表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
574/794

Ep11_2.卒園式の日に2

「これが卒園式か……」

 小さめな体育館に集まった園児達が、物珍しそうな顔をして集まっていた。

 私も卒園式は初めて経験する。

 というか、自分が園児だったころのことはあまり覚えていないから、こんな感じなんだなぁという感想である。

 さすがに小学校の卒業式よりはみんな落ち着きはないのだけど、それでも騒ぎ出すような子がいるわけでもなく。

 

 順調に式の行程をこなしていくという感じだった。

 園長先生の言葉や、園児挨拶やら、保護者からの感謝の言葉などが並び、園児達が今は歌を歌っているところだ。

 園歌と、みんなの歌ということで、ここのところ先生方と一緒に頑張って練習した歌である。


 あの小さな身体で精一杯歌っている姿は、微笑ましいと思う。

 ちなみに、そんな姿をルイは、かわいいなぁとか言いながら撮影しまくっていた。


 うん。たしかにこれで男子の姿のままなら、変な疑いを向けられるってのはありえるのかなぁと失礼ながらちょっと思ってしまった。

 心からルイが無邪気に子供が可愛いと思っているのは知っているし、変な下心はない、というのは知っているけれど。

 ちょっと集中しすぎなのである。

 

 そしてまた、卒園式の空気がルイの存在を特別、気にしないようにさせている部分もあるようだった。

 保護者の方にはあらかじめカメラマンを呼ぶことを伝えてあるし、あの(、、)ルイさんであることは伝えてある。

 でも、まあ、トラブルがあったのは一年も前の話で、それも解決済みなのだから保護者から特別なにか注文が入るということもなかった。


 なんというか、あとから思えばだけど、このタイミングで本当によかったなと思う。

 ちょっと後であったのなら、もう、収集はつかなかっただろうし、保護者のみなさんが絶対にルイの起用に反対しただろうから。


「おめでとう。みなさん。小学生になっても元気にすごしましょう」

 閉式の言葉とともに、卒園式のほうはすんなりと終わった。

 きっとあとでムービーや写真を見れば、このときの事を思い出すのだろうけれど、初めての卒園式はすごく短く感じられてしまったのだった。

 何事もなく終わった、とそのときの私はほっとしていたの。

 なんせ、トラブル体質のルイがそばにいるのである。

 腕と金額の関係で推薦したものの、実は一抹の不安というものはあったのだ。

 けれども、さすがにあの美貌も園児には特に気にされないし、保護者の方からも、ちょっとお父さんが鼻の下を伸ばしたりして、奥さんにつねられたりしてるところはあったようだけれど、それくらいだった。


 うん。

 本当に。きちんとした卒園式ができて、大変満足。

 そのときの私は、そう安心してしまっていたのだった。 



「どうしてこうなった……」

 おうふ、と目の前の光景に私は一人、壁にもたれかかっていた。

 ルイのことは、保護者のみなさんには周知をしている。

 中には、ああ、アイドルグループと噂になった、とかいろいろ反応はあったけれど、それでも本人が芸能人でもなんでもないので、反応はそんなに大きい物でもなかったし、反対意見というものもまったくもってなかった。


 けれど、である。

「……妖精のお姉ちゃん。今日はクマさんはいないの?」

 卒園式が終わっての、謝恩会が始まってから、その言葉が引き金となった。

 ざわっと、園児の中で動揺というか、え? という驚きが広がっていった。


「あっ! ほんとだ。妖精のねーちゃんだ!」

「クマの妖精のおねーちゃん!」

 そこからは軽いパニックだった。


 謝恩会は立食形式で、例の保護者のみなさんが準備した綺麗に飾り付けられた部屋で行われるのだけれど。

 今年卒園する三十人の園児達はわらわらと、ルイの周りに集まってしまったのだった。


「あわわ」

「妖精ってなんのこと?」

 ちょ、ええぇ、とルイのそばにいた私まで取り囲まれて、驚いた声を漏らした。

 ルイには心当たりはあるようで、園児に取り囲まれながら、ここでそーくるかー、と、げんなりした声を漏らしていた。


 さすがに大混乱だったわけだけど、保護者のみなさんがそれぞれ自分の子供達を押さえてくれてなんとか落ち着いたのは五分後くらいだろうか。大人の手があるというのはとても助かる。

 さすがはトラブルメーカーである、ルイである。

 まさか園児にまで知られているというのには、ちょっと驚かされた。


 さて、そんなちょっと微妙な空気になってしまったわけだけれど、ルイは最初に声をかけてきた女の子の前にちょこんと座り込むと、にこりと微笑みながら、なにやら言い始めた。


「クマさんは今日は、おはなしのおべんきょう中なの。テレビの中で妖精さんと一緒だったでしょう?」

 私はクマさん当番はそんなにやってないから、一人なの、とルイは言い出した。


 なんのこっちゃと言いたいところだけれど、心当たりがある。

 うん。すごくある。

 園児達に混ざって私も見たことがあるから、とてもよく知っていますとも。

 テレビでやってる、クマと妖精さんの言葉探しだったかな。そんな感じの番組だ。

 それは言葉をしゃべれないクマさんと一緒に、妖精さんが言葉を学んでいくっていう、保育園向けの番組で、もちろんここでもそれが流されたこともある。

 同音異義語の勉強なんかもするので、割と勉強になる番組なのである。

 

 でも、なぜにルイが妖精さんあつかい? という疑問の方が頭に浮かぶ。

 そりゃ、そこに登場するクマは、とっても高校時代に見覚えがあるクマではあるし、関係はあるのだろうなとは思うけれどね。

 卒業パーティーで現れたあのクマの着ぐるみとテレビで使われてるのは、まったくもって同じ物だと思うし、あのときは私ももふらせてもらった。毛並みも良くて、とてもいいクマだったと思う。 


「妖精さんは、クマさんと一緒にいなくていいの?」

「そうだぜ。妖精の国からこっちにくるのは大変って話だったろ」

 さて。くだんのクマさんだけれど、それなりの人気もあって町のイベントに呼ばれたりすることもあるそうだ。

 けれども、もちろんクマのガワも中の人もいっぱいあるわけでもないので、イベントの数はそんなに多いわけでもない。


 そこで、町に来れない言い訳として、妖精さんはあまり現世にこれない、みたいな設定が盛られているわけで。


「妖精の国にもいろいろあるの。今日はみんなの姿を撮影して、クマさんに見せて上げるっていう仕事をしてるんだ」

 ほら、一年前もクマさんと一緒に写真撮った子いるでしょ? とルイはちらりといくつかの顔を見ながら言う。

 クマさん? 写真? ちょっと理解がおいつかないけれど、まさかこいつ。


 クマさんの妖精役とかやったってことか……

 確かに近くにクマさんがくるイベントがあったのは覚えてる。ちょうど去年の今頃の事だ。

 町の電気屋さんの前で、クマさん来る! みたいな感じで、ミニライブをやっていて小さな子が、クマさんー! って言っていたのは覚えてる。まあそのときは私は園に関わっていたわけではないけれども。


 そのときにカメラマンとしてオファーが行っている可能性は十分にあり得るのだろうか。

 いや、そんな大きなイベントの仕事をルイはもらってるの? え、さくらが聞いたら泣くんじゃないだろうか。

 まあ、今の撮影っぷりと園児の対応を見ていれば、そういうイベントも上手くこなしそうだなとは思うけどさ。


「ほら、妖精のお姉さんはお仕事で写真を撮ってるのよ。あまり困らせちゃダメ」

「そうだぞ。大切なお仕事なんだから」  

 あ、保護者の何人かがルイの言葉に乗っかった。

 ちらりとルイの顔を見ているところからすると、イベントの時に顔を合わせたことがある相手なのかもしれない。


「クマさんと言葉を覚えるのがおしごとじゃないの?」

「クマさんにあいたいー」

 女の子中心にクマコールが起きていた。

 たしかにあのもふもふなのが園にきたら大人気だろうと思う。

 でも、さすがに収集がつかなくなりそうだ。


「あの妖精さんは、普段クマさんといる妖精さんじゃないだろう? ちょっと特別な……ハイエンシェントフェアリーなんだよ」

 ……苦し紛れにパパさんがなにか言い始めた。

 いうにことかいて、なんか中二病っぽい単語がでてきたんだけれども。


「はいえんしぇん? フェアリーって妖精ってことだよね?」

「はは。特別な妖精さんって思えばいいんだ」

 ぽふぽふとパパさんは娘さんの頭をなでた。

 奥さんからちょっとジト目を向けられているところを見ると、うっかり出てしまった黒歴史というやつなのかもしれない。


「クマさんはみんなが良い子にしてたかどうか気になってるからね。だから、ほらっ」

 いい顔を見せておくれ、といいつつルイがシャッターを切る。

 瞬間的に、みんな笑顔だったり、すました顔だったり、きりっとした顔になる。

 クマさんにいい顔を見せたいという気持ちはそれぞれあるらしい。


 でも、そんな中で一部の園児達はひそひそと話をしていた。

「どう思う? はおちゃん」

「あのときとは服も違うし、ホンモノかな」

 違うかもしれない、と一部から疑惑が上がっていた。


「クマの妖精さんだったらきっとその、アカシを持ってるはず」

「だったらどうするの?」

「本当にあのときの妖精さんなのか試すんだよ!」

 そして、その園児は素早くルイの横に立つと、やらかした(、、、、、)のである。


「ホンモノなら、クマさんパンツをはいているはず!」

「ちょっ……な……なにするのっ!?」

 ふぁさっと、ルイのスカートが風にたなびいた。

 うん。なんか。あれだわ。

 私もちょー久しぶりに見た。


 お子様のスカートめくりってやつを。


「こらっ、はお! なにやってんだ、おまえ! よくや……いやごほん、ダメだろう!」

「あなたも、今見たのは忘れなさい? いいわね? 絶対だから」

 なにやら、はおくんのご両親が見事な修羅場状態に発展した。

 お父様。あなたが見たパンチラは、男の娘のものなのですよ?


 それでもバレないルイクオリティというのはすごいと思う。

 八瀬くんから時々聞かされてた、男の娘のパンチラの概念が全部ふっとぶというものだ。

 水着も平気で着れる木戸くんだから、パンチラも問題ないというのは理屈ではわかっても、実際こう来られるとさすがに、あーまぁ、ルイさんだからねぇ、と言わざるを得ない。


「クマさんパンツじゃなかった……紫のだった……」

 そして、当の本人はよくわからないことを言っていた。

 ばっちりパンツは凝視したものの、目的の物ではなくてがっかりしたような顔をしている。

 クマさんの妖精だから、クマさんパンツをはいているものだ、とか思ったのだろうか。

 残念です。そこにはクマさんはいません。


「す、すみません、ルイさん。うちの子が変な事をして」

「子供のしたことですからっ」

 気にしないでくださいと、ルイはちょっとだけ涙目になりながら、保護者の方と話をしていた。

 子供に見られたくらいではなんとも思わないだろうけど、これは保護者の方もいたからそんな反応なのだろうか。


「えと……その。ごくり」

「ちょっと、パパ。後で反省会」

 しかしまぁ、涙目で気丈に大丈夫です、なんて笑顔を向けられたら、パパさんとしてはたまったものではないようで。

 はおくんのご家庭はしばらくの間、さらなる修羅場になるようだった。

 ちなみに、その修羅場のはてに、数年後、はおくんの妹さんをうちの園で預かることになるわけなのだけど、それはまた別のお話。


「はいっ。みなさん。ちょっとお騒がせしてしまいましたが、まだまだ時間はありますから、会をお楽しみください」

 こんなトラブル慣れっこですと言わんばかりに、ルイは軽く手をたたいてその場の雰囲気を変えるように動いた。

 確かに時間はまだたっぷりあるし、保護者さんの出し物や園児達の歌なんかも用意されている。


 そういうことなら、と率先して動き始めたのは、保護者のパパさん達だったわけだけれど。

 みなさん、奥さんに睨まれているのは、まあ。


 見なかったことにしてあげようと、そのとき私は思ったのだった。

 つい、出来心で……

 スカートめくりの英雄は、覇王さまとなりました。

 ハオちゃんと呼ばれております。

 最近は個性的な名前の子が増えたといいましょうか、エロゲのキャラと名前がモロかぶりの子とかいたりするのが、びっくりですね。

 女の子だと、○愛で、「~あ」と呼ばせる子がかなり多いなと思います。まさか「昭和の○子」レベルになってしまうのではと思うほどでございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ