499.さくらの花の咲く前に
二週間のお休みあけ! 例の話に入る前にちょいとほっこり撮影回です。
「いきなり呼び出すとは……お主もずいぶんと偉くなったものよのう」
「……そのキャラは一体なんなのさ」
四月が始まる前の最後の休みに、ちょっと撮影でも行こうよ、と誘ったわけなのだけど、さくらは腰に手を当てながらそのように胸を張ったのだった。
たしかに思い立って連絡をしたのはつい先日なのだけど、その時はもうゆるーい感じで、遊びに行こうー! なんて話だったのだけどなぁ。それからキャラづくりにいそしんだというところだろうか。
というか、そもそも、約束の時間には間に合ってても、後から来てその態度というのはどうなのだろうかっていうのはマイナスポイントだと思う。まあ、相変わらず砕けた間柄だと思えばいいのだろうけど。
「なんていうか、久しぶりだから? いまいちこう、どういう態度をしていいのやら」
「って、バレンタインあたりで女子会したのにその反応?!」
先月会ったじゃん! と言ったものの、いやさーと、さくらはカメラ片手にはぁとため息を漏らした。
「カメラマンとしてって意味よ。なんだかんだで最近一緒に撮ってないし」
どんな変態的な撮影スタイルに変わってるのかと思うと、もうどういう風に接して良いかわからぬ、とさくらは苦笑気味にカメラを構えた。
うわ、からかって変な顔でもさせるつもり満々といった感じだ。
「そこまで変わってる自覚はないかなぁ。そりゃちょっとずつ仕事は増えてるし、来月からはゼフィ女でのお仕事も内定はしてるけど」
「……仕事増えてるよ、こいつ……」
あーあ、とさくらはがっくしと肩を落としながら、こいつめーと恨めしそうな視線を向けてきた。
おっと。さくらさんったら純粋にお仕事の話だけで、女子高かよって突っ込みはなしだった。
というか、前の女子会の時にゼフィ女の仕事の件は言ってなかったんだっけ?
どうなっちゃうか正直わからなかったところがあったし、さすがに他の人もいたから自粛したんだったかな。
「さくらはどうなの? 石倉さんにくっついてお仕事とかは?」
「んー、してないわけじゃないけど、助手ってところかな。あとは卒業式シーズンはちょっちあたしも撮影させてもらえる機会もできたかなってところ」
今月はなんでかんで、忙しい時期だからね、という彼女の言葉にうんうんと頷いておく。
入学式よりは卒業式の方がカメラというのは必須だと思う。
今年はゼフィ女の卒業式、というかほのかの依頼くらいしか受けていないけれど、佐伯さん達も出払っている感じだったし。実際オファーは多いのだろう。
「わりと学生さんの間に入ってわいわいと撮影できたりして」
「ま、あんたの撮影方法もちょぴっとは参考にしてるわよ」
フレンドリーになっちゃったほうが、素の顔を出してくれるってのは、納得だしね、とさくらはカメラをきゅっと握りしめながら、実感のこもった声を上げてくれた。
まあ、もうちょっと歳をとればまた別の撮り方をすることになるんだろうけど。
今は、身近さを徹底的に活用できるのだから、使わない手はないのである。
「っと、そうだった」
そんな風に話をしていたのだけど、さくらはポケットにいれっぱなしのスマートフォンがメッセージの着信を告げたのをきっかけに、ぺちりと胸元で手を合わせ始めた。しぐさはとても、ごめんなさい、である。
「んでね、ルイに一つすまんって謝らねばならないことがあって」
「いまさら、なにかやらかしてましたって報告?」
「そういうんじゃなくて、その……ね」
んー、と、さくらにしてはハギレが悪い反応だった。
特別、彼女に何かをされたっていう感覚はないんだけれど、一体どういう話なのだろうか。
「実は、今日の撮影さ。スタジオの先輩もついてきちゃって」
ちらりとさくらが視線を向けた先。
木陰から、とことこと待ち合わせの場所に姿を現したのは確かに少しばかり年上の男の人だった。
最初にさくらから話があってから合流という流れだったところが、早く紹介してくれ! とかいうことでスマホに連絡をいれたといったところだろうか。
「君がルイちゃんだね! 初めまして!」
おぉ、生ルイだ! と彼は一人テンションを高くしていた。
ええと。どうしてそんな反応になってしまっているのだろうか。
「ええと……初めまして?」
あまりにハイテンションなのでちょっと驚いて、変な反応になってしまっているのだけど、彼はそんなこちらの反応に、おや? と不思議そうな顔をした。
「さくらちゃんからいろいろ話を聞いたのもあったけど、ほら、石倉さんが、あんにゃろーとか普通に意識してるから、僕も気になっちゃってね。突然で申し訳ないんだけど、ちょっとご一緒させてもらっても良いかな?」
もちろん、行き先は二人で決めてもらって、僕はこっそり後ろから付いていく感じでいいからさ、と彼はお願いをしてきた。
彼はさくらの先輩にあたる人で、石倉さんのところで働いている人なのだそうだ。
「ええと、石倉さんのところっていうと、まさかっ、風邪引いて中学の卒業式のお仕事を石倉さんに変わってもらったあの人か……」
「ちがーう。僕は先輩とは違いますって!」
先輩なんだ……っていうか、佐伯さんと石倉さんって割と雇う相手も似ちゃう傾向でもあるのかなぁ。
「って、ルイ? 石倉と一緒に仕事したの?」
「え? ああ。ええと……噂を聞いただけ、ですよ? うん」
さっしてください、と口だけでさくらに伝えると、お、おぅ、と彼女はそれだけでわかってくれたらしい。
そう。中学の卒業式の撮影をしたのはあくまでもルイではなく、木戸なのだ。
なので、厳密には彼と一緒に仕事をしたわけではない。
っていうか、石倉さんと一緒に撮影とか絶対嫌みとか言われるし、大人げなく煽ってきたりもしそうなんだよね。
去年あれだけ優しくしてくれたのは、木戸のことを男だと認識していたからだ。
「てか、風邪の件でいえば、そっちだってひ弱なのがいるじゃない?」
「まあ、三木野さんはひ弱ですが」
ちょっとがんばり過ぎちゃうだけだとも言えますが、というと、庇って貰えるとは……良かったね、三木野、とちょっと生暖かい目を彼は空に向けた。
「っていうか、割と佐伯さんのところと交流有る感じなんですか?」
あたしとさくらは学校での付き合いとか、あいなさんの絡みで知り合いですけど、と軽く首をかしげて聞いてみる。
石倉さんがもともと佐伯写真館所属だったというのは知っているけれど、彼が独立してから交流が続いているのかといわれると、少なくともルイはそっちのスタッフとあったことはないなぁと思っていたのである。
「佐伯さんと石倉さんが師弟関係なのはルイちゃんも知ってるよね?」
「ええ、それは知ってます。なんかもめちゃって独立したって話ですけど」
あいなさんから詳しい話を聞いたわけではないけれど、独立に関して一波乱あったという話だけは聞いている。
「僕は独立したあとに拾ってもらった感じなんだけど、先輩はちょうど石倉さんがスタジオを構えるときに一緒に始めた人で」
ただ、あの人ほんと健康管理が……と、彼は遠い目をしはじめた。
「そうなのよね。ほんと栄養ちゃんと取るくらいなことはしっかりして欲しいものです」
「そういうさくらは、体調管理はどうなの?」
風邪とかひいてないのかい? と聞くと、全然大丈夫っす! と元気な声が返ってきた。
その姿をとりあえず一枚抑えておく。
「さて、じゃとりあえず僕のことはMとでも呼んでもらうとして」
「ああ、紹介してなかったや。この人、森山さんっていって、なぜかMって呼ばれたい二十代です」
「……どうしてMです? いや、イニシャルだってのはわかりますけど」
とりあえずさっくり自己紹介を済ませようという感じの彼に、首をかしげた。
というか寄りにも寄ってMかよ、といった感じである。
「僕のポリシーとしては、目立たずこっそりと脇役のようにして撮影をしたいってのがあってね。そこで去年ちょっと話題になった、モブのMくんにあやかってこう名乗るようにしているんだよ」
別に僕のことなんて、覚えてくれなくてもいいのさ、と森山さんは清々しい顔を浮かべていた。
なるほど、撮影者ではなく写真のほうで覚えて欲しいっていう感じだろうか。
好感の持てる考え方である。
「よりによってモブのMさんが引き合いですか……」
「あたしもそれは知らなかったな……まさかあのMくんが由来とは」
まあ、モブですけどねぇ彼、とさくらが普通にさらっと答えていた。
「ええとルイちゃんは、HAOTO事件の関係で知ってるのかもだけど、さくらちゃんまで? なんかすごく知ってる感じの反応だけど」
知り合いなの!? と同じスタジオの二人はその話題を出すのは初めて、という様子でやりとりをしていた。
この感じだと二人ったら、写真のことしかあまり話をしてこなかったのかな。
「いちおう、アレ、高校の頃の友人なので……」
「なんと! どこの誰なのかもわからなかったけど、まさかそんなつながりが……」
あのモブっぷりは是非とも真似したい! と森山さんはぐっと拳を握り締めた。
そりゃあ、Mさんのモブっぷりったら、黒縁眼鏡の印象だけしかないのだから、かなりのステルス性だとは思うのだけど。
「私もできればこっそりと撮影をしたいところです……」
どこの誰だかわからないほどになれるのは羨ましいと言うと、ああ君もわかってくれるかいっ、とか森山さんには言われてしまった。
おいおい、という目でさくらが見てくるわけだけど、実際はあんまり印象に残らない木戸状態での撮影というのは、それはそれでアリかもしれないと最近は思ったりもする。
というか、ルイは巻き込まれ体質なのだ。
どうしたって何かのトラブルに巻き込まれるし、写真ではなく本人の知名度が割と上がってしまっているというのが、良いんだか悪いんだかというように思ってしまう。
相手の共感を得られたり警戒心を解くためにはある程度はいいのだろうけど、だからといって悪目立ちをしたいわけではない。
「ルイちゃんの場合は、みんながほっとかないだろうね」
こっそりとか、それこそ望遠レンズで狙撃するしかないんじゃない? と苦笑されてしまったけれど。
「うぅ。望遠レンズでスナイプですか。動物とか撮るときは重宝しますけど、正直最近あんまり野鳥撮影とかできてないというか……」
路上の猫撮影もいいですよねぇ、とちょっと前に撮った猫さんの写真を思い出してほっこりする。
その瞬間、カシャリとシャッターの音が鳴った。
どうやらさくらがしっかりと緩んだ顔を押さえたらしい。
「動物の写真ってみんな撮りたがるから、ほんと上手く撮れないとなかなか。調教師のスキルとかあればいいのに!」
「そうはいうけど、さくらちゃん割と動物は上手いじゃん?」
「でも、なんていうんでしょう。コンセプトが必要というかとがってないといけないというか」
とにかく絵で目立たねばならんのですよーと言うさくらは、高校生だったころとは違って明確に目標のようなものをしっかりと掲げられているようだった。
仕事をする上で、確かにどんな写真を撮るのかは覚えてもらわないとお仕事に繋がらないって面は確かにあるしね。
カメラの性能が高くなったからって石倉さんもぼやいてたけど、だからこそこれだっていう作風が欲しいのかもしれない。
「それいうと僕だってあんまり自分だけのってのはあんまりないよ。ただ誠実にお仕事をこなしてって信頼を得るだけってね」
うちのスタジオは天才肌じゃなくて努力型が多いから、堅実なお仕事がモットーでございますとMさんは言った。
うんうん。堅実なお仕事、大切かと思います。
「さて、あんまり話し込んでてもしょうがないし、そろそろ歩き始めましょうか。ルイはどこか撮りたいところあるの?」
とりあえず顔見せは終了ということで、さぁはよ撮影に行こうとさくらが切り出してくれた。
両方の知人である彼女が仕切ってくれるとこの場合は動きやすい。
「もうちょいあとだったら桜が咲いてる場所もあったんだけど、とりあえず銀杏の木かなぁ。もしくは春探しって感じで町中とか森とか散策でもいいけど」
さて。まだ集合場所に触れていなかったけれど、今回は手軽に集まれる場所ということで、ホームでもある銀香町に来ている。
もうちょっと準備期間があれば、遠出をすることもできたのだけど、遠出することだけが正義じゃないというのは、二人とも共通の考え方なのだった。
ほっこり地元で撮影をしようというのが今回の集まりの目的なのである。
「へぇ。イチョウばっかりのイメージだったけど、桜もあるんだ?」
「ここまで都会から離れると、桜は珍しくもないんですよ。都内だと公園とか川とかにあるイメージでしょうけど、割とここら辺だと学校とか道ばたとかに点在してる感じです」
ま、咲くまではもーちょいかかるんですけどね、と残念そうな声は上げておく。
つぼみは出始めているけれど、まだ開花には至っていないというのがここら辺の桜事情である。
「まあ、咲いている桜は眼の前に一本いるので、それを激写でもいいですけどね」
ほれほれ、さぁ満開の笑顔を咲かせておくれよ、というと、ちょ、ルイー! とさくらにわたわたされた。
そんな顔も可愛いのでもちろん激写。
最後にはもちろん、まったくと現状を受け入れてくれるのは、長い付き合いだからこそである。
「あとは、寄れたらでいいので神社にもお参りしておきたいです」
あそこからの景色も格別ですし、その……またお参りしたいなぁなんて、というと、さくらから声が上がった。
「ええと。たしか雪の日に参拝に来たって言ってなかったっけ?」
初詣はわかるけど、またまたってのはどうなのよとさくらは不思議そうだ。
「まあね。あそこからの雪景色はすっごい綺麗だったよ。水は冷たかったけど」
帰りの階段とかめっちゃ怖かったけど、なんとかなりました、と雪の銀香町の姿を思い出す。
あのときは千紗さんと一緒にいろいろしたけれど、とても良いものが撮れたと思っている。
「でも、雪の日は撮影中心になってしまって、きちんと参拝できたかといわれるとなんとも言えず……」
いちおうご挨拶はしたんだけどね、と言うと、それ初詣じゃん! とさくらは言った。
んー、手水とか凍ってたし、きちんとした礼をもって参拝できた感じがしなくてですね。
もちろん、そういう風に思っちゃうのは、ここのところの騒動に由来するわけだけれど。
「ここのところ変な話ばっかりだから、厄年か……そうか、みたいな気持ちになってて」
本当に春先はひどかった、というと、さくらにぽふぽふ肩を叩かれた。ドンマイといった感じである。
「って、ルイちゃん。厄年って数え年だけど……そんなに厄年のあともひどかったの?」
「数え年、ですよね?」
きょとんとしていると、あ、やっぱ若い子は勘違いするよねー、と未だ若い森山さんはスマホを取り出した。
「僕の知識としては、厄年で使う数え年って、生まれた瞬間が一歳で、お正月くると二歳ってやつなんだよ」
ほら、こんな感じで、と彼は自分の思い違いではないことをスマホの画面に映し出してくれた。
っていうか六型で大きい画面はスマホのくせに見やすかった。
「なので、女の子の最初の厄年って19歳でくるんじゃなくて、『高校二年の一月から三年の十二月にかけて』、なんだよね。実際は17~18歳でくるの」
となると、ルイちゃんの災難は純粋に厄年関係ないんじゃないかなぁと、のほほんとM氏は言った。
たしかにそういわれれば……うん。いろいろ勘違いをしていたかもしれない。
「ってことは、珠理さんが厄年か。変なのにあたっちまった厄年か!」
「それ、前厄だから! ってか、女子高生が厄年とかきにしてないしー!」
知りませんしー、とぷぃをそっぽを向いた。
うん。ええ。いろいろと勘違いしていたので、それが恥ずかしかった……わけでもない、のですよ? ええ。
「ふふ。ルイちゃんもそういう可愛い顔するんだね。一枚撮っちゃったけど、いいよね?」
売らないから、大丈夫! と彼はいうものの、こちらとしては、やられた! という感じである。
「うぅ、Mさんひっそりとかいうけど、ちゃんと撮れる人だし……」
ひどいなぁ、というと、そりゃさくらちゃんの兄弟子なのだぜ! と、びしっと親指を立ててくださった。まかせろ! という感じである。
「まあ、あれだよ。厄年なんてもんは古くからの言い伝えでさ。平安時代くらいから伝わるもので。今の世の中じゃあ、生活習慣とか違うわけだから、いつって決まってないって思った方がいいんじゃないかな」
「そうよね。気にするなら33歳なんじゃない? 森山さんの話だと31歳あたりで、それにひっかかるってことは……結婚とか初産とか……」
まあ、先のことすぎて想像が、というさくらに一瞬だけ視線を向けつつも、こちらは森山さんに尋ねることにする。
「それで、森山さん。女性の厄年って、19歳33歳37歳って、ぐぐったらでてきましたけど、平成の世の中でも男子高校生と女子高校生って違うものですか?」
ルイとしては厄年の説明で「体が変わる年」というのはとても納得がいった部分がある。
父さまも40歳を過ぎて、体つきがちょっとたぷっとしてると思うし。
母様は……うん。なんか言おうとしたら、見えない波動を感じた。
すでに本厄を過ぎているはずなのに、なんともすさまじき力である。
「どうだろね。体の変化っていったら正直僕は第二次性徴がある小学生高学年とか中学生あたりが一番差が出る頃合いだと思うんだよね」
高校だとあんまり生活に差はでないんじゃないかなぁと彼は言った。
「でも、高校の頃のルイか……」
厄年の話を聞いて、さくらがじぃとこちらに視線を向けた。
「あんたの場合、毎年が厄年って思っていたほうが、防衛的にいいんじゃない?」
ほれ、お騒がせなルイさんやとさくらがからかってくる。
そこまで言われたら、さすがにちょっと。
「う、うぅ。別にそんなにお騒がせなわけじゃないもん。こ、今年だってきっと……きっと平穏に……すご……せるといいなぁ」
「いいなぁなところが、かわいそうだけど」
「ほら、やっぱり駄目じゃないの。そうね、せっかくだから春の初めに、賭けでもしましょう」
よし、そうしようとさくらは何を思ったのか、変なことを言い出した。
「もしルイが今年一年何も起きずに過ごせたら、今度の春に旅行に連れてってあげる」
「おおっ。撮影旅行! すばらしい」
その条件におぉ、となったものの、さくらは不憫そうな視線を向けるばかりだ。
どうやら、その賭けはあたしの勝ちだとか思っているらしい。
どうせ、あんた騒動起こすでしょと顔に書いてある。
「その代わり……騒動が起きたらあんたモデルで写真集つくらせて」
「それ、販売目的じゃないよね?」
「もちろん個人所有だし、練習用ってな感じだけど」
モデル雇うお金はないんじゃー、と言われると、なるほど。
ルイにはエレナというモデルがいつでもそばにいてくれるけど、普通はあれほどの素材がそうそういるものでもないのか。
「いいなー、その話、僕も一枚かませてほしいなー」
「Mさんはダメですよ。ルイの写真を撮ってもいいのは、女子の特権です」
「えぇー、別に僕、変な目で見たりはしないよ?」
カメラマンとしてまっとうなのでという彼に、さくらは、いや、その……と困惑したような顔を浮かべた。
「こいつとかかわると、うっかり女装させられてましたー、とかそんなことになりかねないから、注意喚起をしておきたかったんですよ」
「って、さくら? 別にあたしはそんなに誰しも女装させてるわけじゃないよ? ってかエレナが悪いだけで」
あたしは本人の意思を尊重します、とルイが断言すると、さくらはホントに? と胡散臭そうなものを見る目を向けてきた。
うぅ。ほんとに周りが勝手に女装を始めてるだけであって、こっちからおすすめするケースはあまりないんだけどなぁ。
「なるほど。それで女装写真撮るのが得意ってところにつながるわけか……」
それはそれで面白そうだと彼は言った。くっ、面白がるタイプか。
「もう、さくらも変なこと言ってないで、さっさと撮影に入るよ」
せっかく外に来たんだからちゃんと撮らなきゃ、というと。
はーい、とちょっと笑いの含んだような返事が返ってきたのだった。
数え年って、生まれた瞬間が1歳なのねというのを初めて知った作者です。お正月で一歳としをとるだけだとばかり。
大厄は、なんだか「子育て終わる時期」とか調べたら書いてあって、今やちょうど育て始める時期であろう、と言いたい感じです。
そして、ルイさんは男女どっちの厄年が適応されるのか……
さて。そんなわけで次話からは、例の動画事変が始まります。ええ、始まりますとも。




