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586.男友達と、夏旅行17

前話でタイトルミスしてました。スミマセン。前々話と前話が同じタイトルに……

12月8日修正しました。

未読でしたら、一応確認おねがいします。


「なあなあ、かおたん。なにがどうなればテレビの向こうの相手がいきなり一緒に飯食べようなんて話になるんだよ」

「まあ、いろいろあって」

 ちらっと視線を美鈴に向けると、彼女は手をぱたぱたさせて、かんけーねーっすという態度を示した。

 こいつらは自分の知り合いじゃねぇっすという感じである。

 美鈴さえそれでいいなら、芸能界の知り合いでーすで押し切ろうかと思ったのだけど。


「実は、しのさんの大学で俺ら仕事をしたことがあって。そのときの司会をやったのがこの子でね。一瞬で友達になりたいなって思ったんだ」

「そのときは男子の格好で仕事したけどね」

 別に今の見た目で引っかけたわけじゃないから、そこのところよろしく、というと、はぁ? なおさらわからんと白沢氏ははてな顔だ。

 早見くんはルイさんなら、まーそりゃ気に入られるわ、というような納得をしているのだろう。うんうんうなずいている。


「それからちょいちょいメールとかで連絡を取りつつ、こっそりと仲良しです」

 ま、あたし別にそんなにミーハーじゃないから、芸能人と知り合いなんだぜ、とかは言わないけどね、というとどうしてこの人はそんなにでんと構えてるんだろうか、と白沢氏は目を丸くしていた。


「とりあえず、ジンギスカン鍋準備しちゃうね。えっと、作るのは……あたしでいいのかな? それとも片方誰かやる?」

 さて。食材は持ってきたけれど、肝心の鍋の支度をどうしようと思っていると、なら片方は俺がやる、と蜂さんが名乗りでてくれた。

 もともとの予定だと、四人と二人って感じでだったけど、急きょ同じスペースで二台のジンギスカン鍋を置いての調理という形になったのだった。


「でも、蜂っさん。それ、る、しのさんの方に人が殺到しそうだけど?」

「いや、今の布陣でいいだろ。お前らは旧交でも温めておけばいいさ」

 さて。全部で六人いるわけだけれど、席の配置はこれがまた変なことになっていた。

 なんというか、男女で分かれつつ、蠢が美鈴たちとセットというような感じな配置なのだ。

 これはもちろん意図的なもので、蠢的には、幼なじみと話をしたいというところがあるのだろう。


「えっと、旧交ってことなら、わたしと蜂さんが交代した方がいいのでは?」

 美鈴はいまいち、それがわからないようで、首を傾げていた。


「旧交で間違ってないよ。美鈴たんは十年以上前にあってるしね。シマちゃんって言えばわかるかな?」

「……あんまり記憶ないかも」

「ほれほれ、小学一年の頃、しつこくお外であそぼー! って声かけてきたウザいやついたじゃない」

「しのさんひでぇ……うざいはないと思う」

「だって、ことあるごとに外に誘うんだもんさ。友達百人つくりたいリア充さんって感じで、ほんともう」

 手が付けられなかったわー、と言うと、すっと蠢は視線をそらした。

 黒歴史というわけではないだろうけど、それでもちょっと恥ずかしいらしい。


 さて、そんなことを言いながらジンギスカン鍋の処理をしていく。

 火の準備をと言っていたけれど、特別ここは炭火でというわけではないので、スイッチをひねればガスで火がつく仕様だ。

 ごーっと音が鳴って、ほどよく鍋が温まったところで脂を投入して、まずは下に野菜を敷いていく。

 キャベツやもやしやにんじん、あとはカボチャなんかもおいていく。

 そして、その上にお肉だ。上質なラム肉である。

 ああ、羊さんありがとうというくらい、美しいお肉だった。


「ちょ。かおたん。それって疾風のシマのことか?」

「え、なにそれ。二つ名みたいなの?」

 え、ええっ、と早見くんがあげた名前に、白沢氏も反応した。ちょっと厨二病っぽい感じである。


「姉によると、どうやら上級生の方ではそんな話があったみたいだね」

「おれもにーちゃんから聞いた。なんか一年のくせにちっこい体でサッカー上手いやつみたいな」

「疾風でサッカーか……アイアン……」

 ぼそっと蜂さんがなにかつぶやいていたけれど、じゅーっというお肉の焼ける音で聞き取れなかった。

 

「その名前に覚えは無いけど、でも確かによく話しかけてきた子はいた……かも」

 お外いこー! はなんか記憶ある、と美鈴は言った。


「つまり、こいつは自分の性別を押しつけられるのは嫌だったくせに、他の人のことは見た目で男子だと判別して、遊びに誘っていたわけですよ、ほんと鬼畜。まじ鬼畜」

「ぼけっとして、ヤー、って断ってのほほんとしてた人に言われたくないよ!」

「あかん……かおたんの幼女姿あかん……」

「ちょっ、白沢くん、ちょっと変な妄想はやめようか」

 ああ、おいしそうな羊さんの焼ける匂いがしているのに、会話がかなりカオスである。


「まあ、確かに小学生の頃はあほな子だったことは認めます。それこそ中学入るくらいまではあほだったです。でも、シマちゃんだってあほだったと思うし、仕方ないと思う!」

「……かおたんのは中学まで行っちゃったからな……」

 そこはもう言い訳できないよなぁと、早見くんにまで遠い目をされてしまった。

 えっと、そんなにあほな子扱いしなくてもいいじゃないのさ。


「こほん。まああれだ。小さな頃は俺も自分が男だって普通に思ってたからな。小学校一年の頃の話は仕方ないとしかいえないけど」

「そんなわけで、うちら三人は幼なじみなのです。早見くんは別のクラスなんだけれども」

 きっと、小学一年生の早見くんも可愛かったに違いない! とずびぃっと親指をあげて見せると、おーい、やめてくれー、と言われてしまった。

 いやいや、そうは言いましても、みんなそれくらいの頃は可愛いものですよ。


「なんつーか、つながりはわかった。っていうかそういう縁ってあるものなんだな」

 まじすげぇと、白沢氏は大声で騒いだ。

 陽気な彼はいささかミーハーな気があるらしい。


「そんなわけだから、この配置だけれども、美鈴からはなにか意見ある?」

「……かっこいい人に囲まれてちょっと、ぽーっとしちゃってます」

 ええと、ちょっと刺激が強すぎただろうか。

 正直、告白されたときとはまた違ったショックを受けてるような感じがする。

 

「ま、まぁ、そろそろ焼き上がるみたいだから、飯食べながら話でもしようか」

 とりあえず普通に話せるくらいにはならないと、と蠢は苦笑混じりに肉に箸を伸ばした。


「ちゃんと野菜も食べるようにね」

 お肉の脂がしみて美味しいぞー、と言うとお前はおかんか、とみんなに突っ込まれた。

 うぅ。でも甘塩っぱいタレがしみた野菜は、ほっこり幸せな味がしたのである。



「はい? 告白されてどうしようか悩んでる?」

 後片付けをしながら会話をしていると、少し沈んだ顔をした美鈴に蠢が声をかけた。

 ジンギスカンは臭みもあまりなく、美味しくいただけたのだけど、実をいえば当たり障りのない会話しかできなかった。

 この肉うめー、とか、この肉あまー、とか、そんな会話である。

 本当に、羊さんありがとうといった食事風景なのだった。


 あとは、白沢氏からはまじでルイさんとはなんもなかったんすか? とこの前のスキャンダルの件での質問が上がった。

 そのときのHAOTOメンバーの二人は思いきり、木戸に視線を向けてきたわけだけれど、もちろんそれに素直に答えるつもりもなくて、ぷぃと視線をそらして、カボチャのスライスを口にいれてほっこりとしておいた。

 うん。カボチャは女子が喜ぶというけど、これは誰だって喜ぶんじゃないかな。


「そうなんです。ええと、あそこにいる彼に」

 ちらりと美鈴が視線を向ける先には、早見くんたちが居た。

 現在男性陣はちょっと離れたところで、もふもふな動物たちに癒されている最中だ。蜂さんがうまく誘導してくれた感じなのだった。

 早見くんとかは後片付け押しつけるのは、と主張もしたのだけどそこらへんは、じぃっと視線を向けたら納得してくれた。


 まあ、きっと蜂さんも美鈴の表情が優れないのを見ていたのかも知れない。

 というか、そもそもからして例のスキャンダルの話をしっているわけだし、話す機会があればそりゃ話させるかな。

 なんせ、蠢はスキャンダルの先輩なわけだから。


「てっきり、この前の件で沈んでいるものだとばかり」

「確かにそこもですね。アレは確かにダメージ大きかったですし」

「だよなぁ。俺も去年は本当にひどい目にあったものだし」

 ほんともう、あの手のスキャンダルは辞めて欲しいよな、と蠢がげんなりと言った。

 今だからこそ、こうしていられるけど、彼とてあのときの選択をミスしていたら、不本意な活動を強いられていたかも知れないのだ。


「だよねー、ったく、あの女マネージャーにあたし振り回されっぱなしだっての」

 今は、さすがにおとなしくしてるんだろうけど、と木戸も肩をすくめておく。

 春先のあの一件はさすがに彼女の社会的信用を完全に落とした件であり、業界的にはもうブラックリストに入ってしまっているような状態だ。さすがに生きてはいけないとまでは言わないけれども、別の業界でやっていくしかないくらいにはなっている。

 再び関わり合いになることはないと信じたいところだ。 


「ええと、蠢さんのスキャンダルの件って、なにか裏があるんですか?」

「ああ、まああると言えばあるし、かおたんは知ってるんだが」 

 んー、その前に、と、蠢はびしっと人差し指を突き出して言った。


「っていうか、敬語やめようか。同い年の幼なじみなんだし」

「いやいやいや。偉大なるアイドルさんにため口なんて無理ですってば」

 なにを言い始めますかこの人は、というような感じで美鈴はパタパタと手を振った。

 いちおう美鈴もモデルをやっているし、それなりにすっぱ抜かれるくらいな人気はあるけれども、知名度としては天地の差があると思っているのだろう。


「偉大なる写真家であるかおたんにはため口なのに?」

「偉大って……あたしまだそこまで大口たたけないかなぁ」

 まぁ上達はしてると思うけどね、と口を挟みつつ美鈴の出方を待つ。

 果たしてここで素直に言葉遣いが変わるものだろうか。


「かおたんは、その……同業者じゃないし。それにその……写真は上手いし美人だけど、その、仲間っていうかなんていうか」

 かおたんは、だってかおたんだし! とかなんかよくわからないことを言われてしまった。


「じゃあ、俺のことも仲間扱いってことで」

「で、でもっ、この業界って先にデビューしてる方が先輩じゃないですかっ。なら、きちんとした受け答えをしないといけないって、事務所でも言われていて」

 そちらの事務所だって年下の先輩、とかいるでしょう? と言われて、まーそうだけど、と蠢はちょっと引き下がるような形になった。

 いや、そこで納得しないでよ。もっとがんばれってば。


「っていうか、そもそも先輩後輩より同級生っていう方を優先して欲しいんだけど」

「そう言われても、疾風のシマさんって言われてもピンとこないし」

 無理ですよー、と美鈴さんは震えるような声を漏らした。

 まじむりーっていう感じである。


「つまりは覚えていないと。この蠢のやろーのことを、今しか見れない、と?」

 どうなんです? と詰め寄ると、いや、ほら、と美鈴はちょっとだけうらやましそうに蠢を見た。


「どっからどーみても甘い顔をしたイケメン王子じゃないですかっ! これのどこが元女子なんですかっ。去年の記者会見だって、ほんと嘘だろって感じでしたし」

「そこは、自分でも嘘だと思いたいところだけど」

 残念ながらね、と蠢は肩をすくめた。

 実際、今回の美鈴の一件がネガティブな反応を受けているのに比べて、蠢の方はここ一年で完全に風化してしまっている。


 当時にしたって騒ぎにはなったけれど、今の美鈴ほど否定的な意見は無かったように思う。

 ショックではあっても、ヘイトではない、といったところか。

 それが美鈴の場合は割とヘイトまで貯めてしまっているのである。


 ここらへんは純粋に性別の違いに由来するのだろうと思う。

 つまりは、男性アイドルが実は女性だった! というスキャンダルでダメージを負うのは、もうだいぶ心酔を通り越してちょっと妄想にまみれた独占欲が強い女子のかただろう。

 そういう人達は、ストーカー化したりはする可能性はあるけど、絶対数は少ないと思う。

 

 というか、女性視点でアイドルを見る時というのは、所有欲というものはあまりないように思うのだ。

 遠くから眺めて応援する。近寄れたら嬉しい。頑張って欲しい。そんな感じであって、「自分のものにしたい」とはあまり思わない。

 だから、まあ男性アイドルだと思っていたのが、実は女性だったとなったとしても、大半は驚くだけで終わるのである。

 もちろん、他のメンバーのそばに居られて羨ましいとか、妬ましいとかはあるだろうけど、それすら蠢の場合は、「自分は心は男だ」と言ったことで払拭できてしまった。

 ただ、体が女子だっただけの、かわいそうな子がけなげにもアイドル活動をして、あんなにかっこよくやっている、というのはみんなが気に入りそうな美談なのだ。


 ちなみにそれがなかったら、叩かれてたかもしれないけどね。っていうか、人気男性グループと仲良くやってる女子(、、)が叩かれるのは、ルイさんの件で実証済みである。


 じゃあ、女性だと思われてた人が、実は男です、という話をするとどうだろうか。

 男性の場合、アイドルやモデルに求めるものは、支援はもちろんあるだろうけど、独占欲はそれなりにあると思う。

 例えば、応援していた女性が結婚したら、大抵の男性はがっくりくる。

 幸せにおなり……と賢者のごとく言える人はそうは居ない。


 それと同じ理屈で、「実は男だった」という現実をつきつけられるのは裏切られたという思いが高まると同時に、「男を好きになった自分」に大抵の男性は愕然とするのだという。

 それは、たとえ「心の性別がどうのこうの」言ったところで埋まらないことだ。


 木戸やエレナあたりからすれば、「そんなに可愛くなれるなんてすごいじゃん! ハンデあって可愛いなんて奇跡だよ!」とか「こんな可愛い子が女の子なわけがない」と言うところなのだけど、一般感覚ではそんなものである。

 そしてそれが悪い方向に暴発すると、自分を守るために応援していたモデルをけなすようになる。


 大好きから、大嫌いに反転してしまう。

 自分はホモじゃない! という叫びの代わりとして、アンチになってしまうわけだ。

 異端でなければ石を投げろというようなものである。


「ま、二人とも同じような目に遭ったわけだけど、ほんと、性別の違いって不条理だよねぇ」

 ちらりと二人を見ながら木戸がそんな感想を述べていると、二人はえぇーと微妙そうな顔を浮かべた。

 お前さん、何をいってるの? といった感じだ。


「とにかく、ほら。名前で呼んでごらん。蠢ってさ。さん付けしなくていいから」

「うぅ……あとで、業界から抹殺とかなしですよ? もう、崎山さんだけでお腹いっぱいなんですから」

「……あっちのことは俺ではどうすることもできないけど、うちからは特になにもしない」

 っていうか、同じ境遇の仲間なんだから助け合うのが大切だ! と蠢は言った。


「さっすが自助グループにいただけあって、蠢のがそこらへんは上手いみたいだね。ちなみに崎ちゃんも別になにかしたりはしないと思うよ」

 別に、他の女子と外出したくらいで、怒るような子じゃないよ、というと、蠢がまた、何言ってんのこいつという視線を向けてきた。

 解せない。


「じゃあ、蠢……さ、蠢、で」

「よっし。おっけ。俺は美鈴ってこれからも呼ばせてもらうから」

 さあ、仲良くやろう! と蠢が言って言葉を切った。


「で、去年の蠢のスキャンダルの真相とかだっけ?」

 あれはあたしも思いっきり絡んでるけど、と当時の状況を美鈴に語ってあげることにした。

 もちろん最初の方は蠢からだ。そしてプールのあたりの話は木戸からした。

 蠢が無理矢理女性用の水着を着けさせられそうになった件も含めてだ。


「今時そんな考えの人っているんだ……」

「女の子は女の子らしく。今はわからなくてもいつか幸せに気づくとかなんとか言ってさ」

「まじで、あれは雌の顔だったね。ああはなりたくないなぁ」

 まあ、ならんけど、というと、そりゃねぇと二人に思い切り納得されてしまった。


「俺の時の話はそんな感じでね。美鈴のは純粋にすっぱ抜かれたみたいだけど」

「明日記事でのるぞって話がでて、だったら先に言ってしまうべきってことになって」

 記事ですっぱ抜かれるってことは、それなりの知名度って思っていいんでしょうか? スキャンダルの先輩がたと、美鈴がげんなりしたように言った。


「やっ、ちょ、あたしはスキャンダルに縁があるほど有名じゃないよ? 巻き込まれただけ。有名人のとばっちりを受けただけ」

 私は無実です、と言うと、有名になろうとしないだけじゃね? と蠢にがっかりした声を出された。

 いや、だってそういうので名声を稼ぎたいわけじゃないし。

 ねえ、写真を見て?

 写真に個性を感じてもらえるなら、とても嬉しいのだけど。


「っていうか、今はそれより美鈴の件でしょ? どーせあたしには恋愛の助言なんてできないわけだし」

 そこらへん、スキャンダル先輩の出番なのでは? とせっかくなので話を振っておく。

 蠢だって、恋愛ってあんまりしてないとは思うんだけどね。もともと恋愛禁止のグループだったわけだし。

 それに性別のことを内緒にしている以上は、そういうことができるようになったのって、ここ一年の話だろうし。


「なんか失礼なことを考えてそうだな。まあ、ご想像の通り、俺もあんまり恋愛経験はないけども……」

 それでもこの写真馬鹿よりはマシかなと、蠢はドヤ顔をした。


「是非とも美鈴には、こいつを反面教師にして頑張っていただきたい」

「って、すっごい雑ですね、蠢さん? そこらへんちょっとルイさんに似てきてません?」

「どうしてそこで、あたしに話をふるかな、この子は」

 呆れたためか、口調が戻ってしまった美鈴にちょっと小声で反論しておく。


「いやさ、だってあの人、あれだけモテて全然誰かと付き合おうとしないし。珠理ちゃんだって、ぐぬぬとかしょっちゅう言ってるし。あんだけの美少女捕まえておいて、それはないだろうって思うんだよね、俺」

 あんだけ可愛い子に心開いてもらってるのに、手も出さないってどうよと言われた。


「カメラは出してるもん……」

 たしかに甲斐性はないけれども、それでもデートのときは一緒に居て楽しい訳だし。


「美鈴としては実際そこのところどうなの? 恋愛に興味ってあんの?」

 まずはそこからだ! と蠢はずびしと言い放った。

 おそらくルイがまったく恋愛のれの字も表に出さないから、人っていろいろいるんだろうなと理解したのだろう。

 美鈴がこれで、恋愛しない主義だったらもう、そこで話はおしまいである。


「それはっ。その……できれば、その、男の子と、お付き合いして……将来的にはお嫁さんとかなんとか……あぅ……恥ずかしい」

 なんか素直に答えちゃったけど、これは恥ずかしい、と美鈴が顔を赤くして言っているので、その姿を一枚撮影した。

 うん。良い感じのテレ顔である。あとで早見くんに見せたらいくらで売れるだろうか。売らないけど。


「じゃ、付き合ってみないことには始まらないじゃん。幸せな結婚をしたいならそれ相応の努力をしないとな。努力が実りそうにないやつらも身近にいっぱい居るけど、動かないで得ようとするのは、ちょっとシンデレラシンドロームすぎると思う」

 それに、俺達みたいなのは特に率先して動かないと、願う未来はもぎ取れないぞ、と蠢は決め顔でそう言った。

 まあ、決めるのはいいけどね。でもね。


「割と周りのみんなに助けられまくりの蠢が言っても、説得力があまりないわけだけども」

「そこはー! これからだっての。正直去年の一件で、俺もう吹っ切れたし。最後にちょっと残ってた遠慮はどこかの誰かさんが蹴っ飛ばしたから、もう大丈夫なの」

 つーか、ほんとこれからだって! と彼はちょっと情けなさそうな声を上げた。もちろんその顔は撮った。

 覚悟のようなものがちゃんと見て取れたから。


「えっとさ。美鈴が引っかかってるのって、やっぱり相手が幼なじみだからってところにあるのかな?」

「それは……うん。やっぱり男の頃の自分を知ってる相手と付き合うの、抵抗ある、かな」

 贅沢な……という声が蠢から聞こえはしたのだが、まあ、そこは男女差というものである。

 綺麗な自分を見て欲しいと思ってしまうのは、仕方ないと思う。

 でも、美鈴は一つだけ勘違いしていることがあると思う。


「そこはなんていうか……今、美鈴が蠢に抱いた感想そのまんまだと思うんだけど」

 どうだろうか? と蠢に話を振ると、ふむ、と彼は顎に手を当てた。

 それだけで意図をくみ取ってくれたらしい。


「うーん、高校デビューしてそのまま昔の自分と印象違うって子はいっぱいいるわけだし、それにそもそも美鈴は小学生の頃、俺実は男子だぜぃ、げっへっへ、みたいな感じなキャラだったっけ?」

「……蠢の中の男子像がなんかおかしい件」

「お前にだけは言われたくないよっ」

 わざと味付けの濃いキャラにしたのだろうけど、まあ、彼の言うことはたぶん正しい。

 問題は、早見くんがどこ(、、)で美鈴を好きになったか、というところなんじゃないだろうか。


「美鈴は中学別だったよね? 同じだったらあたしの告白無双を少しだけ緩和してくれてたはずだし」

 実は、美鈴ちゃんも可愛くない? おお、じゃあアタックしようよってなってたに決まってる、というと、えぇー、と困惑した声が聞こえた。いやでも、木戸としてはあの告白連鎖は、眼鏡外しててちょっとぼーっとした可愛い子だったというのはあったにしても、逆に思春期の男子としては、女の子に告白するのよりもハードルが低かったんじゃないかなと思うのだ。

 特に、後半戦なんてのは、誰が落とせるか、なんていうゲームみたいな感じになってしまったわけだし。


「たしかに、地元を離れて一から始めようっていう感じにしたんだけど、でも小学生の頃だって早見くんとは一緒のクラスだったことはあるわけだし」

 あの頃の自分を知ってる人とお付き合いができるのかが不安で仕方が無い、と彼女は体を震わせた。

 うーん、美鈴さんったら、あの頃の自分にかなりなコンプレックスを持っておいでのようだ。

 トランスの傾向がある人は、だいたいこういうものなのかもしれないけれど。たとえば千歳は小学生の頃の写真を青木に見せるだろうか。いや、それ以前に所持していないかも知れない。


「そこは素直に本人に聞いてしまった方がいいんじゃないかな? いつから自分があなたの視界に入るようになったのか、ってね」

 あたしがこっそり聞き出しても良いけど、まあそこまではお節介かなぁと言っておく。

 おそらく早見くんならば、木戸から話を振られればあっさりと白状するだろう。

 でも、それではいけない。


「あんがい、あの頃の美鈴のイメージのまま育ったってことなら、男の子だと思われてなかったかもしれないしな」

 どっかの誰かさんみたいにな、と蠢が少し遠い目をしていた。

 数年前の出来事を思い出しているらしい。


「記憶は上書きされるものだ、っていう実例が目の前にあるからねぇ。蠢ったらさ、久しぶりにあったらあたしのこと普通に女子だと思い込んでてさ、ほんとあのときは噴いたもん」

 見た目って怖いねぇ、と言ってやると、美鈴さんは目をまん丸にして驚いていた。

 どういう再会をしていたの? といった具合だけれど……うん。見た目ってほんと大事だよねっていう話で。

    

「いやぁ、これで眼鏡外した姿で現れて、久しぶりーって言われたら、実は男だとか思わないっての」

 今の目の前と記憶なら、記憶の方が怪しいって思うじゃんと蠢はため息を漏らした。

 それは確かにそうだ。百聞は一見にしかずというのに近いだろうか。


 人の記憶なんていくらでも改ざんされてしまうものだ。

 だから、きっと。

 楽しい記憶を重ねていけば、過去はいつか記憶の海に埋もれてしまうものではないだろうか。

 そしてだからこそ、大切な過去を無くさないためにカメラに残す必要があるのだ。


「魅力的な姿を見せまくってれば、いつかそれが当たり前になるんじゃないかな?」

 相手は君に惚れてるのだから特にね、といってやると。


「恋愛能力ゼロの人に言われてもこまりますー」

 美鈴はにやりと不敵な笑みを浮かべながらそう言ったのだった。

 迷いの晴れたようなその顔は、いつものようにキラキラしていて。

 当然、その顔は、カメラにしっかり納めさせてもらったのだった。

安定のかおたんの恋愛破綻者っぷりが……

結局恋愛ってもの自体、かおたんわかんないような気がします。


まあ、それはそうとなんとか美鈴さんの恋の呪縛が溶けた感じです。

ここからどうなるかって? あともう一話でございますー。終わる予定だったんだけどなぁ……


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