその使い道の問題である。

 自分でOKが出せるのなら、もしくは頑張って稼ごうと思えるのなら、それは正しい出費と言えるだろう。


「それに、この子のために働いてるって思えば、いろいろな仕事を掛け持ちするのも苦じゃないですから」

 本当にお迎えして生活が充実しています、と彼女は満面の笑顔を浮かべていた。

 ここのお仕事以外にも仕事をしているらしい。

 そこまでしていろいろなおめかしをさせようとしているのだろう。


 ううん。個人的に趣味は人それぞれの好みでいいとは思うのだけど、姉としてはこの空間にどっぷりになる妹のことは心配になるのかもしれない。

 お金もかかる趣味みたいだし。

 そうなると妹が無理をしないか、というのはどうしても気になってしまうのだろう。

 自分は結構無茶して稼いでるくせにね。


「あとは、もう少し小さい子からというのも手ですよ? 20センチくらいの小さい子もそろっていますし、まずはそこらへんから慣れていただくというのも」

 そちらのほうが幾分お手軽に始められますと勧められたけれど、そちらも結構なお値段である。

 いまのルイの懐事情としては、仕事もいくつかやっているので多少は前よりはマシではあるけれど、だからといって手を出すかといわれると、ちょっと見させてください、というのが一番しっくりくる答えなのだった。


 ぐいぐいくる店員さんをどうかわそうか、なんて考え始めたそのとき、不意に別の店員さんが声をかけてきた。

「あの……失礼ですが、お客様は、あの、ルイさんですよね? 写真家の」

「ええと……はい。そうですけど、なにか?」

 今は、カメラをバッグの中にしまってますよ! という感じで首を傾げながら答えると、もう一人の年輩の店員さんはぱっと表情を明るくして、こんなところでお会いできるとはっ! と喜び始めた。

 もう一人のお姉さんは、え、店長なんですかその反応は、というような感じで眼を丸くしている。


「実は、ちょっと店内に飾るパネルを撮影してるのですが……いまいちしっくりこなくて」

 なにかアドバイスをいただけると嬉しいのですが、といわれてほほう、と反射的に口元が緩んでしまった。

 ドールの撮影。

 どうやら店舗は禁止だけれど、撮影できるスポットがあるようだった。

千歳ちゃんが順調な感じなので、じゃあ妹の方はどうよ? というのが素直に気になりまして、そこに焦点を当ててみることにしました。

数年前に行った人形のお店のネタがついに使える日が! え、作者はぬいぐるみ派ですよ?


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