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582.男友達と、夏旅行12

さあ真夜中の撮影会はっじまるよー!

本日は途中でちん入者が登場でございます。

「はい、そこでちょっと前屈みで」

 いいよいいよー、とカメラを向けると、むはぁと思い切り美鈴は肩を落としていた。

 うーむ、さっきからいろいろな角度で写真を撮らせてもらっているのだけど、さすがにそろそろ疲れが出てきてしまっている感じだろうか。


「さて。どうしたもんかな。そろそろコテージ戻る?」

「それは……はい。というか、ちょっと休憩?」

 まだまだ満足してない顔してるし、と美鈴は言いながら砂浜に腰を下ろした。


「ありゃ。顔に出ちゃってるかぁ。いちおうその……結構撮ったから満足はしたよ?」

 ほんとほんと、といいつつルイもその隣に座り込む。

 先ほどまで三脚を立ててひたすら撮影をしていたわけで。

 いちおうは満足といえば満足なのだけれども。


「どんな感じかな?」

「えっとね、ちょっとまってね」

 カメラからSDカードを抜いてタブレットのほうに画像を表示させる。

 いちおう、コテージについてから充電してるからこっちの電気はほとんど満タンである。

 カメラは半分以下になっちゃってるけど、ちゃんと予備のバッテリーは持ってきている。


「雰囲気は出てるとは思うんだけども」

 どうだろ、と先ほど撮った写真を表示させる。

 海辺で夜に歩く女の子っていうのは、ちょっと幻想的な感じでいい仕上がりなのである。

 なのだけども。


「どうすれば夜でも楽しげにできるか、というのが課題かなぁ」

 綺麗に撮れていると思うけど、やはり夜の海を背景に一人での撮影というのは、なんというか、ちょっとばかり日常とはかけ離れているものである。

 花火なんかでもやってればまた別かもしれないけれど、美鈴くらいの若い女子が一人暗い海辺にいるというのがまずあまり普通な光景ではないように思う。


「たとえば、エフェクトをかけてみるとかなら、まぁ……あれだし、エレナがモデルでコスプレでもしてればまた深夜の海もまったく別物に仕上がるんだろうけど」

 一般的な日本の光景だと、深夜の海を歩くシチュエーションは、難しいかもしれない、とルイはつぶやく。

 撮っておいてなんだけれど、そもそも背景とモデルのミスマッチではないか、なんていう風に思ってしまったのだ。


「現実っぽくない、か。なら、こんなのはどう? 二人は駆け落ち中の男女で、両親の反対をおして逃避行中。それで夜の海辺で夜を明かすの」

「ストーリーを噛ませていく、か。悪くは無いけど、ちゃんと演じて欲しいかな」

 そもそも、男役はエアーになるけど、よろしいか? と言うと、えぇーと美鈴から不満声が漏れた。


「そこはルイさんやってよ! ほらっ、きりっとかっこよくさ。愛をささやいたりとか、君を離さないよ、とか」

「あたしに演技の才能はないの。それにそんな台詞は歯が浮きそうで、ちょっと」

「えぇー、せっかくなんだから色恋系の演技とかもしてみたいよー」

 まあ、役者ってわけじゃないけどさ、と彼女は肩をすくめた。


「そこは他の誰かにやってもらってよ」

 今日はじゃあ、エアーでよろしく、というと、しょーがないなぁと美鈴さんは渋々立ち上がってくれた。

 さて。先ほどとはちょっと違って、ここからは演技と背景という感じの撮影だ。

 果たしてどういう顔を見せてくれるのか、とても楽しみである。


「じゃー、彼氏の名前はカオルで。こんなところまで一緒に来てくれて、ありがとう」

 さて。そんなわけで深夜の海辺に男女が二人設定をすることになったわけだけれども。

 ……ううむ。カシャリとシャッターは切っているものの、なんというか。


「……崎ちゃん地味に演技上手かったんだってのがよくわかる」

「ほ、本職と比べられても困るってば! しかも相手はあの国民的美少女なのに」

「キャラ設定が雑に過ぎるんじゃないかなぁ。舞台の撮影に行ったとき、根掘り葉掘り聞いたりしたこともあったけど、そこの役者さんたちはある程度答えられたし」

 いくら即興とはいっても、逃避行中の男女ってだけだとちょっとイメージ膨らまなくない? とルイは首を傾げた。

 エレナであれば、男×男の娘になるわけだけれど、関係性からまず作っていくと思う。

 近所の幼なじみだったり、どっちが年上なのか、とかそういうのだって大切だ。

 口調だって、それである程度決まる物もあるだろう。

 そして、あとは逃げている理由である。

 どうして周囲に反対されているのか、というのもある程度固めていた方が役には入りやすいのではないだろうか。


「じゃ、じゃあ、実のお兄ちゃんと妹設定でいいです。けっして結ばれてはならない二人! けれども思いは断ち切ることはできなくて!」

「あら。お兄ちゃんと男の娘関係は、エレナさん大好物ですよ」

「……もう、どうしてそこで男の娘方向に話を持って行きたがるかな、この人は」

「なんというか、癖で」

 ごめん、他意はないし、他の女子撮るときもこんなんです、というと、はぁと大げさにため息を漏らされてしまった。

 いや、でもエレナさんの撮影で慣れてしまってるところがあるから、キャラメイクってなるとどうしたってそっちの方も頭に浮かんでしまうのです。


「そんなわけで、カオルお兄ちゃん。せっかくの海を楽しもう」

「お兄ちゃんて……いや、反応するからいけないんだよね、これ」

 もーいいや、と思ってじぃとこちらに視線を向ける美鈴の撮影を続ける。

 先ほどの設定なしの状態よりは、いくらかは夜にここにいる理由というのはしっくり来たかも知れない。

 昼の砂浜は避けたいという心境も、今の彼女にはぴったりといったところだろうし。


「びっくりするくらい真っ暗だね」

 月明かりがあっても、さすがに沖の方は真っ暗な景色だ。

 水面だけが月明かりで輝いていて。そしてそんな波打ち際に彼女は足をつける。

 昼に入ることができなかったその海へ。


「こんなところにいると、ほんと、お兄ちゃんと私の二人きりしか世界にいないんじゃないかって思っちゃう」

「まー、こんな深夜に海辺を歩くのは、アニメのキャラくらいだしね」

 花火をやるにしてももちっと早い時間じゃないかね、と思いつつルイはシャッターを切る。

 ぱしゃりと海遊びを始めた彼女の姿を撮影するだけで、割と精一杯なのである。


「もぅ、お兄ちゃんったらさっきから、返事してくれないし……えっ、見とれてたって」

 やだなぁもう、カオルお兄ちゃんったら、と彼女は少し恥ずかしそうな表情を作る。

 演技ではあるんだけど、ちょっとずつ入ってきているということなのだろう。

 恥ずかしそうな少女の顔というものを上手く作れているのではないだろうか。


「でも、昼に、あたしのことかばってくれたときは、嬉しかったなぁ。そんなのおかしいってみんな言うけど、いつだって大丈夫だって言ってくれるんだもの」

 くるりと振り返りながら少し前屈みになって、にっこりと笑う顔が月明かりに照らし出される。

 あ。演技しているからなのか、さっきより良い表情になった感じだ。

 これは思う存分撮らなければ。


 カメラを向けて、その表情をしっかりと押さえておく。

 うんうん。きちんと役に入ればいい顔もできるじゃないのさ。

 今はさすがにスキャンダルつらいと思うから、素でその顔は作れないとは思うけれども。


「そんなカオルお兄ちゃんがいてくれたから、今までだってずっとやってこれたんだ」

 前にいてくれてありがとう、というその顔は、なんと言えばいいのか。

 壊れそうで、それでもまだ諦めていないような。そんな。


「はい、一枚いただきました!」

 無意識にシャッターを切った時、不意に背後から声がかかった。

 二人だけの世界だと思っていたところに、思いっきり水を差されたような感じである。

 しかも、それをやった相手の声は、どうにも聞き覚えるのあるものだったのだ。


「まったくもう、ルイったらこんな時間に女の子連れだして、一体何をやってるのやら」

「さ、さくら?」

 え? へ? なんで? え、とちょっとパニックを起こしていると、彼女は思いっきりルイのほっぺたを引っ張った。


「ちょっ、ひゃめれ……って」

「真夜中の夢かと思ったら、現実みたいね。それで被写体さんは今や時の人になっちゃってる羽屋さんかぁ」

 こんばんはー! とさくらは思いっきり波打ち際にいる彼女に手を上げて挨拶をする。

 いちおう、顔見知りというのもあるから、美鈴はちょっと驚いた物の警戒は解いているようだった。


「こんな時間にどうしたんですか?」

 ってか、さっきまでの思い切り見られてました? と美鈴はちょっと恥ずかしそうにそんなことを言った。

 ルイに撮られるのは覚悟していたけれど、第三者に目撃されるとは思っていなかったようだ。


「海辺で泊ったら、深夜の浜辺の撮影はするもんじゃない?」

 どーせ、あんたも同じでしょ? とさくらがじぃとルイに視線を向けてくる。

 まあ、そりゃ間違いのない言い分なわけだけれども。


「まさか来てるとは思わなかった……まさか、デート?」

 ぼそっというと、またほっぺたをぴろんと引っ張られてしまった。どうやら違うらしい。


「石倉さんの仕事の関係よ。アシスタントとしてくっついてきたの。これから夏だし、水着の写真とかもバンバン撮ろうって感じでね」

「あ、たしかそんな話ありましたね。私はこの前の一件で完全に水着のオファーはなくなりましたが」

「うわっちゃ。思いっきりクリティカルしちゃったか」

 ごめんごめんと、さくらは謝りながら三脚を設置し始めた。

 どうやらここらへんで固定して写真を撮ろうということらしい。


「あんまり気にしてないので大丈夫です。事務所にしても今回の件は不意打ちみたいなものでしたし、落ち着いてからまた再出発するつもりではいますから」

 これで終わりってことはないので、と彼女は言った。

 うん。力強い言葉で、ちょっと安心である。


「でも、うちの石倉が撮影するのは、もしかしたらちょっとアレかも……」

 うーん、どうなることやら、とさくらが腕組みをしてうなる。

 言いたいことはとーってもよくわかった。


「石倉さん、男の人の方が好きだからなぁ。ここまで行ってて男子判定をするかと言われるとわからないけど……」

 あの人だしなぁとルイが言うとうんうんと、その彼女であるはずのさくらは、大げさにうなずいていた。

 不憫な子である。


「思えば、他の子に比べるとずいぶんと優しくされたような気がする……」

 え。それってそういうことなの? と美鈴はがっくりと砂浜に崩れ落ちた。

 あ。なんか世間の風がどうのってより、今の一言の方がクリティカルだったらしい。


「ちなみにあの人、あたしがルイ状態だと目の敵にして、馨状態だとベタ甘なので、性別で態度を変える節があります」

 そんな相手とよくさくらは上手くやってるよね、というと、いやぁと彼女は照れたように頭をかいた。

 いや、あんまり褒めてはいないんだけれども。


「本能的に男性扱いされるってのが、なんか一番精神的にくるものがあるかも……こんなに頑張ってるのにどこか違うってのを突きつけられてるみたいで」

「まあまあ、お嬢さん。それが切り替えられるやつが目の前にいるんだから、見習ったらいいんじゃない?」

 きっと、それすらどうにかなるってば、とさくらはわざわざ美鈴の手を取って励ましの言葉を言った。


「ええと、ルイせんせー! 女子っぽくなるためには何が必要でしょうか!」

「って、センパイからせんせーになっちゃった!? っていうかあたしみたいなパートタイマーにフルタイムさんが何を聞こうというのかよくわからないんだけど」

「でも、石倉さんには、この女狐めみたいな扱い受けてるんでしょう?」

 それって、すごいじゃん! と言われて、まあーそれ言われると石倉さんは欠片もルイに男っぽさを感じていないということではあるとは思うのだけど。


「自己暗示じゃないかなぁ。美鈴って、自分が男であったことを、忘れられてる?」

「うぐ……それを言われると、ほとんどトラウマです……はい」

「たぶん、そこらへんじゃないかなと思うんだよね。あたしは正直最初はキャラ作ってたけど、二週間くらいで慣れて、目の前の撮影が楽しくってそっちに没頭しちゃって。正直、一線を越えない限りはあんまり、男だとか女だとかの意識はないんだよ」

「一線って?」

「目の前で女子がおもむろに服を脱ぎ始めたりしたとき、かな」

 どこぞのさくらさんとか、平気で脱ぎますし、と言うと、さくらは、えぇー、うちらの間柄でしょうにー、と言い始めた。

 こちらの格好の時はもう、完全にさくらは切り分けて考えているらしい。


「一般的な人って、自分の性別って意識しないものじゃない? そこを気にするって時点で、きっとなにか違和感なりが出ちゃうんじゃないかな」

 極めてから忘れるってのが一番自然なのだと思うな、と言うと、この状況で忘れろってのはむずかしいー、と美鈴はぼやいた。


「なら、ルイ。せっかくだから夜明けまで頑張って、美鈴たんが自分を信じられるようになる写真でも撮ってみる?」

 あんた、前に似たようなことやったでしょ? とさくらは切り出す。

 つまりは、千歳の時にやったようなことだ。

 でも、いまさらあれだけモデルになっているこの子に対してそれが有効なのかといわれると悩ましい。


 とはいえ。夜明けの写真の魅力ははかりしれない。

「良い提案! でも、夜明けっていっても徹夜になっちゃわない?」

「あたしは平気。夜の撮影をするってことで、早めに寝ておいたから」

 お正月の時と同じ感じ! とさくらはえっへんと胸を張った。

 やる気満々ですと言った感じだ。


「それならわたしもさっきまで寝落ちしてたので」

 眠気はあんまり気になりませんと美鈴も言った。


「……ここで、一人だけ寝ますなんて言えないじゃん」

 さて。まったく睡眠を取っていないのはルイだけなわけだけれども。

 目の前で、夜明けの撮影といわれてしまえば、頑張らないわけにはいかない。

 場合によっては、明日ちょっと昼間にでも寝かせてもらおうかと思う。

 幸い、最後列のところを上手く使えば、ごろんと横になれる仕様になっているのだ。


「それじゃー、撮って撮って撮りまくって、いかんともしがたいくらい、女の子扱いをしようではないですか!」

 ふっふっふ。石倉さん以上のやつを撮ってやるのです、とさくらが不敵な声を上げた。

 おお。あのさくらさんが師匠と同じ被写体に燃えていらっしゃる。


「あ、じゃあささくら、ちょっと悪いんだけど、撮っててくれる? あたしはちょいと夜食の準備してくるから!」

 コテージはすぐそこなので! とびしっと指をさすと、はいはい、りょーかいでーす、と緩い声が上がった。

 そう。美鈴さんは表情にあまりだしていないけれども、夕飯をあまり食べていないのだ。

 朝までとなってしまったら、ぎゅるぎゅるとお腹が鳴ってしまうに違いない。


「久しぶりだなぁ、ルイのご飯。楽しみにしてるね!」

「って、さくらも食べるの!?」

「もっちろん」

 ほら、美味しいご飯をまってるよー! と言いながらさくらはシャッターを切った。

 まったく。

 本当に彼女もたくましくなった物である。

旅先で知り合いと会うーということで、さくらさん登場でした。

最近出番がない! という話もあって、出るならここか! となった次第です。

石倉さんのサーチ能力がなんかすごいことになってるけど、それを突破するにはほんと、どうすればいいのやら、ですね。


さて、次話は翌日昼のお話。男子達にも活躍の場を与えなければなりませぬ。更新はちょい遅くなるやも。

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