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501.動画流出と対応1

更新が夜になってしまった……土曜はアップ無事に仕上がるといいな……というか、今から書くしかっ!

そしてナンバリング忘れてたので追加です。

「それで、なにがどうなってるの?」

 USBの充電器を借りてガラケーに充電をしているところで、磯辺さんに心配そうに顔を覗き込まれた。


 先ほどのメンバーと一緒にいるわけにもいかず、磯辺さんの機転でちょっとベンチで休憩をしようということになって、他のメンツとは別行動ということになった。


 別れ際田辺さんにも、そりゃショックも受けるよね、なんて励まされてしまったのだけど、たぶんそれは違う意味でのショックなのだろうと思う。


「秘蔵動画が、どこかから流出した。それだけ」

「それだけって、あなた……」

 視聴回数も爆上げだし、これかなりゆゆしき自体じゃないの? と言う彼女の指摘は、まあ間違ってはいないのだろうと思う。HAOTO効果は大きい。


 コメント欄とかほんとまじで、自分で見るのも躊躇するようなそんな内容だし、それにくわえて、エロイだとか、俺も息子さんを誘拐されたいとか、ひどい有様である。

 というか、検索ワードの瞬間風速みたいなので、けっこう上の方に、息子さんの誘拐が入ってしまってるあたり、もう、やるせない気持ちでいっぱいなのだ。


「この状況に、HAOTO側が気付いてないはずはないと思うんだよ。もしかしたらガラケーのほうに電話の一本でも入ってるかも知れない」

 電源つけたら、着信の通知がひどいことになりそう、とため息を漏らす。いちおう名称のところだけは声を潜めておいた。


 実際、連絡が付かなくてタブレットの方にメールを送ってくれてる人達が何人かいる。

 エレナからは、あえて深刻さを取り除いたフランクなメールが届いていた。

 まったくもう、あんな若い頃にそんなことがあったなんてー、とかいう感じのだ。

 

「この動画自体は、HAOTOの今のマネさんが持ってるバージョンだしね。編集されてて元来は個人名のところはマスクする音が乗ってたし、顔もわからないようにモザイクかかってたんだけど」

 さて、誰があれを綺麗に外したんだろうね、と肩をすくめておく。

 写真のモザイクなんかは基本一回かけたらはずれないもんだ。それを綺麗にするとはかなりの腕の持ち主である。

 そして、それであるならば、彼の関係者からそれが漏れたという想像は簡単にできる。

 もちろん、彼自身がそれをするメリットはほぼないだろう。こちらにも秘密にするように言われているし、あの人がこんな炎上を望むとは考えられない。


「ってことは、別バージョンもありうる、と?」

 バージョンという言葉に彼女は反応して、問いかけてくる。

 その時、周りから人の声が聞こえて来た。

 ぼっちスペースを選んで話をしているけれど、健康診断の日だけあって、以外に学生はいるらしい。


「なんていうか、この動画自体隠し撮りっていうには綺麗すぎるんだよね。部屋全体が入るようになってるし、全景が入っていたりするし。あとはこれね」

 とんとんと、動画の端の方にちょこんと置かれてあるカメラを指でちょんちょんと視線を向けさせる。


「別バージョンって、あんた……」

「そういうこと。そして、いまさらこんな動画が世に出て嬉しい人が果たしてどれだけいるのやら」

 そこらへん考えると、見えてくるものもあるんじゃないかな? と言ってやると、なるほど、と磯辺さんは腕を組みながら、なんとなく状況を理解してくれたようだった。

 周りの耳もあるし、一般論としてしか話せないけれど、そこは是非とも押さえて置いてもらいたいポイントだ。

 

 この画像が撮られたのはもう、三年も前の話だ。HAOTOを失脚させたいのであれば当時に曝露していればよかったのだし、ルイに対して攻撃してやりたいというなら、さっさとやっていただろう。

 わざわざこのタイミングというのが、いささか不明だった。

 考えられるのは、あっちのマネージャーがデータの管理をうっかりやらかして、流出させてしまったとか、そんな話なんじゃないだろうか。


「でもさぁ、そうやって達観して見てる人ってそんなに数いないみたいだけど」

 そこら辺は大丈夫なの? と彼女はあえて素っ気なく言った。

 動画のコメント欄のことを言っているのだろうか。

 正直、軽く炎上しているレベルになってしまっている。


「この動画だけ見た人はほとんどがHAOTOのファンね。そしてじゃあルイのホームのほうになってくるとこれが、ちょっとだけ比率アップだけど……擁護派もいないわけでもないみたい」

 腑には落ちないけどと彼女は悩ましそうな顔を浮かべた。

 まあ、しーぽんさんはもともとルイのやつめーとか言ってるくらいだったから、擁護してくれる人がいるということ自体に、葛藤はあるのだろう。

 

 だから、気持ちはわからなくはない。

 いわゆる、彼女がルイのホームと呼んでいるところは、コスプレ関係の掲示板だったり個人サイトだったりだ。

 レイヤーさんが個人で呟いているところもある。

 そこではHAOTOだけではなく、ルイを知っている人達が大半なのだ。


 前から仲はいいと思っていたけど、まさかそんな関係だとは、だの、これは逆ハーきちゃったの!? といったコメントも出てきたりもした。

 あのルイさんだったら、芸能人を落としても不思議じゃないって声がちらほら見受けられたのだ。


 去年の件だって、まじ告白だったんじゃないの? という声も上がっているくらいだった。


「逆ハーものは、乙女ゲーのやり過ぎなんじゃないの?」

「いや、でもイケメンアイドルグループと、それに関わる女子一人って設定は、この業界だと熱いのよ。たいていの乙女ゲーはそんな感じだもの。作詞家として関わるとか、音楽学校で一緒とか、設定はいろいろあるけど」

「リアル乙女ゲーの世界ですか……俺にゃあわからん」

 残念ながら乙女ゲーの経験は、男の娘がでてくるのしかやったことがないので、さらに知識はあらん限り変な方向に振り切れている木戸である。


「ネットというと、エレナたんのところはどうなってるんだろう」

 磯辺さんが、いまさら思い至るなんて、私もそうとう動揺しているらしいと、エレナのサイトにアクセスした。


「……さすがエレナたん。もうお詫びのコメント載せてるけど……掲示板はと」

「詳しい話はボクもまだ聞いてないから、公式の見解をまとう、か。さすがに二人でセットみたいなイメージはあるだろうから、あちらにまで影響は行ってしまっているらしい。なんだか申し訳ないかぎりである。


「うわぁ……これ、びっくりね。まさかのご心配コメばかり……」

「画面最初に、固定で、荒らしたらぼこる発言とかあったら、さすがに遠慮はするかな」

 エレナとルイの関係性を知っているのは、コスROMをお買い上げいただいているいわゆる、イベントにくるレベルの層である。

 委託販売もその手のお店なので、一般の人はあまり利用するものでもない。


 そして、オタクとはメインの人に裏切られたらげきおこだが、そうでなければそこまで怒りはしない。

 ルイ目当てという人も中にはいるけれど、やはりメインはエレナなので、掲示板も自然とエレナへのいたわりばかりということになるのだ。


「記事の削除をやってなくて、うわ、憶測からの批判コメント、他の人が叩きまくってる……」

 まさにエレナたんの騎士(ナイツ)ってところか、と磯辺さんは感嘆の息を漏らした。

 うん。確かに木戸もこれはすごいなぁと正直思った。

 さすが愛され系である。


「さて、そろそろ充電もいいかな。たぶん処理とかでいろいろ大変だろうから、今日のお礼は後ほどさせてもらおうかと思うけど、どう?」

「あー、別にあれくらいいいでしょ。でも、事件が全部終わったら一緒にご飯食べに行ったりしてよね」

 彼女にうまくさばいてくれたお礼を伝えると、急に磯辺さんはあわあわしはじめて、ぷぃとそっぽを向きながらそう言ってくれた。照れ屋さんである。


「さてと、それじゃ電源オンっと」

 ぽちっとなと、電源スイッチを長押しすると起動シークエンスに入ったガラケーはいつもの効果音を流しながら点灯した。


「着信十二件……」

 さて、普段のこのガラケーの着信に比べれば破格の量なわけだけれど。

 着信履歴を見たら、エレナからが二回。あとは事情を知ってる人達がちらちらと連絡を取ろうとしてくれたらしい。ちなみに両親からの着信はない。

 母様とか、家で泡でも吹いてなきゃいいけれど。


「っと、誰からだろ」

 そんなチェックをしているときに、着信の音が鳴った。

 画面には虹さんの名前が表示されている。

 これは、ルイ宛だなと思って、声を作って電話に出た。


「あの、ルイさん? ええと現状どこまで知ってるかな?」

「動画は見ました。詳しい説明はどうするんです?」

「なら話は早い。悪いけどこのあと三枝邸に来てくれないかな。ああ、服装はなるべく目立たない方がいいかな」

 時間はそっちが来れる時間でいいから、と彼は言って電話を切った。

 はて。どうして三枝邸? と首をかしげるものの、着替えたりというのを考えるとエレナの家というのは行きやすくて便利かもしれない。


「さて。呼び出し食らっちゃったから俺はそろそろ行くよ」

「なんていうか……お花見はうちらで行っておくから!」

「ぐぬっ、なんたるうらやましさ」

 くそー、しーぽんのばかー、と言って彼女に背を向けて歩き出すと、グッドラックと彼女は親指をくいと上げて見送ってくれたのだった。




「おや、Mさまでいらっしゃいましたか。たしかに目立ちませんが……本日は当家にマネージャー氏もおいでですが」

 よろしいのですか? と玄関でお出迎えをしてくれた中田さんに疑問されてしまった。

 家に帰ってから着替えて出てきたのだけど、今日は珍しく例のイケメンモードだ。

 フレームも眼鏡自体も細めのものをつけているし、髪型もちょっといじっている。

 中田さんは、男装でいいんですか? という感じの確認をしてきてるけど、まあこっちなら、「ルイが化けてました」という言い訳が通り易いかなと思っただけのことだった。


「Mさま呼びは駄目ですよ中田さん。そうですね……アールでは呼びにくいでしょうし、エルとでもお呼びください」

 せっかくなのだから、ルイのほうも略称でいこうか、と思ってMにあやかったような名前を考える。

 そもそもM自体が本名の名前をかすっても居ないわけだけど。

 通常の表記だとルイはRUIになるだろう。でもアールって略称もなんかゴロが悪いというかなので、Lと呼んでもらうことにした。左右という意味合いでのLRである。

 もちろんLUI表記でもルイって読んだりするけどね。

 

 え、また偽名っすか、とか言われそうだけど、これはイニシャル的なあれなので、今回だけだと思っていただきたい。さすがにもう名前は増やしたくない。


「ではエルさま。みなさまがお待ちですのでご案内いたします」

 さあどうぞ、とエントランスに入るように彼は促してくれる。

 というか、たんなる一庶民にまでこの対応とは、さすがはできる執事だ。


「か……るい?」

「あれ。どうして崎ちゃんが……」

 そんなことを思いながらエントランスに入ったとたんのことだった。

 なぜここにいるのかわからないけれど、崎山珠理奈嬢は泣きそうな顔をしながら、こちらの前に立ちはだかっていたのである。


「あんたが大変なことをしでかしてたからでしょ! このバカ!」

 なんでいきなり炎上とかさせてるのよ、と彼女は思いきりルイの身体をぎゅっと抱きしめてきた。

 ああ、なんか良い匂いがする。


 でも、ここに彼女がいるということは、ちょっと困ったことになってしまった。

 そう。もうあれから三ヶ月も経ってしまっているのである。

 しかも、ちょうどいちおう男装状態なわけだし……


「えっと……さ。崎ちゃん。ええと……」

「告白の返事なら今日はしないで良いわよ。ってか今だけはやめて」

 くいっと顔をひっつけるのをやめて、崎ちゃんは両肩に手を置いたままこちらにじーっと視線を向けてくる。それこそ手の届く範囲、というやつで彼女の顔が見えるわけだけど。


 相変わらず、綺麗な顔をしているなぁと、思う。


「どうせあんたのことだから、このタイミング(、、、、、、、)じゃ、迷惑かけられないとか言って、断るでしょ? それじゃあさすがにこっちの気持ちが収まらないもの」

 いくらなんでも、あいつらのせいで答えが駄目になったって思っちゃうのはダメ、と彼女はげんなりと言った。


「で? どうしてあんたは男装?」

「どうもこうも、今やマスコミに追われる身となれば、変装の一つや二つは必要でしょ」

「……って、どうしてあたしは、ふっつーに女装がデフォルトだと思ってしまったのか……」

 あああぁ、と崎ちゃんは肩を掴んでた手をずるずるそのまま下にスライドさせながら、ぺたんと地面にへたり込んでしまった。

 三枝邸のエントランスはきれいに掃除されているので、そうなっても特にひざが汚れる心配はない。


「その……さ。崎ちゃんはあの動画について、なにか思ってることはある?」

「正直、最初に見たときは唖然としたけど……あんたあれ、蠢と再会したあとくらいでしょ?」

「時期的にはだいたいそれくらい」

「なら、そういうことなのかなって思った」

 まあ、ふざけんなってくらいエロかったけど、とへたり込みながらこちらを見上げてくる崎ちゃんには、苦笑を浮かべられるだけの元気はあるようだ。


「とりあえずあんにゃろう達にはさっきまで散々説教してやったわ。あんなことやっておいて、未だにいろいろ関わってるだなんて、信じらんないってね」

 つーか、あんたもあんたよ! と怒られてしまった。


 ええと。そりゃあの行為自体は褒められた事じゃないとは思ってる。

 けれども蠢を守るための、苦肉の策というやつだったってことや、なにより本人達の暴走を放置したマネージャーの方にムカッときたので、本人達とは今の関係が続いているのである。

 それに根本的に。同性に変な事をされたというだけのことで、いわゆる女の子が襲われました、というのとはまた話が違うと思っていたのだ。


「ほんと、女としての自覚に薄いんだから」

 まあ、当たり前だけど、と崎ちゃんは立ち上がった。


「では中田さん。会議室に案内お願いします」

 あと、先ほどの場面についてはエレナには内緒でお願いします、というと、はい、わかっておりますと、彼は微笑ましそうなものを見た顔で肯いた。


「それと、今回の件は、あたしはあくまでもHAOTOの監視に徹してあんまりフォローできないから、その点は覚えておいて」

「ええー、ここは芸能界で長年上り詰めてきたノウハウとか上手く使えないもん?」

「ま、事務所絡みとか、いろいろとあるっていうか。スポンサーとの兼ね合いもあるんだ」

 さすがに炎上中のところを踏み抜くことはできない、と崎ちゃんは少しだけ顔を伏せた。

 表向きはそんなことを言ってはいるけど、総合的に手を貸さない方が良いという判断をしたのだろう。


 下手に関わって、話がこじれるということだって十分ありえるわけだし、今回の件は崎ちゃんとしてはまったく無関係の事柄だ。

 むしろ他の人にまざって、掲示板にあれこれ書き込みをしても文句が言えない立場ですらある。


「なら、ちょっとHAOTOの出方をみたりとかしましょうか」

 おおむね、今回の件の落としどころに関してはあちらに丸投げのつもりである。

 良い案がないなら一緒に考えるし、さすがに一方的にこちらが悪者になるのであれば、それには抗議するけれど。

 桶は桶屋だ。炎上したときの対策などは、さすがにできると思いたい。


「それと、どうでもいいけど、どうしてイケメンモードに持って行ってるのに口調がルイなのかについて、小一時間くらい問い詰めてやりたいわ」

「それは……ほら。マネージャーさんいるから。変装してるんですっていうポーズはしなきゃでしょ」

 普通は外見だけ変えるもので、仕草まではやらないっていうし、というと、崎ちゃんは、たは-、といいながら小さな肩を更に小さくした。

 さすがはエルさまですね、と中田さんはにこやかだった。

 エレナに鍛えられてるだけのことはある御仁である。


「では、会議室につきました。みなさますでにおそろいですので、どうかみなさまが納得のできる結果をもぎ取ってくださいませ」

 廊下を進んだ先で、中田さんがすっと表情を改める。

 さて、話し合いを始めようと思いつつ、会議室の扉をあけた。

 そして。


「……うわぁ」

 眼の前には、全力土下座のマネージャーさんの姿があったのだった。


さて、事件勃発! というわけで対策会議をしなきゃーなりません。

果たしてどんな経緯で、あの動画が出回ってしまったのかー!! なんてもうみなさんご存じの通りでございます。


にしても、相変わらず、崎ちゃんったら不憫なんだから……orz

可哀相すぎて、もう涙目ですが、まあなんでかんで、今回彼女は状況を外から眺める傍観勢となります。

どうなっちまうかは……うん。まあ炎上ってなかなか終わらないよね、って話で。

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