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562.銀香町での初デート・じーちゃんを添えて6

最後のスポットはここ! ということで。


9.16舞台の撮影禁止→撮影縮小に切り替えました。

(男の娘会で、写真見せてました)

「はぁ……はぁ」

 背後から、少し弾んだ息づかいが聞こえた。

 ただいま、ルイ達は絶賛、階段を上り中である。

 前に千紗さんが雪の中に上って、もうやだと言ったあの階段。

 それを二人で上っているわけで。


 うん。これはさすがにじーちゃんにはきつかったかなぁと思いつつ、でもあの人ならあっちの町の神社の階段なんかもすいすいと上っていそうな気がしなくもなくて。

 どこでも神社ってのは高いところに作られるものなのかなぁなんて思いつつ、ルイは最後の一段を上りきった。

 後ろをくるりと振り返ると、崎ちゃんがただじっと石段だけを見て少し後ろを上っているところだった。


 かなり息はあがってしまっていて、しんどそうだ。

 おお。となると、あれを撮らねばならない。


「石段、きつすぎ」

 これでも歩いたりはしてるつもりでいるのに、と崎ちゃんは言いながら、なんとか階段を上りきる。

 その瞬間を軽く、バックステップで境内の方に進んでいたルイは、カシャリと二、三枚撮影。

 うんうん。一枚だけだと撮りこぼすかな、と思ったからの、この枚数である。


「ちょっと、何を撮ってるのよ、何を」

「何って、上り切ったぞーっていう、登頂の顔を押さえておこうと思って」

 言葉を尽くさずとも、この瞬間はみんないい顔するので! というと、えぇーと崎ちゃんは不満げな顔になってしまった。

 いや。そうはいっても、ほんと誰でも張り詰めた糸が緩んだ瞬間ってのは、いい顔するんだから。

 できあがりを見ればきっとそれで納得すると思う。


「高校時代だって、この手の上り切ったよー! って写真はみんなの評価も高かったんだよ? クラスのアイドル、斉藤さんのあの姿をよく撮った! ってみんなに褒められたし」

 特に、男性陣から、というと、ぴくりと崎ちゃんは反応を示した。

 男性受けのする写真を撮られることに抵抗でもあるのだろうか。でも、さんざんあれだけ写真集とか出してて今更な気がする。

 崎ちゃんの写真集の購買層は圧倒的に男性の方が多いのだ。

 女性だってまあ、買ってないではないとは思うけど、やはりそこは隔たりがある。


「ああ、確かにそんな子居たわね。演技もまあまあよかったわ」

 けど、デート中に他の子の名前を出すのはどうよと言われてしまった。

 そうは言われても、友達の名前を出すくらいいいのではないかと思う。

 っていうか、さくらの名前とかはそれなりに出してても無反応なのに、どうして斉藤さんでその反応なのだろうか。


「ちなみにあの子、その後は演劇とか続けてるの? ええと、澪だっけ? 後輩の方は劇団で女優(、、)をやっているようだけど」

「いんや。斉藤さんは人を喜ばすのが好きみたいでね。将来は保母さんになりたいってこの前言ってたよ」

 女子会の話、さくらあたりから聞いてるんじゃないの? と聞くと、あぁと彼女は頷いた。

 あの二人はなんでかんで、かなり仲良くなってツーカーな関係というやつだ。

 楽しいイベントがあったら、大抵筒抜けだと思って間違いはない。 


「保母さん……か」

 なんか意外と崎ちゃんは目を丸くしている。

 あれだけ演技ができるというのに、とご不満な様子だ。


「まあ、そこら辺はなにになりたいかってのがあるからねぇ」

 あれはあれで紙芝居とか絵本とか読み始めたら、やたらリアルらしいよ、というと、ああそういう生かし方もあるのね、と彼女はちょっと納得した。


「ちなみに澪の方は女優を目指してるから、舞台にも必死ってね」

「そうね。舞台にも立ったんだっけ?」

 崎ちゃんは澪がいる劇団の先輩にあたるのもあって、以前、舞台のための写真を撮って欲しいといわれたときに、現場にいたこともある。

 それ関係で一応は、どういう状態なのかはわかっているようだ。

 そりゃまあ、ちょっとしたトラブルというか、衝撃的な現場を目撃しちゃったんで、いろいろ吹っ飛んでしまったところはあるけれども。

 あれは、覚えておかない方がいい類いのことだと思う。


「無事に舞台も成功したみたいよ?」

「みたいよって、あんた……見に行ってないの?」

「行ったけど、なんというか……あれだけ宣伝用の素材を撮りに行って、話をしたからすでに内容はある程度わかってるし、意気込みみたいなのも全部わかってる上で行ったから、純粋に楽しめなかった感じ」

 しかもあんまり音は立てないでくださいってお願いされてて、自由に撮影できなかったんだよ、というと、そういう評価か、と崎ちゃんに白い目を向けられた。

 いや、確かに完成度はよかったし、舞台へも無料招待だった。

 不満はまったくないけれど、でも、もうちょっと自由に撮らせていただきたかった。

 音の問題を言ってたけど、あれたぶんあまりカメラ向けると役者さんたちが、粘着撮影されたときの事を思い出して、集中できないとかそういった理由なのだと思う。

 それでも、こっそり撮影はしたけれどね。遠くから。特に澪さんは綺麗に撮りましたよ。


「別にネタがわかっていても、舞台ってのは楽しめるものなんだけどね。っていうか、役者が泣くから撮影自粛させられたから魅力半減ってのは言わないであげて」

 これ、絶対だから、と崎ちゃんにいわれて、は、はーい、と返事をしておく。

 うわ、珍しく真面目な指摘である。

 とはいっても、やっぱり思い切り舞台の前とか横とかから撮影したかったなぁと思ってしまうのは仕方が無いことだ。


「さて、それで見せたい景色っていうのは、これなわけ?」

 ん? と崎ちゃんに促されて、とりあえずお参りだけは済ませておく。

 社の方ももちろん大切な被写体なので、お参り風景も一枚押さえる。

 なんか、けっこう真剣にお祈りをしているのだけれど、ここの祭神様ってなんだったかな。

 芸能の神様とかって関係していただろうか。

 まあ、ご挨拶を真剣にするのはいいことだ。


「あとは、こっちかな」

 町の全景が見れるスポット、と言うと、崎ちゃんがおぉ、と声を上げた。

 これが長い階段を経て出会える景色というやつだ。

 銀香町を一望できる名スポットである。

 ちなみにここも、ルイさん出没スポットとして割と有名なところだったりする。


「良い感じに夕暮れだし、町がすごいことになってるでしょ」

 やっぱ、夕方の景色はいいよね、と言って上げると、うん、と崎ちゃんは完全にその景色に見入ってるようだった。

 もちろん、それを少し離れたところから撮影しておく。

 夕日を浴びてる崎ちゃんと、そしてもうちょっと背景に町をいれた写真と。

 そして、町オンリーのものと三枚。


 正直、写真集には絶対に載らない、プライベートな写真の完成だ。


「あんたはやっぱりこの町で育ったんだね」

「もうまる五年はお世話になってるかな」

 育った町、と言われると、正確には木戸家のあるところではあるのだけど、崎ちゃんが言いたいのは、ルイが、ということなのだろうと思ってうなずいておく。


 一番多く撮影に来て、町のいろいろな景色を撮ってきた。

 愛着だって人一倍あるつもりだ。

 そういう意味では、ルイを育てた町というのもあながち間違いではない。

 ちなみに二番目に多くの撮影をしているのは、レイヤーさんたちなのだけど、そこは今は話題には出さないでおく。


「あ、あそこっ、前に撮影に使ったところだ」

「うん。当時はあの脇の家、無かったんだよね」

 指さしたところを見ると、崎ちゃんと出会った頃とは違う風景がそこにはあった。

 一見、変わらなさそうな田舎の町であっても、日々新しいものが建てられているということはある。

 たとえば、新しいお店だっていくつかはできている。

 五年という時間はそれが起きるには十分な時間だ。


「ほんと、あのときは、へんな子がいるなって思ってただけなんだけどな」

「それはこっちの台詞でもあるんじゃないかな。堂々と、さぁ撮らせて上げる、みたいな感じだったし」

 十分、変な被写体でした、というと崎ちゃんは、なにおうと言いながら、笑った。

 あのときの事を思い出しているのだろう。


「そして、今じゃ一緒に、で……町歩きする仲になっているとは」

 ほんとあの頃じゃ、信じられないことだわ、と崎ちゃんは苦笑を漏らしている。

 町歩きのところで言いよどんだけれど、どういうことだろうか。


「なにげに、一緒に出かける機会ってのは今までもあったけど、まぁ、これはこれでちょっと特別って感じはするかな」

 お互いこういう衣装を着ているし、と軽くターンをすると、スカートの裾が踊った。

 今日のルイさんはお嬢さま風味なので、服も体の動きに合わせて踊るのである。


「あのね、馨」

「ん?」

 はて。崎ちゃんがいきなりこっちの姿なのに、馨呼びである。

 周りに人がいないからいいけど、どういうことなのだろうか。


「来月も、その……今日みたいに出かけてもらえる?」

 なんか、ちょっと真剣な顔をしていたから、何かと思ったらそんな話か。

 月一回の、おためしデートはそもそもこの前のHAOTO事件のお詫びという面が大きい。

 回数も一回だけ、というようなことは話してなかったし、これからも毎月ある程度は一緒に遊びに行けたら面白いなとは思っていたのだ。

 

 でも。一つだけ引っかかるところはある。

「撮影枚数200枚にしてくれるなら、いいよ?」

「……120枚で」

「ええぇ。そんな中途半端な。メモリ二倍にして200枚でどう?」

 ほら、20枚刻みとか面倒というと、崎ちゃんは、苦笑を浮かべつつ言った。


「必要ないデータを適度にいれれば調節できるんじゃない? それに一回のデートで、増量するのはそこまでです」

「じゃあ、10回もあれば300枚とか撮って大丈夫ということで」

 20枚ずつ増量していってくれるのであれば10回で200枚増量である。

 それくらいあれば、普段外回りをしていて撮っている量くらいにはなるだろうか。

 

 そして、その頃には、もっと崎ちゃんの表情が、あの温泉街の土産物を見ていたときみたいな。

 ちょっと引きつけられるようなものがでるだろうか。

 今度は是非ともあの表情を押さえたいとルイは思っているのである。


「じゃあ、その十回で、せいぜいあたしの魅力であんたを振り向かせて見せるとするわ」

 見てなさいよ、と仁王立ちをする崎ちゃんは、まるで初めて会ったときの様な様子で。

 不適な笑みを浮かべながら、そんな宣言をしたのだった。

 いままでいろいろな人に告白されたりしてきたわけだけれど、ここまでの相手というと、それこそ崎ちゃんと翅くらいなものだ。


「あ、でも夏祭りの時はさすがに二人とも浴衣ね? あたしが甚平とかはさすがにちょっと」

 動きやすそうだけど、きっとそれでも可愛いって周りから言われるだろうから、というと、うぐっと崎ちゃんの顔が固まった。

 

「い、いいわよ。夏祭り。一緒にいってやろーじゃないの」

 咲宮の別邸とかも借りてやるわよ、と崎ちゃんは前のめりでそんなことを言い始めた。

 ううむ。別邸の庭をお借りするのは良いアイデアだとは思うけど、果たして今年はご当主様はいらっしゃるのだろうか。

 ゼフィロスの件もあるから、いろいろと話をせがまれてしまいそうな気がする。


「ま、どうにでも転ぶ、かな」

 なるようになーれ、と思いながら、再び表情を作り直した崎ちゃんを撮影する。

 ショートカットの彼女も、夕日の中で輝いていて、とても良い仕上がりになっていたのは。

 もはや、言う必要はないだろう。 


作者の中では、社は石段の上イメージが強いのですが、町中にある神社とかもわりとあったりするものです。祭神さまがなんだかはよくわかりませんが、どうか恋愛にも強い神様だと良いですね、崎ちゃん。


そして今回は夕日の景色を思う存分堪能させていただきました。

夕日ってただでさえ幻想的になるので、もう、たまりません。

さて、この後写真の品評会とかをやるわけなのですが、悔しそうに、よく撮れてるじゃないという崎ちゃんの顔が浮かびます。次回は是非とも120枚、撮らせてあげてくださいませ。


さて、次話ですが、やっと姉様の結婚式です。

撮影できないで一般参加する木戸くんは、果たして正気で居られるのでしょうか!


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