585.男友達と、夏旅行16
今月は更新ペース遅めなりまする……
ナンバリング間違えてました!
初夏の風が、牧場の蒼い香りを周りにまき散らしていた。
空はいくつか雲がかかったものの晴れ模様といっていいし、そして広大に広がる緑の光景は開放感があって気持ちいい。
「牧場……おおぉ、広い。大きい。すごい」
やばい、ちょーいいー、と言いながら撮影していると、じぃと美鈴さんに不思議そうな顔をされてしまった。
「じゃー、そんな物憂げな美鈴たんも撮影してあげよう」
ほれほれ、たんと撮るよー、というとえぇー、と呆れた様な声を上げられてしまった。
「まったく、人が頭を悩ましているというのに、かおたんったら。絶対楽しんでるでしょ」
「そりゃ、こんな場所だもん、楽しまない訳にはいかないじゃない。ほらっ」
美鈴も笑った笑ったといいつつカメラを向ける。
反射的に彼女はポージングを取って、なんとなく牧場ファッションショーみたいな感じの絵ができあがった。
「いっきに元気になったなぁ、かおたん! それに比べて、はやみっちは」
だいじょーぶかよっ! とばんと背中を叩かれて早見くんはよろりとよろけてしまった。
こんないい場所なのに、どうしても気乗りしないということなのだろう。もったいない。
「つーかそれで昼飯食えるの?」
「なんとか……」
まあ、急かさないようにしないと、とちらっとだけ美鈴を見てそのまま視線を外した。
あんまり接触しないように距離を置こうとしているらしい。
ま、無かったことにして今を楽しもうという感じにできるほど彼も楽天的ではないし、仕方ないのかも知れない。
「それで、結局遊園地ゾーンに行くのは無しで牧場ゾーンでお昼ご飯食べて動物と戯れるって方向でいいんだよね?」
「ああ。遊園地の方はさすがに人が多いだろうしな。それになんかイベントもやってるみたいだし」
そこよりは、牧場の方でゆっくりしようぜ、と白沢氏が言う。
彼が言うように確かに、期間限定でシークレットスペシャルゲスト登場なんていう張り紙がされてるのが見えた。
ゲストを呼ぶというのであれば、それはもう人も集まるのだろう。
そんなところに行ったら、絶賛叩かれ中の美鈴さんがどうなってしまうかわからない。
「でも、シークレットっていうのはちょっと気になるかなぁ。闇鍋みたいな感じで」
「地方巡業は大変って、さ……知人も言っていたけど」
芸能人さんは大変だね、と言って上げると美鈴は、まぁそれぞれ好きでやってるからねと答えた。
「苦労もひとしおで、売れれば大きいのがこの業界だから。そこそこ売れ始めてもスキャンダルで潰れちゃう人もいるし」
それを乗り越えられる人はほんとすごいと思う、と美鈴はなぜか木戸のほうに羨望にも似たような顔を向ける。
いや、そんなこと言ってもそれをやってるのは崎ちゃんとかHAOTOのメンバーなので。
木戸さんあんまり関係ないのです。
「まあ芸能より今は、ジンギスカンで。闇ジンギスカンでもやりますか?」
「なにその闇って」
「鉄板系で闇は無理だと思う。やけどするし」
ちょっとぼけただけなのに、早見くんにまで突っ込みを入れられてしまった。
「でも木戸っちが言うみたいに、早く飯には行こうぜ。ジンギスカンとかこっちじゃ滅多に食べられないから楽しみなんだよ」
「昨日あれだけ海鮮食べてまだそんな感じなの?」
「そりゃ一日経てば腹もすくってもんさ」
さっき車内でお菓子パーティーしてませんでしたっけ? と首を傾げると、お菓子はご飯には入りませんと言い始めた。
まあ、いろいろ美鈴にお菓子を勧めたりしてたから、盛り上げの意味合いもあって買っていたのかもしれないけれども。
「そんなわけで、腹ぺこのようだからちょっと早いけどお昼にしちゃおうか」
「かおたんはお腹大丈夫? さっきパフェ食べたばかりだけど」
「まあ、大丈夫かな。野菜中心に食べようかと思います」
そんな会話をしながら、牧場の中のバーベキュースペースへと移動する。
昨日から焼き物が続くなぁと思いつつ、この手のものは何度やっても楽しいのだから仕方が無い。
「それじゃ男性陣、火起こしをよろしく」
「かおたんも男性陣なわけだが」
「じゃあ、食材購入という男性陣的な仕事をしてこようかと思います」
あー、四人分の食事は量が多いぞ、重たいぞー、というと、じゃーわたしもついてくと、美鈴さんは手を上げた。
まったりしててもらおうかと思ったんだけど、体を動かしていた方がというような心境なのかもしれない。
バーベキューの会場は、食材を扱っている建物を先頭にした長方形になっていて、実をいえば木戸達は一番遠いところのスペースを借りていたのである。
だって、利便性を考えればメインの建物のそばの方が準備は簡単だし、そっちから先に埋まるかなってことで。
もちろん、景色はといえば……奥の方に入らなければ大丈夫、というくらいで、どこを見てもででんと牧場の緑が目には入る感じだ。
一番いいのは、食材売り場のそばの一番外周のところが景色も良いし便利なんじゃないだろうかと思う。
「一番端っこにしちゃったけど、ま、さすがに追加で食材購入とかはしないだろうし」
「他に人がいるのはちょっと勘弁かなぁ」
美鈴は今の配置に満足なようで、きょろきょろ周りを見渡しながら歩を進めた。
時間が早いのもあって、バーベキューコーナーはほぼ貸し切り状態だ。端っこの方に子供連れがいるけれど、あちらはあちらで、きゃっきゃと楽しくやっているようだった。
こんな時じゃなければ、声をかけて撮影して、ありがとーおねーちゃん、とか言われてみるのもよかったかもしれないけど、残念ながら自重だ。
さて、そして食材売り場までやってきたのだけど。
「すまねぇ! あと十分まってくれないか。ちょいと仕入れが遅くなってな」
おっちゃんに普通にそんなことを言われてそばの椅子に腰を下ろして待つことになった。
いちおうは十一時半からスタートとは言っていたけど、まあこういうこともあるのだろう。
「でも、仕入れって牧場内から仕入れるの、かな?」
「うーん、たぶんそうなんだろうとは思うけど。なんというか命をいただいてますという感じで?」
思うところはあるけど、まあ、牧場でご飯を食べると言うことは、それこみでのことと言って良いだろう。
飼育しているところを見学して、そしてその結果として美味しくいただくのである。
「食べるの先じゃないとちょっとなんか変な気持ち回しそう」
「現代日本が抱える闇ってやつなのかな。でも、羊のお肉は楽しみです」
昔友人のおうちで食べたときに美味しかったので! というと、かおたんは相変わらず食と撮影にはブレないなぁと笑われてしまった。
「それで、その、美鈴さんに今のお気持ちを確認しておこうかと思うのですが」
「あー。それ今話しちゃう? そりゃ男子から離れた今はチャンスなんだろうけどさ」
でもなぁ、かおたんに話してどーこーなるようにも思えないし、と割と失礼なことを言い始めた。
間違いではないけれども、言葉にするだけでなにか見えてくるものだってあるかもしれない。
「やっぱりちょっとひっかかってるんだ? 昨日ってか、今朝話してた事」
「そうなんだよねぇ。早見くんが悪い人じゃないのはわかってるんだけど、こう……もろ、男子の時、見られちゃってるし」
なんかこう、黒歴史を知られてるみたいで、やだなって、と美鈴は言った。
「んー、それに関しては、あいつはたぶん、今の美鈴しかみてないと思うけどね。小学生の頃のことなんて覚えてないよきっと」
てか、そんなに記憶力いい人あんまり居ないと思う、というと、かおたんは小学生のころの顔ってどれくらい覚えてるのさ、と質問された。
「特徴があるのは覚えてるかな。はやのことも覚えてたし、他にも何人かはちゃんと覚えてたけど……全員の顔と名前が一致するってわけじゃないよ」
「そんなもんかな」
今なら、写真を見ればあぁ、となるけれど、さすがに小学生にそこまでの記憶力は求めないで欲しいと思う。
だからきっと、早見くんだって、小学生の頃の男の子を好きになったわけではなくて、あの同窓会の時に落ちてしまったのだと思う。
それを思えば、別段そこにこだわる必要はないと思うのだけど。
そんな感じで話をしていたわけだけど。
「おー、しのさーん」
「ひゃっ、ちょ、えええ」
いきなり後ろから抱きつかれて、変な声がでた。
心なしか、華奢な感じな相手に抱きつかれたな、というような感じである。
「いきなり抱きつくとか、ダメでしょー?」
「……へ? 蠢くん?」
なに? え、どうして、と美鈴がちょっとパニックを起こしているようだった。
「胸オペ終わって人に抱きつきやすくなったからさ」
「でも、むやみに抱きつくのはどうせ、しのさんにだけだろうが」
はぁ、と隣にいた蜂さんは苦労性の気質を思い切り発揮して、深いため息をついた。
HAOTOのメンバーは基本的にみんな、尖っているので、それをまとめて支えるというのが彼の役割だ。
リーダーどうしたって? 虹さんはほら……一見しっかりしてるように見えて、男の娘を前にするとダメになるという人だし。
そもそも根っこのところが二次元大好きオタクさんなのだ。きらびやかな世界にGOGOという感じの人ではない。
「それと……羽屋さん。このたびはご愁傷様で」
「いえいえ、ご丁寧に」
とりあえず木戸に抱きつくのをやめた蠢は、隣にいる女子の方へ向き直った。
一目で誰なのかがわかったのだろう。
「それで? どうして二人がこんなところにいるの?」
「それは俺らの台詞のような気がするな。まさか今話題なスキャンダル女子と、いつだって話題になるスキャンダル製造機女子が一緒にいるとは」
「……蜂さん……人をスキャンダル製造機と言わないで……」
自覚はないではないけれど、というと、だってと蜂さんは心底嫌そうな顔をした。
「あの後から、翅のやつががくっと落ち込んでもう、大変でな……フォローする側としてはちょっと苦情を言いたくなっただけなんだ」
ほんと、まじひどかったんだぞ、と蜂さんは言った。
あの記者会見のあと、俺も接吻くらいできるのに! と言ってみたり、女装すれば俺だってレズビアンになれるー、と言ってみたり。
いくら、無茶だ辞めろ、わけわからんと言っても、くそう、男の身が呪わしいとかなんとかぶつぶつ言ってるような状態だったらしい。
「あはは。それはなんか、うん。でも翅さんに関しては恋愛で性別変えることのないように、釘をさして置いていただけると」
「えと……しのさん?」
そんなやりとりを聞いていた美鈴は、どういうこと? と木戸に問いかけるような視線を向けた。
しのさん呼びなのは、蠢がそう呼んだからなのだろう。
「おまちどー! 素材の準備できました。そちらのお二人の分もできましたよー!」
さて、そんなタイミングで肉と野菜の準備は整ったようだった。
つけだれに付けられた羊さんのお肉と、たっぷりの野菜のお出ましである。
「ええと、俺達さ一時からあっちでイベントなんだよ。シークレットゲストってやつで」
「ここでシークレットをばらしちゃっていいのかアレだけど」
まあ、今ここに居るのを目撃したのなら、そうなのかなと思う人はいるかもしれないし、まあいいのかな。
「それで、もしよかったらなんだけど、隣のスペースで飯でもいい?」
つもる話もしたいので! と蠢は、美鈴に視線を向けた。
仲間としては一緒にちょっと話をしようよというところなのだろう。
「別に構いませんけど……でも、しのさんが、スキャンダル製造機であることを知らない人もいるから、そこらへん注意して欲しいかな」
それができるなら、私は蠢さんと話してみたいです、と美鈴は答えた。
去年、けっこう問題になった、トランス系のスキャンダル先輩である。
彼女にしても話を聞きたいに違いないのである。
まあ、まだ幼なじみってのはわかってないようだけれど。
そんなわけで、お昼ご飯は二人の芸能人を引き連れてということになったのだけど。
火の準備をしていた二人が、ちょっ、おま、となったのは言うまでも無い。
さて、牧場にきたよ! というわけでこういう景色はかおたん大好き! ですね。
もふもふとしたものもいっぱいで、動物撮影をしていただければいいんじゃないかと。
そして、本日のゲストはあいつらでした。
次話ではもうちょっと込み入った話をしますが……でも、ルイさん話を押さえつつ話すことができるのだろうカー!