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504.動画流出と対応4

遅くなりました。とりあえずなんとか更新完了です。

「時間も時間ですので、ランチタイムとまいりましょう」

 エレナの一言に、待ちの体勢だったHAOTOメンバーの顔が明るくなった。

 特に、男の娘大好きな虹さんは、あぁあのエレナたんのランチだととわくわくをかくしようもない。


 さて。

 例のマネージャーの提案は、いろいろと話をした上で、採用はされた。

 脚本に関してはだいぶ、「これはないわー」という意見も出たけれど、「練習用ですから! 私はクリエイティブなことができないから、マネジメントしてるんです」という、彼の悲痛な言葉で、ああ、そうかと周りは押し黙った。


 うん。何でもそつなくやれそうに見えたけど、そりゃだからといって、専門職の技能まで持ってるわけはないかと、改めて納得した。彼もまた人間なのである。


 シナリオのできはともかく、「この台本であの演技ができあがるのか」をきっちり想像してください、というのが彼の言い分だった。多くのところをアドリブでという表記に頼っているので、いいもんかなぁとは思ってしまったけれど、そもそも全部アドリブですよね? とにこりといいきられてしまうともはやなにも言えなかった。

 まあ、そもそも、脚本がある事実が大切なのであって、中身に関しては公開する義務もないだろうというのがマネの言い分だった。


 そして、現在彼は公式サイトに謝罪文と、説明分をいれる作業中だ。

 HAOTOとルイの写真もさきほど撮影して、それも載せる予定。

 うぬぬ。中田さんに撮ってもらったけど、まさか写る側にまわるとは。

 そんなわけで、現在はパソコンとにらめっこしているマネージャー以外は、フリータイムと言った感じなのだった。


 え、あの動画はどうしたって? それは、そのまんま。

 削除要請という手段は、版権元であるプロダクションとしては、行わない姿勢らしい。さすがに拡散禁止というコメントは付け加えたみたいだけれど。

 ネットリテラシーがどうのって話があるけど、すでにあれだけ再生されたのなら、ダウンロードしている人はいるはずで、公式の公開をやめたところで、第二第三の動画があらわれるであろう! なんてことは想像されるわけで。

 それならいたちごっこになるし、流した上で我らは正当性をうたおうなんてことになったのだった。

 ルイとしては、消火しないの? なんて思っちゃったものだけど。

 エレナから、ネットの拡散性舐めちゃだめだよーとやんわりいわれて納得した。

 

 一度ついた火はなかなか消えないのだから、せめて無害な火にしてしまおうということだ。

 

「作業もあるでしょうから、サンドイッチにしてみました。あとは……甘いものが欲しければ、ケーキもありますが」

 いかがなさいますか、お客様がた、とエレナが天使の笑みを浮かべる前で、虹さんが鼻の下を伸ばし、そして翅は、師匠ぱねぇな……と愕然していたりする。

 なんでかんで、翅のコスプレ趣味はときどき火をふいているそうで、エレナとは師弟関係で仲良しなのだそうだ。


「甘いものは欲しいかな」

 はい、とそっと蠢が手を上げる。

 イメージ的に外ではあまり甘いものに手をださない彼だが、時々は食べたくなるらしい。

 というか、前にシフォレに行ったので目覚めたのだろうか。


「もちろんあたしもいただきます。エレナんちの紅茶は香りもいいし」

「使用人の服でお嬢様気取りとは……おかしなこともあるものです」

 しれっとそんな台詞をいいつつ、エレナさんはケーキをだしてくれた。

 シフォレで教わったブッシュドノエルではなく、今日はガトーショコラだ。

 

 ちなみにエレナが役に入っているのを、パパさんはちょっとはらはらしながら見ているのが面白い。女装している姿はもう見慣れただろうけど、役になりきってるのは珍しいしね。


「なんならすぐにでも、服は脱いでもいいんだけど?」

「まさかうちの使用人は露出狂などと……この殿方が多くいらっしゃる場所で言うのは控えていただきたいものです」

 しれっと、エレナさんは着替えの申し出を断ってきた。

 その断り方があれなので、それをきいたみなさんは、おま、露出……とか。

 全裸はいかん。とか、ルイたん風邪引いてしまうお、とか、いろんな声が漏れた。

 最後のは虹さんである。オタク気質がちょっと漏れてしまったようだった。


「き、着替えはいいですから! それよりもその……私としては、みんなに聞いておきたいことがあります!」

 サンドイッチに手を伸ばしながら、ちらりとみなさんに視線を向ける。

 ハムとレタスのサンドイッチは、ちょうどいい塩加減でおいしかった。


「そもそも動画が残っていたのはなぜなんです?」

「……う」

 キーボードを叩く音が一瞬止まった。

 そう。確かにあのとき、動画をどうするのか、に関してはお互い特別な決まり事はしていなかった。

 こちらも動画を持っているぞ、変な事するとばらす、というお互いの牽制用のアイテムとして所持していただけだ。

 けれども、HAOTO側にとって、あの動画は持っていて価値のあるものだったのだろうか?


「マネさんいわく、あんないいもの消せるわけがないって」

「うわぁ……あんな顔してそういうの大好きですか、変態ですか」

 えぇー、とノートパソコンで作業中の彼に冷たい視線を向けておく。


「ち、ちがいます! あの動画を見るとあぁこの子をどうやってプロデュースしようって幸せな想像ができるんですよ! 別にエロ目的で見てたわけじゃないです」

 さすがにひどい言い分だったのか、彼はキーを打つ手をやめて顔を上げた。


「それにです! 男はエロイものがないと生きていけない生き物なんです」

 ねえ、そうでしょう、みんな! と男性陣に声をかけるもののみなさんは、はいはい、そーっすねーと緩い生暖かい目で見守るばかりだ。

 そして。


「へぇ、そうなんだぁ」

 ふーん、とガトーショコラをいただきながら、崎ちゃんが男の生理について興味深そうな声を漏らした。視線がこちらに向かっているけれど、お前はどうなんだ的なことを言いたいのだろうか。


「時に例外もいるんじゃね? 朴念仁って言われるタイプとか」

「まあ、ごく稀にいるだろうね。っていうか男の娘はエロくない! ピュアな男の娘ラブ!」

 ぐっと、虹さんが拳を握りしめている。

 んーむ、でも男の娘って割とエロイ系で多く出てくるような気がしなくもないけれど、そこらへんはどうなのだろうか。


「まあ、保管に関してはいいでしょう。でもあなたなら保険はかけるんじゃないですか? パスワードかけるとかモザイクかけるとか」

「……ええ、かけてましたよ。パスワードもかけましたし、本人かどうかわからない程度にモザイクもね。音声も名前がでてるところは消しました」

「なら、なんでこんなに鮮明な画像になっちゃってるんですか?」

 基本的にモザイク処理というのは不可逆的なものだ。

 上塗りしてしまうからそうなるのだけど、だったらこれはどういうことなのだろう。


「不可逆処理なんてしたら、こんなに可愛らしいルイさんの顔が見れないではないですか! 別に不適切動画じゃないんですから、所持してても問題はないはずです」

 というか、モザイクっていったら修正できないもんだって常識が、あの女に無かったのが本当に痛い。

 そしてパスワードもだ。どうしてあんなパスワードがわかったのだろうかと、マネージャーは頭を抱えた。


「ちなみに流出の経緯はわかってるんですか?」

「ええ。もともと事務所の机の上に張り付けるようにして保管してたんですが……うちの社員の誰か、というのはわかります」

 いつ無くなったのか、まではちょっとわかりませんが、と彼は目をそらす。

 かなり自分の落ち度を気にしてるらしい。


「あの元女マネージャーですよね、きっと」

「確証はありませんがね。ただこんなことをしてうちの事務所としてはメリットが一つもないですからね。きちんと仕事をしようとしてる人があれをするとは思えない」

 ちなみに動画のアップ元はうちの事務所からです、と彼はあっさりと出所を白状した。


「となると、あいつだよなぁやっぱ。最近仕事うまくいってねーみたいだし。つーか、あのマネージャー最悪って、愚痴はよく聞くし」

 時々、先輩助けてとかメッセージくるんだよ、と翅さんが頬杖をつきながらサンドイッチを噛み千切った。お行儀が悪いが不思議と撮りたくなる仕草だった。


「あれでも、将来性のある磨けば光りそうな子の担当にはつけたはずなんです。けれども、上手く行かず……彼女、問題は自分にあるのではなく周りが悪いって思うタイプみたいで」

 ほんと、さっさとおさらばしたいんですが……とあのマネージャーが顔を覆った。


「社長の愛人ではなくなったんですよね? ならさっさと切っちゃえばいいじゃないですか」

「会社都合の退職って大変なんだよ。ま、今回の件でさすがに懲戒になりますが」

 これだけ事務所に損害(、、)をかけたのだから、社長もさすがに動くだろうと彼は言った。


 なるほど。

 会社というものはなかなか人を解雇できないものなのか。


「それで、当の本人は今はどうしてるんです?」

「……失踪中です」

「はい?」

 いまいち、失踪という単語が頭の中で理解できなかった。

 失踪。行方不明、そんなところだろうか。


「業界人の失踪とか、それこそ週刊誌のネタになりそうね」

 うちは健全経営でありがたーい、と崎ちゃんはいやみったらしくHAOTOに言った。

 言外には、さっさと騒ぎ鎮めなさいという怒りがあるのだろう。


「そちらは探偵を雇って探してますよ。いかに愚かなことをしたのか、しっかり理解していただかなければなりませんから」

 本当に厄介なことです、といいつつ彼はノートパソコンを閉じた。

 無事に謝罪文は公開できたようだ。


「あとは反応待ち、といったところですが……HAOTOのみんなも、ルイさんも、しばらくは騒がしくなりますから、目立つような行為は控えていただきたいのですが、よろしいですか?」

 ちらりと、視線をルイに向けながら彼は言った。

 おそらく、お騒がせして済みません、生活は大丈夫でしょうか? というようなことなのだろう。   


「騒動が心配なら、その……うちに来てもいいんだけど」

 そこで崎ちゃんから、変な提案がきた。

 背後にエレナがいるところを見ると、なにか入れ知恵でもされたのだろうか。


「んー、あたしのとこは別に、家が特定されてるわけでもないし、だいじょうぶじゃないかな。ネットの情報とかもないし、今の所、あの女は誰だってので、去年翅と噂になったやつーみたいな話で済んでるし」

 こういう話だと、小学校の同級生とかから話がわーっと広がって、個人特定とかがされるのだろうけど、幸いルイのことを知っているのは小学校の同窓会で触れあった人達などのごく少数である。あの人達だっておもしろ半分で情報を漏らすようなことはしない。


「……ルイさん。せっかくなのですから、珠理奈お嬢様の言葉を受け入れてはいかがですか? 同性同士なのですから、ルームシェアをなさればよいではないですか」

「それで、朝ご飯から夕飯までかぁ。買い物は出られないとして……まさかあそこのコンシェルジェさん、買い物代行とかまでしてくれないよね?」

 宅配スーパーか……と、いろいろ考えていると、他のメンバーはそんなようすをじぃーっと見ているようだった。


「これが新妻ってやつか……」

「やべぇ、むしろ俺が同居したい。いいや、同棲したい」

「同性と同棲。僕は男の娘と同棲したい。エレナたんでもいい……」

 ちょっと夢見心地なHAOTOのメンツと、対称に崎ちゃんは、おうふとテーブルにつっぷしてぐったりしている。


 うーん、どうしてHAOTOの面々はこうしてのほほんとしているのだろうか。

 そりゃ、もうあの事件は過去のものだっていう意識はあるのだけど、さすがに欲望がダダ漏れではないだろうか。


「……なんかダメージひどいわね」

 想像したけど、びたいち嬉しくないわ、と崎ちゃんはへんにゃりだ。

 まあお嬢様ったら、とエレナが頭をなでなでしている。

 

 うん。思い切りその姿は撮らせていただきましたとも。

 ほんと、この二人でツーショットが撮れるとはこんな状況でも嬉しい限りである。


「あなた方は謹慎です。もちろん今入ってる仕事は受けていただきますが、この件に関しては完全にノーコメントでお願いしますよ」

 さすがに浮かれ気味と判断されたのか、これ以上火に油は注がないでください、とマネージャーから釘が刺さった。

 どうにもHAOTOメンバーの危機感というのがちょっと弱い感じがするから、大切なことだと思う。


「さて、ファン向けの対応は終わったようだけれど。君は他にもやることがたくさんあるんじゃないかね?」

 食後のお茶を飲みながら、エレナパパは優雅にマネージャーに視線を向けた。

 場所を貸すだけ、と言っていた彼だけれど、なんだかんだでこんな時間まで拘束してしまってなんだか申し訳ないと思う。


「おっと、そうですね。正直、そちらのお嬢さんに声をかけさせていただきたい所でしたが、やめておきましょうか」

 レイヤー界きっての性別不詳有名人が芸能界いりとなったら、話題にはなったのでしょうが、と残念そうにいうマネージャーにエレナパパは不機嫌そうな視線を向けた。さきほどからちらちらエレナを見ていたマネージャーに、エレナパパはちょっとお怒りのようである。

 以前の旅館の件の時は、グループ店だったからOKがでただけだったのかもしれない。


「では、虹と蜂の二人はこれから私と一緒にスポンサー周りと行きましょう。社長がすでに回ってくれてるところもありますが、あなた方が行った方がいいところもありますからね」

「俺らはどうすりゃいいの?」

「翅は夜から撮影、蚕と蠢は、そうですね……彼女のご機嫌取りでもしておいてください」

 さすがに事後処理の対策だけではお詫びにはなりませんから、とマネージャーは仕事が入っていない二人をこのお屋敷においていくようだった。


 ほほう。これはつまり、お詫びに二人のことは撮り放題。どんなシチュもOKということでいいのだろうか。

 さすがに蠢に女装を強いることはしないけれど、いろいろな衣装を着せて撮影させたいところだ。

 特に弟やんちゃキャラが売りの二人をからませるのはとても楽しそうだ。


 それに。

 そう。蠢を撮れるというのが、実はかなり新鮮。

 清水くんには、さんざんフラれまくっているので、きちんと撮れまっせということをアピールしたいのである。


「エレナ。二人が着られそうなの、あるよね?」

「もちろんでございます。いろいろとお召しいただきましょう」

 部屋は空いていますから! とエレナさまも大喜びのようだ。


「結局あんたらは、撮影さえできればなんでも許しちゃうのね……」

 かなり危険な状態だって言うのに、と崎ちゃんは言うものの。

 プロの人達を全力で玩具にできる機会などそうそうあるものではない。


「では、ルイさん。本当にこのたびは申し訳ありませんでした。これからどうなるのか、わかりませんけど最大限貴女に不便がでないように配慮させていただきますので」

 不都合があったらすぐに連絡してくださいね、とマネージャーはHAOTOの二人と一緒に出て行った。


「ちなみに、翅さんも時間までは撮り放題ってことでおk?」

「お? ルイちゃんが撮ってくれるなら俺はなんでもいいぜ」

 よっし、翅さんも執事服とか着せて撮ってやろうじゃないか。


「って、ちょ、どうしてあんたまでまざるのよ! さっさと仕事いきなさいよ。新人よろしく一番最初にいて、みんなにおはようございますって言ってなさいよ」

「ええぇ、珠理ちゃん冷たいなあ。ってか、珠理ちゃんは仕事だいじょうぶなの? なんか今度も連ドラでるんだろ?」

「そりゃ出るけど、今日はオフだもの。親友(、、)のピンチなのだから、協力はするに決まってるじゃない」

 べ、別に、それ以上じゃないからね、とわたわた言う崎ちゃんをみなさんはほっこり見つめていた。

 もうマネージャーもいないし、別にごまかさなくてもいいというのに。


「ふふっ、珠理奈さんはよっぽどルイちゃんのことが大好きなのだね」

 微笑ましいなぁと、エレナパパはそんな光景をほっこりと見つめていた。

 いちおう彼は性別の件も知っているので、それも踏まえてという部分もあるのだろう。


「さて。じゃあ私もそろそろ失礼させてもらおうかな。午後から会議もあるからね」

 これぞ、重役出勤だねぇ、とエレナパパは冗句をいいながら出勤するようだった。

 うぅ、わざわざ話が落ち着くまで見守っていてくれて感謝です。


「では、お三方。たっぷりとおめかししていただきますので、衣装室にご案内いたします」

 そんな姿を見送ったあと。

 残ったメンバーを前に、エレナさまは、さあ何を着せようかといい顔を浮かべてくださった。

 こちらも今から撮影をするのが楽しみである。

対策会議はこれにて終了です。

いろいろと穴はあるのでしょうが、さあ周りの反応はどうなるのやら、です。


そして会議会議ばっかりだと息がつまるのでご褒美というか、謝罪の品(現物支給)も用意させてもらいました。

崎ちゃんは安定の不憫っぷり……


モザイクの可逆変換ソフトは、実際は存在するんだかどうだか、ですが。

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