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579.男友達と、夏旅行9

また一日おくれてしまった!

そして本日はちょーっとヘイト回でもあります。

「なあなあ。かおたん。今付き合ってるやつとかいるの?」

「いきなりぐいぐい来るようになった……」

 はぁ、と、運転席に座りながら思い切り女装姿の木戸はため息をついていた。

 美鈴のみつくろったサンダルでの運転はさすがに危ないので、靴だけは元のものを使用しているものの、それでも相変わらずの肩だし状態である。

 ちらりと白沢氏の視線が太ももに向かっていたりもするんだけど、ショートパンツはやっぱりちょっと危険が危ない衣装じゃないかなと思ってしまう。


「あんまり積極的にいくと、いくらかおたんでも嫌がるんじゃないかなぁ」

 ねー、と今の状態をにやにや楽しんでいる美鈴が言った。

 さて。買い物と着替えを済ませたあと、待っていたのは美鈴さんによるメイク講座だったわけで。


「いやぁ、でもここまで美人さんに化けるとなると、気になるっしょ。っていうか、メイクの最中も是非見せて欲しかったくらいだし」

 どうして二人きりでやってしまうのか、と白沢氏は言うわけだけど、それはもう仕方が無いのである。

 早見くんなら別にいいのだけど、素顔を見せられない相手には、無理なのである。


「女子のメイクのお支度中は密かにやるのがお約束なのです」

「ええ、でも電車でメイクしてる子とかいるじゃん」

 別に見られてもいいじゃん、と白沢氏はいうものの、えぇーと美鈴は呆れた声を漏らした。


「もちろん、電車でメイクしてる子はいるけど、あれは他の乗客が自分とは全く関係ない相手って思ってるからだよ。知り合いの異性の前でがっつりメイクってなると、それはかなり関係が進んでないとね」

「それに、あたしみたいなのは、がっちりフルメイクしてから外出をしたいです」

 スキンケアとお化粧は必須です、と言いながら木戸は信号が青に変わって車を走らせる。


「かおたんはすっぴんでも十分可愛いと思うけど」

 ま、メイクした方が大人っぽくはなるかな、と美鈴は言った。

 そう。本日のかおたんメイクはチークやらアイシャドーやらいろいろつけていて、やや大人っぽい感じの仕上がりなのである。

 普段は割とナチュラルな方向でいっているので、こういうのは珍しいのである。


「だよなぁ。小学生の時はほんとやばかったし」

 ほんと、あのときの姿の未来像が今のこの感じだといっても過言ではない、と早見くんまでうんうんうなずきながら言った。

 いや。みんなそう言うけど、普通に男子大学生とかやってますけれども。黒縁さんと共に。


「正直、あたしも木戸くんうらやましいって思ってたな」

 しかも、男子からの声かけもマイペースに一蹴するし、ブレないなぁってね、と美鈴は言う。

 彼女からすると、周りに染まらない木戸に、ちょっとした憧れのような物を持っていたらしい。


「ううむ。その頃はなんというか……あほな子ですんません」

 我ながら、中学も中頃になるころまでは、周りの目というものに本当に無頓着だったのである。

 ま、それはそれで楽しい日々ではあったんだけどね。


「幼なじみって、いいよなぁ。俺も久しぶりに地元の友達に連絡とってみるかな」

「同窓会とかやるなら、行っといた方がいいかもな」

 でも、遠いんだっけ? と白沢氏に早見くんが問いかけている。

 そういや高校くらいでこっちに越してきたとかそんな話だったよね。

 つい幼なじみトークをしてしまったけれど、彼からすると少し疎外感みたいなものはあったのかもしれない。


「そして、同級生の中に、きれいになった子がいる、と」

「だよなぁ。ま、綺麗になった男の子はいないだろうけどな」

 まー、それでも、すっげぇ大人っぽくなってるんだろうなぁと、白沢氏は鼻の下を伸ばしているようだった。

 同窓会の話に良い感じに食いついたようだった。


「さて、そんな話をしつつで、海鮮のお店に到着ね。新鮮なの仕入れて、コテージでバーベキューと行こう」

「おぉっ。それは楽しみだな!」 

 美女二人と一緒にバーベキューとか、サイコーだ! と白沢氏はテンションを上げているようだった。

 まあ、だが男なのだが。

 

「さてと、あとは上手く駐車できるかどうかだけども」

「大丈夫なんじゃない? さっきだって上手く停めたし」

 左折して海鮮市場の駐車場に入ると、平日だというのにそれなりの車が停まっていた。

 そこの空きスペースを見つけて駐車なのである。

 さっきの着替えを買ったところは、割と駐車場がガラガラだったのでよかったのだけど、こっちはいささか難易度が高そうなのだ。


「さぁ! 教習を思い出すんだ、かおたん! 車体をまっすぐにして、すっと後ろに入ればいいだけだから!」

「それが難しかったりしてね」

 まあ、モニターもあるし、なんとかなるかなと思いながら、恐る恐る車の隙間に駐車を試みる。

 うーん。なんとかこれで……いける、かな。


「あ、入ったじゃん。いいねいいね」

「大きい車だとこういうところが難しいよね」

「かおたんなら小さい車が似合いそうな気がする」

 可愛いやつな! と早見くんが言った。まあ、木戸家の駐車場はそんなに広くはないので、小型車で十分なんだけどね。

 というか、撮影と移動というのを考えると今のところは車を買う必要なんてまったくないのだ。

 敢えて言えば、スクーターだったり、自転車でいいような気がする。


「よっし。これで到着っと」

 じゃ、夜目指して、お買い物ちゃんとやっていきましょう! というと、みんなはおー、と元気に答えてくれたのだった。

 もちろんその姿も一枚カメラに収めさせてもらいました。



「おっ、ねーちゃんべっぴんさんだねぇ。観光かい? うちの魚はどれも鮮度がいいよ。ねーちゃんならちょいとおまけもしてやるよ」

 どうよー、と魚屋のおっちゃんにさっそく捕まった。

 売ることに貪欲ということなのだろうけど、ここはおとなしく見させてもらうというよりは、欲しいのあったら声かけてくんなさい! というようなノリの店のようだった。

 いつか、大トロ千円とか言い始めそうな勢いである。


「実は夜にバーベキューをやる予定なんです。なので、それにあいそうなの探してて」

 ふむんと、店に並んでいる魚たちを見て、考える。

 海鮮バーベキューだと、やはり花形は貝類となるだろう。そこは絶対に欲しい。

 あとは、イカとかだろうか。

 一匹丸々なお魚さんとかもいるけれど、こっちはどうだろうか。

 煮付けにするなら買っていきたいけれども、バーベキューにプラスするかといわれたら悩ましいかぎりだ。

 明日の朝ご飯用に仕込んでおく、というのはありなのかな。


「んじゃー、ここら辺かなぁ。人数は何人なんだい?」

「四人ですね。男性二人いるから、そこそこ量はあった方がいいのかなとは思ってますけど」

 ちらりと視線をみんなに向けると、おっちゃんもつられてそちらを向いた。

 交渉はお前に任せる、とばかりに、三人はちょっと離れたところで生け簀をのぞき込んだりしている最中だ。

 そして、その姿をみたおっちゃんはちょっとぎょっとしたような顔をした。


「な、あの子この前テレビ出てたじゃねーか。あいつも男なんだろ?」

 じゃあー、男性三人じゃないか、とさらっとおっちゃんは言った。

 うわぁ……美鈴さんに声が届いていませんように!

 せっかくの旅行なのに、嫌な気分にさせてしまうよ。


「食べる量は女子と変わりませんし、見ての通りああですから。女性扱いでお願いしたいものですが」

「でも、体は男なんだろ? そうなると食欲とかだって男並なんじゃ?」

 最近はああいうのがいっぱいいるけれど、どうなってるんだかねぇ、とおっちゃんは本当に素でそう言った。

 嫌悪をしている、というよりは理解ができない、というような困惑な声とでも言えばいいのだろうか。


「一般的に男性の方が量を食べるものではありますけど、女性で大食いの人もいますよね? それと同じで個人差ですよ? あの娘は体型維持の意味合いでも、そんなにたんまり食べるようなタイプじゃありませんから」

「そんなもんかね。でも、化粧を落とせばそこらにいるにーちゃんと変わらないんだろ?」

 よーわからんけど、とおっちゃんは腕組みしながらそんなことを言った。


 田舎……

 あーうー。さすがに一般常識としての男女間がつよいなぁ。

 仕方が無いところではあるけれども、ちょっと気分がいいわけではない。

 ある程度までは許容はするけれど、今回のおっちゃんの言い草はちょっとひどいと思う。


「いえ。彼女はメイクなしでも十分美人さんですよ。っていうか、よくご存じでしたね」

 彼女、若い女の子には名前は知られてても、おじさん世代ではそこまで知られてないと思うのですが、と木戸は言う。

 そう。美鈴はあくまでも女性ファッション誌のモデルが中心なのである。男性向けのグラビアとかに載ったとかならまだ、おっちゃんの目に入る機会はあるだろうけれど、その手のオファーは未だに来ていないようだ。

 理由は単純に、胸がそんなにないから、である。


「うちの娘がファンだったんだよ。それで永遠そんな話を聞かされてな。まさかあの美鈴が男だったとかーってな」

「戸籍も変えてるから、正確には元男なんですけどねぇ」

 いい加減、女子扱いしていただけまいか? とお願いすると、ううむとおっちゃんは困ったような顔をした。


「一度話をきいちまうとなぁ。そういう目でしか見られなくなるのは仕方ないだろう」

「……なら。あたしも実は男だって言ったら、どうします?」

「ねーちゃん、何を馬鹿なこといってんだ。ねーちゃんまで男だったら、町中に歩いてるねーちゃんらも男かもしれないなんて馬鹿な話になるだろう」

 うん。だから、そういう呪いをね。プレゼントしてあげようかなって。


「美鈴だって、今まで誰にも気づかれずにやってきたんです。それにあたしだって男じゃない保障なんてないじゃないですか」

 実は、町を歩いている子の中には、ひっそり混ざっているかもしれないですよ、というとおっちゃんは、なにを馬鹿なことを……と、ちょっと冷や汗を流しているようだった。

 どうやらいくらかは、テレビとお茶の間という境界線を壊すことに成功したようだ。


「だから、背後の情報とか無視して、見たままを感じてもらえばいいんです。あんな記者会見はなかったこと扱いで、是非」

 それより、貝を売ってはくれませんか? と笑顔で言ってやると、ああ、あいよ、とおっちゃんは思考を放棄して日常業務に戻った。

 美鈴本人に今の会話を聞かれていたら、さすがにちょっと別の店に行こうかなとも思ったけど、取り扱ってる商品が悪いわけでもないので、ここで食材はそろえていくつもりだ。


「なんか変な話しちまったから、これはお詫びな。みんなで朝にでも食べてくれ」

 さて。食材選びをして、これでお会計といったところで、おっちゃんは少し冷静になったのか、ビニール袋に入った鮭の切り身をこちらに渡してきた。人数分、四きれである。

 あらま。まさかこんな展開になるとは思っていなかった。


「ほら。娘があんまりいうから、ちょいとそっちの方向にいたけど、考えて見りゃお客を不快にしてるわけだしな」

 せっかくの旅行で嫌な気持ちにさせるのは、俺達の思うところじゃねぇんだ、とおっちゃんは言った。

 きっと、おっちゃんも最大限譲歩してくれているのだろう。

 理解はできないけれども、商売はするのである。


「ありがとうございます。明日の朝にでも良い感じに焼いて食べようかと思います」

 コテージの朝食に一品追加ですね、とにこりと笑ってみせると、おっちゃんは、お、おう。海鮮バーベキューも楽しんでくれな、と言った。

 あらかたの購入が終わったので、男性陣を手招きして、荷物を持ってもらうことにする。

 持参したクーラーボックスの中には、焼いて食べられるものが盛りだくさんだ。そして何も入ってない、一斗缶の小さくしたようなものも購入しておいた。


 店を出るときに、ちらっとおっちゃんが美鈴にじぃっと視線を向けていたのだけども。

 まあ、その不思議そうな顔はさすがに、撮るわけにもいくまいということで、木戸達は買い物を終えたのだった。 


田舎のおっちゃんが、美鈴の件を知ってたらこーだろなってことで。

ちょいとヘイト展開にしてみました。嫌うとかじゃなくて「困惑」ってやつですね。

そして今回はお買い物で終わってしまった……てか、まだ宿についてないってっていうのにびびっております。


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