574.男友達と、夏旅行4
本日短め! あの人がちら参加です。
「寄せては返す海。すべてを抱きしめてくれるそんな中にぽつんと存在するここは、まるで海洋の秘密基地みたいでよくないかな?」
「たしかに景色は綺麗だと思うけど、秘密基地にロマンはあんまり感じないかな」
どうよ! 美鈴! と早見くんが甲板に出てどや顔をしているのだけれど、今日のゲストはさすがにそこまでテンションあげあげというわけにはいかないようだった。
いちおう変装用に眼鏡はかけている。でも、やっぱり人がある程度いる場所というのは緊張するものだろう。
ここは、アクアラインの真ん中。海洋上にでんと存在する、海ほたると呼ばれる商業施設である。
商業施設というか、道の駅? いや、海の駅とでもいえばいいのかな。
車での移動の際の休憩所というような扱いの場所なのである。
「わはー、海が近い! しかも対岸もいちおう見えるし、こりゃたまらぬ!」
いいねいいね、とそんな二人のやり取りを見る気もなく、木戸はデッキ部分で思う存分シャッターを切っていた。
なんせ、オーシャンビューである。
食品店街もあるけれど、海を見るためのデッキももちろんあるわけで、そこで思いきり撮影を堪能していた。
この施設、もちろん写真を撮る人はいっぱいいる。
時々ごつい一眼を持ってる人とかもいて、ちょっとした親近感を覚えるものなのである。
「すげぇな、木戸っち。ホスト側っていう意識がすこんと抜けてるし」
「んや? 確かに美鈴を元気づけようってのは賛同するけど、別に俺はあいつをべた甘やかししようとは思わないよ?」
まあ、なんなら、やってやれないでもないけど、と首をかしげながら美鈴の方を見る。
今回の旅行の最大の目的は、スキャンダルで疲れているであろう美鈴の気持ちを盛り上げようというものである。
HAOTO事件で疲れた木戸の心はあんまり誰も気にしないのだけど、それはもう仕方がない。それにHAOTOメンバーに、撮らせろ? ああん? 肖像権とかないと思えよおまえらぁ! って感じで思う存分楽しんだので、ある程度は回復しているのも確かだ。
さて、では美鈴の場合、いわゆる職業ホストさんがやるような、あの空気感で接待をしていいものだろうかと思ってしまうのだ。
「へぇ。木戸くんが甘やかしてくれるとしたら、どうなるの?」
参考までにちょっと見てみたいかも、と美鈴がなぜか興味を持ってしまった。
まあ、いいけどさ。
「では、レディ。お手をどうぞ」
ちょっとした触りだけである。
たとえば、階段やら、ちょっと足場が悪いところは自然と手を差し出してみたり。
さらには、日常会話にうさんくさいほどきれいな言葉を使ったりするのである。
ちなみにここら辺は、例のBL喫茶やら、クロやんが男同士コスをやるときの仕草などを参考にさせてもらっている。
「レディ。こちらにどうぞ。海がよく見えるスポットですよ」
自然にそこまで誘導すると、素早く木戸はバックステップで離れてから、その姿を瞬時に撮影する。
うん。ただリードしてやるだなんてそんなもったいないことはできない。
海の景色を見た彼女、というような感じで写真に撮っておきたいのである。
思った通り、わーっと、その景色にのまれたようで、ちょっとうっとりしたような姿が写し出された。
ちょっと離れたところで早見くんが膨れているのだけど、それは……うん。
しゃーない。
海が好きか、海に浮かぶ秘密基地が好きかというのは、割と重要な問題なのである。
もちろん、基地が好きな女の子もいるだろうけど、美鈴さんは圧倒的に風景な方だと思う。
「……いちおう聞くけど、このエスコートって、彼女にしてるの?」
「え?」
あれ。うまくやったぞ、と思ったのに、なぜか美鈴さんったらマジ顔でそんなことを聞いてきた。
いや……まあ、うん。こっちもスキャンダりましたから? わかると言えばわかるんですが。
「別に一緒に出かけてここまではしないかな。公園とかでも先方はどっちかというとぐいぐい自分で進む派だし」
服が汚れないようにハンカチエスコートとかは、したことないかも、というと、はぁ!? と思い切り美鈴に食いつかれた。
いや。だって相手は崎ちゃんだよ? エスコートもなにもあったもんじゃないじゃん。あたしを満足させなさいって、にんまりするような感じじゃん! 生半可なサービスじゃ逆に怒られてしまう。
そもそもルイとして行ってるので、いわゆる紳士がやる系のは、なしなのだ。
「デートなのに?」
「……え? デートってお弁当持ってって、一緒に景色楽しんで、ご飯おいしいねーとか言って終了じゃないの?」
「……木戸くんは見た目完璧なのに、どうしてそこらへんの乙女心がごっそりないんだろうか……壁ドンとかされてどういう気持ちだったの?」
ほらほら、言っちゃいなよ! と美鈴はいきなりに女子トークをし始めた。
周りをちらりとみても、特別聞き耳を立てている相手はいない。
どうやら、若い子が恋愛話をしている、くらいの認識なのだろう。
「なあなあ、はやみん。壁ドンがどうって聞いてるけど、ここの名物は海鮮丼だよな」
「……それはそれで、白沢はすげぇと思うわけだが」
まあ、もうちょいここで休みつつ、海鮮丼食べような、と男子二人はやりとりしていた。
壁ドンと丼物を一緒にする人というのは初めてである。
「あのときは、むしろ困ったって感じだな。いや、そりゃあいつすげぇいい顔しやがると、撮影したわけだし、本人も、おまえはそういうやつだよなって呆れてたけど、未だにメールは来るっす」
「ラインじゃないんだ?」
「お互いのレスポンス的には、メールだね。それは両方そんなん。ドラマの撮影始まるとかな」
「さらっと、そういうのをあの人達にやってる木戸くんが恐ろしいよ」
こちとら恋愛とはこれで、一歩遠ざかったのにー、と美鈴は恨みがましい顔を浮かべた。
「ま、そういうのは広大な海の中でとろっと溶かして、楽しもうよ」
別に業界に入ったのは恋愛のためではないのでしょう? といいつつカメラを向けると、それはそうなんだけど、と彼女はまだちょっとがっかりな顔を浮かべていた。
ここで、早見くんあたりがフォローできればいいのだけど、さすがに会話に入ってくることはできないらしい。
へたれである。
「よしと、それでお昼までここにいるでいいんだよね? それなら足湯とか行きたいんだけど、二人はどう?」
「足湯は、もともと行くつもりだったから、タオルの用意もばっちりだけど」
もう、移動しても? と言われてちらりと美鈴を見る。
今日の彼女はストッキング姿というわけではなく、靴下派だ。
これならそれを脱ぐだけで足湯にはいけるはずである。
さすがにストッキングを脱ぐにはトイレいかないとだけどね。
「んじゃ、美鈴もどうかな? 海を見ながらの足湯って、最初ここ見たときに絶対いこう! と思ってたんだけど」
「なにげに木戸くんったら、温泉とかも好きなんだね」
「まあ、ね。あんまりオーシャンビューなところは行った事無いから、今日は楽しみだよ」
そっちで温めて表情とろかしてから、また撮らせてというと、ああ、これがあれかと、美鈴は苦笑を漏らした。
さて。そんなわけで、足湯に大移動したわけだけれど。
「すっごーい。これ、目の前思いっきり海じゃん」
「すげぇ。これはすげぇ。テンションあがるー」
さて、賑やかになった二人を脇目に、早見くんがぼそっとつぶやいた。
「美鈴の右隣はゆずらん」
どうやらさきほど仲良くしていたのがちょっと気に入らないようで、そんなことを言われてしまった。
「いや、別にいいけど。俺は一番左でいいよ」
ただ、ちゃんとしゃべれよというと、彼は、ちょっと顔を赤くした。
純情青年というやつである。
「それじゃ、いこーぜ! ひゃっほー。これはたまらんね」
まずは白沢氏が場所の確保に動いた。
景色はどこでもオーシャンビューなので、特別席を選ぶ必要はない。
四人並べるところに行くと、とりあえず靴下を脱いで足湯を堪能である。
ああ、ちなみに男子達はズボンの裾をしっかり上げております。
「こう見ると、やっぱり恐ろしいほど足綺麗だよね、木戸くんって」
「そりゃ、まあ。それなりのケアと運動のたまものってやつだね」
日々山歩きとかしてると、こうなる、というと白沢氏がぐいっとのぞき込んできて、足ほっそと言い出した。
四人組の端と端なのによくやると思う。
ちなみに、早見くんは、うわぁとかなんとか、美鈴の足を見て言っている。
さっきまでも露出されてたはずなのに、足湯に入るという一つの工程を加えることでかなり魅力的に見えているらしい。
靴を脱ぐ、というのが彼的にツボだったようだ。
「ほんと、木戸先輩は足まで綺麗なのだから、困っちゃいます」
「はい?」
さて、足湯でぬっくりしていたわけなのだけど、変な声が聞こえて逆側を振り向いた。
ここは、全面海に向かったカウンターだ。一番グループの端っこにいる木戸の左隣はもちろんよそ様のグループということになるのだけど。
そして、そこにばばーんといたのは。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「よう。久しぶりだな」
千歳と青木のカップルなのであった。
行き先でばったりというやつである。
旅では出会う相手もいる! ということで、デートスポット的な海ほたるなら、こういうこともあるさ!
しかし、作者数年行ってませんが、足湯とかできてんのね、とちょっと感動しました。
本日は時間ないので、ちーちゃん達との絡みは次話にて! なかなか宿に着きませんね!