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580.男友達と、夏旅行10

11.13 美鈴さんの喉仏のことを微調整。同窓会で少しあると言ってしまっていたので。

「さて、コンロの準備はできたから、じゃんじゃん焼いていくよ!」

「おー!」

「下ごしらえ全部やってもらっちゃってありがとー!」

 さて。コンロの炭がぱちぱち音を出していた。

 コテージに到着して、とりあえずゲストな美鈴にはリラックスしてもらって、早速夕食の準備に入ったわけなのだけど。


 ま、料理をお任せできるか、といえばそんなこともないので、庭のスペースでバーベキュー用のコンロの火をつける係を二人にはお願いした。

 火をつけてもらう事も大切なお仕事なので、それをねぎらいつつ、網の上にばんばん海鮮を乗せていく。

 その隣には、先ほど購入した小さめの一斗缶のようなブリキの箱を配置だ。


「お醤油も準備したし、あとは焼き上がりを待ちつつ、お酒は……美鈴は飲む?」

「軽いのがあるなら、ちょっと飲んでおこうかな」

「おっ、飲んじゃう? じゃー、俺もビールで!」

 さっき、お酒買ったし今晩は盛大にもりあがろうぜ! と白沢氏が賑やかに言った。

 うんうん。そうだね。なにげにここに来るまでにスーパーにも寄っているからね。

 そこで飲み物や野菜なんかを買ってきたわけで。


「って、かおたんは日本酒かよ……」

「ん? ビールより日本酒派だよ? だって魚介だもん。こりゃあ日本酒併せるしかないじゃん」

 さて。そんな中からみんなそれぞれの飲み物を取ってもらったわけだけど。

 木戸が手に取ったのは、日本酒の瓶なのだった。


 みんなに日本酒って飲む? って聞いたら、ちょっとと言われたのでおとなしく四合瓶での購入である。

 今日のメインはイカやカニ、海老に貝類なので、白ワインというのもありだとは思ったのだけど、食材を思えば日本酒が一番だと思ったのだ。

 そりゃ、焼き物だからビールというのも選択肢としてはありだろうけれどね。

 え、一人で四合かよって話だけど、料理にもちょっと使ってるので、実際はそれを全部一人で飲むわけでもない。 


「そんな可愛い顔して、実は酒豪だったりすんの?」

 すげー、と白沢氏は無邪気な顔だ。おろおろしている早見くんとは大違いである。


「私はお薬の関係もあって、お酒はあんまり飲まないようにしてるんだ」

「ああ、肝臓に悪いって話だよね。でも美鈴って注射派なの?」

 それなら、そこまで負担もないのでは? と首を傾げると美鈴はうわぁという顔をしながら軽めのチューハイの蓋を開けた。


「一応ね。って、そっちまで精通してるとか、実はかおたんも治療をしている……とか?」

「ううん。いろいろ話を聞いたり、他にも友人にいるから。錠剤の方が肝臓に負担かかる、みたいなね」

 治療とかはする気はないよ? というとそれでこれかー、と言いながら美鈴はくいっとお酒をあおった。

 軽いお酒っていってもそんなペースでのんではダメだと思うのだけど。

 自分のペースが大切だと思う。


「そろそろ海老とかいいかな。ほい、本日の主役からどうぞ」

「主役かはわからないけど、いただきます」

 あふいけど、おいしい! と海老をほおばってる姿を一枚撮影。

 今日はバーベキューではあるけれど、それぞれで使えるテーブルを完備だ。

 飲み物を置くこともできるので、撮影するのに不都合はない。


「さぁ、野菜もじゃんじゃん行こう」

 キノコをお食べ、と早見くんに勧めると、自分で食べるからっ! と何故かぷぃとそっぽを向かれてしまった。

 あらま。あんまり仕切りすぎるのもよくないだろうか。


「うわ、タマネギあっまい」

「やっぱし炭火はいいねぇ。海のそばでやるの久しぶりだし、すっごい楽しい」

「ほほう。いいなぁー。私なんて仲間内のバーベキューとか初めてだよ、ほんと」

 ロケとかで海辺に行っても、ロケ弁ですと美鈴は言った。


「早見くん達は二人で遊びにいったりしてそうだけど、どうなの?」

「まあ、それなりにかな。でもこんなに豪華なバーベキューは、家族と行ったとき以来かも」

「俺は去年大学のサークルでわいわいやったかな。美鈴っちほどの美人さんはいなかったけど!」

 ヤローばっかのバーベキューで、そりゃもうみんな、食べるのに夢中だったよ、と白沢氏はビールの蓋を開けた。プシュっとした音がなる。


「ね、かおたん。もしかしてそのバーベキューって、彼女と行ったり?」

 ねぇ、どうなの? と美鈴がじぃと見つめてくる。

 これは、あれだね。例のスキャンダルの話から、どうなってるの? ってのを聞いてる感じだ。

 うーん。白沢氏がいるからあんまり具体的な話はできないけど。


「いちおう、同行はしたけど、他にも人はいたんだよ? ほら、さっき一緒になった千歳だって一緒だったし」

 美味しくご飯食べて海遊びして終わりです、と言うと、えぇー、つまんなーい、と美鈴は膨れた。

 あの、美鈴さん? もう酔ってらっしゃいます?

 いくらか言動が幼い感じがするんですが。


「木戸っちの彼女か……こんなに可愛くなるってなると、相手はどう思うもんなんだろうな」

「……朝起きると彼氏が可愛い格好して味噌汁作ってるとかなわけだろ?」

 男としては、その状況は嬉しいだろうけど、女子からするとどうなんだろうな、と男性陣二人は言いながらタマネギと椎茸をいただいていた。

 よい焼き加減のようである。


「味噌汁は作るけど、可愛い格好をするかどうかは……ああ、するのか」

 現状、崎ちゃんの家に行くのであれば、それは当然ルイとしてだ。泊るかといわれると、さすがによっぽどじゃないとそんなことはないけどね。そもそもあの家に行ったことだって数えるほどしかないくらいだし。


「って、木戸っち、まさか彼女の前でもそっちの格好ばっかりとか?」

 それはなんていうか……不憫? とあの白沢氏にまで言われてしまった。

 いや、そうはいっても現状はそういう付き合いが一番世間の風当たりが弱いので、仕方が無いのだ。


「それに関してはノーコメントです。ほい、そろそろそっちの蒸し焼きが完成するよ」

 さぁ、おいしく貝をいただきましょう! と、コンロのわきに置いておいた一斗缶の小さいやつに視線を向ける。

 ちなみに軍手装備の上にビニールの手袋を重ねてる状態だ。これで、熱々の貝をみんなにご提供だ。


「まさか缶で料理をするとは……」

「割と最近テレビとかでちょいちょいでてる調理法ではあるけどね。酒蒸しをこれでやってしまおうって感じでね」

 はい。先ほど一斗缶の小さいのという話をしていたけれど、やろうと思っていたのは、ガンガン焼きといわれている物だった。

 四角い缶にカキとホタテを入れて、日本酒を振りかけて火にかける。それだけで、良い感じに蒸し焼きになるという調理法なのである。


「カキはちょいと周り落とさないとあかないかも」

 そこまではやっちゃうね、と調理ばさみでばりばりと周りの殻を削っていく。

 とりあえず一個目はこちらでやって見せて、みんながやりたければどうぞ、といった感じだ。

 ある程度周りが取れたらナイフを軽くいれてテコの原理で貝を開ける。

 まあ、あいてるやつもあるっちゃあるんだけど、全部がそうじゃないからね。


「うわぁ、良いお酒使ってるだけあって、すっごく香りがいい……」

「すっげぇな。木戸っちが日本酒買ってる時は、えって思ったけど、こりゃ確かに日本酒の香りと風味が思い切り移ってるし、飲み物も日本酒でもいいかもな」

「んじゃ、ちょっと飲む?」

 ほい、お酌したげるよ、というと、やったぜ! と白沢氏はグラスを差し出してきた。

 そうなると思って用意しておいた小さめのグラスである。


「じゃー、私ものんじゃおうかなぁ~」

「いや、美鈴はダメでしょ。ほろ酔い通り越してるんだし」

 あげない、というと、えぇーと不満そうな声を上げたけれど、カキをあげるとおいしーねー、とかいいながら美鈴は貝をはむついていた。

 ちょっと子供っぽい感じが出ていて、とても可愛らしいと思う。

 もちろんその顔も一枚押さえた。


「んむー、まだまだ大丈夫だよー」

 ちょっと味見くらいでいいからー、とそれでも美鈴は日本酒の方に興味津々らしい。

 3%のお酒でそんなふわふわしてるのに、絶対飲ませるわけにはいかない。


「あんまり、酔っ払うと地声でるんじゃないの?」

「だーいじょーぶだもん。私、喉仏そんな出てないもん」

 ほれほれ、と美鈴が少し上を向いて喉を見せてくる。

 ああ、確かにあんまり喉仏はないね。無いわけでもないけど。

 けっこうエレナさんとか千歳タイプだった。

 同窓会のときはもうちょい声を作ってる印象だったんだけど。


「かーおたーん! なにうらやまけしからんことを」

「早見くんも触ってみればいいんじゃない?」

 どうかな? いいかな? と美鈴に言うと、とろんとしながら美鈴はほれ、と喉を早見くんに向けた。

 さて、そんな風に喉を差し出されても、早見くんは盛大にきょどるわけで。


 触って良いっていうんだから、触って感触を確かめればいいんじゃないかなと思うのだけど。


「いったれ。はやみん。男を見せるんだ!」

 いえい、と言いながら白沢氏は日本酒をあおる。

 っていうか、ビール飲むみたいにあおっちゃ君も酔っ払いになりそうだけれども。


「あとで訴えるとか言わないでくれよ」

 そっと。まるで壊れ物を触るように、彼は美鈴の喉のあたりに人差し指を這わせた。

 まあ好きな人の体に触るチャンスなんてのは、こんな物なのかも知れない。


「あははっ、くすぐったいよ」

 あまりに力が入ってなかったからなのか、美鈴はちょっとこそばゆかったようで、陽気な笑い声を上げた。

 その声も確かに女性的なものだ。


「木戸っちは喉仏ある、よな?」

「ん? まあ、そだね。軽くうつむくとまず目立たないけど」

 それと、触らせないからね? といいつつホタテをあむりといただいて、日本酒をちびりとなめる。

 んむ。うまい。


「んで、なんでそんなになめらかに高音でんの? 声変わりしてるってことだろ?」

「したけど、発声法でなんとかね。最近はネットにいろんな情報があるからさ」

 練習して、それからは……んー、日常で使っていって慣れた感じかな、というと、結構大変なことなんだけどぉ、と美鈴がとろんとした声を漏らした。

 きっと、本人としては声変わりしてないけど、もしそうだったらどうだったのか、というのを調べたりしたことがあるのだろう。


 でも、澪だってマスターしたわけだし、けしてできないことではない。

 というか、最近はどうせしのさんだし、の一言でいろいろ済まされることが多かったので、素直に声ってどうなってんの? とか聞かれるのは本当に久しぶりの話でちょっと新鮮だなと思ってしまった。


「一発芸としては面白そうだけど、場所を見極めないときっと、俺がやったら変態扱いなんだろうなぁ」

 もちろん、美鈴っちとかがかわいい声なのは全然問題ないけどな! と白沢氏はホタテをいただく。

 彼の言いたいこともなんとなくはわかった。

 昼間もちょっとあったけれど、もさ黒縁眼鏡モードの木戸が可愛い声とか出していると、やっぱり違和感というものを周囲に与えてしまう物なのだ。

 もちろん違和感なんてものはじきに拡散して溶けて消えるものではあるけれど。慣れというものの働きである。


「必要性がなければ別に覚えなくてもいいんじゃないかな。女装するときには声って大切だけど、そうじゃないなら別段今のままで十分でしょうし」

 それとも、そういう願望があるなら、手は貸しますよ、ふふふ、というと二人は、俺達は無理ー、とちょっと引いた。

 おやおや。なかなかに新鮮な反応である。

 思えば木戸の周りにいる男子はなんだかんだで、女装したい人が多くいるので、一般感覚というのに触れる機会というのは珍しいのである。

 え、男子と触れあわないからだろって? ……そですね。


「それを思えば美鈴は、どっからどーみても、女子なんだけどなぁ」

 あんなスキャンダルが出るだなんて、本当に可哀想と、頭をなでなですると、されるがままにしてくれた。

 気持ちいいかどうかはわからないけれども。


「俺も今日一日一緒にいて、なんつーか、そんなのスキャンダルにしなくてもいいのにって思ったな」

 はやみんもだろ? と白沢氏はちょっと酔っ払い始めたのか、げしげしと早見くんの肩をたたいた。

 ちょっと力が入っていて痛そうだ。


「僕はその……さ。あのときの同窓会の時からずっと、可愛いなって思ってて。それでいろいろ知ってもそれは変わらなかったよ」

「えぇー、小学生の頃からじゃないの? 好きな子にはちょっかいかけちゃうって感じだったじゃん」

「こらっ、かおたん。そこで茶化さない」

 僕は今の美鈴の事が大好きなんだから、と早見くんははっきりと言った。


 お酒の力も多少借りてはいるのだけれど、昼間のへたれっぷりが嘘のようにはっきりとした告白である。

 でも、もともと連絡を取りたいと言い出してる時点で、いろいろと察するところはあるわけだけどね。

 さて。そんな彼の告白はどうなったかというと。


「すぅ……」

「おっと」

 美鈴さんの体がこてんと木戸側に寄りかかるようになってしまった。

 どうやらアレだけのお酒で寝落ちしてしまったらしい。


「まあなんだ。まだチャンスはあるぞ、はやみん」

「そうそう。とりあえずは早見くんには是非とも美鈴たんをお姫様抱っこして、コテージに寝かせてきていただきたい」

 そして途中で目が覚めて気まずくなるがいい! と指でフレームを作りながら言うと、撮るなよ? 撮るなよ? と早見くんは言いながら立ち上がった。

 どうやら、運んで上げるつもりでいるらしい。


「おんぶと抱っことどっちがいい?」

「おんぶでお願いします」

 さすがにお姫様抱っこは筋力的に無理、と言い切られてしまった。

 まあ、美鈴はそんなに重くはないとはいっても、最低四十キロはあるだろうしなぁ。


「それじゃ、先生、お願いいたします」

 優しく美鈴を引き剥がしつつ、上手く早見くんの背中に覆い被せる。

 なんとか体制を立て直して彼はコテージの方に向かっていった。

 ちゃんと支えることはできているようだ。


「さて、それじゃあたしもちょいとコテージの方から、あれ、もって来ちゃおうかな」

「お、さっき仕込んでたやつ? 楽しみだな」

 扉は開けて上げようと、早見くんをコテージに招き入れてから、さっさと準備を済ますことにする。

 外でバーベキューはやっていたわけだけれど、実はコテージの中のコンロでも一つ料理を作っていたのである。

 もちろんそっちだけでお腹いっぱいになるならそれでいいんだけど、育ち盛りの男子達がいるので、ご飯も用意しましょうという趣向なのだ。


「海鮮炊き込みご飯、美鈴の分はちゃんと取っておこうね」

 食べ尽くさないように気を付けてくださいな、というと白沢氏は、りょーかい、と陽気に言いながら、ビールをあおったのだった。

バーベキューっていうと、やっぱりエレナさんのプライベートビーチのアレを思い出すところです。

あのときはお客さんだったけれども、今回はかおたんが仕切る方向で。

にしても、美鈴さんお酒弱かったんか……と、しみじみ。まあかおたんが強すぎるので、弱い子も出したいよね、ってな具合です。


そして、はやみんは不憫枠……になってしまわないか心配ですね!


さて、次話は深夜となります。せっかく浜辺にきてるんだから、撮らないわけがないのです。

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