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576.男友達と、夏旅行6

つい長くなってしまいました。

「いやぁ、美味しかったねぇ」

「ですです。アサリがいーっぱいはいってて。さすがは都会のフードコートはひと味違う」

 満足ですー、と千歳が軽くお腹をさすっていた。

 彼氏の前でそれはいいのか、とも思うのだけど、まあそれは仕方が無いのだろう。


 ちなみに、つい先ほどフードコートを出てきたばかりで、みなさん大満足のご様子だった。

 一個下の階がカフェやお土産どころなんかが集まっているのだけど、飯ならこっちかね、なんていうことで五階にあるフードコートを選んだ我々である。

 え。ちゃんとしたレストランに行かなかったのは、思いっきり金銭的な理由です、はい。

 それに、これから本場に行くので、本番はそっちでいいんじゃない? というような意見が多かったのである。


「ほれ、ご覧の通り、ちぃが女子の先輩に甘えているんだよ」

 どうよ、これ、と青木が白沢氏に声をかける。

 すっかり打ち解けたようで、ずいぶんと仲良しな感じだ。

 フードコートの中にはお店がいくつかあるわけだけど、みんな好き好きにご飯を選ぶ、という感じだった。

 男子組は、それプラス、あさりまんを食べるみたいな感じなのだった。


 ええ。木戸はあさりラーメンで、千歳はあさりごはんを食べていたので、それであさりトークとなっているわけで。


「ほんと、木戸くんって周りに併せて自由に変わるよね」

 さっきまでは多少ましだったというのに、この変貌っぷりは驚きしかないや、と美鈴に白い目で見られたのだけど、もう、それは仕方ないんじゃないだろうか。周りのテンションに合わせるようにして、表情を引き出すのはカメラマンとして大切な事なのである。


「でも、いちおう男子相手の時は、俺、普通に男っぽいよね?」

 どう? とちらっと男子達を見てみたのだけど、なぜか視線をふいっとそらされた。

 いや。ちょ。みなさん?


「お、俺は一応、その……男子扱いしてるつもりだぞ? いくら素顔が可愛かろうが、男子は男子だし」

 そうさ。いくら可愛くてもそいつぁー、変わらん。うん。変わってちゃ、いかんと青木は言った。

 あ、それを聞いて千歳がちょっとしょぼんとしてるよ。

 わかっちゃ居るけど、実際言われるとちょっとくるものがあるらしい。


「へぇ青木くんは、女子(、、)じゃないとダメな人なんだ?」

 ほほぅ、と美鈴が言うと青木は、いや、まぁ……と、ちょっと言葉を濁した。

 今ではすっかり千歳さんラブを貫いているようだ。


「よく言うよ、俺相手にマジになった上に、偽画像までつくりやがって。あれ、これは因果が逆か? どっちだっけ?」

「……先が偽画像です。マジになったのは、その……ルイさんに振られてちょっと魔が差したというか」

 も、もう昔の事だし、あんまり掘り返すな、と青木は頭を抱えていたようだった。

 彼の中ではもう、あれらは黒歴史として存在しているらしい。


「それは、木戸先輩がいけないんだと思います。信さんだって、ちょっとはこう……やんちゃだったかもしれませんけど」

 合成写真の件は信さんが全面的に悪いと思いますけど、その後は全体的に木戸先輩のせいです、と千歳は言った。

 いやいやいや。そんなこと言われても、別にこっちから誘ったわけじゃないし、ただ布団で寝てただけだよ。そりゃ眼鏡は外していたけどさ。


「やんちゃ、ねぇ。ちょっと詳しく聞いてみたいかな」

「俺も! 是非いろいろ参考にさせて欲しい」

「あれは、参考にならんぞ……」

 早見くんまでなにか言い出したけど、さすがに、修学旅行のあの一ページを参考にするのはかなりハードルが高いように思う。


「実はですねぇ。信さんったら、あんまり木戸先輩の寝顔が可愛らしいものだからって、辛抱溜まらなくなって唇奪っちゃったーってことがありまし……」

「わー、やめっ。その話題はやめろー! 今でもなんで自分があんな感じになったのかわかんねーんだから」

 そりゃ、悪い事したって自覚はあるけど、どうしてあんときやたらとこいつが可愛く見えたのかは、自分でもわからんのよ、と青木は言った。


「それでも友達やってる木戸っちすげぇな。俺、男に襲われたらさすがに、そのままフェードアウトかなぁ」

 いや、美鈴っちくらい可愛くて、性格も女子っていうんなら、全然オッケーなんだけどさっ、と白沢氏がフォローを入れつつ、早見くんにぎろりと睨まれている。

 変な事と、下手な事をいうな、というようなことらしい。


「えっと、青木くんは、ルイさんとはお知り合いなんですか?」

 さっき、振られたとかなんとかいう話でしたけど、と美鈴は首を傾げながら尋ねる。

 ちらっと視線が木戸の方を向くときがあるのだけど、一体どういう付き合いしてるの? というような感じらしい。

 ま、青木にだけは、正体知らせたくないですけれどね。


「姉の友人って感じだからなぁ。モデルやってるなら知ってるかな。俺のねーちゃん、相沢あいなって名前で仕事してるんだが」

「あ、石倉さんに聞いたことあるかも。時々撮ってくれる人なんですけどね。さくらちゃんからも時々」

 まぁ、さくらちゃんは、ルイさんの事ばっかり言ってるけど、とちらりとまた美鈴がこちらに視線を向ける。

 っていうか、スタジオで撮影のアシスタントみたいなことやってるとは。


「うっへ、さくら仕事してんのか……」

 正直、かなりうらやましい。

 もちろん、対人より自然の撮影の方が好きではあるのだけど、スタジオでモデルさん相手に撮影するのの手伝いというのは、佐伯さんメイン&あいなさんみたいな感じで、ちょっと、おぉーという気分にもさせられるという物である。


「なんだよ、木戸。お前、遠峰さんとめっちゃ仲良しだったくせに連絡とってねーの?」

「最近ちょっと疎遠でな。ま、二月の時に男子会やった時くらいに、高校の頃の女子友達集めて女子会やったけど」

 あんまし、仕事の話とかまでしてくれないんだよなぁ、と木戸は腕を組んだ。

 こちらはそれなりに、ゼフィロスで仕事すんよ、とか話してるのだけど、あっちはちょっと内緒気味なのである。

 まあ、たぶん、石倉さんから、あの女狐にいろいろ言うんじゃねぇぞとかなんとか言われているのだろうけど。


「それで、その。ルイさんとは最近は会ってたりとかは?」

「ああ、それはない。っていうかすっげぇ四月五月の事件とかの時は心配したけど、ちぃに、大丈夫って言い切られてさ。それならっていうんで、連絡しなかったんだ」

 そりゃ、ホームページとかから連絡はできたんだろうけど、と青木は言った。

 なるほど。いちおう大々的にスキャンダルになってしまったあの件を青木も気にしてくれていたのか。


「むしろ羽屋さんだっけ? 君のほうこそルイさんとは最近あったりとかは?」

「あー、うん。まあそれなりに連絡は取ってるけど、その……まったく問題なく、わーいと撮影にでてるみたいで」

 今じゃ、完全復活みたいですよ、と美鈴が木戸の方に視線を向けながら言った。

 どっかの誰かさんと同じ感じにね、という言葉が漏れ聞こえてきそうだった。


「ほらっ、信さん。私の言ったとおりじゃないですか。無事にあの件も収束したし、それに信さんが振られたのだって、実はルイさんが女性ラヴだったからだーって」

「……それにつきましては、黙秘をしたく……」

 信さんが悪いわけじゃないですよ、とちょっと甘え気味に千歳が言うわけだけれど、反射的に木戸はぼそっとそんなことをつぶやいていた。

 さっきから、知ってる組と知らない組の反応の違いがちょっとアレな感じになっているのである。


「まー、なんかよくわかんねぇけど、やたら仲がいいのはわかった。っていうかリア充爆ぜろって言いたい感じ?」

「爆ぜろだなんて、時々、言われるけどなぁ」

 初対面で言われたのは初めてだな、と青木は白沢氏のコメントにのほほんと返していた。


 う、高校の頃は自分がリア充爆ぜろといっていたというのに、この変わり身とは。

 ずいぶん千歳とのカップリングは上手くいっているようだ。


 そんな二人を見ながら、テンション高めな白沢氏は、少し前に進むとくるりと振り向くと、恭しく礼をしながら、言ったのである。

「そんなお二人さんにお似合いなスポット、ゲーセンへとご招待」

 さぁ、思う存分彼女にいいところを見せてやるが良い! と白沢氏はおそらく海洋上に唯一存在するであろうそのゲームセンターへの扉を開いたのであった。




 ゲームセンターというところにみなさんはどういうイメージを持ってるだろうか。

 プリクラとキャッチャー系のゲームと答えるのであれば、女性的な趣味といえるのかも知れない。

 メダルゲーや、格闘ゲームあたりだと男性的かも知れない。

 え、音ゲーはどっちもじゃないだろうか。


 ちなみに、木戸の場合は、え、ゲームセンターとかあんまり行った事無いし、が正直なところなのだった。

 

「てか、カップルにお似合いなスポットは屋上の撮影スポットじゃね?」

 え、どうしてこっちに来ちゃうの? と白沢氏に不審そうな視線を向ける。

 海ほたる最大の魅力と言って良いのは、建物の外にある撮影スペースなのである。

 海を背景に、ばーんと撮影できるとともに、モニュメント的なものがあったりもするので撮影するには申し分ない環境なのである。


 しかも、木更津からこっちに向かう道路はむき出しなのだけれど、東京から入ってくる道は地下の道。

 つまり、おもいっきり海に浮いているような感じの背景に仕上がるのだ。

 

「えと、木戸くん、ゲームセンター苦手?」

「嫌いではないけど、なじみはないかな。てか放課後は大抵散歩して撮影だし」

 高校の頃はバイトだったし、というと、おおぅ、苦学生なんだなぁ木戸っちぃー、と白沢氏に肩をぽふぽふされてしまった。

 ま、まあ、でもそれはカメラ機材だったり服だったりでお金を使っていただけなのである。


「それを言うと私もです。ついついお金使っちゃうから、あんまり来ないようにしてる感じで」

 どうしても欲しい物があって、お金貯めてるんです、と千歳が言うと、わしっと美鈴がその手を取って、わかるっ、ちょーわかるっ、とやたらと共感を伝えていた。

 ええ、それ、オペ代ってことなんだろうけどね。


 モデルをやっている美鈴だって、別段すごく高収入というわけではないのだろう。

 崎ちゃんクラスになるとまた話は変わってくるのだろうけど、そんなのは一握りで有名になった人だけなのだ。


「女の子同士にしかわからない内容が展開されている……とうぜん、これ、木戸はわかるんだよな?」

「ん? はやみん。俺はわかるけど別に女子だからって会話じゃないから。そこ勘違いしないように」

 ま、よくわかんないまま気にしないのが一番だ、といいつつ、ちらりと周りに視線を向ける。


 ゲームセンターはキラキラしていて、とても愉快なところだと思う。

 こういうの背景でモデルの撮影というのは、なんか面白いような気がする。


「でも、版権ものとかいっぱいあるだろうし、撮影は無理だろうなぁ」

 うぅ、とちょっとしょんぼりしながらお菓子が詰まったUFOキャッチャーに指で四角いフレームを当ててみる。

 もちろんプレイしている姿もありだけれども、その前に軽く寄りかかるような感じで、美鈴に立っていて欲しい。

 たぶんこれで、プレイ、しよ? とかロゴ付ければポスターっぽい仕上がりになるだろう。


「時々プレイ動画とかを上げてる人も居るけど、そこらへんは店の許可とってからかな。でも、こういうところで撮影するとなると、今の格好よりはもうちょっと、光沢素材とか使ってレースクイーンみたいな感じにしたいかも」

「いいね、それ。せっかくだから立ってみて」

 ほれほれといいつつ、フォトフレームを指で作ってその中に美鈴を入れる。

 おぉっ。表情が一気に変わって素晴らしい。

 同窓会の時も、おぉって思ったけど、そのときよりも表情の作り方とかポーズの取り方とか上手くなってる気がする。


「なぁなぁ、はやみん。思いっきり二人の世界に入ってるんだが、あれはいいんか?」

「……よくないけど……下心があるわけでもないし」

 今日は美鈴をエスコートするのが目的、と早見くんはぼそぼそつぶやいていた。


「やっぱ、木戸はどこにいっても木戸だよなぁ」

「まあ先輩ですしね」

 ゲームセンターは撮影するところーなんていう認識だと思います、と千歳にまで言われた。

 さ、さすがに、ゲーセンがゲームをするところだ、というのは知ってますって!


「お店の許可取れたら是非、後で撮影しよう」

「いや。ちょっとそれは勘弁かな。反射的にポーズ取っちゃったけど、目立つことはちょっと」

「……あ、はい」

 さすがは美鈴たんと思ってそんな提案をしたのだけど、残念ながら本人にざっくりと提案を切り捨てられてしまった。

 そりゃまあ。普通に旅をしたいっていう気分なのだろうから、仕方ないのだけど。

 しょんぼりである。


「ほらっ、先輩。しょんぼりしてないでゲームしましょう」

 ほらほら、可愛いのいっぱいですよ?

 そんなふうに千歳に引っ張られてUFOキャッチャーの台の方へと誘われる。

 さっき美鈴が背景にしていたのはお菓子のやつだったんだけど。


「うわっ。もふもふがいっぱいっ」

「ゲームセンターといったら、これですよね、これっ!」

 市販されてないもこもこがいっぱいっ、と千歳がドヤ顔をしているけれども。

 うん。それぞれの機体の中に入ったぬいぐるみさんたちは圧巻なのだった。


 小さいのはもちろん、大きいのももふもふしている。

 ああ、あいつもぎゅってしたら絶対ふわふわに違いないっ。

 うう。可愛いのがいっぱいだ……

  

「あかん。木戸のやつがいきなり可愛い声で話し始めた……」

「やっぱすげーな。あんなもっさいやつが、可愛い声で話すとか」

 相変わらず木戸っちはすげぇと、白沢氏はほっこりとした声を漏らしている。


「うっかりで女声がでるってどんだけって感じだよな。こいつ悲鳴とかも女声なんだぜ」

 ったく、そんな反応するからねーちゃんの友達の女子だって思っちまったじゃねーか、と青木がちょっと恨みがましい視線を向けてくる。

 いや。あれはさ。そりゃお風呂覗かれたらあんな反応になるって。

 驚いたときは原則女声になるように調節してるわけだし。


 まあでも、今は目の前のもふもふ達のほうである。


「ああ、有名なキャラがいっぱい! おおう、この前のキャラ博にいたキャラの別バージョンとかもいっぱい!」

「木戸先輩、相変わらず可愛い物大好きですよね」

 ぬいぐるみ男子だ、と千歳に言われたけど、もうこれはどうしようもない。

 一体ずつばーんと入ってる大きいやつもあれだけど、いっぱい小さめのが並んでるのも、素晴らしい。

 つぶらな瞳でじぃーっと見られてしまったら、もう、たまらんではないか。


「……あのさ。美鈴はなにか好きなキャラとかは、いたりする?」

 さて、そんな感じできゃーきゃーやっていたのだけど、その脇では早見くんがちょっと頑張って声をかけているようだった。

 今回の旅行の裏の目的は、早見くんが美鈴と仲良くなるためのイベント、というところがある。

 それぞれの地点で臆さず声をかけていくのは、自然なことなのだ。


「んー、割となんでも好きだけど、ふわもこで、ぎゅって抱きしめて気持ちいいのがいいかな」

 たとえば、たれてるあいつとか、すみっこなあいつとか、と美鈴がいうと、よっしと早見くんがちょっと気合いを入れ始めた。

 ここにはそれなりに有名なキャラもいっぱい入っているので、その中から一体をプレゼントというようなことなのだろう。

 さて、上手く取れるものだろうか。


 できれば、その瞬間を撮りたいものだけど、今日は自粛である。

 目立っちゃいけないのだ。


「せっかくだから、二人きりにしてやろうぜ」

 ほれ、木戸っち、俺たちは別ので遊ぼう、と白沢氏に言われて各自別々のゲーム機のところを散策することにした。

 うんうん。せっかくなのでデートっぽい雰囲気は出してやった方がいいのだろう。


「信さん! 私これ、欲しいです」

「おっ、いっちょやってみようか」

 よしきた、と青木達もなにかターゲットを発見したらしい。

 さぁどれくらいで取れるのか、見物である。


「木戸っちはなんか気に入ったのねぇの? なんなら俺の神技を炸裂させるけど」

「んや、さすがに部屋中いっぱいぬいぐるみに違いないというイメージ通りにはなりたくないので」

 そりゃ、可愛いとは思うし、おうちに居ればぎゅむっと抱きしめ放題ではあるのだけど。

 木戸家にはほめたろうさんが居るのである。他の子に、浮気は……浮気は……


「うわっ、ほめさんのぷちぬいぐるみだ……復刻してる」

「おっ、懐かしいのがいるなぁ。これ、俺たち小さかったころのだろ」

「もう十年以上前だな。いやさ、友達にめっちゃファンの子がいて、教えたらきっと、ワンフロアごと買い占めますわっ、とかなんとかいいそう」

「……ワンフロアて。木戸っち冗談もおもしろいなっ! 熱いぜっ!」

 さて、思い切りほめたろう仲間の、彼女を思い出してそう言ってみたのだけど、白沢氏には冗談だと取られたようだった。

 でも、あの子なら例えば、ゲームセンターやってる会社の株式をがっつり買い占めるとか、そんなことはやれてしまいそうな気がする。


「って、結局やるのかよ……」

「その友達にあげたら喜ぶかなーってね」

 ま、自宅用に欲しいのもあるんだけど、といいつつアームを動かして狙いを付ける。

 木戸が狙うのは、紐かけというやつだ。

 このほめさんはそんなに大きくないので、正攻法でも取れそうな気はするけれど、せっかく良い感じに填められそうなところにぶら下がっているのである。

 そこを狙わない手はない。


「うわ、木戸っち一回で取るかよ……」

「距離感とかは普段カメラ持ってると培われるものでね。重心ってなっちゃうとまた話は変わるんだろうけど」

 狙ったところにアームは落とせるよ、とさらっというと、すげーと白沢氏はテンションを上げた。

 いやいや、さっき君は、俺の神技をどうのといってたじゃん。それなりにやりこなしていると思うのだけど。


「よっし、俺はこれで満足」

 二回目のチャレンジは失敗で、その次はアームを使って崩す形で、一匹ゲット。

 サイズはそんなに大きいやつではないのだけど、ふわっふわでもっちもちな、ぷちほめたろうさんを二羽ゲットである。


「ああ、結局木戸先輩もやったんですね。私たちはこれです!」

 こいつをゲットです、と千歳がばーんと取り出して見せたのは、見覚えのあるクマさんに間違いはなかった。

 

「って、このクマ、アミューズメントに入っちゃう感じなの? え?」

「一時期大ブームになって、それから大きなのがテレビに出たじゃないですか。それからグッズ展開してるみたいで」

「……これ、さすがに手作業で作ってないよね」

 うーん、とちょっと難しい顔をしている木戸に、ん? と小首を傾げて不思議そうな顔を千歳は浮かべていた。

 まあ、そりゃそうか。

 このクマだけ見たら別段そんなに悪いわけではないし、ちゃんと可愛いと思うし。


「これの制作者が、手縫いにこだわっていたから、こういう大量生産ってどうなのかなって思って」

 そりゃ、手縫いだと製造が追いつかないだろうけど、というと、相変わらず、ん? と不思議顔だ。

「まるで、あの制作者の子と知り合いみたいな口ぶ……って、ちょ」

 ふぁ。となんか千歳から変な声がでたよ?

 まあ、クマの制作者として一般的に知れ渡っているのは、あのゴスロリで服にクマさん人形付けてる子っていうものだからなぁ。そんな相手となんで知り合いなの? っていうのと、今のはもう一歩想像した結果だろうと思う。

 

 もしかして、あれも男ですか? と。

 もちろん、木村の話になっちゃうからあんまり詳しい話をするつもりは無いけどね。


「完全に黙秘をいたします。でも、量産型クマさんも可愛いね」

 なでなで、とくまさんの頭をなでると、ちょっと間を開けてから、あっ、はいっ、と千歳は言いながらぎゅむっとクマさんを抱きしめた。

 彼氏からのプレゼントである。

 大切にするといいんじゃないかな。。


「それで、早見っちは上手くいったんかね」

 そっちのリア充はいいとして、と白沢氏は遠目から早見くん達の様子をうかがっているようだった。

 千歳たちのあまあまな空気を嗅ぎ取って、もうお腹いっぱいなのだろう。


「おっ、美鈴たん、大物ゲットじゃん」

 さて。もう一つのカップル候補の方はというと。

 美鈴さんが満足そうにぬいぐるみを抱っこする脇で、早見くんは一人がっくしと地に体重を預ける形となっていた。

 魚をデフォルメされたようなそいつはやっぱりでっぷり系のキャラでとても愛らしいと思うのだけど。

 

「ああ、木戸くんもなにか取ったんだね。割とキャッチャー系面白いかも」

 あぁ、部屋がぬいぐるみでいっぱいになりそう、という美鈴さんの隣で早見くんは小さくなっていた。


「うぅ、どーせ、俺はダメなやつさ……」

 なるほど。彼女の前でかっこいいところ見せてやろうという感じが、彼女にちょっとやらせてと言われて、数回、下手したら一回で取られたパターンか。


「ま、はやみん。元気だせ」

 まだチャンスはあるさ、と白沢氏が肩をたたいて慰めていたのだけど、さすがにその光景だけは、一枚だけシャッターを切らせていた。

 背景にゲームの機体は入ってないので、これくらいは許して欲しいものである。

海ほたるにはゲーセンも入ってるってご存じ!? ってなわけで。いかせてみようかなとずーっと思っていたのです。足湯よりこっちやろーって。

でも、ま、このメンバーだとこうなるよなぁと、しみじみ。


はやみん。次話ではガンバレ!

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