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544.3回目の新入生歓迎会2

一日遅れ申した!

「あれ。新入生?」

「お……なんだ、女か」

「こほん。君はLGBTに興味があるのかな?」

 声をかけると、LGBTの会の人達はこちらを見て一瞬、??と首を傾げながら声をかけてくれた。

 ええと。

 どうして、新入生だと思ったのか、是非とも教えていただきたいところだ。

 これでもしのだってそれなりに成長していると言われているし、大人っぽいと言われるようになったというのに。

 男の姿であればまだ、大学入りたてといわれてもわかるのだけれど、こっちでそれというのはどうなのだろう?

 そりゃ、馨が新入生扱いでも、ちょっととは思うのだけれど。


「その反応……よっぽど人がこなくて参ってしまっているのですね」

 あぁかわいそうに、と一歩下がってブースを改めて見ることにする。

 そこには『LGBTとみんなの会』という名前の看板と、知りたい人、話したい人は是非! 怖くはないです! なんていう張り紙がされていた。さすがに、お尻は保護しますとかそういうのは、書かれていなかった。


 いちおう、この手のポスターは最近の若者なら作れるものだけれど、なんというか……ちょっと地味だなぁとしみじみ感じてしまった。

 一言でいえば、うん。かわいくない!

 白と黒で書かれたそのポスターは、これでもかというくらいに無骨だ。

 割とゲイの人ってカラフルってイメージが勝手にあったんだけれど、彼らはそれには当てはまらないらしい。

 まあ、そのカテゴリの中でも多様性というものはあるものである。


「そのあきれっぷり……まさか」

「いやでも、髪型違うし?」

 こちらが落ち着いた反応を見せたからか、彼らは、まさかとようやくその可能性に気づいたらしい。


「……なんか前に見たときより遙かに女子力アップなんだが……」

 去年のこのイベントの時もやばいと思ってたけど、それは……とちょっと引かれた。

 おかしいな。別にここ一年でしのさんの姿はあまり変わっていないはずなのだけど。

 大人っぽくなっていても、それでも本人かどうかはわかるじゃん。

 去年のイベントの時だって十分、おまえのは女装じゃねぇとか散々言われていたのだし。


「あんまり変わってる感じはしないのですが……そう見えるのだとしたら、なにかあるのかなぁ」

 ここ一年いろいろなイベントをこなしては来たけれど、基本的にはルイとしていろいろ巻き込まれたり、馨として巻き込まれたりいろいろだったように思う。

 女子度が上がったかどうか、というのは実はよくわからないところだ。

 成人式を終えたから大人っぽくなったか、といわれても、別に式に振り袖で行ったわけでもないし。

 髪型が違うから印象が違う、という部分だろうか。


 でも、今はその分析よりも現状の方が大切だ。

「まぁ、それよりは、ここの惨状についてです。今はお客はどれくらい来たんですか?」

「……ゼロだ」

 ぼそっと言われた一言には悲痛感というものがありありと見て取れた。

 もう、時間は十時半を過ぎてしまっている。

 開始からそれなりに経つのに人が来ないというのは、まぁ。


 とりあえずあちらのサークルの方に人が吸収されてしまっているから、という点がまず一つ。

「いちおうブースから見える範囲なら、移動して声をかけるのはOKなんですよね? 声かけちゃんとやってますか?」

 もう一つはこれ。

 確かにこのサークルの場所は、かなり不利なところだろは思う。

 少し奥まったところにあるし、お客の流れはみんなあちらのサークルに向かってしまっている。

 沙紀ちゃんが入ってるサークルは、けっこう大きなところらしく、それなりに人気もあるらしい。

 そんなに人手があるのに、どうしてあなたが焼きそばを焼いているの? とはやはり思ってしまうけれど。

 それでも、ブースに引きこもって客引きをしないのは、褒められたことではなかった。


「いや……その。怖がらせると逆効果かなと」

 いっぱい声をかけても、LGBTな俺らは……と、遠い目をし始めてしまった。

 いや、あなたたち。たかが同性愛なだけで、自分を低く見積もるのはやめましょうよ。

 別に、小学生男子を襲うとかそういうことはないでしょうに。 


「ご飯関連はやらないんですか?」

 おもてなしをして上手く話をしていくのがこの会でしょう? と聞くと、それが……と、また否定的な言葉が出てきた。


「自治会から、調理の許可申請はもう締め切ってしまっているといわれて、その手の器具が使えないんだよ」

「だから、お菓子とかだけは用意したんだけど……」

 ああ、確かにちょっとお菓子が置かれてあるのは見えるけれど。

 ううむ。あの暴力的な焼きそばの匂いにはちょっと勝てる気がしない。 


「とりあえず歩いてくる人達はいるのだから、そこに声かけたりはした方がいいですよ。LGBTは知らんかねー、とか言いながら声かけるのです」

「なにそのLGBT売りみたいなの」

「耳に残るフレーズって大切ですよ。それに真面目な学術サークルを目指すわけではないのですよね?」

 同性愛とはなにか、というのを哲学的に考える、とか、というと、うちはそんな面倒なことはしない、と返答いただけた。

 まあ、そうだよね。人を好きになるのに理屈はいらない! とかなんとかいうらしいし。


「声かけ……くぅっ、日陰者の俺たちからすればそれこそが難しい」

「そうだよ。いままでなんもしてなかった俺らが急にそんなことできるわけが」

 いやいや、そこは胸を張るところじゃないから。

 言っていることはよくわかるけれど、それでは先に進めない。


「まあ、せめて声かけてみてくださいね。私はちょっと知り合いに挨拶してくるので」

「ちょ。しのさん、見本みせてくれたりしないんすか」

「しませーん」

 ちょっと他力本願な彼らに、さらっと答えておきながら、しのはバックステップでそのブースから離れる。

 メイン通りからちょっと奥に入ってしまっているここは、やはり、誰かがブースから離れて声をかけるというのが正しい手段なのだと思う。びびっていないで、ほんとLGBT売りの兄さんになってもらいたいものだ。


「さてと、彼らがどう動くのかを見ながら、ソースのにおいに引っ張られてみようかな」

 数メートルいけば、ブースにいっぱい人のいるあのサークルへ到着だ。

 もちろん、焼きそばは新入生だけを対象に配られるので、行ったところで食べられるわけではないのだけれど。

 敵情視察、というやつだった。


「沙紀ちゃーん、焼きそばおくれー」

「のわっ、ちょ、木戸さん? ってか、がっちり女装ですが、シルバーフレームってことは……奏って呼べばいいの?」

 え? ええ? と焼きそばを焼き終えた彼は、こちらの姿を見るなり、どう反応すれば良いの? と困惑顔だった。

 なにがどうした、という感じである。


 彼にしてみれば、ルイとの交流もあるからこそ、こちらのスタイルは一体どうやって扱えばいいのか、というのに困ってしまっているのだろう。

 いちおう、大学のイベントで女装が明確になってるときは、ルイとは呼ばないでね、とは言ってあるのだけれど。

 

「しの、と呼んでくれれば。それで通ってるから」

「あぁ、それが噂の、女装じゃねぇってみんなに言われたスタイルですか? やっぱり奏にしか見えないですが」

 あ、でも髪の編み込みはかわいいですね、とふんわり言われてしまって、おまえさんちょっと女子側に引っ張られてませんか? と少し心配になった。

 男子に今の髪型を見せても、長髪ロングいいね! 位しか言われない。編み込みをほめてくれるのは女子だけである。

 

「沙紀矢くんこっちに焼きそば二丁ね」

「はーい、了解」

 声をかけられてすでに焼き上がってるそれをお皿によそってサーブしていく。

 一連の流れがあまりにスマート過ぎて、周りからきゃーなんて声が上がっていた。

 さすがは中性イケメンというやつだ。


「それで、あたしには焼きそばはくれないのでしょうか?」

「サークルに勧誘される気があるのでしたら、どうぞって感じです」

 どうせ入る気がないのでしょう? と言われて、まあそうかと納得する。

 少なくとも、木戸はほかのサークルに参加するだけの余裕を持ち合わせていない。

 となると、それ向けの焼きそばも受け取る資格はないということなのだった。


「じゃあ、新入生を何人か分けていただきたいです!」

 しゅばっと手を上げてそんなことを言うと、えっ、なになに、とブースの中の方から声が聞こえた。

 ここは沙紀矢くんがいるのもあって、新入生たちには大人気だ。

 テントが立っているここの中には椅子が置かれているけれど、それが見事に埋まっていて、どんなサークルなのかという説明を受けている子がいっぱいだった。

 

「ちょ、しのさん!? うちの説明ききにきてくれた子たちは誘うのやめてくれない?」

「むしろしのさんがうちのサークル入っちゃえヨ!」

 ええと、同期の二人がしのの顔を見て、うわぁーとか言いながらも抗議してきた。

 確か赤城主催の飲み会にも参加していた相手で、いちおうそれなりに面識はある相手だった。


「毎日しのさんでくるのはちょっと……それにうっかりすると女装サークルになっちゃいますよ?」

 それは困るでしょう? と沙紀矢くんに言って上げると、さすがにそれは……とげんなりしたような顔になった。

 うーむ。まだまだ沙紀お姉様として十分やっていけると思うのだけど、本人としてはもう危ない橋は渡りたくないようだった。


「女装って……どういうことですか?」

「ああ、あいつな、実は男なんだよ」

「……先輩、それ、なにかの冗談ですか?」

 あんな綺麗な人が男なわけないじゃん! と話を聞きに来た新入生たちは言い合っていた。

 そうは言われてもなあ。今日のこれは女装でお間違いございません。


「木戸さんは自称男性ですよ。俺は男だ! とかかわいらしく言ってしまうのです」

 本当に残念、と沙紀矢くんまでからかってくる。

 うむぅ。焼きそば小僧め……次のお食事会では庶民の味方、三パック入り焼きそばを使って庶民飯を作ってやろうではないか。


「たいがい沙紀矢くんもかわいい声とか自然に出せるんだよなぁ……さすが万能王子」

 すっげぇと、声まねをした沙紀矢くんのほうにみんなの注目が集まった。

 うん。俺は男だ、のところが完璧女声だったものなぁ。あれだけ注意深かったのに女声を披露してしまうとか、彼もずいぶんと一年間で緊張はとれたということだろうか。

 その前の女子校潜入の時は緩む余地はなかったから、反動というやつなのかもしれない。


「ふむ……ネギみたいなものですか、この王子は」

「しのさん……人を万能ネギ扱いしないでくれませんか」

「や、だって、実際沙紀くん、なんでもできるじゃん」

 ブラジャーのホックをしめるのだってできるじゃん! というと、できませんからっ、と沙紀ちゃんはあわあわと反論した。

 それはばれちゃあかんやつだったらしい。


 そして、そんな何気ない話をしていたら、あちらのサークルの人たちは腕を組みながら、かわいそうなものを見る目をこちらに向けてきた。

「さすがになぁ、しのさん。知り合いの男子を女装の道に引き込むのはよくないと思うぞ……」

「咲宮家の人を女装の道にぶちこんだとなったら、スキャンダルじゃすまないだろ、だめだろ」

「あはは……」

「そうですよねぇ」

 女装の道にはひっぱりこんじゃだめ、というみなさんにしのと沙紀矢は苦笑を浮かべる以外にない。

 ああ。咲宮家は絶賛女装病にむしばまれつつあります!


「まさか……沙紀矢さんですの?」

 さて、そんな風に和気藹々と話をしていたわけだけれど、焼きそばの匂いに誘われたのか、一人の女性の声が聞こえた。

 またどこぞの女学生かと思ったのだけれど……

 そこに居たのは、久しぶりのあの方なのだった。


「ああ、冬子(とうこ)さん。お久しぶり。こんなところで会うとは奇遇ですね」

 沙紀矢くんは鉄板の上を綺麗にしながら、さわやかな挨拶をした。

 どうやら二人は知り合いのようで、キャラクター博覧会以来の彼女は、イケメンさんの登場にちょっと嬉しそうな顔を浮かべていた。

 どうして彼女がここにいるのかって?

 それは、海斗にでも会いに来たんじゃないかな。


 新入生歓迎会のこの日は、比較的外部の生徒も参加しやすいスタイルになっている。

 学外の生徒もサークル参加が可能なこの学校としては、学内だけのイベントではなく、学外もというところがあるのだ。

 もちろん制限はあるし、受付で通ってる学校の記載や、学生証の提示なども求められるのだけれど、それを満たしていれば十分このイベントを楽しむことができるのだった。


「知り合いがこの学校にいますので、足を運んでみたのです。そうしたらまさか沙紀矢さんがいらっしゃるとは」

 しかも焼きそばを焼いて居るだなんて、と彼女はかなり嬉しそうな顔を浮かべた。

 うぅ。その横顔は撮っておきたいけれど……これでシャッター音が鳴ったりするといろいろ面倒なことになるんだろうなというのは予想がつく。

 泣く泣く、カメラに手を伸ばすのはやめた。


「ああ、かな……じゃなかった。しのさん。こちら私の友人の冬子さんです。パーティーなどでよく一緒になるのですが」

「しの?」

 やめたのだけれど、だからといってこの場が上手く収まるわけもなくて。

 沙紀矢くんから紹介されて、こんにちは、と挨拶をすると彼女はこちらの姿を見て、ぴきっと固まった。


「東雲さんではありませんか……」

「一年以上ぶりですね」

 さぁ、どうすんべ、と思いつつ顔には出さないでちょっとお嬢さまっぽい話し方に切り替える。

 しのが、海斗の婚約者として彼女のふりをしていたのは、もうだいぶ前の話。大学一年だったころの事だ。

 それからはもちろん、しのがパーティーに出ることもないし、冬子さんとの面識もない。

 

 まあ、ルイとしてなら、お正月も会ってるし、キャラクター博覧会では誘ってくれたほどだから、ずいぶんと懇意ではあるのだけれど。

 しのとはすごく険悪なのですよね、これが。


「この尻軽女。海斗さんだけではあきたらず、沙紀矢さんにまで色目をつかうんですの?」

「……あれ。そういう展開になるんだ?」

 なんか、沙紀矢くんがにまにましてるんですけれども。

 おもしろいなー、この人はーとか思ってるのだろうか。くぅ。次のお食事会は焼きそばにピーマンいれてやるぅ。


「お尻はあまり重くない自覚はありますけど……沙紀矢さんとはたんに友達なだけです」

 尻軽と言われて、たしかに女子としては貧相なお尻だなぁなんて物理的なことを思いながら、当たり前なことを答えておく。

 沙紀矢くんとはほんと、お友達なだけだ。できればビジネスでも使っていただけるととても嬉しいけれど!


 でも、そうはいってもあの冬子さんが取り合ってくれるかっていうとそんなことはなくて。

 今のしのには、海斗に向かって、へるぷです、というメールを送るくらいしかできないのだった。

LGBTの会とかませるなら誰じゃろうということで。

こーなってみました。尻軽女w

さぁ、次回は修羅場りまっせ。

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