058.
「さて、ご主人様、今日はどのようなメイド服にいたしましょう?」
「そもそも、ここは男も体験メイドできたりするところなのですか?」
バックヤードというか、体験メイド専用着替え室のようなところに連れていかれて、疲れた声がもれる。
「はいっ。そういったプレイをご所望のご主人様もそれなりにいらっしゃいますし、キャンペーンでご主人様のように悪乗りで無理やりというケースもございますから。男性用のサイズもございますが、ご主人様の場合小柄ですし……」
「ああ、女性用の7号でいいですよ。ウエスト入るし肩も問題ないだろうし。露出は……どうしよう? ロングにするかミニにするのか、そこらへんはお任せしちゃおうかな」
眼鏡をすちゃりと外しながら、コーディネイトをどうするか印象で決めてもらう。声はまだ変えていない。やや高めでソフトな感じにはしているものの、男声の範囲内だ。
メイド服自体はどちらでもかまわない。ルイはメイド服を着たことはないし服の印象は今回は気にしなくてもいいだろう。むしろそれ以外の部分でしっかりと変装できるようにしておきたい。
「まさか、着用経験がおありですか?」
楽しそうにというのだろうか、興味深げな視線が彼女から向けられる。
「メイド服はさすがにないですけどね。女装経験だけは長いもので」
みんなには内緒だよ? と口に手を当てて、しーと女の子っぽいポーズをとってみせる。
「眼鏡だけでそれだけ印象が変わるとは驚きです。今の姿のほうが素敵ですのに」
ほぅと、うっとりしているのか目を丸くしているのかわからないが、メイドさんはどこか気もそぞろという様子だ。
「さて。時間もあまりないので、さっさと着替えちゃいましょうか」
ほらほらと促すと、彼女は思い立ったかのようにメイド服を選び始めた。
「それと、細いフレームの女の子っぽい眼鏡もあれば貸して欲しいです」
そんな後ろ姿に一言添える。この部屋にはメイド服だけではなく各種装飾品や、ウィッグなども完備されていたのである。黒縁のままだと各方面からおしかりを受けるだろうけど、素顔をさらすことはもちろんできない。
かくして彼女がとりだしてきたのは、いかにもメイドさんという感じの裾が短いスカートだ。首回りもそこそこあいていて肌の露出は多い。そしてもう片方の手には眼鏡である。
シルバーフレームの華奢な眼鏡だった。度は入っていないとのことでかけても視界のぼんやりした感じはかわらない。少し目つきが鋭くなるから、ルイとの差別化の意味合いでもこれはこれでいいだろう。
「ニーソックスとタイツがございますが、どちらにいたしましょう? これはご主人様へのプレゼントとさせていただいております」
新品を二つならべられて怪訝な顔をしていたら、答えが返ってきた。
それ込みでの体験費用ということになるのだろうが、今回はくじで当たってしまったのでただでもらって帰るみたいな感じだ。
さて、どちらにしようかと少しだけ考える。知り合いの前でニーソックスは……ないな。
黒タイツのほうをかさこそと開けると、素足になじませるように、くるりとはいていく。タイツやストッキングもそうだけれど、穿きかたを知ってないと苦戦する代物である。ニーソックスとちがって太ももを覆ってしまうが、絶対領域をつくろうとは今は思わない。
そしてそこでふと手がとまった。
「下着はさすがに……なぁ」
女性用を使うなら基本普通につけているものをそのままにしてもらうし、男性用のメイド服はきっと露出がそう多くないのだろう。割と簡単な落とし穴にはまってしまった感じである。ただ黒タイツという選択肢はやはりあたりだったらしい。
「絶対領域ができないことよりも、パンチラの先に男性用下着があるという地獄絵図は避けたい」
木戸はトランクス派ではないので、いちおう黒タイツで収まるものは収まるのだけれど、問題はその上だ。
上半身はそこそこ露出が多めの服なのだけれど、これはどうするべきなのだろう。
「ああ、大丈夫ですよお嬢様。ないちち用のメイド服ですからぴったりなはずです」
「女の子があんまり、ないちちとか、ちっぱいとか言っちゃだめですよ」
声を女声にして叱ると、ふぇっと驚いた声が聞こえてきた。
そう。普段の女声よりもさらに高いハイトーンだ。春に澪に教えた時にもやって見せた声帯を絞りつつも、すさまじい可愛い声を出す発声法である。
さて。ルイとの差別化その2。それは声と話し方である。地声で攻めていってもいいのはいいのだが、このミニスカート姿で声がハスキーを通り越して男声というのは、違和感の塊すぎて嫌なのである。なら、それこそアニメキャラみたいに可愛らしく仕上げてしまった方がいい。そして話し方はド丁寧。普段のルイは自然体でやっているので仲良くなった相手には砕けた話し方になるし、青木と会ったときは丁寧ではあるけど、あざといほどではない。あっちのほうが愛嬌があるというか、人になじみやすい話し方なのだ。
「よっし、かんせー」
鏡を見てみると、確かに胸元は開いているけれど、胸のあたりに布の余りがないというジャストサイズだった。
普段は底上げをしているから、ちょこっとは胸があるように見えるのだけれど、言うまでもなくまったいら。
「お嬢様……本当に男性の方なんですか?」
「え? 声のことを言ってるなら、割と身近な人間は両声使えますけど」
うん。間違いは言っていない。木戸からの教育で二人が今や女声使いだ。
「うわ。筋金入りなんですねぇ。私、両声類の方、初めてみました」
感動ですーと、彼女はこちらの姿を見ながら不思議そうな顔をしていた。確かに日常ではあまり会わないだろうけど、ネットで探せば両声類は生息しているし、しっかり訓練すれば誰でもできることなのだけれど。
「ああ、それでその……胸なのですけど、これ、ブラつけてなくて大丈夫なのですか?」
鏡を見ながら、それでも不安そうに言うと、ふるふるとメイドさんは首を横にふった。
「胸の部分はワンピースとエプロンで二重になってますし、乳首のさきっぽが目立っちゃうなんていうことはないですよ?」
「そういうもの……ですか」
ちょっと不安そうにしていると、さらにメイドさんから声がかかった。
「本当にお嬢様は徹底なさってるのですね。普段の時は下着までそろえるのですか?」
「それは……もちろんです。うちの部屋、最近じゃ八割女物ですから」
「それはまた……」
あからさまに目を丸くしているのがわかるのだが、現実なのだからしょうがない。
ルイの備品の伸び率は確かに最近減ってはいる。二年目ということで去年のアイテムに買い足せばいいからだ。
けれども、やはり私服で出かけるのが圧倒的にルイのほうが多いせいで服の種類はあっちのほうがはるかに多い状態になってしまっている。
「さて、あとは髪型ですかね。ワックスつかったりはさすがにちょっとあとが大変なので軽くとかす程度でいきましょう」
ウィッグはつけませんよ? と注釈をいれると、えーと不満の声が上がった。
彼女としてはつけてもらいたいウィッグでもあったのかもしれない。
ルイとの差別化その3。それは髪型だ。ルイのウィッグが基本後ろで縛れるくらいの長さはあるので、むしろ地毛で行ってしまえと思ったのだ。確かにお嬢様としてはロングのウィッグを推したいところだけど、ベリーショートでド丁寧なミニスカメイドさんというのも、なしではないだろう。
「お嬢様には金髪とか似合うかなって思ったんですが」
残念そうに、彼女はすでにスタンバイしていたウィッグをこちらに差し出してきた。
腰まである金色のウィッグ。それこそ某セーラー服美少女戦士のコスプレ用みたいな代物である。
普段のルイよりもまったく毛色の違うものを前にごくりと喉が鳴る。
「吸い付くような白い肌に金色の髪。そしてメイド服の白黒のコントラスト。絶対かわいいです」
「そのウィッグなら……アリです」
そう。普段のルイとは似ても似つかない印象をきっと与えるだろう。
そんなわけで、ウィッグの装着に入る。普段は地毛と同じ色だからさほど気にはしていないけれど、外に地毛が出ないように丁寧に内側に織り込んでいく。かぽりと金髪ウィッグをかぶって鏡の前でくるりと回転すると、ふわりと金の糸が宙に躍った。
「お嬢様、素敵すぎますっ。どうすればこんなにすべすべなお肌になれるんですか?」
「毎日入浴後に化粧水を体に塗りこんでます。日焼け止めも掛かりませんよ? 学校のプール開けには塗り直しです」
「ふ……ふふふ……さすがにそれは無茶です」
メイドさんが負けましたという様子でかくんと肩を落とす。ふむ。そこまでがんばれないというのは女子としての怠けなのか、こちらのがんばりすぎなのかはよくわからない。
「お肌は七難隠すって言いますしね、女装で、ムダ毛処理と声の関係の次くらいに大切な要素です」
とはいえ、今日はメイク系はできなさそうですねぇ、と鏡を覗き込む。
普通なら口紅つけたりアイシャドーいれたりなんていうのもあるだろうけれど、落とすのが手間だし、さらに日焼け止めも塗りなおさないといけないので、このままである。むしろ普段のルイが軽めにメイクをしているので、印象も変わることだろう。
「あとはホワイトプリムですか」
こればっかりはつけ方がいまいちわからないというとメイドさんが頭にのせて固定してくれた。
「これで、完璧、かな?」
「はいっ。見事なメイドっぷりでございます」
ぱぁとメイドさんは笑顔を浮かべながら、それでもずずいと近寄って言ってきたのだ。
「ぷ、プライベートでだけ鑑賞しますので、ぜひ一枚お写真を撮らせていただければ」
「ここ、私的な撮影は禁止ってかいてあったけれど」
あまりのちかよりっぷりに思わず男声で返してしまった。
「あうう。お嬢様はご無体です。私の愛機、メリフェンリートで撮ってやろうとおもったのに」
「って、ちょいまて。メイドさんあんた、カメラやる人なの?」
「はいっ。関西のイベントではちょくちょくコスプレしたり、撮ったりって感じですよ。このお仕事は趣味と実益を兼ねて、です。撮り慣れてますから、ぜひお嬢様も写真の中へおさまりください」
ごくり。ちょこっとだけ興味はある。
けれど。その時。時計の針が無情にも時を告げる。そう。ここにいられる時間もあと半分しかないのだ。
そして、なんといっても木戸はまだなにも食べていないのである。
「写真家とモデルとカメラがあって数分で済むはずもないので」
「はわっ。お嬢様がたは修学旅行中でしたか」
「そうなんです。あと30分くらいでお店をでないと」
残念なんですけど、というと、彼女はそれじゃ代わりに名刺を渡しておきますので、アクセスしてくださいと、メイドとしてじゃないほうの名刺を渡してきた。一般的にはホームページとメールアドレスが載ってるくらいなものだが、これは完全版で、電話やら活動拠点までかかれていた。
こんなん出先でもらっちゃっていいものなのか。
「いつか、被写体になってくれることを祈って、です」
にこりと笑いながら、楽しそうに言う。とはいえこれは自分の一存ではなかなか難しいだろう。
連座的にエレナに迷惑をかけるのはさけたい。
「カメラでつながっていれば、いつかどこかで会えますよ」
けれど、自然と口はそういう形を作っていた。その言葉がぜんぜん空々しいとおもわないのは、きっとカメラをやる人たちはどこかつながりなりがあるからと信じているからなのかもしれない。
「お待たせいたしました、お嬢様、ご主人様」
最初からフルスロットルのハイトーンな女声でにこりというと、他の五人は一瞬誰だかわからなかったらしい。
とりあえず開いている席に座っておく。いつまでも立っていたら他のメイドさんの迷惑だ。
そんな硬直から最初に溶けたのが二人。
斉藤さんと八瀬という、すでにこちらの素性を知っている人間たちだった。
「うはぁ。若干コスプレっぽい感じもあって、すんごいかわいい」
「つーかさ、木戸のそれはチートだろ。明らかにおかしいだろそれ。しかもなんでそんなアニメ声だよ」
八瀬がげっそりしながらうめいた。その反応が見たかった。八瀬はルイの声をしっかり聞いている人だから、それであれば、もはや別人と見えるに違いない。
「男がかわいくて何が悪いっていってたのは、八瀬サンですよね? それに普段のボクだって十分、かわいいって思うけど?」
「ぬぐぐ、言い返せないのが悔しい」
八瀬は、男の娘としてのポリシーなどがあるのか、ここまでの完成度を持たせてしまうことにはいささか抵抗でもあるのだろう。たんに悔しいだけかもしれないが。
「どこかで見たような気がするんだけど……うーん。でもそんなはずはないよなぁ」
硬直から溶けた山田さんが一人じぃとこちらを見つめてくる。
直接交流したことはないけれど、彼女はさくらの友達でコスプレイヤーさんである。それなりにエレナとも交流があるそうで、ルイの顔をよく見ているのかもしれない。
少しだけ汗をかきそうだけれど、ちょっと別の方向に誘導しておこう。
「まさか、山田さんも、中学の頃の私の姿を見たことがあるくちですか?」
「へ? 中学?」
「あら。違ったのならいいのですが」
にまりと笑みを深めて他の人達の反応も伺う。
青木は口をぱくぱくさせながらこちらを見ているのだが、はて。これはばれてる感じなのだろうか。それとも親友がすさまじく可愛くなっていて困っている状態なのだろうか。後者だといいなぁ。
「しかし、よりにもよって金髪のウィッグってどうなの? 色白の肌にめっちゃ似合ってるけどさ」
「それがですねぇ。メイドさんがどうしてもこれがいいっていうので。嫌だっていちおうは言ったのですが……イベントの時はぱーっと言った方が盛り上がりますって」
どうでしょう? おかしくないですか、と斉藤さんにも丁寧な口調で尋ねておく。
聞かなくてもおかしくないと思ってるだろうけれど、ルイと比べてどうよという意味合いもある。
「しかも口調としぐさまでかえるとか、もう木戸くん演劇部にはいっちゃおうよ」
さきほど座った時の、スカートの扱い方やらしゃべり方などに関しても言っているのだろう。けれどもそういう所作は演技というよりは切り替えといった方が正しいだろう。ルイを二年近くやっていて、もはや日常動作としてできるようになってしまっているのだ。
「いやーでーすーよー。あそこには澪がいるのだから。付け焼き刃の演技で舞台にでる気はありませーん」
「澪ちゃんって、たしかチヅの弟子だったっけ? 舞台みたけどめっちゃかわいかったよね」
「しかも、誰が澪ちゃんなのか誰も知らないっていうミステリー」
「知らないってわけじゃないわ。別に隠してるわけじゃないもの。でも、木戸くんが澪に声のだしかた教えたのは内緒にしてねって言われてたんだっけ」
うっかり、という風でもないのだけれど、斉藤さんがしれっとそんなことを言いのけた。だからちょっと頬を膨らませて怒ってみせる。
「ちづちゃんそれはちょっと内緒にっていってたのにー。どうしてしゃべっちゃうかなぁ」
いつもよりもテンション高めに。女子同士といってもいつもの歳の差がある相手ではなく女子高生同士のテンションで会話を進めていく。
「にしてもテンション高すぎだろ。まんまクラスの女子同士の掛け合いじゃないか」
「そりゃだって、テンションあげていかないと恥ずかしいですよ」
胸元を軽く押さえて、少しうつむいて、ううぅと声を上げる。
「別に恥ずかしがることはございませんお嬢様。そこまで可愛らしいのですからむしろ自信をもっていただかなければ。それともお嬢様はわたくしどもを低俗なめしつかいくらいに思ってらっしゃるのですか」
そこに声をかけてきたのは先ほどのメイドさんだった。
「べ、べつにそんなことは思っていません。ただ、その……みなさんにもちらちら見られてますし」
ルイのときならばあるいは見られても特別どうとは思わなかっただろう。
けれどもこちら側でとなるとやはり話は違う。
そして、われらのやり取りは店全体が注目するというありようなのである。
「あはっ。体験メイドさんだとたいていみなさんの注目集めますよ? それにお嬢様はその……とても目を引きますから」
「やっぱり隅っこ暮らしは無理みたいね?」
斉藤さんにつっこまれて、うぐぅとかわいらしくうめき声をあげる。
いいですよ。どうせ目立ちますよ。舞台がわに立ってなくても目立ちますよ。
「それよりもご飯が先です。これだけ時間がたってるのですから、できているのでしょ?」
「はい、もちろんでございます。すぐにご用意いたしますね」
にこりと笑顔を向けられつつ、他のメイドさんと協力しつつ食事の用意をしてくれる。
それぞれ注文したものは違っていて、ピザやパスタ、オムライスやハンバーグなどがならんでいく。
今回木戸が頼んだのはナポリタンだったのだけれど、はしっこにハンバーグがのっかっていて、とてもおいしそうである。
メイド服を着ているけれど、メイクをしていないというのはいい。口紅がないだけでだいぶ気楽に食事ができるのだ。
そして、ちらりと視線を送ると、青木の前におかれるのはオムライスだった。
メイド喫茶の定番といえるところだろう。
「では、お嬢様。せっかくのメイド体験ですので、ここの上においしくなるようにケチャップで絵や文字などをかいてみましょう」
うわぁ、青木のに描きますか。メイドさんが可愛くなにかケチャップで描いてくれるというのもサービスの一つではあるけれど、それをやれといわれるのもどことない気まずさがある。けれど周りの期待を裏切るわけにもいかない。
なんにしようかと思いつつ、あの光景を思い出す。
「残念でしたなって、斬新ですねー」
「残念な青木くんにはこれかなって。ま、前にいったとあるところで書いてあった文字のぱくりなのですが」
むきむきの男たちがやるメイド喫茶だった、というのはさすがに伏せておこう。エレナのところにいったのはあくまでもルイなのだ。
「宇宙がやばい、とかネットスラング系は書くことがありますけど、これはファミコン版水戸黄門じゃあるまいし、そうそうかけませんね」
「ファミコン版水戸黄門というのが、もはや生まれる前レベルなんですけれども」
そもそもファミコンというゲーム機が現役だったのはだいぶ前の話である。現行のゲーム機に触れ合う機会が木戸にはなかったわけだけれど、それなりに八瀬の影響で昔のゲーム情報くらいは持っているのだ。
「くぁっ、これが恐怖、ジェネレイションギャップというやつですか!」
「いいえ。メイドさんがただレトロゲーマーなだけでしょ」
八瀬がそっと突っ込みを入れる。
まあそういうことなのだろう。レトロゲーマーとよばれる人たちはそれなりにいるというけれど、それが女性の、となるといささか珍しいのではないだろうか。
「うーん。そういうわけでもないのですよ? 大学の人工音声の歴史っていうレポートで触れたことがあった、ってくらいで」
「まさか、おねーさん理系の人なんです?」
「そ。っていうか、オタクには理系が多いって私は思ってますけど、どうなんでしょうね」
ともかく。とメイドさんは一呼吸を置いて話をつづけた。
「せっかくの料理がさめてしまいますので、おいしいうちにぜひご賞味ください。ああ、それとせっかくですから、男性の方にオムライスを食べさせてあげたらいかがでしょう?」
お約束ですっ、と言われて、もうこの人はーと、がっくりきてしまう。いらんことは言わないでいただきたい。
その一言で、青木がだらしない顔になり、そして山田さんも興味津々でこちらに視線を向けている。レイヤーであると同時に、BL好きでもある彼女だ。食いつきもかなりいい。
八瀬と斉藤さんは、どうすんのさ、というような視線をこちらに向けてくる。
まったく。
「なら、ご主人様、今日だけ特別ですよ?」
残念オムライスを一口分切り分けて、軽くふーふーしてから、青木の口に運んであげる。見るからに湯気が立っていて熱そうだったのでやってあげたのだけれど、青木はそのままぱくりと口に入れてからじぃーんと身体を震わせていた。
「ちょ、木戸! それ、俺にもっ。俺にもプリーズ」
隣でみていた八瀬が、よこせーと言ってくるので、そちらにも放り込んでやった。
そう。ルイならこんなことは絶対にしない。男友達とは一線を引くことができる子なので、この行動は女装をしている木戸だからこそなのだ。
そういう意味では差別化その4に該当するのではないだろうか。
「あざといなぁ……木戸くんったら」
斉藤さんが呆れたような声を漏らしながら、ピザにタバスコをたらしているのが印象的だった。
さぁ木戸としての女装メイド回です! ルイとの差別化のために苦慮しておりますが、その結果がでるのは実は明日公開分の青木くんとの一騎打ちであります。ていうか八瀬が今回かなり棚ぼたな気がする。男の娘にふーふーあーんとか、うらやましすぎる。。
着替えさせてくれたメイドさんは後日、カメラのつながりが縁をつないでくれたりする予定です。あ、でもあれプール回だからあんまりカメラ関係なくばったりか……