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055.

今回は男子部屋就寝回です。さて、そんな部屋にたたき込まれて変なテンションになればどうなるのか。

ほんのりと男子高校生の、若い衝動が変な風にでてしまっていますので、そういうの苦手な方はかっとばしましょう。でもR20とは口が裂けてもいえぬ。

 修学旅行一日目が終わって。

 その日は昼間の移動中にさんざん撮影に追われつつ、さらに他のメンバーも大いに騒いだのでとてもぐっすりと寝付いていた。さすがにハードなスケジュールで体がもう無理といっていたのだ。それでも他のやつらは十二時過ぎまで恋バナなんかをしていたと後日聞かされはしたのだが、少なくとも木戸はお風呂にゆっくり浸かってからはぐっすりと寝付いてしまった。修学旅行の花は夜の語らいというけれど、それまでに体力残すとかはありえない。昼間とった数々は、学校生活の中では一番楽しく撮影できたと思う。

 なんでお前は写真部にはいらないのだという彼の指摘は確かに的を射ているようにも思う。

 さて。今の時間は周りの寒さからいって、朝というわけではないのだろう。

 意識がまだまどろんでふわふわとしている中で、背中に感じられる冷気があるのは布団が少しずれてしまっているのだろうか。基本的に木戸は寝相はそんなに悪くないほうなのだが。

 まとまらない思考はあーだこーだと勝手に進んでいるのだが、まだまだ寝ぼけ半分だ。

 とりあえず掛け布団を直してもっと寝ようと身体を動かしたところで、ふと、不思議な感触があるのに気づいた。

 唇のようなところで変なぬくもりを感じるのだ。なんだろうか。

「んちゅ……って、青木?!」

 それで目がいきなり覚めた。というか青ざめた。ぱきっと。げっそりと。

 目の前に。目が暗闇に慣れてきた目の前にあるのは青木の顔なのだ。しかもその顔はなぜかこちらの間近それこそ焦点があわないくらいに近くて、しっかりと目を閉じられていたのだ。

 青木の顔を押しのけてこしこし唇を手の甲で拭う。なんだこれ。

 なんだこれ。訳わかんないから頭の中で事実が二回言葉でリフレインした。

 どうして、青木が木戸の布団で寝ていてしかも寝たまま唇を奪っていたりするのか。いや、寝てるんだよな?

 青木は押しのけられても幸せそうに唇を動かしている。寝ている演技という風でもないし、身体をつついてみても特別起きる気配はない。

 じゃあ、これはどっちの布団だ?

 二人で布団をかぶるようにしていて、おおよそ真っ暗なので、こっそり背中側から布団の外にでる。

 出入り口のすぐそばの布団のこの位置は木戸が寝ていたところだ。つまりは木戸が夢遊病状態で青木の寝込みを襲ったとかいう、おぞましいバッドエンドだけはないということである。

「木戸……おまえ……」

 けれども、それは別のバッドエンドの幕開けに過ぎなかったのである。なんてナレーションがつきそうな勢いだけれど、とりあえずはまだ平気だ。まだ問題はない。ああ、おちつけ。まだまだ生存圏内だ。

 薄暗い景色の中。まだ夜明けにはほど遠い風景の中で、こちらに視線を向けてるのは三つ。

 八人部屋なここでは、木戸と青木を除いて半数がこちらを見ていることになる。あとの三つはどうなってるかわからない。

 いまいち寝ぼけていて頭が回っては居なかったのだが、どうやら青木と寝ぼけながらやっていたことは、その音はしっかりと布団一枚をこえて周りに漏れていたらしい。

「おまえら、おきてたの……か?」

 それらの視線にこちらも愕然とした声を上げながら問い返す。時間を部屋の時計で確認するとまだ五時になるまで二十分もある。木戸が密かにつけていた携帯のバイブのアラームが五時の設定だからそれよりもまだ早い。

「二人は起きすぎてトイレだ。我慢ならんってな」

「あのなぁ。何を想像してんだ。俺は青木の寝相にやられて、ひどい目にあったってのに」

 最悪の顔をみんなに見せびらかすように周囲を見る。

 半分の意識の中でついばむように唇をむさぼる青木がいたのは事実だ。けれどもそれ以外は正直自分でも把握できてはいない。どの程度の時間だったのか、どんな内容だったのか。いいや。起きすぎた方もいたくらいだから、それなりの時間あのキス魔に唇を奪われていたのだろうか。

 ファーストキスに幻想はないから、別段唇が触れること自体はいい。どうでもいい。けれどもそれが周りにどうやって伝わっているかは大切なことだ。少し慎重に情報収集がしたい。

「さっきのつやっぽい声って、木戸のなの?」

 恐る恐るといった体でクラスメイトが核心をついてくる。ちなみに青木の阿呆はまだ寝ているようで幸せそうに唇をかみしめていたりするようだ。どんな夢を見てるんだこのどあほうは。

「つやっぽい声ってなんだよ。二人でいたいけな女子を隠してたとかそういう話なのか?」

 起きてから木戸はそこまでの声をあげていない。となるとそれまでの間にそれらしい声を無意識に上げていたということだろうか。青木は歌以外では女声は出せないから、自分がやらかしてしまっていたのだろう。なにかの夢を見ていたというようなことも覚えていないし、寝ていた間のことはさっぱりなのだが、とりあえずは目の前のクラスメイトの対処が先だ。女装を変態とは思わないし、男同士でつきあおうが木戸自身は別になんとも思わない。けれども世間で、特に高校生でそういうことに寛大な人間はそうは居合わせない。

 しかも、こいつらは木戸と青木のあの合成写真を見たこともあるのだ。こんな不慮の事故で、青木のアホの寝ぼけ行動でそれが本当のことであると流布されるのは、困る。

 せっかくルイとして青木をふっているというのに、木戸(こっち)のほうで噂になるなんてありえない。

「そんな甲斐性があるとも思えないし、実際そうならその中に女子が隠れているというロマンス……」

「いや。さすがに男二人の布団にもぐりこむ女子なんているわけがない」

 ええ。知っていますとも。可能性として言ったまでのこと。つやっぽい声を上げていたという証言から、女子声がでていたのかどうかを確認したかっただけだ。

 実際はきっと木戸が唇の感触につられるように、まずい声をあげていたに違いないのだ。

 けれどそれを認めることはさすがにできない。

 どかりと男らしく胡坐をかきながら、ちらりと青木に視線を送る。

「気が付いたらねぼけていた青木に唇を奪われていてそのまま、ってところだ。俺が応えたかどうかはしらん。気が付いたら目の前に青木の顔があって、唇のぬめりが口にっ」

 まったく。ルイと青木の事件からまだ二ヶ月経たないわけだけれど。どうしてこいつは木戸を見てその気になってしまうと言うのだ。いや。普段から寝ぼけて人様の唇を奪うというのであれば、あいなさんも毎朝ひどい目に遭っているのか?

 危ない。とっても危ない。

「えと。みなさん! このことは青木の権利を守るために内緒に!」

「何いってんの。こんなの、漏れ出るに決まってるじゃん」

 こんなスキャンダルを放っておく訳にはいかんだろうと、同部屋の諸君はにやにやとした笑みを浮かべている。その中で一区画、一人寝ているのは確か木村の所だ。あいつ、全力で関わり合いを避けてるんじゃないだろうか。あとは若い人同士でどうぞという勢いに、少し涙目になりそうだ。お互い不可侵なので別に良いけど。

 はぁ。と絶望的なため息がこぼれる。

「被害者のほうがこの場合、かなりダメージがでかいと思うのだけど」

 胸元で腕を組んでこまった人たちだと、少しばかり女性口調でいう。

 声は変えない。そこまでやってはいろいろ危ういのでな。青木の評判は……もう偽造写真の段階で残念なので、もう木戸がフォローするつもりもあまりないのだが、ここで必要とされるのは、木戸のほうのイメージである。学校の生活ではどんな噂が立ってもいい、とまでは言えない。多くを求めはしていないが、周りから変な噂が立ち上って平穏に生きられないのはカンベンだ。

「いや、俺たちはこんな楽しいネタを胸に秘めておくことはさすがになぁ」

「なら、わかった。青木が女子生徒を連れ込んでいちゃいちゃしていた、という誤報を流すっていうのはどうだ」

 ニヤニヤというクラスメイトの顔は秘密を話したくてしかたないという子供の無邪気な顔だ。

 やっかいな。せっかくの提案を彼らはまるっきり飲む気配はない。ま、青木にそんなことができないのはクラス中の周知の事実なわけだが。それを思うと、ルイにあれだけ執着してくれちゃって、すまんよねとちらりと思う。今回の出来事でそんな思いも木っ端みじんではあるが。

「誤報であっても誰が信じるんだよ。俺達は女子がいたら放置なんてしないし、そんな噂が広がったら学校側は必死に探して大騒ぎだぞ」

 くっ。ごもっともな意見だ。そんな嘘くさい嘘が流れるはずもなく、流れたら流れたでこっぴどく叱られるのは分かっている。

「そんなにいやか? 別段青木に襲われたって言っても男同士の悪ふざけってなもんだろう」

「確かに寝ぼけざまというやつだが、お前ら面白おかしく変なことを交えていうんだろう?」

「むろん! エロい声をあげて俺たちはもうたまらんかった、とな」

 実際に我慢ならんかったやつらもいるんだから、嘘じゃあるまい、といわれてしまうとこちらとしては何も言い返せない。きっとそうとう悩ましい声でも上げていたのだろう。信じたくはないが。

 まったく。いくらなんでも無意識にルイ声が寝起きざまにこぼれてしまうなんて、我ながらどうしようもない。

 ふむんと、どうするべきかと思ったところで、彼らはこの状況を最大限に利用しようと考えたらしい。所詮、木戸の友達は恋人がろくにいないやつらだ。この部屋のやつらも女友達すら稀というような具合な人間だ。だから、

「なら、俺らともキスしてくれたら、黙っておいてやろう」

「っ!? いくらなんでもそれはどうなんだ」

 ひどい提案に、さすがに引いた。どんびいた。

「それでエロい声だしてくれたら、もうそれで……」

「うぐぅ。この変態どもめ。どうしてそういう発想にいってしまうんだ」

 ニヤニヤと三対の瞳がこちらを見つめている。それぞれ会話をしているのにこの意志の統一っぷりったらなんだ。

「だって、男子高校生なんてそんなもんだろ」

 あーあーあー。もうこいつら、どうしてそんなにワクワクしているんだ。

 というか、男相手でもいいからキスしたいってどんだけだ。気持ち悪い。

「青魚のキスでもつれてきて、ついばんでもらえ」

「キスだけにってか」

 はっはっは、ととりあえずな笑いが起こる。

 けれど、そのあとすっとみんなの表情が真剣みを帯びていて、思わず後ずさってしまった。妙な迫力が身体を押したのだ。

「まあ、冗談はともかく、本気でどうよ?」

「本気もなにもどうして俺なんかとそんな」

「いやぁ。眼鏡外した状態の木戸となら、俺。エッチなことでもできる」

 うんうんとトイレにいっていない三人はわかるわかるとうなずいた。

 しまった。眼鏡か、こんちくしょう。はわはわと慌てたように枕元においてある眼鏡を装着する。

 さすがに就寝時は眼鏡をはずして寝ているけれど、あんまりな目覚めだったのでそのままになっていたらしい。いつもなら呼吸をするように眼鏡をかけるのに今日は口がふさがれていたから呼吸ができなかったわけだ。

「あのなぁ。確かに俺は女顔ですよ。髪もちょいと伸び気味で、眼鏡だけが俺のアイデンティティですよ」

 この状態でジャージ姿じゃ、喋らなければ女子だって思われなくもないだろう。

 だから。

 すぅと息を吸いながら腹に力を込める。

「だが、男だ!」

 どうだまいったかと言わんばかりに言うと、部屋の皆様は悲痛に顔をゆがめる。

 どうしてこんな相手がとでも言わんばかりだ。

「だが、それでいい!」

 それでも彼らは一瞬だけ躊躇を見せただけで話を続けた。

 さぁ、ちゅーしよー、ちゅー。とせがまれると、本当にこいつら頭おかしいと思ってしまう。

 じゃあさらに追い打ちをかけようじゃないか。

「しかたないわねぇ。なら一人ずつ、相手をして、あ・げ・る」

 声はいつもよりも低めに。日常しゃべるよりも太い声を作って、逆に仕草だけはいろっぽく、バカ友達の顎に指先をかける。

 ひやりとした手の感触にさぁ、背筋を凍えさせるがいい。

「うはっ。ちょーカマ声。それきくと安心するわー」

 うわぁ。われながらだいぶキモイ。

 そう。狙いはそのきもさの抽出である。その気になればかわいい女の子を演じることはできる。いうなれば演じる部分を削ってやれば不完全な状態の嫌悪感を出すことだってできるのだ。

 使う機会は本当にないだろうが、今回のようなケースでは有効だろう。変な妄想はさっさとうち捨てて現実に戻ってきていただきたい。今ならまだ不問にしてやる。

「でも、この手の感触は……たまらん」

 さわり。手の感触が最初に来た。無遠慮に撫で回すように手に指をはわす。なにこれ。寝起きで変な感覚でもあるのだろうが、指に触れられてる感触がやたらとくすぐったい。そして。

「ひゃっ……ちょ、ちょいまて、それはだめ」

 やっ。ぴくんと嫌がる仕草を見せると、みんなが前のめりになった。

 思わずでてしまった声だが、さすがにいきなり手を取られて指を吸われてしまったら、驚くだろう。いや。確かに今出した声のほうがまずいけれど。

「今の、声、もっかい」

 プリーズと言われても従ってやるつもりはさらさらない。

「まて。自分でも変な声がでてびびった。っていうかお前はいつまでなめてやがる」

 強引に引き抜くと、そいつが前のめりになってこてんと倒れた。

 指先が気持ち悪い。洗面台の蛇口を開いて指を洗う。ああ。もう石鹸で洗ってやろうか。

 そうこうしていると、がらりと扉が開いてトイレに行っていたやつらが帰ってきた。

 部屋の中のを使っているのかと思いきや、二人ということもあって、外に備え付けられている大きいほうに行ってきたようだ。

「いやぁ。いきなりな急展開だったので。すっきりしてまいった」

「大きい方がすんだのなら、八瀬助けてくれ。お前だけが勝利のカギだ」

 指をがりがりと石けんで洗いながら、帰ってきた顔に少しだけ助けられたようにほっとする。おいたをした相手ではあるものの、こいつなら、男の娘が嫌がることは滅多なことではしないだろう。情報収集やら、最悪、ここのところレベルアップした彼の本質をお披露目してしまってもいい。いや、むしろそれが手っ取り早い。

「おお。僕が勝利のカギか! 何をすればいいんだ?」

 この前の一件から八瀬はこちらに協力してくれる相手だ。

 こいつがちゃんと残ってみんなを止めてくれていれば、大騒ぎにならなかったものを。もしかしたらあれか? 様子見をかねて外にでてただけなんじゃないだろうか。彼にしてみれば男の娘のリアルイベントというおいしいものに違いないのだ。

「まずは、俺、ホントにその……変な声、あげてたか?」

「ああ。理想的な男の娘の喘ぎ声だった」

「男の娘いうなー」

 ああ。がっかりだ。

 八瀬の協力は確かにありがたいものだけれど、この男の娘に恋い焦がれ、憧れる姿といったらまったく、困ったもんだ。

「どれくらい、俺ってその……変な声上げてたんだ?」

「はじめに気づいたヤツが、他のみんなを起こして、しんみり聞き惚れるくらいには長かったなぁ。おまえ、あれ意識してないんだろ?」

「起き始めるくらいまでは、まったくだ。てか、俺なんかいろいろダメなのか……」

 けっこーなまとまった時間、青木にいろいろされてて反応してたんだなぁと改めてずがんとダメージを食らった。しんどいなぁこれ。

「寝ててもあの声が出るのはむしろ、すごいって思うけどね。その手の作品でそこまで行っている人間はそうはいないよ?」

 知っています。さんざんエレナのすすめでその手の作品を見ているけれど、「夜は休息時間」なものが多いのだ。イベントが起きる場合は寝てる「無防備」な時間であって、そのときまで女子をやっているというキャラは今まで見たことがない。そこまで演じられるなら三年そのまま女学院生活ができることだろう。エロゲで誰とも親しくならず普通に卒業だなんて、なんてバッドエンドなのだろう。ばれて退学エンドはよくあるけど、こっちのほうこそバッドエンドなんじゃないだろうか。一部に需要はありそうだが。

「ん。。そこまで行ってないもん……」

 あまりにもショックなので、ショックを受けたときのルイの自立行動、ふてくされるモードを発動してみる。

「あざといなぁ……そんだけ準備なくてそれってやっぱすげぇわ」

 それで感激してないで、この状況をなんとかするために手を貸していただきたいところだ。

「むしろ、さっさとお前が男の娘デビューをしてこい」

「ああ、そういうことなら、別にいいけどね」

 はいはい、と八瀬が髪に手櫛をいれる。

 眼鏡をはずして、んあコンタクトとかもってきてねー、なんてちょっと女らしさのない発言をする。

「ジャージのラインばっかりは男子向けじゃあなぁ」

 下着のライン補正も見込めないし。と愚痴りながら、なればこそこれでかわいさを見せつけるのが男の娘ってもんだよね、とかわいく微笑み始める。

 いいや。木戸はまったくもってその考えに同意はできない。女子装備を完璧にして女子に見えるのが目標点なのだ。なにが嬉しくて普段からかわいい子を演じなければいけないのかと思ってしまう。それが天然にできるのが身近にちらほらいるけれど、自分までそのくくりの中にいるとは思いたくない。

「まあ、今は背に腹かえられないか」

 ほい、投入、と言いながら部屋に投げ込むと、周りがそのジャージを取り囲んだ。

「眼鏡を外すと美少女がでてくるのは、二次元だけだ。夢は見るな」

 洗面所から木戸が部屋中に声をかける。

「やっほーみんな! おっまたせー」

 ぽすんとみんなの布団の上に着地をすると、みんなに上目づかいの視線を振りまいた。声も上手く切り替えられている。

「木戸、じゃないよな」

「ああ、俺じゃない。今度はその餌に張り付いていただきたい」

 声とテンションがあまりにも違う八瀬を見て、みんな困惑気味になるものの、それでもすぐさまその餌には食いついていただけたようで。

 出来栄えとしては。言うまでもなくここの所、木戸が監修しているだけあって相当の仕上がりだ。

 声に関しては半端ない出来。そしてしゃべりやしぐさに関しては、八瀬がもとから持っている男の娘スキルを自分になじませればいいだけのことだった。もちろんいろいろな男の娘キャラがいるから、それらを複合してカスタマイズしたキャラづくりになるのだけれど、おおむねそれは間違いではないらしい。

 今使っているのは、男の娘が女の子っぽくぶりっこする反面、男の部分はしっかりあって内心うぇって思ってるという、二面性をもっているキャラだ。リアル女子でいたら本当に心の底から、毛嫌いされるタイプである。

「ま、男相手なら、嫉妬も受けない、んかな」

 正直、違和感はある。同じ男の娘キャラを演じきるエレナの素と比べるとその内情はそうとう違うといったところか。

 なんというか、エレナは本当にまじで女の子っぽい。天然物と人工物というか。

 たぶん先入観というやつも大きいのだろう。あまりに八瀬の男子の姿を見すぎている。そのうえであれをやられても、木戸としてはがっかりといったところなのだ。

 こういうのを見ると、男子として先に会ってるか、女子として会ってるかってのも大切だなぁとしみじみ思う。

「まじやべぇ、木戸のエロい声もやばかったけど、お前の声……いったいどうなってんだよ」

「ふふん。ちょっとしたコツさえ覚えれば何とでもなるんだよ?」

 あふれる微笑が表情にきらめきを持たせる。まったくあのエロ二次元プレイヤーとは思えない変身ぶりだ。

 コツは主に木戸が作り上げたものなのだが、この際これは言わないでおこう。

 その時、携帯のアラームがなる。音はきってあってバイブの振動音だけが鳴る。

 時間は五時。

 起床時間は六時半だ。ではなぜそんなときにとは、もう誰も思わないだろう。

 撮影の時間である。

「さて、撮影のお時間ってね」

 支給されたコンデジとは別に、もう一台自前のコンデジを持ってきている。三年前の機種ではなく、ついぞこの前家族が買い換えたものだ。家族共用なのでこういうイベントなら持っていってもいいと言われているのだ。個人使用はすり減るほど使うからNGだと言われている。前のモデルは結構自由に使えたのだが。

 本当なら一眼の方を持ってきたいのだが、さすがに荷物すぎるしルイと同じカメラを使っているところを見られたくない。よくある入門機ではあるけれど、なるべくならあっちはルイ専用にしたいのだ。

 ちなみに遠峰さんに一眼持ってくなら貸してよーっておねだりをしたら、木戸くんには貸しません、と冷たくあしらわれてしまった。どのみち女子部屋に朝に侵入なんて真似はできないからもともと無理ではあるのだけれど。

「一応、ここの部屋の様子も撮っとくか?」

「さ、撮影はちょっとー」

 そんな自信はないーと、八瀬がかわいらしく弱音を吐く。

 二次元の男の娘を起源とするこいつは写真の写り方にはこだわりがあるのだろう。男の姿の時は何にも言わなかったくせに面倒なやつだ。

「まあ、いいや。起床時間までには戻るから、そいじゃそっちは好きにしてください。それと青木が起きたら伝えといて。あとでグーパンチであるとっ」

 それじゃあお互いお楽しみということでと言いいつつ、またかよおまえはという声をききながら部屋を後にするのだった。

 すべての発端は残念な青木にあるはずなのに、部屋を巻き込んだ騒動になってしまいました。眼鏡はずしちゃって、しかも寝間着はジャージという状態では、男子部屋に女子が混じっている感がはんぱないです。


 さて、次回ですが早朝撮影です。さくらさん達に木戸君こっぴどく怒られますので、この話飛ばしても事情はわかる仕組みになっております。そりゃこんな事件あったら女子側からは、「おまっ」てなりますがな。

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