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557.じーちゃんが木戸家に来訪するようです4

すっかり遅くなってしまいましたが、じーちゃん襲来最終話です。

「わしじゃー、部屋に入れてもらってもかまわんかのう?」

「かまいませんが、ちゃんといろいろ教えてくださいよ?」

 はいはい、と着替えを終えたルイは部屋の扉を開いて、お爺さまを部屋に招き入れた。

 なかなかにテンションが高すぎて、どよーんとしてしまっているのだけれど、まあ、それも写真の話で盛り上がれるならそれでもいいかと思い直す事にする。


 というか、着替えている最中に、五分おきにまだかのう、と声をかけるのは本当にやめて欲しかった。

 メイクとかもやらなきゃいけないし、そんな簡単にお着替えはできないのだ。

 ……いや、まあ一時間とかはかけないけどね? でも五分おきは是非ともやめていただきたい。


「おっほー、ここがルイちゃんの部屋かの……なんというか。地味じゃの」

「突っ込みどころはそこですか……カメラはどう置いてあるんじゃー、とかそういうのじゃないのはちょっと」

 部屋の感想がそれですか、と写真家のじーちゃんにちょっと不満の声を上げておく。

 この部屋に来たのなら、内装よりはカメラとか、雑誌とか、あとはだーっと並んでるブルーレイとかをチェックして欲しいところだ。


「そうはいっても、こう、男の娘の部屋といったら、きらきらーとしてたりするもんじゃろ? 暖色系の部屋でカーテンとかもレースだったりふりふりでのう。もしくは真逆の汚部屋とかの」

「うちのじいさまの、思い込みがひどい……」

 なんというジェンダー記号の嵐か、といいつつとりあえずカメラの方に案内しておく。


「ほほぅ、今使ってるの以外のカメラかの。胸につってるのいれて三台にレンズは割とそろっとるのう」

 初代のもしっかり保管されてるようだの、とじーちゃんは物珍しそうに見ていた。これがルイちゃんのカメラか! と言わんばかりだ。

「いちおう、今はこっちのカメラをメインに使ってて、あとは馨状態だとそっちのカメラ使ってます」

 男女でカメラ変えておいた方が安全かなと思って、というと、じーちゃんは、ほほぅと興味深そうにカメラに触り始めた。

 もちろんレンズにまでは触らないようで、安心する。


「なかなかだのう。しかし二台持ちとはけっこうルイちゃんもお金かけてるようじゃな」

「そりゃ仕事道具ですからね。さすがに初代のだと画質面で心配になってきてますし、あいなさんに付き合ってもらってカメラは選びました」

 ああ、そういやその帰りにクマさんのショーに参加するはめになったんだよなぁと、ちょっと懐かしく思いだした。


「あいなちゃんか。あの子も写真撮るの大好きじゃしの。いろいろ教わっておるのだろう?」

「高校の頃ほどではないですけど、いろいろとお世話になってますね」

 最近はあんまり絡んでいませんが、と言うと、まぁお主もいろいろあったからのう、と同情的な視線を向けられてしまった。

 むぅ。もちろんHAOTO動画流出事件のことだろう。


「そして、馨用のカメラは大学に入るに当たって、日常でもカメラをもつ時間も多くなるってことで買ってみたやつです。そのときは石倉さんにちょっとお手伝いしてもらいました」

 おじいさまは、石倉さんのことご存じです? と尋ねると、うむむ、とじーちゃんは何かを思い出すようにうなった。


「ああ、あの坊主か。なにやら佐伯写真館をやめて独立したらしいのう。昔はうちにも来たことあるぞい」

「やっぱりそうですか」

 佐伯さんのところの人がお年始の挨拶に行く、ということであれば、彼も行ったことがあるのではと思ったのだけど、あたりだったようだ。

 しかし、あの坊主って。


「ルイちゃんはあんな男に引っかかっちゃダメじゃぞ? 親切にしてもらったとしても」

「だいじょーぶですって。こっちの格好でいるときはほんとイケズですから」

 まあ馨として会うなら、めちゃくちゃ親切だったりするのだけど、そこは内緒にしておこう。


「そうだ、おじいさま。今ここにある機材の中で、これが足りない、みたいなのってあります?」

 せっかくカメラ道具一式を見てもらっているので、じーちゃんに早速アドバイスをねだる。

 自分だけだと、どうしても他に何があるとよりよくなるのか、というのを考えにくい。

 今まではどうしてもカメラ一個でどうにか撮ろうという思いばかりが前にでていたので、いろいろアドバイスが欲しいのだ。

 例えば、三脚使った方がいいよ、とかそういったことを。


「そうじゃのう。対人で撮るならレフ板とかあってもいいかもしれないのう」

「レフ板か」

 ふむ、とカメラ道具を見回してじーちゃんが言ったアイテムは、それだった。

 つまり、光を反射させて被写体を明るくする効果のあるものだ。

 いろいろな色のものがあって、使い分けるというような話は聞いたことはある。

 正直、いままでの撮影スタイルが、歩きながら被写体を探すというようなことが多かったので、使ったことがないアイテムだった。


 そういえば、エレナの写真集のときも使ってないんだよね。

 なるべく自然光で明るいところで撮影することが多いので。

 それに、影は影で、暗さと明るさ両方があるからいいという話もある。


「おじいさまはよくお使いになるのですか?」

「それなりじゃの。料理の写真とかはあった方が美味しそうに写るのう」

 あとは一人のモデルを撮るときとかは、とじーちゃんは言った。

 最近は町内会のイベントの撮影とかをやってるそうなので、集団を撮るとなるとあんまり活躍の場はない、と言っていた。

 まあ確かに多人数だと誰に光りを当てるのかなんて話にもなるだろうしね。


「あとは……普通に替えのバッテリーなんかも用意してあるようじゃし、レンズは望遠もあるみたいだの。まさかルイちゃんったらこれで遠くからあれやこれやを……」

「しませんからっ!」

「なんじゃー、そういうつっこみは静香さんそっくりじゃのう」

 じーちゃんがちょっと変な発言をしたのでつっこんだのだけど、なんということか、母様に似てると言われてしまった。

 そもそもそんなにルイが強い突っ込みをいれることはないのだけど……ふむ、そうか。母様と似てるか……


「でも、望遠レンズを選んだからにはなにかしら目的がありそうじゃけどの」

「えと……実はあたし動物の撮影がそこまで上手くなくてですね……遠くから狙おうみたいな感じで」

 おじいさまは動物の撮影ってどうですか? と尋ねると、じーちゃんはそうじゃのうと、少し考え込んだ。


「さすがにテイマーと言えるほどに動物を手なずけるのは無理じゃが、そこそこかのう。でも遠距離から狙うというのもありではあるかの」

 まあ、力技じゃがね、とじーちゃんは言った。

 ううむ、なにか良い手段はないだろうか。


「気配を消すみたいなことができれば、逃げないですかね?」

「なんじゃ、逃げられてしまうのかの?」

「場合によってはって感じです。嫌がらずになでられてくれる子もいるのですが……」

「な……んじゃ、と」

 こんな感じでもふるんです、と言うと、じーちゃんはショックを受けたかのように固まった。


「むはー、ルイちゃんが猫をなでる姿! それをわしは是非とも撮りたい!」

 たまらーん! とじーちゃんは血圧を高くしながら叫んだ。

 いや、ちょ、叫ばないで。おじいちゃん!


「確かに、可愛い子が動物と戯れる姿、というのはあたしだって撮りたいですけど、そういうのは崎ちゃんにやってもらうべきだと思います」

 うん。

 動物と戯れる図がよりよいのはきっと彼女の方だろう。

 むしろ、自分で想像しても、いまいちしっくりはこない。


 今度銀香に行ったときに、動物……うーん、動物ってなんかいたっけ?

 ええと、道ばたの猫はいるか。それと……小学校のウサギとかかな?

 やっぱり戯れるなら小動物がいいよね。

 もふもふと美少女。いい!


「珠理奈ちゃんかのう。確かにあの子も可愛いが……ううむ。わし、ちょっとルイちゃんの足りないところをわかった気がするぞい」

「足りないところ?」

 いきなりなんですか? と問いかけると、ふっふっふとじーちゃんはドヤ顔を浮かべ始めた。

 いや、いたらない点を指摘していただけるのはありがたいですが。

 

「ずばり、モデルになった経験がどれくらいあるのか、かの」

 どうじゃろうか、と聞かれて、とりあえず誠実に答えることにする。

 さすがにじーちゃん、モデルの経験が足りないなんて言い出さないよね。

 そういう言い方をしたら、モデルになりたいわけじゃないんですが、って思いの方が強くなるし。


「うーん、いちおうカメラマンとしては撮られてる方だとは思うのですが」

 馨として撮られるのは控えているけれど、ルイとしてなら割りとバンバン撮られているし、モデルの仕事もやったりしている。

 そういう意味では、普通のカメラマンより撮られる機会は多いと思う。


「そういえば振り袖のポスターはキュートじゃったのう。じゃが、そのとき、撮られ方をどれくらい意識したかの?」

「角度とか表情ってことですか?」

「そうじゃ、通常カメラのほうで指示したり、表情緩めるために話をしたりするじゃろ。でも、おまえさんはそっちの指示を出せる条件と能力がある。それならば他のカメラマンよりも優位に立てるじゃろ」

 モデルならではの、思考パターンがわかれば、それに寄り添って撮影ができる、とじーちゃんは言った。

 うーん、言ってることはなんとなくわかるけど、どうやって生かして良いかがよくわからない。


「まあ、あれじゃね。明後日のでぇとの時に撮られるのを意識してみるといいじゃろう」

 うっ。そういえばそんな話もあったのだった。

 さきほど、崎ちゃんにメールはしたけど、ちょっと間が開いてメイクが終わった頃に、ご家族とお会いするのは緊張するけど、そういうことならしかたない、というようなへんにゃりしたメールが返ってきたのだった。


 祖父ならまだ、というような感じだった。

 うん。たぶん、じいちゃんに会うのが一番ダメージがありそうだよなとは思ったのだけど、そこは当日フォローしようかと思う。


「ええと、いちおう明後日はお爺さまの同行許可はでましたが、撮影はあんまり無茶のないように」

 変な事いったら、警察にいく予定があります、とにこやかに言ったら、お、おおう、とじーちゃんは少し尻込みした。

 いちおう効果はあったらしい。


「それと、あんまり撮影に熱を入れすぎると駄目だからって、崎ちゃんにSDカードはこれを使えと512MBのものを渡されてるの。枚数制限がひどい……」

「わしがばーさんと最初にでぇとしたときは、そんなにカメラ使ってるのとがめられなかったもんじゃがのう」

 今時のおなごはすごいのう、とじーちゃんはいった。

 だいたいそれでどれくらい撮れるのかというのが予想がついたのだろう。

 100枚も撮影ができないという縛りプレイである。


「崎ちゃんは割とこういうことはぐいぐい言ってくる子だからね。まあこっちも迷惑かけたから、ある程度はあちらに合わせるつもりだけど」

「ふむ。男子たるもの前を歩き、おなごを引っ張るという時代でもないからのう。わしの若い頃はそりゃ、ばーさんをリードしたものじゃったが」

「おじいさんは好き勝手先にすすんで、写真を撮りまくるから一緒に歩いていると大変だったって、この前おばあさまから話を伺いましたが?」

「ぬお。そんな話をしとったんか。いいや、でもちゃんとついてきてくれたしのう」

 しかもにこにこしながらじゃぞー、とじーさまはのろけてくださった。

 ちょっと照れた顔がかわいかったので一枚撮影。

 じーちゃん撮ってどうするのと言われそうだけど、これも大切な写真である。


「当日はなるべく撮影一辺倒にならないようにしなきゃ」

 うん。銀香にいったら思いっきり撮影はしてしまうかもしれないけど、とりあえず最初にそういう気持ちでいることは大切なことだ。

 むしろ当日以外に思い切り写真とふれあうのが肝要である。


「それで、おじいさま。せっかくですから、写真の品評とかしていただけませんか?」

 部屋の品評はほどほどにして、というと、えぇー、かわいい服とかいっぱいあるんじゃろう? なんてじーさまは言い始めた。

 ほれ、あそこのクローゼットの中に、とか言いながら近寄っていくので、はい、パソコンの前に移動しましょうと誘導しておく。

 そう。別にルイさん鑑賞会のために着替えたわけではないのだ。


 ずらりと並んだブルーレイのディスクから年数が若いものから順に何枚か取り出した。

 さて、思い切りだめ出しをしてもらいますよ、と笑顔でいうと、孫が強引じゃあ、とじーちゃんはうめいた。

 

 何はともあれ、写真鑑賞会である。

どうにも部屋でのじーちゃん会話はテンションがあがらぬ、という感じでさっくりいきました。

なので、クローゼットの中身は内緒です。


さて、次話は崎ちゃんとのデート話になるのですが、なにげに作者気がついたら10連勤じゃん、ということで、次のアップは一週間後、今度の日曜日にしようかと思います。

崎ちゃんの話は丁寧にかきたいので。まあじーちゃん乱入で大変なことになるんだろうけれど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こうして俯瞰してみると、キレる、というか強くツッコミをするときのかおたんって、お母さんに似てますね……そういうの大好きです。
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