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566.姉の結婚式の日に4

本日も短め。きりがよかったので……

 さて。そんなわけで、式の方は順調につつがなく終わることとなった。

 残念ながら撮影できたのは十枚程度。

 じーちゃんはきっとその十倍は撮ってるだろうなと思いつつ、あれもこれも、撮りたかったのに、と木戸はちょっとばかりすね気味なのだった。


 もう、かおたんったら、おねーちゃんが嫁に行っちゃうからってすねちゃって、と野々木さんたちにからかわれたけれど、そっちは正直あまり気にしていない。

 姉さんは大学に入るにあたって家を出てしまっているし、それに新宮さんならきっと上手くうちの姉を受け止めてくれるだろう。なんというか、身近に居る男の中でかなり優良物件なのである。

 

 他が、アレとか、ソレとかなので、比較するのがちょっとなのだけど。

 少なくとも、新宮さんなら、プレゼント攻勢とかってあんまりかけては来ないと思うのです。


 式が終われば、次に待っているのは披露宴というやつだった。

 午前から式が始まっているので、ちょうどお昼にぶつけるような形でのものとなる。

 会場は教会の脇にあるので、移動の手間はまったくかからないのだけれど、ちょっと会場をもりあげる演出なのか、それとも単に休憩なのか、式が終わってから三十分くらいの時間があった。


 いつもの木戸ならここで、わーいといいながら撮影タイムに入るところなのだけれど、残念ながら今日の撮影枚数はそうとう心許ないのでそんなことはできず、会場をうろうろすることしかできなかった。

 あとはお手洗いといったくらいだろうか。


 新婦の弟ということで、姉の友人関係、新郎の仕事関係からも声をかけられたり、というのはあったけれど、そちらとは正直当たり障りのない話くらいしかしていない。

 姉さんのいろんな話を聞けたのも面白かったし、真飛さんは仕事先でどんな感じなのかは聞けてよかったけれどもね。


 さて、そんなわけでトイレにいった帰りにハンカチで手をふきふきして居たところなのだけど。

「おや?」

 その脇にあるベンチの上に座る人を見て、木戸は声をあげていた。

 なんというか。

 ちょっとばかり式場では浮いてしまうのではないか、というレベルで作業をしている人がいたのだった。

 もちろん、彼女も招待客だ。しっかりとライトパープルのドレス姿をしているし、あんまりやらない化粧もしっかりと顔に施している。

 まあ、さすがに姉さんみたいな胸はないので、デコルテをばばーんとだした服というよりは、首元までがっちり隠すようなドレスではあるのだけれども。 


 その顔は、真剣にスケッチブックへと向かっているのだった。

 かりかりかりかり。

 鉛筆を豪快に動かしてなにかを描いているようだ。

 ううん。まったくこの人ったら。結婚式に来てまで絵を描いているとは。

 え、お前はどこに行っても撮影してるだろって?

 ああ、はい。ちょっと仲間意識があったりしますが。


「さて、ではちょっとこそこそさせていただこう」

 彼女はスケッチブックに集中している。

 ならばここはちょっと観察をしつつ、その瞬間を待つこととしよう。

 え、どの瞬間って?

 それはたぶん、この休憩が終わる前にはわかるだろう。


「よっし」

 と、彼女はスケッチブックに最後の線を引いたところで、にまりとした表情を浮かべた。

 ええ。それを待っていました。

 木戸はカメラを構えると、一枚カシャリとシャッターを切る。

 それほど、その顔は珍しいものなのである。


「って、ええっ、描いてるのずっと見てたんですか?」

 その音を聞きつけたのか、彼女、律さんは木戸の方を見上げてちょっと顔を赤くしながら質問してくる。

 そう。スケッチというのでわかった人も居たかも知れないけれど、彼女は姉の先輩でもある律さんなのだった。

 誰? と思った方は、ルイさんが絵のモデルになったり、町歩きした相手だよ! と思ってくれればいいんじゃないかな。

 半年ぶりくらいではあるんだけど、町中に連れ出した成果なのか、今日はしっかりお化粧もやっているようだった。

 ま、結婚式だからね。いくら着飾らない律さんでもそれくらいは空気を読むのかもしれない。


「描き終わりをずっと待っていました」

 その瞬間は、さぞやいい顔をするのだろうと思って、というと、は、恥ずかしい……と彼女は顔をうつむかせた。


「ええと、絵を描くということは、姉のお知り合いの方、ですよね?」

 さて。ルイとしては律さんにあったことはあるけれど、馨としては会ったことはないので、ここは初対面を装う必要がある。

 軽く首を傾げながらそう言うと、お? と彼女は食いついてきた。


「ああ、牡丹の弟くんか。うん。たしかにわたしは牡丹の先輩だね」

 わたしの名前は市村律と言います、とご丁寧な挨拶をしてれたので、こちらもそれに答えておく。

 まあ、初対面の行う儀式の様なものだ。


「姉からいろいろ話は聞いてます。なんか賞も取ったすごい先輩がいるって」

「たはは、そんなにたいしたもんでもないんだけどな」

 結局大賞は取れなかったし、と彼女は照れたように笑う。

 たしかに前に会ったときも、そんなこと言ってたっけね。


「それで、なにを描いてらっしゃったんですか?」

「んー、牡丹へのサプライズプレゼントなんだけど、まあいっか」

 牡丹には内緒だよ、と言われて律さんはスケッチ画をこちらに見せてくれた。

 そこには鉛筆の濃淡だけで描かれた、先ほどの教会の絵が載せられていた。


「うわ……これ、さっきの式の風景ですか?」

「うん。指輪交換の時の牡丹のあのうっとりした顔を、絵に起こして見ました」

 ちょっと新婦の悪友達から、相談をうけてこうなったと彼女は言った。

 きっと、聖さんだよね。結局、律さんは聖さんのところで、いろいろ洋服を買うようになった、というところだろうか。

  

「これを披露宴でプレゼントって感じですか?」

「その予定。まー色もつけて上げたいところだけど、さすがにこの時間だけで仕上げるのはちょっと無理なので」

 とりあえず、牡丹が望むなら、プレゼントしたあとに色もつけます、と彼女は言う。

 でも、これだけでも十分、あの場所の幸福感というのは表現できてると思う。


 しゃ、写真ほどじゃあないけれどね! 

 

「あ、いたいた。律さーん! 絵の方はどうですか?」

 さて、そんなやりとりをしていたら、少し離れたところから声がかかった。

 そしてその声の主はこちらに近寄ってくる。


「さっき描き終わったところ。額はそっちで用意してくれてるんだよね?」

「はい、こちらで。さっさといれちゃいましょう」

 聖さんは時計をちらりとみながら絵を額にいれる。

 そしてそのまま、ラッピングをし始めた。

 接客業をしているからなのか、やたらと包装が上手くて、ちょっと豪華な造花とリボンをあしらうと、みごとな贈り物の完成となった。


「ふぅ。なんとか間に合った。かおたんも律さんも、早く会場に向かいましょう」

「かおたん……ねぇ。(ひじり)ちゃんも、弟くんと面識あるの?」

 披露宴の会場に向かいながら、律さんがなにげなく尋ねた。

 それに、聖さんは、きょとんとした顔を浮かべ……ああ、そかそか、と一人納得した。

 かおたんとは初対面ですか、と言った感じだ。

 

「この子は牡丹のこと大好きだから、小さい頃から後ろをとてとて歩いてて。あたしらが中学生のころはいろいろと構っていたんで、面識どころか友好がありますね」

 あと、うちの場合は弟も友達なので、というと、そっかー、とちょっと律さんはうらやましそうな顔をした。

 幼いころからの友人というところに、思うところでもあるのかもしれない。


「そういうことなら、今聞いちゃおうかな」

 うーんと、律さんはちらっと時計を気にしながらも、立ち止まった。

 今は披露宴会場にみんな集まっているから、周りに人は居ない。


「ちょ、律さん。時間ないですって」

「さっきから気になってしかたなくて。聖ちゃんも昔から木戸家と付き合いがあるなら、知ってるかなと思うんだけど……」

 立ち止まってしまった彼女に困惑しながらも、木戸と聖さんもその場に足を止める。

 無理矢理ひっぱる訳にもいかないのだから仕方が無い。


「これ、見てくれるかな?」

「……母さん?」

 スケッチを取り出した律さんに、二人で困惑した顔を浮かべる。

 聖さんも、静香母さんとは面識があるので、その絵を取り出されれば、誰なのかはすぐにわかる。


「そう。牡丹のお母さん。さっきその姿を見てて、あれ? って思っちゃってね。わたし、よく似た娘の絵を描いたことがあって」

 おっと、その話の流れから来ると、そういうことか。

 母さんはルイ似だともっぱらの評判である。

 その姿を見てしまえば、律さんならばいろいろな事を考えてしまっても仕方ない。


「というと?」

「木戸家には隠し子がいる、とか」

「……うわぁ」

 牡丹からは二人姉弟と聞かされてたけど、もう一人いるんじゃないかな? と律さんは言い始めた。

 木戸家七不思議でも始まるのだろうか。

 もう一人いるとは、結構ミステリーである。


「ええと、律さん。さすがに木戸家に隠し子って話は聞いたことはないんですけど」

 ねぇ、かおたんと言われて、さぁどうすんの、というプレッシャーを感じた。

 まあ、聖さんがアウティングする訳にもいかないわけだし、それはそれでいいんだけれども。


「んー、そうですね。時々うちの母さんが、ルイさん似ってのは言われますが、本人は娘は牡丹しか産んだ覚えがない、といっているので」

「……そういう切り返しか」

 ぼそっと聖さんが呆れた様な声を漏らしているのは聞こえたけれど、とりあえずはこれくらいでぼかして伝えておく。

 律さんなら、別にルイの正体を言ってしまってもいいのだけど、さすがにこのような場で、というのはちょっと控えたいところだ。

 披露宴もまっているし、その前にバタバタしたくはないのである。


「いろいろ疑問は残るけど、とりあえずはまあ、そういうことならしかたない、か」

 あれ、絶対、ルイさんと血がつながってると思うんだけどなぁ、と未だにぼやく律さんをひっぱりながら。

 ようやく木戸達は披露宴の会場についたのだった。

姉の交友関係といえば、この人! ということで律さん出すの久しぶりだー! って感じです。

前の登場のところ読み返したけど、思ってたほどビクビクはしてないんだよなぁと、改めて思いました。

そして、結婚式で速攻で描いた絵をプレゼントされるってのは、サプライズだと思うのです。

静香母さままでスケッチしてるあたり、律さんあんた……とは思いましたが。


さて、次話は披露宴の話に行こうかと思います。律さんの話はちょっと結婚式でいろいろ絡めて書く予定ではあります。

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