男友達と、夏旅行13
本日かおたんはおねむなので、ナンバリングは無しです。
朝食と朝の風景ということで。ここは第三者視点の方がいいかなと!
「んあ……」
差し込む朝日に照らされて、白沢はそれを嫌がるように目を閉じた。
そしてそのまま何度か瞬きをして、ゆっくりと目を開ける。
知らない天井だと思って旅行先だったかと思い直す。
コテージのロフト部分になっている二階は、天井がそこまで高くなく、木目がここからでもくっきりと見えるつくりだ。
「みんなは……」
ちらりと周りを見ると埋まっているベッドは一つだけだった。
なんというか、せっかくのコテージだというのに、なんだかんだでベッドの使用率は果てしなく低いようだった。
「早見っちは、下でまだ寝てんのかな」
昨日の夜は早々に脱落した美鈴を寝かせてから夕飯を済ませて、その流れでコテージの中で二次会というような形になった。
一階部分のリビングで男三人……かどうかは悩ましいものの、いろいろな話ができて楽しかった、ような気がする。
気がするというのは、まああまりにお酒が進んでしまって、記憶が怪しいからだ。
「木戸っち、つまみも美味いとか……なんつーハイスペック」
さて。しっかりと夕飯は食べたものの、その後もリビングでの宴会にも、もちろん軽くつまめるものがさらっと用意されたわけなのだが。
異様に酒に合うちょっと濃い味付けの料理の数々に、つい、飲み過ぎてしまった、というわけなのだった。
そして、そのままリビングで寝落ちしてしまって、目が覚めたのは夜中の事だ。
トイレに起きて、リビングで寝ている早見っちにタオルケットが掛かっているのを確認して、これ、木戸っちの仕事だろうなぁなんて、思って二階に上がることにした。
正直、かなりのカメラバカだという印象しかなかったのに、こういう気配りはやたらとできるというのは意外だった。
意外といえば料理上手なところもだ。
白沢はこれで今まで幾人かの女性と付き合ったことがあるわけなのだが、ここまで料理上手な相手というのは、その友達を入れたとしても存在しなかった。
料理ができる相手はいたし、趣味だといってたのもいたけど、基本みんな力が入ってる感じというか、力作なのが多かったのだ。
それに比べると木戸のやっていることは変に力が入っていない自然なもので、普段からやってるんか? というような気楽さだった。
「美鈴っち……じゃないな。昨日の夜もいなかったし」
昨日の夜、二階に上がったときはベッドには誰の姿も無かった。
美鈴は早めに寝ていたので、夜中に起きてしまって散歩でもしているのか、と思ってそのときはベッドに倒れこんだのだが、今寝ているのは誰だろうか。
こっそりその顔をのぞき込むことにする。
もちろん物音は立てずにだ。休みの日の朝の睡眠というものは貴重なもので、ゆっくりと寝るのは至福のひとときといってしまってもいいだろう。それを台無しにするようなマネはできない。
「……うっわ。木戸っちかよ。しかも昨日の服のまんま……」
「……んむぅ……すぅ……」
あまり大きな声を出した訳では無かったのだが、それに反応したのか、木戸は可愛らしいうめき声を漏らしていた。
ちょっとまて。
寝ているというのに、どうして素でこいつは可愛い声なんてものをあげているのだろう。
しかも、その服装は昨日買い物をしたショートパンツ姿のままなのだ。
夏掛けの布団が少しはだけていて、シーツの色に比べると肌色に映るそれが中途半端に露出されていた。
はっきりいって、ちょっと視線のやり場に困るというような光景だった。
「しっかしよく寝てるなぁ。少なくとも俺が二階に来たときにはいなかったわけだし」
一体何をしていたのだろうか、とちょっと思いつつ、あぁ撮影に出てたんだなと一人で納得する。
早見っちも寝落ちていたし、一人取り残されたのなら、何をやるかなんて考えるまでもない。
昨日は、美鈴の撮影を是非! とか言っていたけど結局夕飯の方に力を入れてしまっていたし。
思えば、自動車の教習の時もカメラを持ち込んでいろいろと撮影をしていたなぁと思い出す。
あのときは、早見っちが好きなタイプという話が出たときに、なんでそんな話になるんだ? と不思議に思っていたものだったのだが。
まさか、美鈴と木戸の属性が似てるというような意味合いだとは。
「でも、眼鏡付けっぱなしで寝てて、これはしんどくないもんかな」
あとがつくんじゃね? と思って白沢はすいと眼鏡を取り上げることにした。
目が覚めないようにそっとである。
華奢なフレームの眼鏡はするっとはずすことができた。
きっと、そんなに寝れていないのだろうし、ここはゆっくりと休んでもらいたいところだ。
睡眠不足で車の運転ができない、なんてなったら、早見の恋路にも影響がでてしまうわけだし。
けれども、そこで不意に白沢は固まっていた。
つい。眼鏡を外して横に置いて、木戸が寝返りを打った姿を見てしまったのだ。
柔らかそうな二の腕や太ももが無防備に目の前に入ってくる。
当然胸はないわけなのだが、なんというか……
「……やっべ。これ、やっべ。青木っちの過ちってのがうっかりわかりそうだわ」
端的にいうと、エロい。
もちろん白沢が今まで付き合ってきた子たちとは、タイプはまったく違うし、女性的な魅力で言えばまず、おっぱいがない。ここのところは大幅に減点というかなんというか、彼の趣味とは異なっているはずだった。
でも、それを差し引いてもあどけない寝顔というのに、どうしようもなく扇情的なものを感じてしまうのだ。
「美鈴っちの事はまぁ、わかる……けど、これは、なぁ」
俺はそっちの趣味はないんだが……と、ベッドに腰をかけて白沢は額に手を当てた。
完璧に、考える人ポーズというやつである。
昨日一日一緒にいて、美鈴から感じたものは、どこをどうしたところで女子のそれと大差のないものだったと白沢は思っている。
スタイルは良いし、多少男慣れしてるな、とは思うけれども、元男だろうがなんだろうが、アレは女子のカテゴリとして見ることができる。
そして、それに対して恋愛感情を持っている親友の事も、わかる。
できれば上手くいって欲しいなとも思っているくらいだ。そのためのサポートならいくらでもしてやろうとも思っている。
でも、目の前で寝てる、これはなんだと言えばいいんだろうか。
眼鏡をかけてても十分美人だったとは思うけど、外すと柔らかい印象がなおさら強くなるというか。
あどけなさが当社比で何倍だろうか。
これが男の寝顔か? とちょっと胸が苦しくなるレベルだ。
いかん。これ、新しい扉を開いちゃうとかそういうやつだろうか。
「あ、白沢くん、おはよ。もしかして木戸くんにナニカいたずらでもしようとしてた?」
さて、そんな風に白沢が苦悩してるところに、美鈴がこっそりと声をかけた。
階段を上る足音くらいはしただろうに、それすら聞こえないレベルで彼は動揺していたのだ。
「っな。そんなこと……俺はただ眼鏡が邪魔だろうって思って、取ってやっただけで」
「それで、寝顔が可愛いな、とか思っちゃったんだ?」
まー、確かにこれはなぁー、と美鈴がため息をついた。
本人はお化粧がどうのと、いろいろ言うけれど、もともと素顔もそうとう女顔の部類に入ると思う。
「別に、エルフの血でも入ってるんじゃね? とか思ってないし」
「あはっ、思ったんだ? でも、木戸くん素顔見られるの嫌がるから、素顔見たことは内緒にしておこうね」
それとなるべく、さっき素顔を見たことは忘れましょう、と美鈴は人差し指を口に当てて、しぃーと、秘密にすることを提案する。
寝顔と昼間の顔は、あんがい見た目が違って見えるもので、白沢はまったくあのことに気づいていない様子だ。ならば無理に話をしないで、そっとしておく方向でと美鈴は考えたのだ。
白沢が悪い相手でないことはわかっていても、勝手に話していいことでもないのだ。
「それで、朝ご飯はどうする? 早見くんもそろそろ目を覚ますだろうし、今朝は私が用意しようかなって思ってるけど」
食べる? と言われて白沢は、いただきますと首を縦に振った。
当然、朝食の話である。
コテージに、じゅぅ……とフライパンが立てる音が広がっていた。
そして香ばしい魚が焼けるような匂いが続く。
「つぅ……飲み過ぎたか」
ソファで頭を押さえる早見は、綺麗になっているテーブルを見て、昨日の飲み会の事を思い出していた。
白沢のやつ。美鈴をおんぶしてエスコートしたことをさんざんからかってきたのだった。
そして、それが気恥ずかしくてついお酒のペースが早くなってしまった。
木戸はにまにましながら、そんな二人のやりとりを見つつ、仲良しだねぇーなんていいながら撮影をしている感じだった。
しかも、一日が終わっても女装のままである。
宴会になるなら、別に着替えてもいいんじゃないかと思ったけど、気にしない気にしないと言われてしまったのだ。
まったく。あいつ、撮影のために女装してるとか言ってるけど、絶対ああいう格好するの自体も好きだろ。
「水……欲しいな」
重い体を起こして、キッチンの方へと向かう。
水道の水もまあまあ美味しいので、ちょっとそれでも飲んでしゃっきりしたかったのだ。
「ああ、早見くん、おはよー」
さて、そんなわけでキッチンに入った途端だった。
目の前に、エプロン姿の彼女が居た。
もう、すっかり身支度は調えているようで、きちっとした姿をしているようだった。
昨日の、あのくてんとした姿も可愛かったけれど、こういう顔を見ると綺麗だなという印象の方が強くなる。
「おぉ、早見っちー。あまりじろじろ見つめてると、変に思われるぜ」
「いや、だって……見るだろ、これ」
エプロン姿とフライ返しを持ってるのは、反則だと早見は思った。
旧時代的と思うなら思うといい。女の子のエプロン姿に萌えない男子はいるだろうか。
あ、木戸はさらっとスルーして、手伝うよー、とか言いそうだけれども。
「朝ご飯も木戸くんが作ってくれるって話だったけど、昨日ちょっと遅くまで撮影しててさ。だから急きょ私が作ることにしたわけです」
美味くできるといいけど、と苦笑を浮かべる美鈴の隣にたって、コップに水を入れて、いっぱいごくごく飲み干した。
そして、もういっぱい水を汲むとテーブルに座る。
なんだろう。すっごい良い匂いがした。
昨日寝落ちしてた分、朝早く起きたというのはわかるけど、お風呂なんかも使ったのだろうか。
「撮影って、あいつ、徹夜してたとかそんなあほな話だったり?」
「んー、朝日が上るまでは外に居たから、それから帰ってきてちょっと仮眠するよーってまだ上で寝てる感じかな」
「すやすや可愛い寝息立ててたよ」
ま、ぎりぎりまで寝かせてやったほうが良いだろうな、と白沢が言いつつスマートフォンで今日の天気などをチェックしていた。
朝ご飯の準備に関しては、任せてと言われてしまっているので若干手持ち無沙汰というところもあったのである。
「朝日って、まさかお前も?」
「ほら、昨日モデルにしてひたすら撮るっていってたし。夜中にこっそり外に出て行くのが見えたから、追いかけた感じで」
そしたら、朝日をバックにしたのも撮るぜー、みたいな話になっちゃってねぇと、美鈴がちょっと遠い目をする。
仕事で長時間の撮影をすることはあるけれど、今朝のはそれにも増して、二人のカメラマンに撮られ続けるということもあって、結構つかれたのだった。
まあ、あの二人のやりとりが微笑ましいなとは思ったけれども。
「相変わらずだなぁ、あいつ……でも、その。美鈴は眠気とかは平気?」
「早く寝かせてもらったから。それより二人ともお腹の具合はどう?」
もうちょっとでご飯はできるだろうけど、と言われて、ぐるるとお腹が鳴った。
「あはは。とりあえず顔洗ってきて。それで朝食にしましょう」
ご飯はたっぷり炊いてあるから、いっぱい食べてね、と言われて早見は洗面所に向かった。
朝食は三人だったけれど、美鈴が作った鮭とキノコのフライパン蒸しと味噌汁は絶品で、いいなぁと食べ終わる頃にぼんやりとつぶやいてしまったほどだった。
おそまつさまです、と食べてる風景をじぃっと見ていた美鈴は笑ったのだけど。その顔を前に早見は、何も言えなくなってコップに注いだ水を手早く飲むことしかできなかった。
ちなみに、美味しい美味しいと二人がもりもりおかずを食べきってしまったのもあって、その後のっそりと起きてきた木戸の分は綺麗さっぱりなくなっていたわけだけれども。
せっかくの朝ご飯が……とがっくりうなだれた姿を励ますまでが、コテージでの出来事となったのだった。
鮭を焼いて食べましょうということで、コテージにはグリルなくね? とか思ってフライパンでできるものをー、という感じでこうなりました。
一人分ずつ焼くわけじゃないので、そりゃ二十歳過ぎの男子の胃袋にかかれば、もう……ね。
というわけで、かおたんは一人フライパンに残った味付けて焼きめしなんかを作って食べましたとさ。
っていうか旅行が長いけど、二日目もあと何話かついやす予定でございます。もうちょっとお付き合いを。