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545.3回目の新入生歓迎会3 改稿済み

さぁ話の筋を変えつつアップでございます。失礼しました。

改稿済みって記載はちょっとしたら消す予定です。


「はぁ……はぁ。ちょ、冬子……くるなら、来ると……」

 さて、ちょっと冬子さんとの間でバチバチと火花が散っていたのだけれど、ものの数分で海斗がやってきてくれた。

 沙紀矢くんの焼きそば屋台はそれなりに有名なので、迷わずに来てくれたようだった。


「海斗さん……」

 息を上げている姿に、とりあえずしのは安心したような声を上げる。

 そう。しのの設定としては、いまだに海斗の彼女扱いは続いていることになっている。


 なんでって? 海斗のやつがなーんも説明してないからだよ。

 キャラ博の時に自分が同性愛者だ、ということを冬子さんにうっかり話したことも、それで彼女と友達関係でっていう話も、しの(、、)は知らないのである。それから彼の口から、「その後」の話は聞いてない。

 まあ、二十歳のあのイベントを終えてとりあえず落ち着いたし、次になにかお願いがあったときに連絡すればいいや、という感じだったのだろうけどね。


 おまけに先ほどからの冬子さんのバチバチと火花が散る視線なんてものを見てしまったら、この対応にもなるってものだ。

 というか、冬子さんが海斗のことを理解したからといって、純粋にあのときひっそり手伝いをしていたしのに、泥棒猫! という感情がしっかり残っている可能性はもちろんあるわけだし。


「どうしてこの泥棒猫がいるんですの?」

 意味がわからないと、冬子さんは海斗につめよっていた。

 二十歳のパーティーで相方を務めたしのさんが、どうして同じ大学に行っているのか。

 まあ、可能性としてないわけではないのだろうけど、都合が良いとは思うだろうか。


「いや、そりゃさぁ……おまえ……」

「わたくし知っていますわ! 東雲さんは海斗さんにつきまとって、こうやって大学まで押しかけているって」

「どうしてそんな話になるんだよ……おまえには、全部……ああ、ありがと」

 肩で息をしている海斗に紙コップに入った水をサーブしておく。

 沙紀矢くんには了承を得ているので、そっちのサークルからの拝借品である。

 さすがのしのさんも、紙コップまで持ち歩いているわけではないので。

 いちおう、しのとしては海斗のフィアンセの演技は続行中だ。これくらいは自然にやれないとそれっぽくないのである。


「くぅ……そういう仕草もいちいちあざといですわ……気が利く娘みたいなフリをして」

 ぐぬぬ、と冬子さんはハンカチでもかみちぎろうかといった様子だった。

 あの。さすがにそこまで興奮しなくても。

 っていうか、どうしてそのノリなんですか!?

 貴女、しのが海斗の彼女じゃないの知ってるんじゃないの!? しかも、友達として出直しましょうみたいなほっこり撮影までしたよね。


「これが、修羅場ってやつかぁ……(かい)くんも大変だなぁ」

 沙紀矢くんがゆっるい声で、声をかけてきた。

 あああー、いろんな条件から今の状態を見て、あら茶番とか思ってるのだろうけど。

 君には一つだけ、わかってないことがあるよ!

 茶番は茶番でも、意味は全然違う。

 

 まったく。どこまでそれに付き合えばいいのかっていう感じだ。

 全部を知っている(、、、、、、、、)上で、知らない振りをするのって、実は大変なことだと思う。


「むぅ、修羅場じゃないもん。っていうか、それはそちらの専売特許でしょう? 沙紀お姉さま」

 ぽそっとそう言ってあげると、焼きそば小僧な沙紀矢くんは、なんか、すんませんと反射的に謝っていた。

 うん。こっちも大人げなかったとは思うけど、ちょぴっと発言力を抑えておきたかったのである。


「ったく、しのさんめっちゃ困ってるだろう。そろそろふざけるのはやめろっての」

 はぁ、とため息を漏らしたのは海斗の方だった。

 うんうん、早めにその対応をしていただけてとても感謝です。

 知らないはずのこちらからはその反応は出せないからね。


「ふざける? ど、どういうことですか?」

 なにがどうなってるの? という感じで首を傾げておく。

 こちらは何も知りませんというアピールである。


「んあ? あれ。ああ……そか。俺、しのさんに何にも言ってなかったっけか」

「婚約者の私に隠し事、ですか?」

 なんのことでしょう? ととりあえずは、パートナーの意識のままで話を受ける。

 展開はよめるけど、知らない振りをしないとね。

 ああ、もう。ややこしすぎて、ルイっでーすっ! とか思い切り言ってしまいたい衝動にちょっと駆られる。

 さすがに、今の状態でそれは言えないけれど。


「ごめんなさい。協力者の東雲さん。パートナーの演技はもう良いわ。わたくしはもう、海斗さんのいろいろを聞いてしまったもの」

 無理に、海斗さんの相手を演じる必要はもうありませんわ、と彼女は表情を緩めた。

 今では、もうさっきの険の入った顔とは違って、キャラ博に行ったときのような穏やかな顔をしていた。


「いろいろ……浪人中にあった悲喜こもごもとかもですか?」

「!? なにそれ、それは知りませんわっ! そういえば海斗さん、その一年の話はわたくしにも聞かせてくれない」

「おわわっ」

 どういうことですの!? と冬子さんが、ぐわしっとしのの肩をつかんだ。

 もはや、同級生女子にやるような仕草である。

 いちおう、しのとしては最初から知ってたことだからついていけてるけど、これ、なんも知らなかったら、なにこの豹変ぶりはっ! て驚いてるところだと思う。

 え、驚く演技はしないのかって? いちおう、それっぽくはしてみてるけど……驚いてるように見えてるだろうか。


「はいそこまで。くっそ。どうして俺はしのに、あのときの事をうっかり話してしまったのか……」

「まあ、油断とか、そういうのでしょう。それで? 改めていろいろ話を聞きたいのですが?」

 さぁ。私は何も知らなかったんですよという形で、彼らに問いかけた。


「前にとあるイベントにかり出された時にな。俺が同性愛者(あれ)だってことを話す機会があってな」

 それで再出発を切ってるんだよ、と海斗が白状した。

 あれ、と言っているのは、周りに人がいるからだ。

 沙紀矢くんなら別にそういうのに偏見はないだろうけれど、いちおうの配慮というものである。

 

「私は少し怒っているのですよ? ええ、報酬はいただいていますから、別にその日のことはとやかくいいません。冬子さんからいろいろ言われたことも、あー、この子、海斗大好きでかわいそうだなー、可愛いのになー! ってな感じでした」

「やだ、可愛いとかそんな……」

 ほぼ言葉のあやなのだけれど、冬子さんは可愛いといわれてほっぺたに手を当てて喜んでいた。

 まったく、最初のバチバチした雰囲気はなりを潜めて、おとなしい女子大生という雰囲気になっていた。それこそあのときのキャラ博のときみたいなおっとり感である。


「でも、そのあと、間が開いてるのに結果報告がまーったくなしなのは、本当にいかんともしがたいところです。冬子さんと和解してるなら、きっちり先に話しておいてくださいな」

 ほんと、さっき冬子さんに突っかかられたときは、あぁ、あたしってばまだまだ目の敵なのかー、と思いましたもん、というと、まじですまんと、海斗は謝ってくれた。


「それと、冬子さんもどうして素直に声をかけずに、あんなツンデレみたいな感じだったんですか?」

「つん……でれ? ええと、その言葉の意味がよくわかりませんが、まあ、ツンツンしてたのは、ちょっとした意趣返しのつもりでしたの。東雲さんったら、あんなに幸せそうに海斗さんの隣にたってらっしゃって。それに海斗さんだってまんざらではなさそうでしたもの」

 あのルイさんがくっついても、顔色一つ変えない海斗さんが貴女に対してはちょっと嬉しそうだったのは、解せませんわと、少し不審そうな顔を向けてくる。

 たしかにその言い分は正しいと思う。

 でもそれは、しのが実は男子だから、というのを海斗がわかっているからだ。

 最初から女子だと思っている相手には無反応だけど、いちおう男状態も見ているから、ちょっと思う部分もあったのだと思う。


「だから、あのときのことを思い出すたびに思うんですの。本当に海斗さんはゲイなのかしらって」

 そう言われたし、あの場では納得したけれど、実際はどうなのかしら、と冬子さんは首を傾げてのはてな顔だ。


「そりゃしのさんは特別製だからな。そこらへんの女子とは物が違うし」

「あのルイさんよりもすごいっていいたいんですの?」

 正直、あの子で落ちないから同性愛なのは受け入れましたのに、と冬子さんはじぃっと海斗の顔をのぞき込む。


 ちなみに、焼きそばを焼いている沙紀矢くんは、しのの顔をじぃっとのぞき込んでいます。

 あなた、いったい何をやってるんですか? というような顔である。

 うむむ。だってしょーがないじゃん。ルイとしても二人とは知り合いなのだし。

 でも、全部をオープンにするような間柄でもないんだもの。


「それに東雲さんだって、実は本気になってしまったとかはないんですの? 海斗さんはこれで結構かっこいいではありませんか」

 依頼から、本気になってしまって実は恋仲だった、なんてことはありませんの? と言われて、えぇーと思ってしまった。


「なっ、ないないって。ちょっとした報酬と、パーティーのご飯を堪能できるってことで参加したんだから」

 それは、ほんとないからっ、というと、あら、パーティーのご飯目当てでしたの? と冬子さんが目を丸くしていた。

 そんなもんにつられているのか、この人はと言わんばかりである。


「うぅ、でも、貴方たちのパーティーのご飯は立派なものが多いじゃないですか。そんじょそこらの有名ホテルのビュッフェなんて目じゃないレベルで。あのときは冬子さんに思いっきり目の敵にされてろくに食べられなかったですけど」

 ああ、あのローストビーフ、もっと食べたかったのに、というと、じぃと冬子さんはなぜかしののお腹のあたりを見た。


「食いしん坊キャラのお腹ではありませんわね」

 すらりと引き締まっていると、彼女は言った。

 うーん、そこはほら、動いているのといちおう代謝は男子の方なのでね。


「ちなみに、沙紀矢くんの二十歳のパーティーとかっていうのは、あったりするの?」

 ご飯の話がでたので、とりあえずここでちらっと焼きそば職人の方に声をかけておく。

 咲宮家のパーティーともなれば、それはもう豪華な食事がででんと用意されることだろう。

 参加できるのかは正直わからないけれど、聞くだけなら別にかまわないだろう。


「おじいさま主催で執り行われる予定ですよ。しのさんを呼べるかといえばちょっと厳しいかもしれませんが」

 ある程度の社交の場ですし、呼べる人数も決まっちゃってるので、と沙紀矢くんは申し訳なさそうに言った。

 さすがに学校の知り合いを招待という風にはなりません、ということらしい。

 まあ、さすがに呼ばれてもほかに話す相手も居ないし、エレナの誕生日会の二の舞になりかねないけどね。

 

 ちなみに、この後しばらくして、ルイのほうに招待状が届いたりはするのだけれどそれはまた別のお話だ。


「ちなみに海斗さんの誕生日パーティーは今年はやらないの? あるなら是非とも彼女役でまた出ますよ?」

 今年こそ、あのぷりぷりなエビチリを……というと、呼ばんよ! と海斗にばっさり断られてしまった。

 うぅっ。いいもん。エレナさんちのご飯に期待しちゃうもん。

 というか、セカンドキッチンで今度エビチリリクエストしよう。エレナならやってくれるはずっ。


「そっかぁ。それは残念だなぁ」

 ただ飯には惹かれるのになぁ、と言ったら、淑女としてそれはどうかと思いますわ、と冬子さんにちょっと引かれた。

 そうはいっても淑女じゃないからねぇ。美味しいご飯は正義ですよ。


「にしても、海斗さんはあたしに貸しができたと思うのです、たった今」

 おぉ、そうだ、とちょっとひらめいたことを実践してみようかと、海斗のほうににまりと笑みを向ける。

 なんだろうか、と彼はちょっと身じろぎをした。


「貸し……偽装彼女の件は、ちゃんと報酬も払ったような気がするんだが」

「ええ、それはいただきましたけど、ほら、二人の関係がどうなったのかーっていう事後報告もれの件」

 ほんと、さっきは冬子さんに詰め寄られて、大変だったんですから、と頬を膨らませておくと、冬子さんはちょっと申し訳なさそうに、それでも楽しそうに笑っていた。

 いや、笑い事じゃないからね。対応大変だったんだからね。


「それは、普通に、すまん。で? 俺になにをしろと?」

「ええと……海斗って同性愛なのを隠してない感じだよね?」

 ここまでおおっぴらに話してるし、というと、うーん、まぁとちょっと煮え切らない返事が来た。

 いちおう、大々的に宣伝するまではいってないのかもしれない。

 赤城は完全内緒だけれど、彼の場合は一部にはお知らせというくらいだろうか。


「となると、そうだな。冬子さんも合わせて、あそこの会にちょいと入会してくれないかな?」

 学外部員でも確か、人員的に半分の扱いにはなったと思うし、といいつつびしっと閑古鳥が鳴いているブースの方を指さした。

 言わずと知れたあのサークルである。


「LGBTとみんなの会、ですか?」

「そ。もともと同性愛者の巣窟として名高かったあそこは、今年から、みんなの会となりました。それで海斗だけだと入りづらいということであれば、冬子さんも一緒に入っちゃえば、きっと「みんな」の方でカウントされるかなぁってね」

 どうよ? というと海斗はちょーっとしぶい顔になった。

 いちおう存在は知っていたけど、入らなかったのだものね。そりゃ、悩むよね。


「ちなみに、冬子さん的なメリットは同性愛ってどういうことなのか、というのを学ぶ場となります」

 ほら、どうです? とアピールしてみると、いや、どうなのよ、と海斗が口を挟んできた。


「あそこはいろんな噂が絶えないだろ。やれ、男を連れ込んで搾り取られるとかなんとか」

 ちょっと冬子には刺激強すぎね? と言われて、うーん、と顎に手を当てる。

 いちおう、そういう話はあったみたいだけど、今はさすがに大丈夫じゃないだろうか。


「いちおうみんなの会になるにあたって、クリーンで安全なイメージを押していく感じになるから、そこは大丈夫じゃないかな」

 というか、不純な交友があったらあたしがボコる、というと、冬子さんはまぁ、と声を上げた。


「淑女の東雲さんが、食いしん坊だったり、やんちゃだったり、驚きですわ。でも、同性愛を知る、ですか。たしかに昨今はマイノリティへの注目も必要といわれていますものね」

 いいことかも、という冬子さんとは裏腹に、海斗は大丈夫かねぇ、と不安を顔に出しまくっていた。

 当事者だからこそわかる不安というのもあるのだろう。


「あー、はいはい、わかりましたよ。入ればいいんでしょ、入れば。ちなみに沙紀矢くんも一緒にどう?」

 仲間が増えれば濃度が薄まって嬉しいので、と海斗が誘った。

 ちょうど塩焼きそばを焼き終えた彼は、えぇー、という顔を浮かべながら言ったのだった。


「僕はちょっとサークルの掛け持ちは無理ですね。それに入ったら入ったで、じゃあ女装要員ね! とか言われてもイヤなので」

「いや、「みんな」の部分で入って欲しかったんだが……」

 どうして女装しなきゃみたいな発想になるのかねぇ、となぜか海斗はしのにいぶかしげな視線を向けた。

 やめてっ、別に沙紀ちゃんのは、こちら発祥じゃないの。咲宮家の闇が生み出したものなの! まあ、そんなこと言えませんが。


「あとは入ってくれそうなのいるかな……」

 えっと、確かトランスのやついたよな? と言われて、あぁー清水くんねー、と答えておく。

 うん。確かにこの学校にもトランスさんはいらっしゃいます。

 ただ。


「あいつは無理だと思うよ。今お金稼ぐのに必死だもん。学生のうちに戸籍変えるって努力中」

 就活とかはそれが終わったらって言ってた、というと、ガチか……と海斗は驚いた顔を見せた。

 でも、実際清水くんは胸オペもやったし、学業をこなしながら性別の移行のための準備をしているところだ。

 サークルに入る上で、先駆者がいるだとか、仲間がいるならメリットはあっても、今の状態だとそんなに有益な感じはないように思う。


「ちなみに、しのさんは入らないんですの?」

 せっかくだからサークルで一緒に活動みたいなの、憧れますけれど、という冬子さんの言葉をききつつ、最初あれだけツンツンしてて、この打ち解けっぷりはやっぱり、ツンデレだなぁと思うしのだった。

 でも、残念ながら。


「ちょっと無理かな。やることいっぱいあるし。それに……トランス枠だと思われるのもちょっとあれなんで」

「トランス枠ですの?」

 きょとんと、冬子さんは首を傾げた。

 うん。まあ、ここまで打ち解けてるなら話しておいた方がいいのかな、とも思って、切り出すことにした。

 ちょっと冬子さんがフレンドリーになってきているので、普段はしのさんに会えない件は伝えておく必要はあるだろう。


「ああ、しのさんこう見えて、男子なんで」

 そういや、言ってなかったな、と海斗があっさりと言った。

 事実をありのままに話す感じでだ。


「本人的には女装マスターなだけで、トランス枠って思いはないのです」

「女装って、あんなドレス普通に着こなして、淑女で、しかもそんな可愛い声してなにを言ってますの?」

 なにを冗談を、と冬子さんは苦笑を浮かべながら周りの顔色をうかがう。


「事実だ」

「信じられないだろうけど」

 その視線を受けて、海斗と沙紀矢くんが答えた。

 ちょっとばかり苦笑気味なのは、信じられないよねー、という意味合いも入っているのだろうか。


「海斗さんがゲイだったことより衝撃ですわ……」

 思い切り目を丸くしながら、冬子さんはもう一度しのの姿を見つめて、そうつぶやいたのだった。

 ああ、こりゃ木戸として会ったなら、誰ですの? って言われるパターンだなぁと、しのは思った。


なんとか方向性は変えずに修正ができた……かな。こっちのほうが冬子さんが柔らかい感じになって、逆に良かったというか。

ほんと、まじ関連キャラの話はきちんと見てからかかんといけませんね……


ちなみにLGBTの会は女性会員獲得ということで、いくらか印象アップな感じです。海斗くんも勧誘がんばるだろうしなぁ。

お盛んになっていただければなによりです。


さて、次話更新は土曜日予定です。次話は女装コンテスト話にしますが、去年のネタのおさらいしたり、誰だそうとか今から考えるので!

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