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502.動画流出と対応2

ナンバリングミスってましたーーー

「このたびは、動画流出をしてしまい、大変申し訳なく思っています! なにとぞこちらの話を真摯に受け止めていただき怒りを静めていただきたく」

 会議室に入ると、誰が入ってきたのか気付いたのか、彼は平身低頭というか、がっちりひざを地面につけて、額を思い切り地面につけてうやうやしくお詫びを述べ始めた。

 やはり、三枝邸はどこまでも掃除が行き届いているので、服が汚れる気配はまったくもってない。


「あっ、ルイちゃんいらっしゃい。おぉ、今日はそっちなんだ」

「うはぁ、そういう格好してもやっぱかわいいなぁ……」

「これぞ、男の娘の鏡……うんうん。尊い」

 会議室の長テーブルに座っているHAOTOのメンバーからは、ゆるーい挨拶がこちらに向けられた。

 深刻そうな顔をしているのは、蠢と蜂さんで、他の三人ははっきりいってこちらの姿をじぃーっと見た後思い切り鼻の下を伸ばしていた。男装なのが珍しいという感じもあるのかもしれない。


 ちなみにこの部屋は会議室と呼んではいるけれど、三枝パパがお仕事で使うこともある多目的ルームだ。

 時には大人数の接待をすることもあるのだそうだ。会社の会議に関しては会社の方の建物を使うのが慣例になっているから社員さんがくるというのはあまりないようだけれどね。

 そもそも家であの規模のパーティーを開ける家である。それこそなんでもありなのだ。


「って、お前ら、私がこんなに懇切丁寧にお詫びをしているというのに、そんな失礼な態度を……って、え?」

 頭を上げてメンバーに注意をし始めた彼の声は、こちらをちらりと一瞥して止まった。

「ルイさん……ですよね? どうして男性の格好など……」

「はい。ルイさんですが。去年のこともありましたし、変装してここに来ようと思いまして」

 いちおう男装はしてるものの、声は女声のままマネージャーさんと向き合う。

 彼には、ルイの変装と思ってもらう必要があるのだ。

 いちおうギミックとして、彼に見える用に眼鏡をはずして見せる。素顔になることでルイ度はより上がるだろう。


「マネさん、俺もさんざん女装してるし、性別変えるのなんていまさら驚くことでもないっしょ」

「でも、その格好で可愛い声って、至福……」

 萌え、と虹さんはぶれずにこちらの様子をうかがっている。


「いいえ……ですが、なんていうか、ボーイッシュな女性というよりはさらにちょっと男性よりというか……」

 小柄で可愛いですが、と彼は、いつもはクールな感じなのに、あわあわとしているようだった。

 

「で。ここに来てもらった用件なんだけど。ルイちゃんもわかってるだろうけど、例の動画が外に流れちゃってね。その関係の説明と対策会議をしようってことで、集まってもらったんだ」

 さて、そんな動揺しているマネージャーを放置しつつ虹さんが話を進めてくれた。


 マネージャー的にはまずは失態をわびて、話せる状況を作ろうというところから始めようとしたのだろうけど、残念ながらルイとしてはすでに最初から聞く姿勢になっているので、そこはショートカットできることである。


 まあ彼が全力土下座してくれるというのは、きちんと今回の流出は悪かったと思っている証拠としては十分機能していると思うけどね。

 さすがにそれもなしに、終息させますよ! なんて言い始めたらこちらのあたりも冷たくなっていたことだろう。今回の件は完全にあちら側の落ち度なのである。


 さて、とはいえまったく冷静に現状を把握できているか、といえばルイとて完全でもない。

 一つだけひっかかってることがあった。


「そもそも、なんで三枝のお屋敷なんです? パパさんにご迷惑じゃなかったですか?」

 会議室の長テーブルの一番奥の方からこちらの様子をうかがっているエレナパパに軽く礼をしながらそう問いかけておく。パパさんはちらっとこちらを見ながら、おぅ……これが男モードか、と目頭を押さえて目をぱちぱちさせていた。

 さすがに、このお屋敷にまでトラブルを招くのは心苦しいばかりである。


「いやぁ、ルイさん。正直なところ、いつか君が彼らとトラブルになるんじゃないかなって思って、彼らの事務所の後援をひっそりしていてね。ま、うちの子が言い出したことなんだが」

 私はまさか、と思っていたんだが、こうなってしまうとは驚いたよ、と彼は未だ男装状態のルイに慣れないようすながらも、むしろ興味深そうにこの現状を眺めていた。

 うぅ。なんか、いつもは忙しいエレナパパまで巻き込んでしまって本当に申し訳ない。


「口出しする切っ掛けを持っていた方が、カンショウしやすいですからね、お父様」

 そんなことを思っていたら、パパさんの後ろからきゅっと腕を回したエレナさんあそんなことを言い始めた。

 先ほどまではあまりに後ろの方にいて気付かなかったけれど。

 彼女が自分の家にいないはずはないのである。

 にしても、鑑賞なのか、干渉なのか。


 というか、なぜかメイド服を着てその場に立っていやがりましたよ。

 しかもいわゆる萌えメイド服ではなく、きっちり家で働いている様なメイド服だ。

 スカート丈も短すぎず、足下にはブーツが装着されている。

 基本三枝邸も靴は脱いで上がるところだから、あのブーツは室内用なのだろうなと思う。


「今、彼らの事務所は報道陣が押しかけててんやわんや。ルイちゃんのホームの銀香町もまたちょっと賑やかになっちゃってる感じだろうし。となると密かに会議をするならうちが一番じゃないか、ってね」

 出資者であれば、炎上を鎮火させるために手を貸すことは問題はない。

 もちろんエレナとしては表向き味方をしても、友達だからで済む部分はあるだろうけれど、より大きな力でサポートするには、これがいいと思ったのだそうだ。


 実際、この場所は報道陣にはばれていないし、ここに来るまでにカメラの気配も感じなかった。

 

「うちの子の友人がピンチとなれば、それはもう手を貸すしかない。が、まあ我らは専門家ではないからね。場所を提供することくらいしかできないんだが」

「それだけでも助かりますよ。あとはこちらで対策会議しますので」

 場所の提供だけでもありがたく思っています、とマネージャーは恭しく三枝パパに頭を下げた。


 そして、それぞれが長テーブルの席に着く。

 会議の進行としてはマネージャーを置き、少し離れた席でエレナパパがそれを見守る形だ。

 その後ろにいるエレナさんは、すでに役に入っているのか、旦那様に付き従うメイドとして、椅子には座らず背後で直立不動である。

 パパさんはちょっと不満げだけれど、本人がにこやかなので、あれはあれでいいのだろう。


 そして、そのパパさんの隣には、崎ちゃんが座っていた。

 彼女もまた、サポーター扱いなので、会議でどんどん発言する立場にはない。


「まずは、ここにいるメンバーにだけ、他に漏らさないと約束していただいた上で、ことの真相を話しておこうかと思います」

 ちらりと三枝パパの方に視線を向けながら、説明させていただきますと彼は説明を始めた。

 このメンバーの中で詳細を知らないのは三枝家と崎ちゃんだけだ。


「盗聴器の類いはありませんから、ご安心ください」

 さきほど調査済みでございますと中田さんは恭しく伝えた。

 どうやら専用の器具みたいなものを持っているらしい。さすがは秘密のプロジェクトなんかもこなす企業戦士のお家である。


「事の起こりは三年前。うちの蠢がルイさんに再会したことが始まりです」

「あたしの写真集の撮影に、この子も連れてったの。それで撮影所でばったり蠢とかちあったってわけで」

 崎ちゃんから、なぜ当時のルイがあんなところに居たのかの補足が入った。


「そう。そしてその時にルイさんは、うちの蠢が実は女性であるということに気付いてしまったわけです」

「気付いたっていうか、無防備な蠢がいけないと思うんだけど」

「それは、うん。深く反省しております」

 いちいちマネージャーさんの説明にちょっとずつ補正をいれていく。

 あの言い方だと、ルイの魔眼が蠢の性別を一方的に看破してしまったみたいになってしまう。


「どうせだったら、その時にカミングアウトしちゃえば良かった、という話は?」

 崎ちゃんが答えをわかっていながら質問をする。

 周りに確認させるための振りだろう。


「今でこそ、ファン全体にも公開していますが、当時はトップシークレット扱いでした。この子達も人気は出始めていましたが、下手をするとイロモノ扱いになって終了という可能性はずっとつきまとっていたのです」

 それは私の売り方の方向性とは違いましたので、と彼はきっぱり言い切った。

 実際HAOTOのメンバーはそれぞれドラマや歌など、正統派アイドルをやっていると思う。

 イロモノが悪いわけではないけれど、蠢にしてもそれをネタにする気などさらさらないのだろう。

 というか、MTFの芸能人は割といるけど、FTMの芸能人って滅多にいない気がする。


「彼らをマネジメントする上で、蠢の扱いはとてもデリケートであることを私は絶えず思っていましたし、心配もしていました。そして他のメンバーが果たして、秘密が漏れてしまったときにどう動くのかも把握したかった」

「秘密は必ず漏れるもの。だからこそ、その時どう動くのかもチェックしておきたかったという話のようですね」

 ちょうど良い機会だと思ったのですという彼に、ちょっと、フォローしきれなかったのが残念ですが、と肩をすくめて見せると、その節は本当に申し訳ありませんでしたと素直に謝罪が来た。


「あのときは、俺達も本当にせっぱつまってたっていうか。蠢の秘密を守るにはどうしたらいいかっていうのを考えて、考えついた結果が、あの動画の内容だったわけ」

「秘密を知った相手に、秘密にしなきゃいけないようなことをして、お互いに守るように仕向ける。今になれば、本当に恥ずかしいことをしたと思っている」

 すまなかった、と蜂さんはかっこよくきりっと頭を下げた。

 うぅん、やっぱりこのメンバーの中だと、一番彼がまともな気がしてならない。


「結果的に、ルイさんに手玉に取られて、証拠ビデオまで撮られて、存分にへこまされて終了です。私も隠し撮りしていましたが、まさかあんな映像が撮れるとは思っておらず……思わず、止めに入るのが遅れてしまったほどで」

 あんなアドリブをしてくれるとは、肝の据わった子だなぁと感心させられました、とマネージャーは、あの光景を思い出しているようだった。

 まったく。ほんと別室でチェックしてるなら、早めに助けにこいよと今でも言いたい。


「私から一ついいかな。ルイさんはなぜあのとき、髪型が違ったのかな?」

 ちょっとあの動画を見たときに違和感があったんだよ、と三枝パパから手が上がった。

 そこに目がいくとは、なかなかの観察眼である。


「最初にお誘いが有ったときに、ちょっと胡散臭いなって思ったのもあったから、念のためウィッグは変えていったんですよ。蠢と二人で昔話をっていうならわかるけど、メンバー全員に紹介したいって言われても、なんで? ってなりますもん」

 それこそこっちは駆け出し以前にプロですらないカメラマンでしたし、というと、HAOTOのメンバーからは、えぇーと不満げな声が漏れた。


「いや、ルイちゃんなら仲間に見せたいって思うじゃん」

「でも、最初は圧倒的に重要度は蠢の秘密の方だったでしょ?」

「……おっしゃる通りです、はい」

 いまだったらそうかもしれないけれど、当時の彼らの行動理念は間違いなく蠢保護の姿勢のみである。


「危険だ、と思って対策をしても近寄っちゃう、か。これは君の父君も言っていたことだけど、自分が周りからどんな風に見られているのか、改めて確認した方がいいよ」

 若い娘さんが、そんな場所にほいほいついていくだなんて、いくらなんでも危ない、とエレナパパは苦言を呈してくれた。

 娘さんうんぬんは、マネージャーがいるからだろうけど、父様となにか個人で話でもしたのだろうか。

 社長と取引先の係長ではなく、保護者同士という感じで。


「たしかに、あのときはちょっと冒険が過ぎたなとは思いますけど、それからはなるべくほいほい、付いていかないようにはしてますよ」

 あんなことは一回こっきりにして欲しいので、というと、HAOTOのみなさんは一様にそっぽを向いた。


「そうそう、あとあの動画についてもう一つ聞きたいんだが。ルイさんの様子、ちょっとおかしかったけど、あれって、違法ななにかキメてたりしたの?」

 それだったら、速攻で警察呼ばないとなんだけど、とエレナパパはフランクな話し口調ながら、じろりとマネージャーに鋭い視線を向けた。

 うわ、さすがは大企業まとめてる人だけあって、視線に力があるなぁ。

 HAOTOのみなさん、びくぅっと硬直しちゃってるけど。


「い、いえいえ、あれは違法性はないですよ。ちょっとした興奮剤といいますか。ほら、昔からチョコは興奮作用があるとか、そういった類いのものです。実際ルイさんだって、効果不十分で抗いましたし」

 あわあわと、彼は説明を始めた。

 うーん、実際ルイとしてはあのとき飲み物に何が入っていたのか今を持ってわからないのだけど。

 身体がぽかぽかするというか、ちょっと眠くなったりもあったような感じだったように思う。


「そりゃ、抗うだろうねぇ」

「だよなぁ……」

 パパさんと、HAOTOのメンバー全員がなぜか、うんうんと納得したように肯いていた。

 マネージャー一人だけが、どうしてその反応? と首をかしげている。

 まあ、性別違うから効き方も多少違ったってことでいいのだと思うのだけど。


「見た感じ、お酒飲ませたみたいにもなってたようだけど」

「それも違います。そもそもこの子らも未成年でしたし、お酒の類いは触らせないようにしてました」

 未成年に飲酒をさせたら、大人がしょっ引かれるからねぇと、パパさんはさらに確認作業を続ける。


 はたして、あの動画の中で行われていたことに、違法性があるのかというのをしっかりと把握しようとしているのだろう。パパさんとしてはなにか穴があったら速攻でHAOTOのほうに責任を押しつけてしまおうという考えらしい。

 まあ、違法行為は確かによくないし、それを庇えば火の粉は自分のところにだってきてしまうから、当たり前なのだろうけど。


「旦那様。ルイ様でしたら先日私と行った旅行で、からボトルを量産してもけろっとしておりました。一杯の飲み物で酔わすのなら、それこそむせかえるような強いお酒を用意しないと無理だと思います」

 それこそ火がつくようなのじゃないと、とエレナが情報を追加してくれる。

 ええと。いくら役に入っていても、自分の父親を旦那様はどうなのだろうか。


「なら、そうか。ルイさんをおびき寄せて男五人で囲んだ、ということ以外は違法性はなし、ということだね」

「十分ギルティよね……まあ、いろいろ知った上でもつきまとってるのはもっとどうしようもないと思うけど」

 ほんとどうしようもない話だわ、と崎ちゃんもちょっと疲れたような息を漏らしていた。


「さ、さて。一応これが事件のあらましです。では、ここからはそれを共有した上で、どう対応していくのかを考えていこうかと思います」

 まだちょっとびびっているマネージャーの声を受けて、会議は進んでいくのだった。

まずは作中でも連載でもだいぶ前の話なので、おさらいをしてみました。

なにげにエレナパパが、事件性についてしっかりつっこむのが、あぁ、そうだよなぁと書いてておもいました。

違法行為廃絶、コンプライアンス大切! みたいな。

そしてエレナさんったら、ちゃっかりメイド服か。るなるなさまーとか言っちゃうのかしら。


さて、次話では対策会議が続きます。いろいろ考えますが、考えても机上の空論になるのがこの世の常というものです。でも考えないで望む無策はさすがにあれなので。きちんとやれるだけはやっていただこうかと。

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