497.特撮研は卒業旅行にいくそうです9
一日遅くなりました! 今回はちょっと時間かかりました……
「昔話をするとして……果たして何を話せば良いのやら」
聞きたい話はある? と、聞かれても、急には答えは出てこなかった。
それこそ、木戸が高校でわーいと女装しながら学校に潜入してたころのことである。
んー、と思いつつ、おっ、良い感じの雲が浮かんでるとか思って一枚シャッターを切った。
「入学したころの、志鶴先輩の話を中心に聞きたいですかね」
さて。話をしてもらうとしたら、やっぱりここら辺が妥当だろうなと思って、その名前を出した。
話を聞くとしたら彼女自身の話か、その周りの話だと思うわけだけど。
同期での入学である花実先輩から、入ったばかりの彼のことを聞いてみたい。
「志鶴とあたしの馴れそめというやつねぇ。木戸くんもなかなかにきわどいところを」
「って、別に何も無かったんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね」
実は、昔付き合ってました展開とか、少しでも想像してくれてもいいのに、と、桐葉元会長はぷぅと膨れていた。
「そもそも、あの志鶴よ? 入学当初はかっけーイケメンって言われてて、もう大人気でさ。それが特撮研に入って来ちゃって、あら大変、そりゃ大変」
「って、あれ? 志鶴先輩大学入ったころは女装してなかったんですか?」
「ああ、うん。そうだけど、なんで?」
そんな質問に? とハテナマークを浮かべられてしまったのだけど。
志鶴先輩からは、高校の頃からどっぷり女装に浸かっていたのだぜ! という話を聞いているので意外に思ったのだ。
「それを言うなら木戸くんだって、小学生の頃から女装にどっぷりでも大学入った当初は男の子だったわけじゃない?」
さすがに志鶴も、入学早々女装して学校に通おうっていう感じは無かったというか……といわれましても、こちらはパートタイマーだ。放課後専門なのだ。
それとも、志鶴先輩も高校のころからフルタイムってわけではなかったのか? でもあの話しぶりだと、フルタイムだと思うのだけど。
うー、と腕組みをして悩んでいると、まあまあと、ぽふぽふ肩を叩かれた。
「実験的な意味合いもあったのかもね。父親はほら、在職トランスしたじゃない? だから大学という場所で、男として見られたあとにいろいろやらかそうって思ってたのかも」
そして、きゃーきゃー言われてみた、という感じね、と彼女はため息を漏らした。
「そして花実先輩もそんなきゃーきゃー言っちゃった一人、と?」
近くにイケメンだなんて、さぁどうだったことやらーと棒読みで言ってあげると、べ、別に、そんなことないんだからねっ! とかツンデレ風味な返事がくる。
ここまでお約束というやつなのだろう。
「いや、実際問題外から見てるとイケメンなんだけど、触れあってみるとちょっとずつオネエ系っていうか、少女趣味っぽいところもあるし、仕草とかが柔らかくて、男っぽさなんて欠片もないわー、ってなって」
こりゃー、男として見れないタイプだなーって思ったのです、と彼女は肩を竦めた。
まあいわゆる、女子グループに混じれてしまえる男子、というやつである。
恋愛対象ではなく、一緒にいて楽しい異性の友達というか。
お前もそれに該当するんじゃね? って言われそうだけど、木戸の場合は女子との深い交流になってくると、ルイとしての付き合いのほうが深い事が多いので、その仲間なのかどうかはちょっと疑問だ。
木戸馨には男友達は少ないわけだけど、考えても見れば女友達も少ないという体たらくなのではないだろうか。
さくらとかにも、別に木戸くんと友達だとは思ってないし! みたいなことを言われるしなぁ。
「さすがにイケメンでも、オネエさんだと魅力は半減、ですか?」
そういえば、今の男装状態に戻しても学内はそこまで騒がしくないように思う。
卒業式シーズンだったり受験シーズンだったりするから、人がまばらだというのもあるけれども。
「そうねぇ。なんだかんだで志鶴の女装って学内だと有名だし、それにしのさんと合わせていろいろやらかしてるじゃない? そんな人がいきなりイケメンでございとでてきたところで、ねぇ」
それに、今年は一年生でキラキラした子がいるから、と彼女は頬を緩ませていた。
どうやら沙紀ちゃんのことを想像して、にっこりのようだ。
「でも、咲宮の御曹司もあれだけ整ってると女装したらすごそうだよね。木戸くんなら特撮研に引っ張って来れそうなのに」
なんで、あのまま放置しているのかー、と不思議そうな顔をされてしまった。
まあ、友達なのはなにげにみなさんには知られているしね。
どうして、あんなもさいのが、普通に友達なのかとみんなに言われるほどである。
「咲宮の御曹司にレイヤーになってもらおうとはさすがに思えないですって。そりゃまりえちゃんと二人でチャペルでモデルやってくれるとかなら、ほいほいカメラ担いで行きますけど!」
モデルとしてはすっごい素材なんですけど……さすがに誘うにはなぁ、と日本人の特技である曖昧な笑みを発動させてもらった。
おそらく誘えばほいほいついてくるとは思う。
思うのだけど、特撮研なんてところに連れ込んだらそれこそ、さぁ女装しようか! なんて言われかねないのだ。
いつもならそれくらい別にと思うわけなのだけど。
さすがに、彼にだけは女装は勧めてはならないのである。咲宮家の秘事に関わることである。
滅相もない、と手を振っていると、何かを察してくれたのかそこで彼女は話題を変えてくれた。
「ま、そんなわけで入学当初はあの子も大人気だったわけ。んで、先輩達はそんなあいつを被写体にしようとモデルに誘って、それでコスROMとか作ったの」
いやー、かっこいいキャラ多かったよなぁと、ほれぼれするような顔の彼女を隣から激写。ちょっとこちらに文句を言いたそうな顔をしていたけど、まあそれはそれだ。木戸と一緒にいて撮られないなんてことはないと思い知っていただきたい。
「でも、それがどうして女装にシフトしちゃったんです? 話だと最初は女装ってあんまりって感じだったわけでしょ?」
入学当初の彼はいちおう、男子として学校に通う形にしていたという。
それがどれをどう間違って、というか、どこで我慢出来なくなったのだろうか。
「あるとき、当時の会長が言ったのよ。そんなに綺麗なら女装も行けるんじゃないかってさ。たしか、エレナちゃんの写真を長谷川先生が撮ってきたときだったかな」
いや、コスROM持ってきたときだっけかな、と記憶を思い出すように視線を左上に彼女は向けた。
って、きっかけがエレナさまとか、どういう影響力なのだろうか。
「特撮研にROM置いてありましたけど、やっぱり長谷川先生絡みで当時は話題にもなったんですか?」
言うまでもなく、エレナの写真が引き伸ばされて研究室に置かれてあるほどに長谷川先生は、男の娘が大好きである。
「そりゃもう。長谷川先生ったら、自分より綺麗にエレナたんを撮る子が現れたでござるーって、大騒ぎで。特撮研内でも綺麗なレイヤーさんは話題にも上りやすいしで」
それこそ、当時は、だが男か、という言い回しが流行ったのよ、と彼女は苦笑を浮かべた。
そしてその前には、まあ男か、という志鶴がいたというわけで、と彼女は笑い始めた。
「最初は、あの子、女装なんて無理ですって、睨むような目を向けてたの。まあ話を聞く限り、お父さんとの確執があったから、当たり前なんだろうけど」
「今思えば、女装したくてたまらんのをこらえてた感じなんですかね」
別に無理でもなんでもないだろうし、というと、まあそうねぇと、彼女は懐かしそうに目を細めた。
「結局、井上先輩が、どうせお前女装とかできないだろ、エレナたんまじ神、唯一神とか言い始めて、じゃーやったろーじゃないですかってな感じに」
「……井上先輩……滅茶苦茶オタクだとは思ってましたけど、唯一神っておおげさじゃないですかね?」
さて、井上先輩とは、木戸がオープンキャンパスに来た時に長谷川先生と一緒に食堂で会話をした相手だ。
「お、会ったことあったんだっけ? 卒業してからあんまりイベントに来てくれないんだけど」
まあ、長谷川先生から、同志! とか言われちゃう感じの人だから、と言われてまあ納得でございますという感じだ。
「そして、結果的に女装デビューしたら、まあ、長身美女の誕生みたいな感じで」
いやぁー、あのときは正直いくらなんでもこりゃねーだろって、みんなで叫んだね、と彼女は嬉しそうに言った。
良い思い出なのだろう。
「そして去年の卒業式の先輩さんが、コロっと落ちてしまった、と」
「というか、男の娘関連が好きっていう下地がやっぱりあったんじゃないかなってあたしは思うな。あの人なんだかんだで、エレナたんのことも大好きだし、イベントで隣になって手伝ったんだぜ! みたいなことも言ってたじゃない」
男だから本気じゃねーし、とか絶対、うわべだからと、花実さんったらにまにましておいでだ。
ま、奈留先輩と仲良く会話ができるなら、腐ってはいるのだろうけれども。
ちなみに、彼自身はルイさんをカタる会にも出席していたのだけど、そういやあのときは長谷川先生は何も言ってなかったなぁ。うっかりこちらも失念していたわけだけど。
「本人は、エレナたんより、ルイさんだし! とか言ってましたけど……んー、どうなんでしょうね」
「ま、先輩のことはどーだっていいんだけど。それよりそれからの……」
「いえいえ、先輩のことは掘り下げましょうよ。どうして男子会員がいたのに井上先輩がずーっと、新入生歓迎会に女装参加していたのかについて、とか」
「……些末なことにこだわるわね……」
いまさらその話? という桐葉元会長なわけだけれど、こちらとしては些末……ではあるけど、その理由はちょっと気になるところだ。
あの井上先輩が女装好きという感じはないし、下級生が居たらそちらに話が行くのが普通だろう。
「さんざん、男性会員が入らないと、女装は続くーとか、脅してくれたじゃないですか。それで来年も新歓にでる感じになってるので……」
誰でもいいなら、是非とも朝日たんを! と言ってやると、朝日たんでもいいのだけど、と彼女はご不満なようすだ。
「いちおーさぁ、新歓って、新入生の会員を入れようっていうイベントなのね。だから、嫌々、無理矢理やるような人よりは、楽しそうにやってくれる方がいいのさ」
その点で、先輩は失格だったってわけさ、と言われると、まあそれはそうかという気にはなった。
まあ、必死に女装して会員が集まるのか、と言われると疑問ではあるのだけど。
きっと、駄目なのは「無理矢理感」とか「やらされてる感」とかそういうのなのだろう。
そういうのが見えてしまうと、そのサークルは楽しくないんじゃないの? という風にも見えてしまうものなのだろう。
「俺は、これで、いやいや女装の舞台にた……ってはいないですが」
立たないで済むなら、それで良いとは思ってるのですが、というと、あはは、と愉快そうに笑われてしまった。
あんまり声を立てると鳥さん達が驚くので、是非とも控えめにして欲しいのだけど。
まあ、卒業旅行である。主賓が楽しければそれでいいかとも思い直した。
「女装っぽくないって言われたの、まだ気にしてるんだ?」
「最高のパフォーマンスを出したと思ったのに、お前のはすでに女装じゃねぇってひどくないですか? っていうか、練度を重ねればあれくらい誰だっていけると思うんです」
声だって、志鶴先輩のパパさんのホームページを元に作ってるのです、というというと、あれ、そこでつながりあるの? と彼女には驚かれた。
「ま、まあ、志鶴ぱぱは、なんかすげーって話だけど、えっと、もしかして木戸くんとか志鶴が出してる声って、パパさんも出してるの?」
「そりゃもう、ばんばん出してます。ってか、訓練すれば朝日たん爆誕も可能です」
「それは、やめたげて」
本人の性格が歪むので勘弁してあげて、と言われて、ごめんなさいと素直に謝った。
うん。そうだね。本人の意志を大切にするのは、この件ではとても大切なことに違いない。
「志鶴の場合は、もともとの性質でああなっただけで、無理に引き込むのは良くないよ」
「それは、はい。いちおう自分でもそうは思ってるので」
嫌がる人を無理矢理とか、ないですよう、と言うと、ホントに? と疑わしげな声を向けられてしまった。
いや、いちおうさ、相手がどうなるのかとか、どうしたいのかとかは配慮した上で技術提供はしてきたつもりなのだけどね……ホントだよ?
「ま、後輩の扱いには注意をしてくれたまえ、といった感じではあるんだけど」
来年、新しい子がはいってきたら、あんまり女装の強要はしてやらないようにねー、と言われて、はいはいと、答えておいた。
そういいつつ、地面に生え始めた草花にカメラを向ける。
しばらくその撮影を見守ってくれているのか、先輩は静かにそれをにこにこ見ているだけだ。
それからしばらくして。
「でも、ま、なんていうのかな。いろいろあったけど、こうやってさ、後輩がちゃんとできて、続いていけるってのはちょっと、嬉しいなって思うんだよね」
木戸くんが来てくれてから、特撮研もずっとアクティブな感じになって、嬉しい限りです、と、撮影風景を見たせいか、彼女は晴れ晴れした顔を浮かべていた。
一緒に撮影をするのかと思いきや、ずっと彼女はこちらの横顔ばかりを見ていたのである。
「っと、そろそろ時間、かな」
そんなとき、携帯のアラームが鳴り響いた。
朝ご飯の準備はみんながやってくれるとはいえ、そろそろ戻らないといけない頃合いだ。山の朝撮影は名残惜しいけれど、こればっかりは仕方ない。
「そうだ。せっかくだから、拠点に戻る前にお姉さんのお願い、聞いてくれないかな?」
「なんでしょう? 無理がなければやりますけど」
はて。桐葉元会長が、あえてこうやってお願いしてくるだなんて、どんな内容なのだろうか、と思いながら問い返した。
「良い子の木戸くんの頭をなでなでさせてください」
「って、無茶ぶりですね!」
何を言い出すんですか、というと彼女は、んー、と、柔らかな笑みを浮かべながら、ただ言った。
「撫でたいので撫でさせてください」
犬かなにかか! とちょっと思ったものの、まあ、別に今はウィッグもつけてないので、撫でられること自体は問題がない。
「馬鹿なこといってないで、ちょっと撫でたらさっさと帰りますよ」
そろそろ、花ちゃん達が朝ご飯作って待っててくれてるんだから、と言うと、はぁいと素直な返事が来た。
「あぁ、朝のこんな時間に後輩の男子なでなでしてるとか」
もう、ちょー柔らかいし、髪の毛ふわふわだねぇ、と彼女はその感触を楽しんでいるようだった。
だから、その不意打ちになんて、まったく対応できるわけもなかったのだ。
「髪のお手入れもばっちりだとは、ホントに女子力高いよね……さすがは、ルイさんだ」
「ふえっ?」
えっ。その時何があったのか、すぐには理解が追いつかなかった。
いきなり、視界がぼやけたのだ。
「へへっ、これなーんだ」
「あっ、眼鏡!」
そしてぼやけた視界の中でもしっかりと彼女が黒縁眼鏡を手にしているのが見えた。
ちょ、頭を撫でる動作にここまで組み込むとか。
どういう手癖の悪さですか。
「ふむ、眼鏡を外すと自然と女声に切り替わる、か」
相変わらず可愛い声してるなぁと、じぃと覗き込まれても、こちらはあわあわと手を伸ばす以外にない。
「眼鏡返してくださいよ。っていうか、どうしていきなりこんな話をするんですか!?」
彼女は、こちらにルイさんと呼びかけた。となるとあらかじめそのことを知った上で今日の散歩に参加してきたのだろう。
「ああ、ゴメンゴメン。怯えさせるつもりはなくてねっ。ただその……自分の目で見ないとなぁってね」
卒業前の、なんていうか……答え合わせ、みたいなものかな、とにこやかに言う彼女は、ほいと眼鏡を返してきた。
それをとりあえず受け取って、ポケットに入れて置いたシルバーフレームの眼鏡に付け替える。
朝撮影で気分を変えるためにつけようと思って入れておいたものだ。
「いつから、知ってたんですか? その、あたしがルイだってこと」
眼鏡をつけてるものの、意識はルイの方にシフトしている。
自然にその仕草も、身体の動かし方もルイのそれだ。
「うわっ、なんかいつものしのさんと比べると、また印象が違うねぇ」
「そりゃそうですよ。スイッチ切り替えればこうなりますもん」
いつものは女装ですけど、これは違うから、というと、さらに興味深そうな視線をじぃーっと注がれてしまった。
「やだもう、ほんと別人だね」
かわいー! と彼女はわしゃわしゃと頭を再び撫でまわしてきた。
もぅ、どうしてそんなになでなでするかな、この人はっ。
「それより、質問っ。あたしの質問に答えてはくれないんです?」
「んー、なんかおかしいなーって思ったのは、まどかの様子がおかしくなってから、なんだよね。それでいろいろ考えて、これかーってな感じで」
あれでも抑えてたんだろうけど、知ってればああって感じの発言が割と多くてさ、と彼女は言った。
うむぅ。そりゃたしかに奈留先輩はあれで時々、変な事を言うのだけど。
それで疑いをもたれてたとは、厄介な話である。
高校の時はさくらのせいでバレてた部分はあったけれど、まさか大学になっても知ってる人から漏れることになるとは。
「なるるさんですか……去年の夏にばれたけど……そこからかぁ」
もうちょっとしっかり口をふさいでおくべきだった……と残念そうな声を上げる。
というか、なんだかんだで彼女を優先して撮ってあげてなかったところも問題だったのかもしれない、反省。
「いちおう、他のメンバーはわかってないと思うよ。お昼にルイさんの恋愛話を唐突に振ったのだって、わかってる人が聞けば、へぇってなるけど、いきなりその話にいくの? って反応だったし」
ま、ルイさんの話題だったらみんなウェルカムだけどね! と桐葉元会長はにこやかに言い切った。
「それで、その……ここまで黙っていてくれたってことは、このまま内緒にしておいてくれるってことでいいんでしょうか?」
さて。答え合わせは済んだものの、問題となるのはそのあとの対応というやつだろう。
ここのところ、めっきりばれるということがなくなってきているので、その対応にはいささか戸惑いのようなものを感じてしまっている。
すんなり行ってくれるといいのだけれど。
「ああ、そこはばらすつもりはまーったくないかなぁ。っていうか、答え合わせもこっちの自己満足みたいなところがあったし」
偶然こんな風に二人きりにならなかったらやらなかったよ、と朗らかに言う姿を見ると、問題はなさそうなのかなぁと、ちょっとほっとする。
「なるるさんには、コスプレ写真がっつり撮って欲しいって言われてるんですけど」
花実さんはなにかあります? と緊張を解いて言うと、あー、と彼女は少し前を歩きながら、んー、と少し考えるような声を漏らした。
「もうちょっとルイさんの持ち味を特撮研でも出して欲しいかな」
ま、隠しておきたい気持ちもわかるのはわかるけど、と彼女はにぱりと笑った。
「いままででも十分、撮影技術の底上げしてくれたとは思うんだけどね、もっともっと、特撮研を元気にしてくれると嬉しいかな」
くるっと振り返ってそう言う姿はいつものように笑顔ではあるものの、背景も相まって少し寂寥感のようなものを感じさせた。
もちろん、その姿もしっかりと撮影。
学生期が終わってしまう、そんな心情もそこには入っているのだろうか。
「さてと、ちょっと話が長くなっちゃったね。木戸くんも眼鏡変えて帰ることにしようか」
さー、朝ご飯はなんになるんだろうねーなんて朗らかな声を浮かべる桐葉元会長のところまで歩いて行くと、黒眼鏡を装着した木戸は、横から一枚、もう一度その姿をカメラに収めたのだった。
さて、あまり交流のない花実たんとの交流を! ということで、こんな仕上がりとなりました。
卒業というものは、やはり感慨深いものですね。カメラでずっと繋がってる木戸くんは例外として。
そしてちょっと、この話の最終話っぽい感じなラストですが、次話が旅行のラストの予定。
その後は二週間ほどお休みをいただきます。




