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552.新宮家との会食4

今日は時間が無かったので、短め。ってか50分で仕上がるとか、私も予想してなかった……

「な、ナンノコトデスかな?」

 はて。ととぼけると、ぶふっと彼女はなぜか吹き出した。

 ちょっと片言になっていたからなのか、どうなのかはわからないけれど。


「ねえ、お父さん。そろそろおトイレをお借りした方がいいんじゃないかしら?」

 最近、近いって言っていたじゃない、としれっと彼女が言うと、おじさまは、お? そうだな、と立ち上がった。

 まだトイレが近くなるような歳でもないと思うのだけど、素直に立ち上がって廊下の方へと歩いて行った。


「これで聞かれちゃいけない人はいなくなったはずよね。そちらのご家族はすでにご存じなのだろうし」

「ええと、亜矢子さん。一体なにがどうしたんです?」

 うちの息子が何か失礼なことでも? と静香母様が少し表情を硬くする。


「いえ。ちょっと答え合わせをと思って。それにこんなに肌質がいい子がいるなら、メイクをしたいと思っても不思議はないと思うし」

 普段カメラを持って外に出てるというのに、透けるような肌なのだもの、とおばさまはじぃーと馨の頬の当たりを見た。

 しかもこれでファンデーションとかも使ってないのでしょ、と言われれば、まあ、それはそうなのだけど。


「そこは日焼け止めとかスキンケアのおかげですかね」

 最近の若い男子はお肌に気を使うものです、と言うと、一斉に木戸家の面々から、おまえのは違うだろうという視線が突き刺さった。

 いや、でもほんと男性用化粧品とかも増えたし、スキンケアしてる男子が大学にもそれなりにいるよ?

 もちろん使ってるのは女子用のだったりするし、いわゆる男性的な油多めな肌質してるとは思っていないけれど。


「お義母様はメイクの教室でお仕事をされてるんですよね?」

 上手くてうらやましいなぁと、姉様がこちらを牽制しながら会話に混ざってくる。

 お前が触れる前にこっちで言ってやったぜという感じだった。

 いや、さすがに綺麗だとは思っていたけど、羨望混じりでその発言はしませんってば。


「牡丹さんも、うちの教室くる? 割とプロの卵みたいな子達もくるのだけど」

「それは是非。いちおう自分でやろうとはしてるんですが、結構時間がたつと崩れたりとかで……」

 相談に乗ってもらえると嬉しいですっ、と姉さんは姑さんとの仲を深めようと躍起である。

 ちょっと興味はあるけれど、それを表に出すのもあれなので、お料理をつついておく。

 うん。美味しい。


「あら、でも今日はしっかりできていると思うけど」 

 下手って感じは全然ないし、素材の味はちゃんと出せてると思うとおばさまは言った。

 確かに今日の姉様は頑張ったと思う。


「朝から鏡とにらめっこしてた成果がでたかな?」

「あんただって服選びに困ってたじゃないのよ」

 ちらっとつっこみをいれたら、姉様に反論された。

 うぅ。そりゃいろいろ悩みましたが、それはお互いに気合いが入っていただけのことだ。


「それで、メイクを是非ともさせて欲しいのだけど。だめかな? もう職業病というかこれだけいい素材があるなら、いろいろやりたいと思うのはしかたないと思うのよ」

「亜矢子さん……さすがに人の息子を捕まえてメイクしたいというのはさすがに遠慮していただきたいのですが」

「そうだよ、母さん。そりゃ馨さんの肌は綺麗だけど、言って良いことと悪いことがあるよ」

「ああ。俺たちのための親睦会なわけだし、また日を改めてじゃだめかな?」

 いきなり失礼なことを言ってすまないと、真飛さんがぺこりと頭を下げた。

 先ほどからのは完全におばさまの暴走ということらしい。


「メイクをすること自体は、後日でもいいわ。でもそうね。やっぱり貴方たちも知っていたのね」

 もう、こんな大切なところを隠すなんて、親離れをされてしまったということなのかしら、と亜矢子さんは茶化すように笑った。

 そして木戸家の方は、父様はおろおろとなにが起きてるんだろうという顔で、母様は、あーあ、と額に手を当てていた。


「何を?」

「馨くんがルイさんだってこと」

 ぶふっと、父様はお茶を吹いた。なんとか他の料理にはかからなかったみたいだけど、咳き込みがひどい。


「あらあら。大丈夫ですか?」

「あの、どうしてそう思われたか、伺っても?」

 母様は少し鋭い目をしながら、尋ねた。

 まあ、普通はわからないようなことだしね。ちらりとまじまじ母様がこちらを見てくるのだけど、特別不審そうな部分は見つからないらしい。


「肌の問題はもちろんだけど、なにより今日の席の配置ですね。静香さんを見ているとやっぱりルイさんの面影をそこに見ますから。親子だって言っても信じるくらいにはパーツがいろいろ似てるの」

 そう言われて、ううむと母様は難しい顔をした。


 静香母様は「ルイに似ている」と噂だ。

 実物を見ても四十を過ぎているのに、まだまだ若い娘さんのようだと言われることも有るし。

 それがお世辞だとしても、ナムーさんのカレー屋のHPには画像をいじった母様のものがある。


 一般の人が見て「ルイさんのねーちゃんなんじゃ」なんて言われるアレを見ていて。

 そしてこの場に立っていれば、わかってしまう人もごくわずかにいるかも、という想定はあった。

 あったけど、息子ですって紹介されていてそこに行き着くのかがいまいちわからない。


「でも、どうして男の俺が、そうだ、とか思うのかよくわかりませんが」

「状況証拠と、うちの子達の反応ってところね。それに決定的なのが、真守から聞いた話でね」

「真守あんちゃんがなにか?」

 この場にいない人の事を思い出しながら、真矢ちゃんは不安そうな声を上げていた。

 あのやろう、なにか言いやがったか、とでも思っているのだろうか。


「今日、この会に参加するのを嫌がったでしょう? その理由っていうのがリア充が集まる会にでるのは勇気がいるって言う話だったんだけど、もう一つあって」

 そこでちらりとおばさまは馨の顔を見て、にこりと笑った。


「あんな可愛い子が参加する席で失礼なことをしないでいられる自信がない、ですって」

 最初は牡丹さんのことかとも思ったのだけど、どうやら違うっぽいし、とおばさまは言った。

 いえ。牡丹姉様のことも、真守さんは苦手だと思いますよ。

 あんな凶悪なおっぱいをリアルに持ってる人なんてそんなにいないんだから。


「牡丹さんは可愛いというより、どちらかというと綺麗って感じじゃない? そもそも今までなんどか交流会はやっているわけで、いまさら? って感じで」

 なら、結果は自ずとでるじゃないと言われて、木戸家の面々は、うぐっと言葉を詰まらせた。


「にしても、どうして男装したり息子ですだなんて、言ってらっしゃるの? なにかその……言いにくい事情でも?」

 これからは親戚になるのだから、そこも教えてくださらない? と言われて、今度は母様が、ぶふっ、とお茶を吹いた。

 あ、うん。今のはなんか、ちょっとタイミング悪かったね。


「お義母様。この子はれっきとした弟ですよ。確かにちょっとあり得ないくらい可愛いですけど。男子です」

 なんなら、真飛さんと一緒に銭湯に行かせることもできますっ。

 きりっと、姉様は言い切った。

 いやいや、姉様、それはちょっと危険が危ないですってば。


「悪い、牡丹。想像するとくらっと来そう。つーか、一緒に風呂とか俺が無理」

「なっ、なぁー!」

 ちょ、なにを言ってんの、と姉様はちょっとお怒りのご様子だった。


「そういう姉様は、一緒にお風呂入ったりとかしてるんですか?」

「ちょ、馨もなんてことを言い出すのよ、もう……」

 旅行とか行っても混浴とか勇気がいるんだから、と姉様は顔を赤らめた。

 結婚前の娘がそれでは、いろいろ問題あるんだってば、と言うことらしい。

 慌てふためく顔が可愛かったので一枚、カシャリ。


「……えと。ほんとに男の子?」

「いちおう……はい。周りから欠片も、男として育ってない、と言われますけどね」

 よいせ、と眼鏡を外すと、初めまして、とにこりと笑顔を浮かべておく。

 まぁまぁ、とおばさまはショートカット状態でも一気に女子寄りの雰囲気になった馨に目を丸くしていた。

 

 でも、素顔をさらすのはそれっきりだ。眼鏡を再びかけるともさっとした感じに戻る。

 おじさまをトイレに立たせた、ということはこの話はこのメンバーの中でということなのだろうしね。

 うっかり素顔を見られるというのは回避しないといけない。


「事情を聞いてからうちの人に話をしようと思っていたけど、確かに話を聞いてからで正解だったわ……」

「それでトイレに行かせたということなんですね」

「ええ、もともと話はしてあったの。トイレにって話をしたら五分くらいは席を離れるって。あの人きっと今頃入り口の脇にあったお土産コーナーあたりを見ているはずよ」

 にしても、男女を見間違えるとは、この私が……と亜矢子さんはショックだったようでしょぼーんと肩を落としていた。

 真矢ちゃんがポフポフと背中を叩いて、慰めている。


「私も最初に話を聞いたときは何の冗談なのかわからなかったし、確かにアレだと男装した女の子って言った方がしっくりくり感じはあるから、母さんは悪くないよ」

 ほらほら、と慰めているけれど、いちいち言い草がひどいように思う。


「真矢ちゃん言うに事欠いて、それはないってば。あのときは暗い山道を歩きつついろいろ話をしたというのに」

「確かにあのときの景色は綺麗でしたけど、かなりパニック状態だったんですからね」

 今でこそ慣れたけど、あんちゃんがパニックでちょっと離れようと思っちゃうのも理解できますから、と真矢ちゃんはなぜか責めるような視線をこちらに向けてきた。

 なんと、理不尽なっ。


「えと、うちの弟がちょっと変わっててアレなんですが……その、変わらず仲良くしていただければと」

 もう、この子がこうなのは仕方ないので、と姉様が言ったところで、おじさまが座敷に戻ってきた。


「いやぁー、ちょっとトイレが並んでいて時間がかかってしまったよ」

 べ、別に、尿の出が悪いとか、そういうわけじゃないからー、と言いながら自分の席に座ると、周りがしらーっとした反応をしているので彼は、あれ、やっちまった? というような顔をした。

 

 ま、まあ。お食事処で尿のトラブルの話をされてもちょっとしらけてもしまうというものだ。


「だ、大丈夫よ。でも、宴会ならいいけどお食事会でそういうネタはちょっとご遠慮願いたいわね」

「こりゃあ、失礼。おぉ、茶碗蒸し美味しい」

 さて、それをごまかすためなのか、おじさまは茶碗蒸しに手をつけていた。

 温かくてだしもしっかりきいたほんのり塩加減のいいお味である。


「それじゃ、馨くん。さっき話してた事。後日なら時間作ってくれる?」

「それは……まぁ。でも僕も忙しいんで、スケジュール調整をしてって感じですね」

「ぶぅ。ずるいなぁ。私だって馨さんを拘束したいのに」

 まだ、じっくり撮ってもらったことないのにー、と真矢ちゃんがご不満顔なのでそこはきっちり一枚撮らせてもらった。


「なら、家に来てもらえばいいじゃないの。さらっとメイクが終わって、それから一緒にお出かけでもすればいいわ」

 これなら問題ないでしょう? といわれて、はーいと真矢ちゃんはしぶしぶ返事をした。


 はあ、どうやら新しく親戚になるこのご家庭には、ずいぶん振り回されそうだなぁと木戸は思ったのだった。


どうして新宮ママさんはルイさんのことをわかったのか!

つまりは、周りの反応から怪しいと思ったという鉄板展開です。あのもさ眼鏡とて疑いの目で見られてしまえば怪しいということなのです。

それでも女子の方が本体だよねって言われるのも鉄板ということで。

木戸家の苦渋に満ちた顔を、絵でお伝えできないのがもったいないくらいです!


さて、次話は「結婚式の打ち合わせ」に入ります。そもそもこれが大切だったのです。


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