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528.ゼフィロス初出勤のお話2

「はい、そんなわけで、対人にしたいのか、対物にしたいのか、大きいの持ち運べるのか、小さい方がいいのか、と、それに応じてメーカー別の強みもことなるわけです。やりたいことが決まればカメラもある程度決まるっていうのは、ここからきます」

 写真とどうやって向き合うのか、というのを一度考えてみてください、とホワイトボードにそれぞれのメーカーの特徴を書きながらいうと、はいと手が上がった。

 上級生はうんうんとうなずいているのだけれど、一年生たちにはまだまだこの説明は難しかったのかもしれない。

 なるべくかみ砕いたんだけどね。 


「向き合うといっても、写真は撮ってみたいけど、漠然としてて……」

 お話はわかったのですが、肝心なそちらがおぼろげすぎます、と一年生達からは困惑の声が上がった。

 ああ、そっちでしたか。


「んー。じゃあ、カメラに興味を持ったのって、きっかけみたいなのはあった?」

「きっかけ、ですか」

 うーん、と一年生の子は、首をかしげながら考え込んだ。

 そんな仕草もかわいいので一枚撮っておく。


「ルイ先生は生まれつきの本能で撮ってそうですよね」

 きっと産湯につかるところで、カメラを落としてはならぬっ、みたいな顔をしていたにきまっています、と志農さんが珍しく真面目な顔で冗談を言ってきた。あまり関わらないでください、みたいな感じだったのに、なかなかの変わりようだった。


「本能って。さすがにそこまでではないですよ」

「なら、先生が写真に興味を持った瞬間っていうのを聞いてみたいです」

 はい、と部長さんがびしっと手を上げてそんなことを言い始めた。

 ふむ。それに関してはほのかにすら話をしたことがなかったっけ。


「あたしのは別にそんなたいそうなものではないけどね。小学生の頃に図書館で写真集と出会って、それがすっごい綺麗でね。あぁいいなーって思って、かなり図書館に通ってたの」

 当時は本当にインドアだったしね、というと、まぁ女子小学生が室内にいることはそんなに珍しいことではないですか、と志農さんはふむ、と不思議そうな顔を向けてきた。

 うーん。これってあれですか? 値踏みってやつですか?


「それで、せんせー! どんな写真だったんですか?」

「あたしがはまったのは四季の植物っていうやつで。思いっきり自然写真中心のだよ。今は書店では売っておりません」

 それもあって、風景写真中心に撮るようになったってところはあるんだけどね、というと、みなさんは首をかしげた。

 おまえさん、何を言っているのですか? といわんばかりだ。


「あの、お言葉ですが。先生は人を撮るのものすっごくうまいですよね? それで自然風景中心なのですか?」

「コスプレ撮影などもされてると聞きますし」

 それで風景なの? とみなさんは不思議顔を浮かべていた。


「いちおう、ほら、あたしが間借りしてるサイトは、裏もあるからね。風景の写真中心でずらっと並んでる感じで」

 ほれ、とタブレットにそのサイトを表示させると、いつもはイベントの写真中心なそこは、風景写真がずらっと並んでいる物に切り替わった。

 いちおう隠しサイト扱いにはしているけれど、HAOTO関連の騒動の時はそれなりにこちらも見てくれた人がいたし、発見できる人はそれなりにいるようだった。

 掲示板開いていたら、風景下手だなおい、とか普通に誹謗中傷されてたんじゃないかと、ちょっとだけ不安な気持ちになる。

 まあ、おちつくまでは感想掲示板はエレナが閉じてくれているわけだけども。


「これが噂の銀香町ってやつですか」

「うん。大銀杏の写真は多いでしょ? そこは一年中撮ってても飽きないかな」

 この学校も撮影スポットすっごーーくいっぱいあるけどね! と言って上げると、そんなにですか? と三年生から困惑を、一年生からは期待の視線を向けられた。


「ほのかと……ここの去年の卒業生と学校を回ったときは、いろいろなスポットも紹介してくれたし、まだまだ見所はいっぱいって感じだね」

 みんなもせっかくだから放課後とか朝とか探してみるといいよ、というと、はーい、という素直な声が響いた。


「ちなみに、先生はその憧れの人に会えたりしたんですか?」

 部長さんが遠慮気味にそんなことを行ってきた。

 写真でつながっていれば、会えるなんてことをほのかと話をしたけれど、そこらへんのことを聞いているのかもしれない。


「いちおうね。あのときは本名でだしてたみたいで、今は別の名前を名乗っているんだけど」

 最初は本人とかぜんっぜん知らなくてさぁ、というと、えっ、なに、運命の出会いとかそういった……とみんな目を輝かせた。

 輝かせてないのは若様たちくらいなものである。


「そういうのは、ないない。そりゃ憧れの人ではあるけど、それはカメラマンとしてだもん。っていうか、自分の親より年上だよ? というかあたしより年上のお子さんまでいるんだよ?」

 なにその、とんでも設定、といって上げると、いやぁーと耳年増な女の子たちはきゃいきゃいはしゃぎ始めた。


「最近は、二十歳年下のお嫁さんをめとる、事業家の方々が多くいらっしゃいます」

 ぜんぜんとんでもじゃないですよー、と一部から声があがった。

 ふむ。まだまだゼフィロスになじんでいないのだろうか。いや、でもみんな中等部からの持ち上がりだったような。

 まりえさんなら、そのような破廉恥なことは言ってはなりませんとかいいそうだけれど。


「でも、それって若いから良いとか思ってるわけでしょ? なんか、女性をアクセサリー扱いしてるんじゃないの? って勘ぐってしまうけどね」

 お互いが好き合ってるならいいんだけど、とルイはちょっと悩ましげな声を上げた。

 年の差婚が悪いとは言わないけれど、将来的なことを考えれば女性の方が寿命は長いのだから、未亡人時間が長くなってしまうのではないか、と冷静に思ってしまうのである。

 そもそも未亡人って言葉自体が、ちょっとアレな単語ではあるのだけど。未だ亡くなってない人、などという呼称はこれからがある身にはあんまりな言い草である。


「そ、そうですわね。ルイ先生なら若い男の人もよりどりみどりでしょうし」

「若いアイドルグループを手玉に取れる魔性ですものね」

 おおい。どうしてその話に君たちは戻ってしまうのでしょうか。


「うぅ。どうしてその話に……別にあたしはあんまり人と付き合うとかする余裕はないんだけどな」

 空き時間があれば撮影してたいし、というと、志農さんが、あぁ、こいつ写真馬鹿か、という残念な子を見る目を向けてきた。

 うん。それはそれでいいのですよ、明日華さん。


「はいっ、その話題ではなく、今は、写真部に入ろうとしたきっかけの話です。時間は上げたのである程度まとまったとは思いますが」

 いかがでしょうか? と言って上げると、うーんと、まだ何人かは悩んでいた。

 友達に誘われて、とかいうパターンの場合はこの問いかけは厳しいものかもしれない。


「ええと、そういうことであれば、私が写真始めようと思ったのは去年の学園祭に見学で参加したときのことですが」

 ちらりと新入生達に視線を向けると、一人が挙手をしながら恐る恐る話し始めた。

 この学院のイベントはそんなに外に開かれているわけではない。

 生徒からの紹介で外部の人も呼ぶし、男性に関しては生徒の家族でなければならないという規定すらある。

 去年も潜入騒ぎがあって、ちょっとそれの仲裁なんかにルイも立ち会ったものである。


 ただし、その例外というのが一つある。それが中等部の子の参加だ。

 あらかじめ、参加希望を出しておけば高校の学園祭にも遊びに来ることができるのである。

 ここの子は持ち上がりもそれなりにいるようなので、どうやら幾人かはあのときの撮影を見ていたらしい。


「ルイ先生の撮影を見ていて、あぁー、これはすごいわーって思って」

 写真ってすごいなぁって思ったんです、と彼女は恥ずかしそうに言った。


 そして、あ、それあたしもー、みたいな声が二つほどあがる。


 ちらりと部屋に視線を向けると、なんと若さままでこっそり手を上げていたりした。ええと、と思って志農さんに視線を向けたら、やれやれだぜと、肩をすくめられてしまった。

 どういうことだ。


「先生がカメラを向けると、みんな笑顔になっちゃうんです。それってなんか魔法使いかなにかみたいで、すっごいなぁって。そういうのできるようになりたいなって思ったんです」

「魔法使いて……」

 そりゃ、それなりに相手の気分を盛り上げたり、ほぐしたりっていうのはしているとは言っても、そもそもの土台が学園祭という楽しいイベントの中での事だ。笑顔の魔法使いはさすがに言い過ぎである。


「ってことは、対人を中心としたもので考えた方がいいのかな。いちおう声かけの仕方とか、そういうのもおいおい教えてあげるね」

「それは嬉しいですっ!」

 是非っ、と新入生達はぱーっと表情を明るくした。

 うぅ。なんかこう、追いかけられる側って、ちょっと気恥ずかしいというか、背筋がぞくぞくするような感じがしちゃうね。


「はい、他にはー、どうかな?」

「私は、道ばたにいるにゃんこが気になってまして……」

「おぉ……動物撮りたい感じなのか」

「いいえ、にゃんこです」

 動物というか、にゃんこ、と彼女は言い張った。

 なるほど。大の猫好きというものなのか。


「動物撮りたいなら、シャッタースピード速めなのっていうのを押さえつつ、軽めのほうがいいのかな」

 日常持ち歩きたいというのがあるなら、携帯性も一つのチェックポイントなのです、と言って上げると、おぉーと彼女は満足そうな声を上げた。


「ちなみに、ルイせんせーの初期のカメラというのはどういうものなのですか?」

 最初から、それを使っていたわけではないですよね? と志農さんがルイの首元を見て言った。


「ああ、当時のあたしはお金もなかったからね。高校一年の夏から本格的に撮影を始めたわけだけど、4,5,6月のバイト代から、いろいろ考えた上でって感じ。交通費とかも考えると節約しまくってたなぁ」

 ほんと、当時はコロッケの一つも買えない感じで、外出るときもお弁当です、というと、みなさま、お弁当って自分で作れるものなのですね、とか残念な事を言っていた。

 いや、作れるから! 冷凍食品とかも使えばさらに簡単だから!


「ええと、この機種だけど……さすがに価格情報がありません、か」

 ほい、とタブレットにルイの初代機を表示させてやると、みんながそれをのぞき込んだ。

 ああ、女の子の香りが濃密に、とか、潜入系だと思うのかもしれないけれど、あまりにもルイとしては慣れてしまっているのでそんな感想はすり切れてしまっている。


「買ったのが五年前だし、それに、その当時で型落ちだったからね。でもま、連写性能がちょっととかあったけど、人を撮るのには不便はなかったかな」

 まあ、こっちを使っちゃうとちょっとパワー不足は否めないって思っちゃうけどね、と補足も入れておく。

 初代様は今でも家に置いてあるけれど、バランスの良いモデルだったと思う。

 重すぎず、かといってコンデジほどでもなく、手にしっかりとなじむのも良かった。


「あの、ルイ先生はそれでお仕事とかもなさっていたのですか?」

「んー、高校の頃はそうかな。っていっても、知人に呼ばれて結婚式にとか、そういう感じだし。あ、でも、一回だけカメラマンの手がたりなくて、あれでお手伝いしたことはあるかな」

 かなりぎりぎりだったみたいだけど、状況もギリギリだったので、と佐伯さんの顔を思い出しながら言う。

 あれはエレナの学校に行ったときのことだ。

 出来高で、良いのがあったら買い上げる形式ではあったのだけど、佐伯さんが及第点を出してくれた物はけっこうあった。


「入門用のレンズキットはとりあえず使ってみて損はないとは思うよ。あとはご予算次第でございます」

 どこまでお金かけられるのかは人によって違うから、というと、ですわよね、と周りから声が聞こえた。


「ちなみに、二、三年生は最初のカメラってどれくらいの買ったの?」

 ほのかのを見るともはや初心者向けよりもちょっと出たお値段のを使っていたし。

 それに、部長さんだって、馨が大学に入るに当たって買った物と同じ機種を使っていたりする。

 あいつだって、初心者向けを抜けて中級機あたりといった位置づけのものだ。

 けっしてお安くはない。

 

「先輩がたが使っていて、使いやすいよーとか、いろいろ教えていただいたものですね。値段は気にしたことなかったですが……」

「たしか十万とかなんとか聞いたような」

「……値段を覚えずにぽんとその値段が出てくる辺りが恐ろしい……」

 これは、庶民の金銭感覚を教え込むしかないのでしょうか、と思っていると、志農さんがいつのまにか隣にきて、ぽんぽんと肩をたたいてくれていた。どんまい、といった感じなのだろうか。


「と、とりあえず、今ので方向性が見えた子は、こまかく機種選びやりましょう。先輩方もご協力を。それと、いまいちわからーん、っていう場合は、今部室にあるカメラをいろいろ使ってみて、撮影のどこに楽しみを覚えるのかっていうのを見つけてみること」

 それからでも自分のカメラを買うのは遅くないからね! と言って上げると、どうしようとおろおろしていた子たちは一斉に安心したような顔を浮かべてくれた。

 うん。一緒に入った友達がとんとん話を進める中だと、置いてきぼり感はでてしまうものね。

 

「あ、ちなみに、ある程度きまったら一緒にカメラ屋さんにつれていってくれたりはするのでしょうか?」

 はい、と部長さんから声が上がって、みんなの注目がルイに集まった。

 ううむ。この人数で押しかけるのがOKなのか、といわれると……いや。

 決まってない七人だけでいいのか。


「部長さんが一緒にきてくれるなら、かな。今の感じだと半分ずつみたいになりそうだけど、一人で対応しきれるかは謎だし」

 頼れる先輩もご同行いただきたい! というと、じぃーと、志農さんから物言いたげな視線を向けられた。


「はいはい。若様が参加するときは、志農さんも是非ついてきてください。いろいろ心配でしょうから」

「なっ、心配って……別に、わたくしももう高校二年になったのですが、そこまで心配されなくても」

「いつまで経っても、妹のように慈しんでるということです、きっと」

 うっとうしくてもそれが愛です、と言って上げると、そうか、うっとうしいのか、と志農さんがちょっとだけ肩を落とした。


「さて。じゃー、とりあえず機種選びはゆっくりやってもらうとして、そろそろ上級生達暇だろうし、撮影の話にはいろうかと思います」

 ちらりと時計を見ながら、そろそろ第一回、撮影会をはじめましょーと宣言をしてみせる。

 あまり志農さんたちと絡みすぎても撮影時間がなくなってしまうのだ。


「先生ったら、それご自分が撮りたいだけですよね」

 ぼそっと部長さんに言われてしまったけれど、まあ図星である。

 けれど、さすがにお金ももらっているので、自分の趣味に走ることは、しない。うん。たぶん、きっと。おそらくは。

 これでも大人になったのである。


「最終的には、部屋で品評会やる予定です。とりあえず人に見せたいと思える物を十枚は撮ろう、というのが目標で」

 何枚でもいいけど、見せたい物というのがポイントです、と言って上げると、はーい、とみなさんは元気な声を上げてくれた。

 時間は三時過ぎ。

 まだまだ撮影に時間は取れそうである。

カメラ選びというのは、やっぱり一大イベントですよね。わくわくします。

そして、貧富の差……

ルイさんがこうなのは、自力で集めてきてるってのもあるのだろうなと思うのです。


そして、志農さんは副部長っぽいことしてますが、副部長です。彼女もここ二年でずいぶんとゼフィロスになじんだようです。うん。良い傾向ですね。

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