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551.新宮家との会食3

会席のご飯描写が難しい……

「美味しいご飯ですね」

 先附け、前菜と続いて、現在はお造りに箸を伸ばしているところだ。

 キスと鯛と、ますだったかな。

 ほどよくもうちょっと食べたいと思えるあたりの量というのが、どうにも憎らしい。


 まあ、この後もご飯は続くのだけど。

 お、焼き物と煮物と。匂いがふわっと感じられて、じゅるりとなってしまう。


「ほんと。うちの子にしては良いところを見つけたわね」

「ええ、お(にい)がまさかこんなところを知ってるとは」

 さすがは、やり手新入社員、と真矢ちゃんがいうと、もう二年目だ、と真飛さんはぷぃとそっぽを向いた。

 ちょっとその家族間のやりとりが可愛かったので一枚撮っておく。


「ちょ、る……じゃなかった。馨くん。今のを撮るとか」

「いや、撮るでしょう普通に。仲良しな兄妹関係だなぁって」

 きっと、姉さんもこんな顔をいっぱい見ることになるんでしょうけど、というと、う……と彼はさらにうつむいて顔を赤らめた。

 うん。いいねいいね、その顔もいただきますよ。


「ふふ。本当なら長男も来るはずだったのだけど……あの子ったら、そんな幸せそうな会に僕みたいな引きオタニートが介入など、できないのだぜっ! とかいって参加を拒否しちゃって」

 まったく、この機会にもうちょっと世間慣れをしてもらえればいいのだけど、と新宮ママさんは頬を手に当てていた。


「あのぅ、真守さんってお仕事とかってされてないんですか?」

 確かにオタであるのは確かなのだけど、働いてないってのがどうなのだろうかと、ちょっと思ったのだ。

 オタとは、金がかかるモノなのだ。

 真守さんはそれなりにイベントに参加したり、キャラグッズを集めているように見えたし、少なくともアルバイトくらいはしていると思っている。


「IT系の技術者ってやつ? 家で働ける仕事をしてるのよ」

「あら。家でできる仕事か……」

 IT系と一口で言っても、仕事の範囲はかなり広い。

 現場でメンテナンスをする人達も多くいるし、会社で働く人だってかなりの数だろう。

 そんな中で、自宅で仕事をできるというのは、結構すごいのではないだろうか。


「あの子は外に出るのが得意じゃないからねぇ」

「それで、なんとか自分にできるようにって感じになったんですね」

 それはそれですごいなぁ、というと、ママさんはおや? とちょっと首を傾げた。

 あれ、どうしてそこで首を傾げられるのだろうか。


「あら、やだ。ごめんなさいね。大抵真守の話をすると引きこもりかって顔をされるものだから、新鮮な反応で」

 まさか、するっと受け入れる子がいるとは思わなかったわ、とママさんはちょっと嬉しそうだった。

 ああ、そういう意味合いで不思議そうだったわけか。


「仕事してお金もらってるなら、家で仕事してようが会社勤めだろうが、いいと思いますよ」

 しかもそれは、好きなモノにお金をかけるために頑張ってるわけだし、ああいう生き方も一つの正解なのだと思う。

 自分の短所と長所を把握してそれで、お金になることをちゃんとやれているのは、すばらしいことだ。


「馨くんは……フリーのカメラマンを目指したりとかなのかしら」

「ええと、いちおうは、はい」

 そのつもりでいますが、というと、なるほど、芸術系の家系なのねぇと言われてしまった。

 姉様も大学院に行くような文系のオタクなのだし、そう言われてしまっているのかもしれないけれど。

 厳密にはちょい違うようには思うけど、あえて訂正はしなかった。

 

 そして、いったん会話を区切って、食事に手をつける。

 会席ということもあって、料理は何回かに分けられて提供されるのだけれど。

 今はちょうど焼き魚をいただいているところだ。

 白身のお魚なのだけど、上品な味わいで美味しかった。


「そうだ、馨くん。先ほどは聞きそびれたんだが、なんであの時会場の撮影なんてしていたんだい?」

 カメラマンという単語を聞いて、今度はおじさまがこちらに会話を向けてきた。

 ああ、確かにそんな話をしていましたっけね。乾杯の話になってすっかりと忘れてしまっていたけれど。


「あのパーティーはそちらの会社主催でしたけど、一緒にプロジェクトをやっている父の勤め先の会社からも何人か招待されてたんです。家族も連れてきてOKというようなことだったので、撮影係として僕もついて行きまして」

「でも、あれは撮影禁止だっただろう? 確かそちらの会社の方にもその通達は行ってたかと思うのだが」

 あんなことが有ったから、そりゃ上の方もピリピリはしてたんだとは思うんだが、とおじさまはエレナの姿を思い浮かべているようだった。


 あのパーティーがカメラ撮影禁止だったのは、すべてエレナのお披露目をするつもりだったからだ。

 そんな会でどうして、無関係っぽい人がカメラ握ってるの? というのはもちろん疑問だろう。


「そうなんですよね。会場で父の会社の人からその話を伺いまして、ショックを受けた矢先で見知った顔と会いましてね。三枝家の執事さんとは顔なじみでして」

 馨さまなら好きに撮影してかまいません、とお許しをいただいたのだ、というとなおさらおじさまは首を傾げているようだった。

 それは姉様たちも同じだったようで、どういう話なの? と視線を向けている。

 事情を知っているのは父様だけだ。


「執事さんと、ということは……もしかして社長とも懇意だったり?」

 いや、さすがにないか、とおじさまはちょっとだけ身構えた。

 そりゃ、いちおうは確認しておかないといけない事柄だろうね。おじさまだってそれなりの役職にいるのだろうし。

 三枝のおじさまが悪い人じゃないのは触れあってわかっているつもりではいるけれど、部下から見た社長像というのもあるだろうし。


「三枝のおじさまは……うーん、父さん、どう話せば良いかな?」

「俺は知らん。好きに話せ」

 やだもう、と父さんはなぜか主導権をこちらに委ねてくれた。母さんからは、あなたそれでいいの!? とか、横腹をつねられてるようだけれど。

 なんか、ごめんね。

 保護者会と称して、時々、父様は三枝のおじさまと会ってるって話は聞いてる。

 

 先方からしてみれば似たような境遇の子供を持って、お互い憂さを晴らそうよ! 仕事関係無しに! みたいなノリなのだろうけど。

 そりゃ、常識的に考えて取引先の社長と楽しく飲めって言う方が無理だ。


 それを破壊するためには、父様が開き直るか、相手より優位に立てるネタを持つかくらいしか思い浮かばないけど。

 さすがに、エレナの彼氏の話を隠し球にするのは、いろいろ申し訳ないので、父様には肩身の狭い思いを続けてもらっている。 

 共同プロジェクトが終わればまた、話は違うのだろうけど。


 でも、きっと三枝パパは普通に飲みに誘うと思うんだよね。子供の事で遠慮無しにぐちったり、管まけるのって、そんなにいないし。

 中田さんだって、旦那様、さすがに私めは一緒に飲むのは、と遠慮してる感じだし。


「では、事実に反しない程度で話しますね」

「……それ、脚色しますっていってない?」

「鋭いですね! さすがです。でも僕みたいな一般人が一企業の社長と懇意だ、というところには、それなりの人に言えないからくりがあったりする……とした方が、説得力もあるのかなって」

 あまり、信じられそうでもないので、というと、うむ、とおじさまは少し考えて、うなずいた。

 続きをどうぞ、ということらしい。


「僕とエレンくんは実は同年齢なわけです。学校は違いましたが、とある会で一緒となって、それで意気投合しましてね。一緒にカラオケに行くような仲でして」

 さて。話せないこともあるよ、と言ったけれど、原則的にはエレナの性別の話と、こちらの出会った性別の話をはしょってそれらしいストーリーを作っていく。

 嘘はない。

 けれど、そこには真実もない、というような、そんな感じの話し口になった。


「エレンくんの……知り合い?」

 え? と、そこでおじさまの顔は呆けたようになった。

 いちおう、社長の息子情報というのは会社にも流れているらしい。


「で、エレナさんとも知り合いです。あのお披露目でいきなりでてきて、「なんとっ」と思ったし「あぁ、だからか」とも思いました」

 あの子は三枝さんのところの秘蔵っ子みたいなもんですし、いつどうするんだろうと静観していたのですが、というと、おじさまは……ええぇ、そんなところまでですか、と目を白黒させていた。


 いや、会社のある程度のポストでも知らないことを、見知らぬ人が知ってるのはそりゃ、困惑するだろうけど。

 ルートが全然違うから。

 というか。

 エレナの存在は三枝のおじさまだって、しばらく知らなかったので! 会社の人が知る由もないと思います!

 レイヤーとしてのエレナを知ってる社員さんはいたけれどね!


「で、まあ、エレナのお披露目となって、変な気を起こさない人がいないかなってことで、あの日はカメラマン兼監視員だったんです」

 執事さんにお願いされてたのも、そこです。というと、おじさまはぴくりと頬を震わせた。

 なんかやばいのと触れてるとか思っちゃってるのかな。

 危険になることは言うつもりはないのだけど。


「その結果みたいなのは?」

「秘密です。ま、三枝のおじさまはうちの子供に変な目を向けたら、飛ばしてやるって言ってましたけど」

 不自然な人事がないなら、なによりなのですが、というと、ううむと彼は考え込んでしまった。


「あら、貴方、思う節でもあるの?」

 食事を前に硬直してしまった夫に、おばさまは何気なく問いかけた。

 ことの重要性がよくわかってないからこその一言だ。


「思う節がないから、怖い。あの頃の人事異動で特に社長から何かを言われたことはないんだよ」

「だったら、問題なし、なのでは?」

 というと、彼は、いやと、いいつつ口をつぐんだ。


「君が告げ口をする人間だとは思わないけど、すまない。今仕事を失うようなことはできない」

 ちらりと真矢ちゃんをみながら言われてしまうと、なんだかこちらがいじめているような気にもなってしまう。

 まさに、三枝の衣をかってる感じなのだけど……


「もう。僕は別に仕事の関係に口はつっこみませんよ。そもそもそういう権限だってないですからね」

 ただ、エレナに変な火の粉がこないのを願ってるだけなんです、といってみせたけど、おじさまはちょっと青い顔だ。

 まったく、こんな席でこんな顔をしてしまうとは。


 ごめんなさいな。社長の知り合いって単語がこんなに人にダメージを与えるとか思ってなかったんです。


「もう、父さん。馨さんがちょっと、アレだからってそんな青い顔とか失礼じゃない」

「そうだぞ、親父。馨くんがだいぶアレなのは、それなりな付き合いの俺らとしては普通だし」

 なぜか新宮家からは、よくわからないフォローが入った。

 いうにことかいて、アレって!


 でも、おじさまはちょっとまだ怯えた顔をしていた。

 そんなときだ。


「ねえ、馨くん。ちょっとおばさんのお願い、聞いてくれないかしら」

 困ったなぁと、おばさまは情緒不安定なおじさまを横目に見ながら、木戸にぱちりとウインクをしてみせた。

 年齢は高めではあるけれど、ばっちりきまったウインクだった。


「お答えできることなら、まあ」

 その迫力に木戸は少し内心で引きながらも答えた。

 そして、彼女はあえて、木戸の耳元でつぶやいたのだった。


「メイクをさせてもらえないかしら、ルイさん(、、、、)

 と。


 ぞわりと、背筋が震えたのは、言うまでも無いだろうと思う。


さあ馨くんに注目が集まるのは、会の目的としてまっとうではありますが。

まずはパパさんからでございます。

そして次話はママさんのターンです。


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