565.姉の結婚式の日に3
本日短めです。
結婚式の描写って、難しいですね。
荘厳なチャペルの中では、すでに多くの参列者の姿がそろっていた。
新郎と新婦でそれぞれ列がわかれるわけだけれど、それぞれの招待客の数は同じくらいだ。
姉さんのほうは、親戚と、友達がメインといった感じだろうか。
ああ、あとは見たことない人もいるけど、あれはアルバイト先の人たちなのかな。
いちおう、木戸家の方針として、なるべく自立しましょうというのがあるので、いろいろな費用は自分でまかなうのが原則だ。
どんな仕事をしてるのか、とかは話題にあがったことがないけど、みなさん割とおとなしそうというか、真面目そうな印象な人が多いなと思った。
対して新宮さんの方は、親戚や友達はもちろん、会社の人たちっぽい相手がちらほらいた。
きっとこの後の披露宴の方ではいろいろといじられるのだろうなぁという感じだ。
そう。なにも結婚式は式場での儀式的なやつだけではない。
この後に披露宴という形での宴会が開かれるわけである。
友人達からのサプライズみたいなのもあるという話はちらりと聞いているし、きっと仕掛けがあるのだろう。
ちなみに、そちらでも撮影をしないといけないので、こちらでの撮影はじーちゃんにかなりの部分を任せようかと思っている。
さすがに、指輪交換くらいは撮るつもりでいるけれど。
「しかし、12本のバラ、ねぇ……」
結婚式の形というものは、正直ここ日本においてはあまたあると言っても過言ではないだろう。
神社でやる日本古来の形式と、チャペルで行う西洋式でまず異なるし、さらに西洋式の中でも、キリスト教系かどうかでまた変わる。
人前式なのか神前式なのか、という違いといえばいいだろうか。
結婚というものの考え方が日本はとてつもなくリベラルな国だからこそ、こんなことになるわけで。
通常海外では、結婚は『神に誓約する』ものらしい。二人で一緒になることを神に誓うわけだ。
日本でも、神社でやるのはそういうところはあるのだろうけど。
けれども、熱心な信仰心を持つ日本人というのはかなり稀。
お正月は神社にいって、お葬式は仏になるのが日本だ。
唯一神をまつる宗教との相性はとてつもなく悪いわけだけれど、それでも日本での西洋式結婚式は大人気だ。
まあ、ドレスもきれいだし、教会は華やかなので、二人の始まりにはふさわしいと思えるのだろう。
天井の高い教会は、開放感が段違いだし、明るさだって撮影するのにかなり有利な環境ともいえる。
そんな環境を使いつつ、神様に誓約をするのではなく、友人知人に対して、宣誓するのが人前式というものだ。
いわゆる形式にとらわれない自由な式をすることができるので、信仰心より、人とのつながりの方を優先する日本人には合っているスタイルなのだろうと思う。
そっちだと教会ではなく、普通にそっち関係なくな会場を使うこともあるという。
さて。そんな風にフリーダムな結婚式のスタイルが許される日本ではあるわけだけれど。
姉さんと新宮さんが選んだのは、神前式と人前式をブレンドしたようなスタイルなのだった。
牧師さんは確かにいるし、教会での挙式ということもあって、比率といえば神前式の意味合いのほうが強いだろうか。
そんな式場で、木戸は一輪のバラを手に持っていた。
招待客のうちの12人がそれぞれ一輪ずつバラを持ち、それを新郎に手渡すというイベントがあるのだ。
正直、渡す側じゃなくて、渡すのを撮る側でいたかったのだけど、新郎新婦と親しい人がやるべきこと、と言われて、その役割を担うことになった。
ちなみに、これに参加するのは親族からだと、木戸と、真矢ちゃんと、真守さん。
つまりは新郎新婦の兄弟から三人。
あとは、会社関係や友人関係から贈られる。
新郎と新婦それぞれから六名ずつということで、野々木さんたちも渡す係を仰せつかっているようだった。
「しかし、白とピンクのバラね……」
バラにはいろいろな色がある。
さすがに12本全部別の色だとバランスも悪いということで、選ばれているのは白とピンク。
そして、木戸が渡すのは淡いピンクのバラだった。
そのバラのわきには、「栄光」の文字がかかれたタグがくっついていた。
ダーズンローズといわれるこれは、それぞれのバラに一本ずつ意味が込められている。
感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠。
どういう意図をもって木戸に、栄光を預けたのかは知らないけれど、まあ、愛情とか情熱とかを渡されてもちょっと、引いてしまうので、まあこれはこれでいいのだろう。
これらすべてを束ねて花束にして新婦に渡すのだ。
ちなみに、真守さんは努力で、真矢ちゃんが情熱のタグ付きを持っていたりする。
野々木さんが永遠だったりするのは、うーん。永遠に結婚できなさそうとかそういう揶揄はさすがにないと思いたい。
「お待たセいたしました。新郎の入場です」
さて、そんなことを思っていると、少し外国の人っぽい発音で、会場にアナウンスが響いた。
まずは新郎が入場する。
ヴァージンロードを歩いていく姿は、白のタキシード姿で普通にかっこいい。
写真は……うん。一枚だけ。一枚だけ押さえました。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
そして真飛さんはバラを回収しながら、みんなの祝福の熱を受け取っていく。
そんな彼がわきに来たので、木戸も手持ちのバラを差し出した。
少しばかり彼の顔が赤いような気がしなくもないのだけれど、この熱気にやられてしまっているのかもしれない。
なんせ結婚式だ。
彼は12本のバラを集めると、花束に仕上げていく。
タグがうまく見えるようにバランスも考えつつだ。ここらへんはプランナーさんに教わっているそうで、特に困った様子はなかった。
「では、出迎える準備が整ったトコロで、新婦の入場となります。盛大な拍手でお迎えください」
少しあちらのなまりがあるイントネーションで、新婦の入場を告げるアナウンスがかかった。
神父さんが司会もやっているようで、一手に式を取り仕切ってくれているようだった。
「……さすがに、これは撮らぬわけにはいかない」
カメラを構えて姉さんが入場してくるところを撮影。
さっきもドレス姿は見たけれど、おっぱいな姉はすっごくきれいな姿勢で、父にエスコートされながら入場していた。
ウォーキングの練習でもしたんだろうなと思えるくらいに、ドレスの波打ちがきれいで、ふわふわした感じというのがよく出ているようだった。
対して、父さんは……すでにもう目が真っ赤である。
娘の結婚に反対ではないんだろうけど、嫁には行ってほしくないというのがある父である。
そんなに家に帰ってこないとはいっても、やっぱり嫁に行くとなると、感じ方も違うのかもしれない。
木戸からしてみれば、ほんと、真飛さんともそれなりに交流してるので、いままでとあまり変わった感じはないんだけどね。
「父さん、今までありがとう」
ヴァージンロードを二人一緒に歩きながら、最後に姉さんはその手を放して、笑顔でお礼の言葉を述べる。
その言葉が父さんには衝撃的だったようで、ぐすっとまた目に涙をためているようだった。
旅立ちなのだから、そんなに泣かなくてもと思うんだけどね。しかも遠くに嫁ぐってわけじゃないんだし。会おうと思えば一時間も電車に揺られれば会えるんだから。
そして、新郎のもとに向かう姉と、それを迎え入れる真飛さんの顔を激写。
うん。これはあれだね。改めて惚れ直しましたとか、そんな感じだろうか。
正直、さっきも見たドレス姿だというのに、彼は何度でもその姿に見惚れるのだなぁという感じだった。
「牡丹。これを」
そして、壇上に立ったら、彼は膝をついて、新婦にバラで作った花束を差し出した。
「ありがとう。真飛さん」
新婦はそれを受け取って、一回胸元できゅっと抱きしめるようなしぐさをした。
受け取りました、というような感じだ。
あっ、その表情、こっちの確度からだと上手く撮れない……んぐっ。じーちゃんはしっかりそれを抑えているみたいだった。
さすがに撮影スタッフの腕章は、移動が自由にできる力を持っている。
自分の席から離れてしまっても誰も何も言わないのだ。
うらやましい。
「では、これを」
牡丹姉さんはそのバラの中から、一輪を選んで真飛さんの胸元に差し入れた。
その花のタグには誠実のタグがつけれているようだった。
淡いピンクの花が、白いタキシードの胸元を飾っている。ブートニアと言われるものだ。
その儀式はほかにも撮影したい人は多かったようで、ゲストの席からはシャッターの音、ではなく、ぴぴっという電子音がめちゃくちゃ鳴っていた。
まあ、みんなスマホで撮るからなぁ。
カシャカシャは言わないのです。
「コレより、新宮真飛と、木戸牡丹の結婚式をとりおこないマス」
そして、それらの音を背景に、神父さんはやはり少しあちらのなまりがある声で、式の始まりを告げたのだった。
フラワーシャワーが注ぐ中、会場をでるまでの間、二人はとてもにこやかな顔をみんなに見せていた。 やはり花嫁さんというのは結婚式の顔が一番美しくなる物だと木戸は思ったのだった。
はい、そんなわけで、ダーズンローズをやってみました。
結婚式の手法はいっぱいありすぎて、正直「なんにするのか迷う」レベルで、今回は調べ物も多く難儀しました。
フラワーシャワーとかもあるんですが、式の内容は今回は描写しないので脳内保管でお願いしたい!
え、次話は披露宴にいく話をかきます。あの人も結婚式に招待されてるのです。牡丹姉さま絡みですので。




