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564.姉の結婚式の日に2

どうしても更新が一日遅れる感じになってしまってます。

結婚式は、書くのが難しいのです。気分的にな!

 新婦の控室に向かうと、そこはなにやら重厚な扉で閉ざされていた。

 新郎の控室とは扱いが違うそこは、特別ななにかのようだった。

 さすがは結婚式は新婦のためと言われることがあるなぁと思えるくらいである。


 

 さて、とりあえず木戸は一人、真飛さんから少し離れてその扉が開くのを待つ。

 なぜって? それは姉さんが出てきてからのお楽しみというやつで。


「準備ができました」

 中から声が聞こえて、その豪華な扉が開く。

 そして、姉さんのウェディングドレス姿が視界に入ったとたんに、かしゃりという音が鳴った。

 もちろん、木戸の方もかしゃりというシャッター音を鳴らしておく。


 先に鳴ったのはもちろんじーちゃんのものだ。

 姉さんの方にカメラを向けて数枚撮ったのだろう。

 音がちょっと連写気味だった。くぅ、うらやましい。

 そちらに対して、木戸の方は一枚だけ。

 真飛さんのほうの表情を抑えた。

 きれいな新婦さんに見惚れた新郎さんという感じだろうか。


 結婚式当日の撮影ルールとして、じーちゃんとの間に取り交わされた約束が一つある。

 それは、新郎と新婦が一緒にいる場面では、じーちゃんが新婦メイン、木戸が新郎メインで撮ることである。

 もちろん新婦の方を撮ること自体は問題はないけれど、じーちゃんの邪魔にならないようにする、というのが一つある。

 最初はこのすみわけはどうなのかな、と思ったけれど、実際やってみると、あっちはあっちで新婦メインで、お披露目の顔をしっかり撮っただろうし、こっちはそれを見た新郎が撮れているので、二人での撮影というのも、ありかもと少しながら思ってしまった木戸だった。

 悔しさはあるけど、正直一緒に撮っていて楽しいのである。


「おかしくないよね?」

「ああ、綺麗だよ、牡丹」

 さて、話を戻して姉さんのドレス姿の話をしよう。

 姉さんはおっぱいの人である。そして巷ではウェディングドレスは胸で着るものという風潮があるのだそうだ。

 さて、姉さんのドレスなのだけど、結構大胆に肩を出しているビスチェタイプというやつだった。

 なかなかに刺激的な恰好ではあるけれど、デコルテもばっちり表にでているし、あれだけ豊満なおっぱいが、不自由なくドレスの一番上に鎮座しているというような状態だ。

 え、デコルテってなにって? 胸元とか首のあたりですって。

 デコのことではございません。


「まったく。アツアツで見てるだけで恥ずかしいわ」

「そーだねー。さすがはこの若さで結婚な二人だ」

 さて、そんな撮影をしている中で聞こえるのは、見知った声だった。

 だいたい新婦の着替えの立ち合いなどは親戚などがするものなのだろうけど、姉さんの後ろから姿を現したのは、あの二人なのだった。

 中学のころから付き合いのある友人二人。

 聖さんと、野々木さんの二人組なのだった。


「うわぁ、会場に行ったら会うかと思ってたけど、ここでか」

「おぉー、かおたーん、久しぶりだねぇ。大きく……なってないね。全部の成長は牡丹のおっぱいに持っていかれたか」

 久しぶり、と野々木さんは木戸のもとに近寄ってくると、じろじろと体を見回したあとに、ぎゅむっと抱き着いてきた。

 ちょ、いきなり抱き着くとか。カメラっ、壊れちゃうからっ。


「う、高校のころとあまり変わらないって言いたいんでしょうけど。これでも俺だってそれなりの成長というのはしてるんですからね」

「成長……服のセンスとかはもうちょっと成長してほしい」

 むー、とアパレル業界にいる聖さんはため息を漏らした。

 ま、まあ、こういう正装が似合わないのはわかっているけれども。


「聖さんなら、似合うコーディネートしてくれるんですか?」

 もちろん、この黒縁さんをかけたままで、というと、彼女は、んー、と視線をそむけた。

 似合う、というので思いきりドレス姿でも想像していたのだろうか。


「髪型とかいじればあるいは……」

「ひぃちゃん、いくらなんでも無理がない?」

 髪をいじるっていっても、ふわふわにでもするの? と野々木さんが首をかしげる。

 無駄無駄無駄、って感じが思いきり彼女から感じられる。


「んー、例えば、髪を伸ばしてロングに……してはいけない、か」

 それだけはやってはいけない、と聖さんは首をふるふるさせた。

 まあ、そっちに舵をきっちゃうのは確かに危険ですよね。

 男性のロングに見えなくなっちゃうし。


「こらっ、そこ二人。人の弟にちょっかいかけない」

「おっと。新婦さんに叱られてしまったぜ」

「結婚しても、弟のことは大好きってことね」

 ふふ、と聖さんはなぜか木戸に抱き着きながら、姉に笑いかける。

 まあ多少くっつかれても、なんとも思わないんですけどね。


「それは、そっちもでしょーが。いまだに仲良しだって聞いてるし」

「うちの弟は、果たしてあたしが結婚したら、かおたんみたいに結婚式に来てくれるだろうか」

「さすがに、木村なら来ると思うけど」

 それでさらには、そこそこなサイズのクマさんとかプレゼントしてくれると思いつつ、さすがにその話はできない。

 あとで木村に怒られてしまうからね。


「でも、その前に二人は相手探しからじゃないですか? 特に野々木さんは」

「うぐ……」

「そうよね。ノノっちは男の趣味がちょっとこう、尖りすぎているというか」

 さすがに女装させて大丈夫な美少年っていうのは難しいんじゃ、と姉さんは不憫そうな顔を浮かべた。

 ちなみに、女装させて似合うのは、美少年に限らないと木戸は思うけれど、この場ではそんな反論はやめておく。


「でも、最近ちょっと思ったの。女の子でもいいんじゃないかって」

「ここはっ、はっ。俺のお尻がっとか、言っておけばいいの?」

 親友だとオモッテタノニーと、聖さんが棒読みをしはじめた。

 いやいや、結婚式でやる話題でもないとは思うのだけど、姉さんはそんな掛け合いをにこやかに見守っていた。

 忙しい結婚式の、その前にちょっと昔ながらの友人たちの姿を眺めておこうとかそういうのかもしれない。


「あたしたちは、かおたんのアレとか見たりしてるわけで、その姿におねーさんは、ちょっと性癖をゆがめられてしまったのです」

 全部かおたんのせいなんだからねっ! とか言われてもこちらとしては困ってしまう。

 勝手に着せ替え人形にしてたのは、姉様たちだと思うのですが。


「それで? 女性とお付き合いしてみた、とかそういう話なんですか?」

 野々木さんが言いたいのは、たぶん女装に耐えられる美少年が好き、からの、じゃあ女の子でもいいじゃない、という発想なのだろうけれども。はたしてそれであっさり同性愛者になれるものなのだろうか。


「残念ながら、これだっ! て子に出会えません……もう、どこかの誰かは、女優さんとイチャイチャしているというのに」

「そんなこともあったっけね。公開ディープキスとは、おねーさんも驚いたわ」

 弟も、驚いてたと聖さんは言った。まあ、そうですよね。あのあとメール来てたしさ。

 おまえ、なにや……うらやまけしからん! みたいなのは。


「あれを見て、女の子同士ってのもいいのかも、って思っちゃったわけですよ、ねぇ、かおたん」

「これが影響力……」


「だぁ、もう、二人ともなんですか、その影響を受けたーってのは。いいですか? 同性愛者になるかどうかは、憧れとかそういうのじゃなくて、本能的なものだっていいますよ? 両方いける! ってことなら可能性としてはありかもですが、なろうと思ってなれるものでもないじゃないですか」

 少なくとも、俺は同性はちょっと、というと、にこにこ見ていた姉様に、ぽんと肩をたたかれた。

 あれ。いつのまにそのドレスで移動とかしていたんでしょうか。


「あんたは、異性もちょっと、でしょうが。どうせカメラが使えないっ、とかってデートのムードぶち壊しにするんでしょ?」

 じーちゃんから、いろいろ話は聞きました、と姉様は深いため息をついた。

 あんたには結婚はまだまだ先ね、というような感じだ。


「べ、別にいいし。結婚だけがすべてじゃないもん」

「うわ、かおたんが教会で絶対に言っちゃいけない言葉を……」

「みんな結婚幻想に取りつかれて、今日だけはブーケもらうぞー、とか思ってるというのに」

 なんて恐ろしい子、と野々木さんたちに愕然とされてしまった。


 でも、そんなことを言われてもやはり。

 木戸にとって、結婚式というのは、やる対象ではなくて、撮る対象なのである。


「さて、じゃあそろそろ時間だから、あとは新郎と新婦だけにしませんと」

「ちなみに、新婦の父もこの場に放置になります」

「あそこに放置?」

 えっと、大丈夫なの? と聖さんからこそっと耳打ちが入った。


 さて、父さんは、新婦をエスコートするという役割があるわけなのだけれど。

 ばっちりとした黒の正装をしている彼はというと、ソファにへたり込んだまま、ぼたーん、とぼそぼそつぶやいているばかりだった。

 はっきりいって、そうとうにそこだけ空気が重い感じだ。


 まあ、父さんは、さんざん木戸にまで嫁にいくなーとぼやいていた人である。

 実際、結婚式になったらどうなのと思っていたのだけど、もうすでに嫁に行くなモードのようだった。


「ま、なんとかエスコートまではもたせてやります」

 あとは、じーちゃんからもフォローが入ると思うので、と姉さんは苦笑気味に言った。

 そう、残るというとじーちゃんもこっちに残るんだよね。

 まあ、それでも少し先に会場に入って入場のシーンはばっちり抑えるみたいだけれど。


「そういうことなら、あたしたちは先に会場でまってるね」

「さぁ、あの牡丹がどんな殊勝な顔を見せるのか、楽しみだね」

 さて、そんなことを言いながら、二人は会場の方に向かい始めたわけだけど。

 姉さんはドレスを引きずりながら、父さんの肩に手を置いてなにやら話をしていた。

 もちろん、そんな姿も一枚かしゃり。

 制限はあるけれど、これは撮っておくべきものだろう。

 

「嫁入りと父、って感じで。あとで父さんを味方に引き入れるときに使おう」

 うん。そうしよう、というと、すでに会場の方へ移動を始めた野々木さんたちが、早くおいでー、と手を振っていた。

 きっと会場の方にも、撮影スポットはたくさんあるだろう。

 そう思いながら、その手招きに応じて、木戸は式場である教会へと向かったのだった。

さて、姉様の交友関係の人たちを登場させてみました。

結婚式には参加者はそれなりだけど、新婦の方の楽屋までこれる人ってなるとこの二人かなぁというわけで。

相変わらず野々木さんは、恋人いない歴=年齢をつっぱしってるようです。


そして、父様は復活するのかっ!

というわけで、次話は式と披露宴のところまで……いけるといいなぁ。


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