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569.姉の結婚式の日に7

「ケーキを堪能しているところで、次の催しに行かせていただきます」

 会場は、切り分けられたシフォレのケーキに、なにこれというような雰囲気に包まれていた。

 いづもさんはというと、近くで、ふっふーんすごいでしょーと、ドヤ顔である。


 いや、たしかにね。さっき式場のスタッフさんには、おいしそうですぅーとかいう声を向けられたのだけど、それには、この人がやってる、シフォレってお店をよろしく! というと、いづもさんはいそいそと名刺を取り出して挨拶をしていた。

 相手は、あっ、えっ、と。と困惑気味だ。


 まあ、こんなところで営業をかけられるとも思っていなかったのだろう。

 でもいづもさん、ウェディングケーキあんま作りたくないっていってたし、この営業がいいんだかわるいんだか、よくわからない感じである。


「本日の結婚式を祝いまして、たくさんの祝電をちょうだいしております。ここに披露させていただきます」

 さて。そんなタイミングで、司会の方が甘い雰囲気に寄り添うように、祝電を取り出した。

 最近はいろいろなキャラクターの物があるようで、司会の方のテーブルの上にはウサギのぬいぐるみがちょこんとお座りしていた。

 その子が、電報を握っているというような感じなのだ。


『結婚おめでとう。あの牡丹が気づけばこんなに大きくなっているとは、感激です。あとで写真はいっぱいみさせてね』

 新婦のおばあさまからです、とアナウンスが入った。

 そう。今回の結婚式は、ばーちゃんは地元から離れられないということで、お休みだ。

 お祖父さんが暴走しないように注意してねといわれたけど、あれを止められるのってばーちゃんくらいなものだと思う。


『この野郎。俺より先に結婚しやがって。うらやましいぜ。今度は嫁さんも連れて飯でも行こうぜ』

 これは新郎の方の会社の先輩からだった。

 まあ、入社してすぐに結婚とか、そりゃ先輩がたからひがみ混じりの祝福を受けてしまっても仕方が無いことなのかも知れない。

 そして嫁さんもつれて飯にいくと、ばばーんと展開されるおっぱいに、おま……おまえはー、とさらにうらやましがられるのだろう。視線が全部そこにいってしまって、姉さんもかわいそうである。


 そんな感じで祝電がどんどん読み上げられていく。

 本来なら、親族用の席に戻るべきなのだろうけど、いづもさんがそのまま近くで祝電を聞いていたりするので、彼女一人を残すわけにも行かずに、未だに新郎側のスペースで待機中だ。

 こそこそじーちゃんが動き回って撮影しているのを見ながら、祝電の内容も耳に入れていく。


「二人とも祝福されちゃって、ほんと幸せそうよね」

 うらやましいわ、といづもさんは本日の主役二人にうっとりしたような視線を向けていた。

 まあ、こっちは相手を見つけるところからだから、まだまだ先は長そうだけれども。


『ご結婚おめでとうございます! このたびはお日柄もよく、末永くお幸せに。ああ、それと早く子供の顔がみたいのでよろしく! そうじゃないと、馨との仲が進まないんで』

 ……こほんと、咳払いをしながら司会の方は、ショーさんからの祝電です、と言った。

 ちょ、ちょいまて……どうしてここで、それがでるのだろう。

 さすがに、がくっと脱力してしまった。いちおうここは隅っこだから、他のお客の目もあまり届かないし、いいだろう。


「あら。翅くんからの祝電だったみたいね。一体どこから聞きつけて送ってきたのかしら」

 まあ、まさかあの、人気アイドルからの祝電だとは誰も気づいてないみたいだけど、といづもさんはすっごく愉快そうな物をみたような顔になった。

 にまにましているのである。


 ちなみに、遠目からでも、姉さんはぷるぷる震えているのがよくわかる。

 周りからは感極まって、とかに見えるだろうけど、あれ、絶対、かーおーるー、あんたはー、ってな感じなのだろうと思う。

 いや、不可抗力だよ、これは! 確かに蠢には姉さんの結婚の話はしたし、日取りと会場教えてって言われて、答えもした。

 まあ、蠢は、姉さんとの交流だって、いちおう一年だけは同じ学校だったからないではなかったし、そんな相手から、結婚式なの? とか聞かれれば、いろいろとしゃべりましたさ。


 まさか、それがこのような形で返ってくるとは。

 

「しばらくおとなしいと思ったら、こんなところで仕掛けてきて……ほんと、嫌がらせ以外のなんだといえばいいのか」

 さて。今日は結婚式である。

 姉様の大切な結婚式、一生に一度であって欲しい結婚式だ。

 それを、会場に気づかせずに、新婦の心をダイレクトに削ったのは、なかなかな手腕としか言えないだろう。

 

 まあ、翅さんに悪気がないのは知ってる。 

 なかなか会えないからって、一時期プレゼント攻勢にでていた彼も、さすがに、ミニスカサンタはなくない? とガチギレをしたら、は、はーい、としょんぼりして、その蛮行をストップしたのである。

 まあ、可愛いか可愛くないかで言えば、センスは悪くないとは思うけど。

 じゃあ、ほいほいそういう衣装を着て、彼の前に立ってやろうと思うか、といえばちょっと無理だ。


 っていうか、これは一般女子でもそうだと思う。

 友達だと思ってる相手から、わんさか女物の衣装が届く、というのは、軽いホラーではないだろうか。

 少なくとも、斉藤さんにいったら、「んな、男は無しだわ」とがっくりきていた。

 ちょっと、憧れてたのに、とそのまま呻いていたのだけれど、まあ、それは聞かなかったことにしておこうかと思う。


「これぞ、公開、届かぬ恋文、かしらね。あんたもう、観念して、彼と一緒になればいいんじゃないの?」

 きっと愛してくれるわよ? といわれて、んー、と少し想像を巡らせる。

 男同士だから無理ですと、言ってしまうのはたぶんすごく簡単なんだけど。

 でも、翅さんはそれを、するっと飛び越えて、ルイの事を好きだと言っているのだと思う。

 

 翅さんくらいになれば、ルイなみの美貌の持ち主というのに、出会えないってことはないと思う。

 そりゃ、可愛くなるようにメイクも衣類も頑張っては居るけれど、純粋な話をすれば、崎ちゃんの方が可愛いとも思うんだ。

 本人は、どうせ、あんたの方が可愛いわよ、ちくせう、とかいうけど、さすがは国民的美少女に選ばれるだけはあると思う。


 翅さんは、原則面白い物大好物という感じの人だ。

 すげー、おもしれー、っていって、割となんでもやりこなしてしまう。

 ルイの事だって、きっと初めての出会いが、流出動画のアレだったのもあって、何このぶっとんでる子、というような認識が強いのだろうと思う。

 どこにでもいる、普通のカメラマンなはずなんだけどね。

 まあ、ちょっと女装したりとかはしてるけどさ。


「友達としては面白いやつなんですけどね。恋愛対象として見れるかって言われたら……」

「あんたはそういう子よねぇ。ほんともう、あんなイケメンから好き好き言われてたら、普通なら舞い上がっちゃうわよ」

「うぐっ。それはいづもさんが女性だからじゃないですか? 俺、いちおー、男ですよ? 男同士がダメとは言いませんけど、それは他人事ならって感じですから」

 恋愛対象として、やっぱり見れないです、というと、はぁ、不憫な子量産機だわ、といづもさんは首を振った。

 量産て……

 

「それに最近はあんまり一緒に遊ぶってことはないですしね。あっちも忙しいみたいだし、誘われてほいほいついていくかっていえば、悩ましいところで」

「でも、撮影OKとかってなれば、ほいほいついて行くんでしょ? あんたは」

「否定はしませんけど、相手はアレで大人気な、すたぁなのですよ? 肖像権がー、とかってなって結局撮影するのは許してくれなさそうな気がしますよ」

 特に、あのマネージャーさんなら、そこらへんはシビアにやってきそうな気がする、というと、いづもさんは、あらあら、木戸くんにそんな顔をさせる相手がいるとは、と驚いていた。

 はい。あのマネージャーさんは、有能すぎて正直苦手なのです。


 木戸とHAOTOが個人的に一緒に出かけるのはOKだろうけど、撮影に関しては絶対に渋い顔をするに決まっているのだ。

 特に、先日の動画流出事件という問題もある。

 よりシビアになってしまっても仕方がないだろう。

 まあ、マネージャーさんは木戸とルイの関係性を知らない状態だから、外出自体は認めてくれるだろうけどね。

 とはいえ、男装姿は見せてるから、場合によってはこちらの姿で眼鏡でも外せばあっさりばれる可能性はあるし、そうなったらルイさんとの接触は控えてください、だなんて言われそうだけれども。

 なんせ、あれだけ炎上してからまだ数ヶ月しか経ってないのだし。

 うん。あのマネージャーさんとは極力関わらないようにしよう。


 ま、友達として楽しく過ごすのなら、いいんですが、といづもさんに話をしていると、司会の方の声が響いた。

 次の祝電の公開である。


『お二人ともご結婚おめでとうございます。桜の舞うあの日のお二人の姿、今でもしっかりと覚えています。きっと幸せな家庭を築かれるのだろうと思います。本日はそちらに参加することはできませんが、幸多い未来を願っております。ああ、それと子供は早めにお願いしますね? こちらは進展しなさそうなので』

「ぶふっ」

 な、なんつー、祝電が来てるんだ。

 さっきの翅のと似たような匂いを感じる祝電に、思わず木戸は吹きだしていた。

 しれっと、司会の方が、ジュリ様からでした、と言っていらっしゃる。


 ……ああ。ねーさまがこちらを見ておいでです。

 さっきの翅さんのに比べると、視線の感じはちょっと違ってるところはある。

 なんていうか、やれやれ、まったくあんたはどうしようも無いわね、というような、残念な子をみるような目をしていた。

 うぅ。

 進展しなさそうって、月一でデートはすることになったもん!

 そりゃ、じーちゃんが混ざってきたりとか、いろいろあって、ただの撮影会やないかー、みたいなところはあったけれども。


「今度は珠理ちゃんか。あの子もめげないわよね……こそこそうちの店で逢い引きしようとするのやめて欲しいって思ってたものだけど」

「それは、純粋に崎ちゃんがシフォレのケーキを好きなだけでは?」

 いづもさんにとんだ言いがかりを付けられたけれども、崎ちゃんがシフォレに出現しやすいのは、純粋に彼女があそこのケーキを好きなだけだと思っている。

 エレナ関係のイベントでもシフォレを使うことが多いけど、だいたいみなさんあそこのケーキは大好きなのだ。

 別に逢い引きに使おうとかそんな意図はないと思う。


「ま、いろいろお土産も買っていってくれるお得意様だけれどね。ちなみに芸能人の行きつけの店! みたいな宣伝はしないでちょうだいねとお願いしています」

「あれ。そうなんですか? いづもさんならバンバン紹介してもらって、人がいっぱいくるーってほうが良いんじゃない? って思いますけど」

「今でも入るまでにちょっと列ができるじゃない? あれが一時間待ちとかになったら、逆に今のお客さんが離れちゃうわよ」

 ま、テイクアウトが増えるのは別に構わないんだけど、といづもさんは肩をすくめた。

 いちおう、シフォレの入り口に置かれてあるケースには、お持ち帰り用のケーキがストックされていて、そこなら男性のみでも購入が可能だったりするわけだけれど、最近はそこの売り上げもぼちぼち伸びているらしい。

 ショーケースをもうちょっと大きいのにしようかしらと考えるくらいには、好調なのだそうだ。

 作る個数も、少しずつ増やしているというような話もあるらしい。


「この際、席の数を増やす改装工事をするとか」

「……増築するにもお金かかるもの。しかもお隣の土地が買えるかっていえば、うーん……」

 そう、ほいほい空間は増やせないわよ、といづもさんは言った。

 ただの改装をするにしても、今の雰囲気は壊したくないということらしい。確かにシフォレはとても落ち着いていてあの雰囲気は好きだけどね。


「二号店とかは?」

「任せられる職人がいませーん」

 むりでーす、といづもさんが肩をすくめながらあっさりと言った。

 まあ、シフォレはいづもさん一人で厨房はまかなってるわけだから、そりゃ手を広げるなんてできやしないか。

 クッキー王子なあいつもまだ海外で修行中だろうし。

 今のままだと、業務拡大というわけにはいかなさそうだ。


「そんなことよりも、あなたのほうこそ、恋愛の拡張工事はしないの?」

 祝電にあんなこと書かれてるけど、といづもさんが話題を変えてきた。

 うぐっ。どうしてその話題にもどっちゃうかなと、正直ちょっと思う。


「崎ちゃんは、自由に撮影させてくれるんで、いろんなところに出かけて撮るというのは楽しいんですが……いまいちその、男女の仲かと言われたら、それは違うような……」

 そもそも、月一デートに関してはルイとして参加している身である。

 端から見ても女同士できゃっきゃ遊んでいるという風にしか見えないだろうし、それにこちらのテンションとしてもルイとして、となると女子っぽさがぐっとあがるのだ。

 

 これを、付き合っているといってしまっていいのか? というような気になるのである。

 まあ、青木の時みたいに、デートだとカラオケとか映画って感じにならないで、町歩きみたいになるのは、楽しいんだけどね。

 いっぱい撮影できるし。


「まあ、しばらくはこのままです」

 回数を重ねて、果たしてどうなるのか。

 ちょっと、ウェディングドレスは綺麗だなぁとは思いますが、結婚願望はあんまりないかなぁというと。

 いづもさんは、一言、本当に不憫よね……と遠い目をしたのだった。

祝電披露は最近は、キャラ物とかがあったりとかして、可愛いのいっぱいですよね!

ウエルカムドールとかも可愛いのいっぱいで、あぁ、もっふもふー、であります。

そして、祝電に、ずばんと自己主張をしてくるお二方。

不憫量産機やわー、といった感じでした。


さて、ブーケトスまでいこうかとおもったけど、いけなかったんで、次話はそれと、律さんのお話となります。次回で結婚式話は終わりの予定です。

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