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555.じーちゃんが木戸家に来訪するようです2

ナンバリングがついに555になってしまったっ! そして今日更新日だったことをすっかり忘れてた作者であります。

「ほほー、ここがルイちゃんちかのう。おぉー、玄関もなにやらすっきりとしているし、掃除も行き届いておるのう」

 しかも玄関がなにやら良い香りがするんじゃぁー、と玄関に入ったじーちゃんは、おぉーと歓声を上げていた。

 さて、木戸家なのだけれど、これで築二十年以上は経っている物件だ。

 間取りとしてはまあまあ、オーソドックスだろうか。

 一階に水回りが集中していて、二階に寝室や個人の部屋があるタイプ。

 

 そんな玄関は、割とこまめに掃除をされていて、入り口には匂い袋のような物も置いてある。

 脱臭と、ほんのりフローラルな香りもつけるという感じだ。


「掃除は週一回俺がやってますが」

「なんとっ、馨がやっとるのか」

「まあ、自室と姉さんの部屋と玄関くらいで、あとは母さんがやってくれてるけど」

 そこら辺は分担してます、というと、おおぉ、となぜか体をぷるぷるさせて、じいちゃんは喜び始めた。


「ルイちゃんが掃除した玄関……きっと、あれじゃろうなぁ。エプロンとかつけて鼻歌とか歌いながら」

「あくまでも掃除してるの、俺なんで」

 料理とかのときはエプロンつけるけど、ここの掃除とかは普通にさくっと終わらせるよ、というと、なんじゃー、つまらーんとじいちゃんに言われてしまった。


「あら、お父さん、いらっしゃい」

「……泊るって話はマジだったか……」

 さて、玄関でそんなやりとりをしていれば、居間の方にも聞こえるわけで。

 わざわざ休みを取った父さんと、あとは今日はナムーのお仕事がない母さんが出迎えにやってきた。

 

 っていうか、じーちゃんの出迎えのために仕事休むとか、どんだけ父さんはびびりなんだろうか。

 それだけ当時はこじれて大変だった、ということなのだろうけれど。


「なんじゃ、わしが来ては不満そうじゃのう」

「そんなことありませんよ。ちゃんと寝床の準備は万全ですから。牡丹が使ってた部屋にエアベッドをつけてみました」

「おぉ、牡丹の部屋か! しかもエアベッドとはのう。最近はやりなんじゃろう?」

 すごいのう、とじいちゃんはまなじりを下げた。


 わだかまりはもうずいぶん前になくなっているようで、素直に木戸家にくるのを楽しみにしていた、というような様子だ。

 気にしてるのは父さんだけなのかもしれない。


「立ち話もなんですから、居間の方にどうぞ」

 荷物があるなら、預かりますよ、と母さんがいうものの、荷物は宅急便で送り済みじゃ! と身軽なじーちゃんだった。

 た、たしかに数日泊るということなら、着替えとかも必要そうだけれど、じーちゃんはそれこそカメラと簡単な荷物しかもってなかった。

 そうか。荷物を先に送ってしまうというのも一つの手段なのか。


「にしても、居間のほうも綺麗にしてるものだのう。これもルイちゃんがやってくれてるのかの?」

「お父さん。たしかにうちの子にはいろいろ家の事をやってもらってますけど、さすがに全部任せてるわけじゃないですからね」

 この子をそんなに家に拘束するようなことはしてませんと、母さんはちょっと怒ったような声を上げた。

 まあ、家事を子供に丸投げって思われたら親としてはちょっと良い感じはしないかもしれないね。


 実際、木戸が受け持っている家事は、木戸が家にいる時の夕食と、朝食。

 そして掃除はさっきも言ったように玄関と自室と姉の部屋だけだ。

 居間やトイレなどは母さんの管轄だし、風呂掃除は父さんがやったりもする。

 洗濯は……はい。女物の服は自分で洗えというのが母さんの指示でございます。

 まあ、雑に洗われるより自分でやった方がいいんだけどね。


「わかっておるよー。でも、話を聞くにずいぶんと家事スキルは高そうだの」

 健たちは必要があったからだが、馨はそれがなく高くなってるのう、と感慨深そうに言った。

 そりゃ、健と楓香は高校生になってから生活を自分でこなさないといけなかったから、家事も自ずと覚えざるを得なかった。

 同世代の女子に比べると、楓香の生活力が高いのはそこら辺が元だ。

 きっと、結婚したらいい家庭を気づいて、いい母親になるだろう。


「嫌がらせでやらせてたら、この子ったら適応してしまうんだもの」

「いまじゃ、飯も旨いしなぁ。時々驚きのレシピとかでてくるし」

「友達の家で教わったのを、アレンジして作ると、ああなる感じで」

 いちおう月一くらいでお食事会はやってるから、というと、おっほー、ルイちゃんとお食事会ができるとはなんとうらやましいと、じいちゃんは言い始めた。


 いや。さすがにじいちゃん招待はしないよ。

 エレナの家のセカンドキッチンのお食事会は、割と参加できるハードルは高い。

 基本的に自分たちでご飯が作れる、というのが基本だ。

 そして、ルイの秘密と、エレナの秘密と……あとは他の参加者の秘密の兼ね合いで、参加者が割と変わる。

 というか、ルイとエレナのセット+他ということなら、呼べるメンツが増えるけど、沙紀ちゃんが入るとメンバーはほぼまりえさんをいれた四人で固定だ。


「ま、まぁ、美味しくないより、美味しい方がいいじゃん。それよりもほら、とりあえず座ってお茶でも飲んでもらおうよ」

 ほらほら、と背中を押すように椅子に座らせると、じいちゃんは、いちいちこれがルイちゃんの生活している居間か、などと周りを見回しながら散々な興奮っぷりなのだった。


 正直、そのたびに母さんが不機嫌そうになるのだけど……じいちゃんがこうなのはもうしょうが無いじゃない。

 いそいそと、お茶の準備をしてテーブルに準備。

 今日は少し肌寒いから暖かいお茶である。


「ふむぅ。ところで馨は今週は忙しいのかの?」

「いちおう、大学いったり、撮影いったり、あとはコンビニバイトが二回入ってるかな。そのときはご飯は一緒は無理だけど、他は家に居られるよ」

 そのときはご飯作るから、じいちゃんも食べてって、というと、おぉお、たまらんのう、と嬉しそうにお茶をすすった。

 二回のバイトのうちの一回は、金曜だからその日はじいちゃんは黒木家のお泊まりだ。

 なので、それ以外の日はご飯をごちそうすることはできる。

 果たして、じいちゃんが好きなものってなんだろうか。あんまり脂っこいのは避けた方がいいんだろうなぁ。


「して、静香さんはわしの相手をしてくれる感じかのう?」

「ええ、一応お昼は近所のカレー店で手伝いをしてますけど、それ以外は割と」

「なんとカレーとな。そのお店にも行ってみたいのう」

「でも、ほんとに近所ですよ? 他に行ってみたいところないですか?」

 ほら、浅草とかなら案内しますよ? といいながら、母さんもお茶に手を伸ばしていた。

 どうせなので人数分いれましたよ。


「そうじゃのう。今回は牡丹の結婚を機にお前さんがたがどう暮らしているのかっていうのが見たいってのが一番での。案内してくれるなら、観光地じゃなくて近所の方がいいのう」

 なんかこう、普段の行きつけの店とかそういうところを案内してくれると嬉しいとじいちゃんは言った。

 なんだかんだで、離れていた時間というものを少しでも埋めようというような気持ちがあるのだろう。


 それにこっちの地方となると、黒木家とは交流があったわけで、それなりに観光地なんかには来てるのかもしれないし。


「そういうことなら、近所の案内はできますけど、ほんとにそう言うのでいいんですか?」

「そういうのがいいんじゃよ。馨なら、町中歩きの良さもわかるじゃろ?」

 ほれ、と話を振られて、まあそれはと曖昧な返事を返しておく。

 確かに町歩きの良さはよくわかっているし、撮影にもよく出ているけれど、なんとなく両親の目の前でそれをはっきり答えるのははばかられるように思えた。

 それってルイとしてよね、とか母様に睨まれそうだったからね。


「できれば馨にといいたいところじゃが、昼間は学校ってことならまあ、静香さんにお願いするのがいいんじゃろな。ちなみにお主は仕事じゃろ?」

 ん? とじいちゃんに質問をむけられた父さんは、は、はいっ、とびびりながらも答えていた。

 もう和解してるのだから、そんなにびくびくしなくてもいいのに。

 それとも、結婚式に呼び忘れていた事を気にしているのだろうか。


「ま、なんとか仕事もできてるようじゃしな。そっちはしっかり頑張るといい。なかなか今時、専業主婦の嫁さんを養うのも大変じゃろうしの」

「そ、そこはなんとかこう……な。家のローンも着実に減ってるところだし、子育ても、なんとか育ってくれてるところだし」

 あとは馨が無事に結婚してくれれば申し分ないんだが、となぜか視線がこちらに向いた。

 

「ちょ、二十歳過ぎの男を捕まえて、さっさと結婚しろはなくない? 姉さんの事は、嫁にやるのはやだーって散々いってたくせに」

「ぐぬっ……そりゃ、男親なら当たり前だっての。嫁さんを連れてきてくれるってのと、嫁に出すのでは全然違うし」

 そんな考えになるのは普通だろ? と言われて、ちょっと木戸は胸元で腕を組んで、うむーと、考え込んだ。

 

 まあ、一般的にはまだまだその考え方は根強いのだろう。

 どちらの籍に入るのか、という問題だ。年々そこにこだわりがない人が増えてはいるけれど、まだまだ男性の方に嫁に入るという習慣は一般的なのかもしれない。


「婿入りする可能性だってあるし、家からでる可能性だって十分あると思うけど?」

 うん。婿入りをするかどうか、というのは正直相手次第という話になるとは思う。

 例えば、これから歴史ある旅館の一人娘を好きになる、なんて展開があったら婿入りだってあり得るだろう。

 崎ちゃんと上手く行くとしたら、どっちに転ぶのかはわからないけれど。

 でも、少なくとも、家から出て二人暮らしというのは十分にあり得るような気がする。


「私は、あんたが結婚さえしてくれればどっちでも良いわよ。どーせ、あっちふらふらこっちふらふらって、カメラもって徘徊するんだから」

 どうせカメラ最優先でしょうよ、というと母さんはぶすーと、頬杖をついてそっぽを向いてしまった。

 まあ、それは簡単に想像できる未来ではあるのだけど。


「なんじゃな。わしの若い頃も似たようなもんじゃったし、それでもばーさんと出会えたんじゃ。だいじょうぶじゃろ」

 ま、エアー写真ばっかりじゃがね、とじいちゃんは言った。

 当時はもちろんフィルムカメラの時代だ。撮れば撮るほど金がかかるというような代物である。

 なので、基本的には指でフォトフレームを作って風景を切り取るというわけだ。

 それのなかで、これを撮りたい、と目指して撮影をしていく。

 決められた枚数内で決められるというのは、それはすごいことだ。

 十枚撮った中から一枚選んで他は没なんてことが許されない時代ということだろう。


「お義父さん! 今と昔じゃ時代が違うんです! 結婚して当たり前なあの頃と今とじゃ、ほんとこの子、カメラが恋人になりますよ」

「そうかのう? カメラが大好きなこやつを好きになったおなごがいればいいだけじゃないかの?」

 そこまで丸っと受け止められる相手ができれば、解決じゃろ? とあっさり言われて、あぁと母さんは頭を抱えていた。

 いや、そこで頭抱えないで欲しいのだけど。


「いちおう、聞くが。お前さん、男が好きってわけじゃないんじゃろ?」

 いろんな噂話はあったみたいじゃがの、とじいちゃんは木戸の顔をじぃーっと見つめてきた。

 HAOTO事件の事を言ってるのだろうけど。


「人から好意を寄せられることには、ちょっとドキドキすることはあるけど、ことさらそれで付き合いたいとかってのはないかな。だってデートって考えるとだいぶ面倒だし」

 それを言えば、崎ちゃんとのデートも面倒な案件ではある。

 明後日の約束だけれど、これでデートコースがカメラの持ち込みができないところにでもなろうものなら、もうストレスで憤死しそうな勢いである。


 幸い、今度のデートは銀香町でという約束はしてるので、ほっとしてるところだけれど。

 どうしてそこになったのか、といえば、まあ、町中だと絶対に周りの人にいろいろひそひそされるだろうってのがわかっているっていうのと、圧倒的な味方の多さを考えれば、初デートは銀香で! というような話になったのだった。


「ほらみなさい。結婚の前にデート自体が面倒とか言っちゃう子なのよ? これじゃ四十過ぎてもきっと独り身よ。きっと孫の方が先に結婚しちゃうわよ」

「孫の方が先って、それなんか地味にえぐい発言だよね……姉さんたちはまあ、それなりにすぐ子供は作るかなとは思うけどさ」

 詳しい話は聞いたことはないし、子供はどうするか、というのはなんともなのだけれど。

 おそらく、真飛さんが仕事で大ぽかとかをしなければ、順当に子供も作ることになるのだろう。

 姉さんの仕事とキャリアの考え方次第ではあるだろうけど。

 

「まあ、とりあえずデートはすることになってるんだから、いいじゃんよ。正直、なるようにしかならないんだからさ」

「デートするっていっても、女装してじゃないのよ。あんたが、じゃないでしょう」

「うぐ……そりゃ、そうなんだけど、世間的な問題があるし。それに親睦を深めるという意味ではいいんじゃない?」

 二人きりでって今まであんまり無かったわけだし、これで、撮影解禁してくれたりしないかなとちょっと期待しているんだ、というと、母さんは、あぁ……結局また撮影になるのね、この子は、とがっくりきていた。


 いや、だって、あっちは肖像権とかいろいろある女優さんなんだよ? しかも歌って踊れる感じの。

 今までだって撮影許可は滅多に出なかったし、そんな相手をばんばん撮れる機会なんてそうそうあるものじゃない。

 そして。そう。あいなさんがそうであったように、同じ被写体でどこまでの顔を引き出せるのか、というのはやってみたい。佐伯さんとの差というのを確認しておきたいのだ。


「ふむ。良い感じに馨は写真馬鹿じゃのう。となると……」

 そうじゃのう。そうしよう、とじいちゃんは茶を飲み干すと、切り出してきた。


「お前さんがたとは、牡丹の結婚式の撮影の報酬の話をまだしておらんかったのう」

「報酬……って、親父、金取る気かよ」

 自分の孫の結婚式に、引退した親父が金取るってどういうことだ、と父さんは困惑をあらわにしていた。

 かなりいきなりな話題に、母さんも困惑気味だ。


「いや、別にたいしたもんじゃないんじゃよ。ただのう、わしさっきからちょー気になっとることがあるんじゃ」

 じぃと、じいちゃんの視線が木戸に向いた。


「どうして、ルイちゃんちに来たのに、馨はそっちの格好のままなんじゃろうか。わしをもてなしてくれるっていうなら、それが一番じゃろうに」

 本当に、残念な事じゃのう、とじいちゃんは涙を拭くような仕草をしながら言った。

 まあ、実際泣いてるわけではない。


「まあ、そんなわけで馨よ。ここ三日間、家ではルイちゃんとして過ごしてはくれんか?」

 それが仕事を受ける上での報酬じゃ、とじいちゃんはいった。


「ふぁ?」

「……なんてことを……」

 当然、父さんは変な声を上げて、母さんはそれはあかん、と白目をむきそうな勢いだった。

 さて。この提案にどうやって答えるべきか。


 木戸としては、ルイとして家にいること自体に抵抗はこれっぽちもない。

 けれども両親の反応を見るに、素直にOKを出すというのも、得策とは言えなかった。


 さて、どうしたもんか。

 少し悩みながら、ああ、ルイさんと一緒の時間を過ごせるんじゃー! と言っているじいちゃんにお茶のおかわりを注いでやった。

 両親は渋い顔を崩しはしないようだった。


最近のおうちは二階リビングっていうのも出てきてるわけですが、木戸家は普通に一階がリビングです。

そして静香母さまってなにげに専業主婦なんだよなぁと。今時珍しいな! と思ってしまった。


さて、次話ではじーちゃんの提案をどうするのか、というのと、前話で崎ちゃんにお願いした件を回収しなければなりません。やっぱじーちゃんもトラブルメーカーだよねー。


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