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525.さあ帰ってきたぞ男の娘オンリーイベント4

「さて、ちょっとは時間もたったし、そろそろ一人目、探して見ちゃおうかな」

 キマシタワーの群れからとりあえず離れて、改めて会場をちらりと眺めて、どんな感じなのかを把握することにする。

 コスプレ姿の人をいろいろと見ては来たものの、未だに一人目の撮影を行っていない。


 ここまで撮影を控えたのは、会場の混乱を防ぐため、というのが一つ。

 会場のレイヤーさんたちはルイに極めて好意的な人たちが多いのは確かだけれど、裏を返せばそれだけ、撮影されたい人たちも多いのだ。

 一人目を撮れば、二人目からはずらっと、撮って欲しいという列ができるのはおそらく間違いないだろう。

 

 ネット上での協定で一人目はルイに選ばせてもらえるというのが、最近のイベントの恒例とはなっているのだけど。

 それの時間を後ろ倒しにしているわけだ。


 まあ、それなりに開始時のはるかさんの挨拶とかは撮っているけれど、それはレイヤーさんを撮るというより、会場を撮っている感じなので、ノーカウント扱いにしてもらえているようだ。


「とはいっても、結構みなさんクオリティが高くていらっしゃるしなぁ」

 さぁ、知ってるキャラと知らないキャラとどっちから攻めようかと、顎に指をあてながら考える。

 はるかさんたちが主体でやっている緋色の制服の集団はあとで撮影させてもらうのは確定としても、あとはまったく新しいものを撮ってみたいな、というのが正直あった。


 すっごく綺麗に女装してる子を狙うのか、それとも男の娘コスをやってる女の子を撮るのかというのも、なかなかに悩ましい問題だ。


「ああ、今あたしは、何を撮ればいいんだ……このカメラは何を求めているんだ……」

 ぶつぶつ言いながら、あ、ルイさんだー、と周りから珍獣扱いを受けつつ、何を撮ろうか物色をしていく。

 指でフレームを作りながら、それにいろいろな場所を当てはめていく。


 ぐっ。どいつもこいつもいい顔しやがって、こんちくしょうめい。


「あら、ルイさんが全力撮影モードだ」

 おぉー、お久しぶりー! と声をかけてきた相手を見て、はて? と首をかしげておく。

 確かに、そのキャラ自体は知っている。


 去年でた男の娘()ヒロインになれるエロゲーの、その該当キャラだ。

 エレナと一緒に買い物に行って周りからいろいろとひそひそされ……最終的に、整理券を虹さんに渡した例の作品である。


「ええと……ああっ! 笹草さんか! 披露宴の後以来ですねー」

 そこに行き着けば、その人が誰なのかにようやくたどり着けた。

 そう。彼女はそのゲームの企画開発を行っていた笹草ひよりさんなのだった。


 自称、最強の男の娘作品を世に送り出すのが使命な人である。


「思い出してもらえてなにより。こんなおいしい設定の会があるなんて、お姉さんは幸せな限りで」

 大きいイベントのほうも気にはなったんだけど、こっちにきて正解だね! と彼女はぐっと親指を突き出していい顔を見せてくれた。


「次の作品に生かせそうな子は見つかりそうですか?」

「どちらかというと、懐かしいって感じのほうが強いかな。もちろん自分で手がけた作品のキャラもいるし、それに研究とかもいろいろしてるから、あーあの作品のあのキャラだ! みたいなね」

「普通に女装だけしてる人もいますけれども」

「そこは大いに刺激になるね。あ、あの子なんて、普通にすっごくかわいいね」

 まさに宝の山! とか言いながら彼女はじっと熱い視線を向けた。

 その先にいたのは、まあ、クロやんなのだけど、あれだけ完成度が高ければ目立ちもするだろう。


 もし、この会場に女性は男の娘キャラオンリーというしばりがなければ、クロやんも普通に女子扱いされそうなクオリティである。

 キャラのなりきりももちろんなのだけど、近くでルイを見ているせいもあるだろうし、声に関してもしっかり変えていたりするあたりもあって、完成度がとても高いのである。

 それでも普通の女装はちょっと、と思う辺りがかわいいところでもある。


「完成度、という点では笹草さんもそうとうだと思いますけど」

 じぃっと彼女の衣装を見て、すなおにその感想を伝える。

 みんなそれぞれ、いろいろな工夫をしながら衣装を作っているわけだけれど、彼女のそれはなんというか。

 駄目な箇所が全く見当たらなかったのだ。

 

 エレナも時々ぶつくさ文句を言っていることがあるのだけど、通常立ち絵だけしかないものなんかは、背中がどうなってるのか、とか、下着は? とかいろいろと考えなければならないことが多いのだそうだ。

 アニメ化までされていれば、公式の資料の数が膨大になるのでやりやすいそうだけれど、それでもここまで完璧にらしい衣装というのはそうそうお目にかかれるものでもない。


「ああ、これは公式装備だもの。資料はいくらでもあるし、そもそも元のデータ作ってるのはうちらだしね」

 たとえアニメ化されてなかろうが、背中どうなってるとか、いろいろ決めてるものと、彼女は胸を張った。

 まあ、男の娘キャラなので胸はしっかりがっちりさらしで潰しているのだけれど。


「元データがあるっていうのは強いですよね。その色味とかも公式設定ってことなんでしょう?」

「ええ、まぁ。でも……それを作るまではほんと、大変なのよ」

 あぁ……次の企画もそろそろキャラデザが……となぜか彼女はどんよりした顔になった。

 しばらく前に話をしたときは、新企画のためのアイデアは出てたと思ったんだけどな。


「あんまりうまくいってない感じなんですか?」

「いや。そういうわけでもないのだけど……うん。正直なところ、キャラデザインは他の子にやってもらってるけど、色彩データとかはこっちで細かい設定やるからねぇ。色見本がずらっとならんで、どんな色にしましょうかって」

 それが毎度、苦手なのです、と彼女はしょんぼりした声を上げた。


「そりゃ、企画は作るの好きなのよ。こんな男の娘がいたら、どんな風に展開するかなとか、ああ、こんな話をやってみたいー! ってのはあるんだけど、これを視覚化できるレベルで落とし込むのはほんと苦労の連続って感じで」

 ある程度ははんこ絵ってところはあるけど、色が……色がぁぁ、と彼女は頭を抱えていた。

 まあ悩んだ末に今日の衣装のようなものができるのなら、それはそれでいいことだとは思うのだけど。


「才能がある人だったら、こう、頭にビジョンがくっきり浮かんでさ、ああ、この色だよ! とかなるんだと思うんだけど、どっちかというと、私はストーリー先行の人なのね。だから、毎度毎度、その微細な色彩設定ってところに躓くの。ちょー大変なの」

 色彩心理からのキャラデザとかはある程度できるんだけど、そこから踏み込んで、濃淡がどうのとか、青は青でも、どんな青? ってなるともう、青なんだよ! とにかくこの子は青なのさ! と叫びたくなるの、と彼女はしょぼんとした。

 ほんとうに、そこらへんは苦手らしい。前に取材したときにはイメージ浮かんでたと思うけど、あれもそこまで一枚絵としてばーんと出てたわけではなかったのかな。


「でも、現実にないものを作り上げられるっていうのはすごいと思いますけどね。ビジョンっていう点でいえば、ま、あたしだって、こっちの角度から撮った方がよさそうだなとかは、ある程度わかりますけど」

 かつて、じいちゃんの家に遊びに行ったときの神社で撮った写真などを思い出してもらえばわかるだろうけど、これでルイもある程度、できあがる絵の想像というものはできるようになっている。

 

 けれども、残念ながらまったくもって情報がゼロでは、浮かぶものも浮かばないというものだ。

 そこを作り出せるというのは正直すごい才能だと思う。


「そこらへんの力を私も持っていたかったなぁ……っていうか、そもそも設定力だってそんなにある方じゃないしさ。みんなでこねくり回して、でも譲れないのが、男の娘の身長だけ! みたいな」

「ああ、笹草さんの作るキャラって、あんまし高身長の男の娘っていないですよね」

「前回はさ、隠れキャラだったから、他の子に紛れさせるために低身長でもよかったんだけどね。みんな言う訳よ、男なら身長は165以上だろ、とか。170あってもいいんじゃないかーとか。そりゃ、あそこにいるお姉さまみたいなキャラならそれでいいと思うの。でも、ヒロインとしての男の娘が、あんまり高身長でもどうなのかって思うの。っていうか! エレナたんだって身長160ないわけでしょう? っていうか、リアルに身長低い男子なんて山ほどいるというのに!」

 どうして、男性といったら身長はそこそこないと、なんていう意見になってしまうのかっ! とひよりさんはくわっと目を見開いた。


「……ほんと男の娘の身長についてはぐいぐい来ますね。まあ、実際身長あんまり高くない男子はいるのは事実ですが、そこは作品次第だと思いますよ。男子としての凜々しさを出したいというのなら、高身長ですらっとしてた方がいいですし。お姉さまとかもう思いっきりそれですから」

 いやぁ、身長があった方が足が綺麗なのですよー、というと、ゲームだと足の方は会話ウインドウで消えちゃうもん、とひよりさんはぼやいた。

 まあ、エロゲ限定でいえばそういう話になるのだろうけれど。


「はいはい! BLの身長設定に関してもいろいろもの申したいところがあります! 180センチと170センチのカップルとか、ありだとは思うけど、私は男×男の娘カップルが見たいのです! 175センチと160センチカップルもありだと思うのです!」

 あんまりちっさすぎると、それショタかよとか、いろいろたたかれるので150センチとかは無理かもしれないけれども! と彼女はマジ顔でそう言い切った。


 設定あんまりとかいっていた割には、そうとうに熱心なお方である。


「はいはい、その熱心さは買いますし、作品がでたら購入も検討しますから。とりあえずはそろそろイベントの方に参加しましょう」

 他の人とも交流をとらねばなりませんと、会場に視線を向けながらさぁどうぞと案内をする。

 さきほどまで視界に入らなかったということは、笹草さんはまだイベント会場に来て間もないということなのだろう。

 だったら、いろいろ他のレイヤーさんとも絡んで欲しいし、同人誌も見ていって欲しいと思う。珠理×ルイ本は勘弁だけど!


「イベントか……もしかして、私がルイさんの第一被写体になれるチャンス?」

 お、とそこで彼女はそこに気づいたようだった。

 ふむん。

 確かに被写体としては、公式の人が作り上げたコスプレということもあって、完成度は異常に高いともいえるし、この人にいろいろ聞き出しながら撮影をしてみるというのはありだとは思った。


 でも。


「それはよしておきましょうか。そこまでのクオリティなら他のカメ子さんが放っては置かないでしょうし、それに……」

 ルイはちらりとカメラを会場の方に向けると、数歩下がった。

 いちおう笹草さんも視界に入るようにしての撮影である。


「第一被写体は決められなかったので、この会場のみんな、ということにしようかと思います」

 だって、みんなそれぞれ楽しそうだし、と言うと、ひよりさんは、あぁ……と、感嘆したような吐息を漏らした。

 実際のところ、できた写真は、ひよりさんがじぃっと会場を見ているというようなものになっているのだけれどね。


「くぅ。カメラ持ってる女装の子の作品が作りたい!」

 喫緊で、新しい企画を立てるしか! と彼女は変なことを言い出した。

 前に話をしたときは、カメラネタは封印といいきっていたというのに。


「ああ、カメラネタの男の娘同人ならありましたよ。八瀬が売ってるやつですが」

「なにそれっ、ちょー楽しみなんだけど」

 ちょっと行ってくるます! と言いながら彼女は同人誌のブースの方に向かっていった。


 さて。そして第一被写体の撮影が終わったルイさんはといえば。


「是非、撮影をお願いします!」

「ははは、順番でね?」

 ぞわりと集まるレイヤーさんたちの撮影に、集中することになったのだった。 


男の娘イベントといえば、この人再びという感じで。

しかしまぁ、男の娘の身長の話はなんどでもだしてしまいますよ!

155センチの男の娘がいたっていいと思うのです。

高身長男の娘の売りは足にあると思うわけですが、低身長男の娘の売りは、ピュアさと自然な甘さだと思います!


さて、次話は打ち上げ話です。エレナさんちでわいわいやりまっせー。


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