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493.特撮研は卒業旅行にいくそうです5

夜まで行くつもりでしたが、心なしかBBQがもりあがったので、今日はそこまでで。

「ふふー、まさか下ごしらえの風景を撮れる日がくるとは……」

 わーい、と写真を撮っていると、周りはおまえは何をやっているんだという反応だった。


 カメラを構えながら一人でちょっとじんとしてしまっていたからかもしれない。

 現在は、みんなでバーベキューができる野外の調理場で夕飯の準備をしているところだ。

 修学旅行とかでよく使うキャンプ場みたいな感じといえばいいだろうか。

 いくつかカマド用にくまれた石というか煉瓦みたいなものがあって、それぞれのスペースで火をおこして調理をするのである。


 夏場ならば他のサークルもたんと集まってくるのだろうけれど、この季節にこれを使おうという人はあまり居ないようでほぼ貸切状態だ。

 スペースの貸し出しにもお金がかかるので、たくさん場所を借りるということはできないのだけれど、この人数で三台分も確保できているのはすごいことなのだろうと思う。


「いや、だいたい俺ってこの手のことって、やる側に回るんで。撮る側って新鮮だなーって、ほらっ、鍋島さんカメラ目線しないで、そのまま食材を切ろう!」

 よし、いまだっ! と言いながら、お肉とか野菜の下ごしらえをしている彼女達の撮影を続けた。


 姉様達と旅行に行ったときは、完全に調理と分離してしまってたので撮れなかったけど、それがここでは撮り放題なのである。


「そうはいっても、馨、あんたすでに飯盒でご飯の準備とかしてるよね……」

「すでに火の準備も終わらせてるし……つーか、木戸おまえ、俺の出番がないだろう」

 火を焚くのは男の役目だろう! と時宗先輩が言ってきたので、はて? と首をかしげておいた。

 そりゃ、男の役目かもしれないですけど、なにか問題が?


「いやぁ、カマドの準備とか飯盒とか、ちょっと中田さんに教わったんで、せっかくだからささっとやっちゃおうかなって」

 いやぁ、さすがです、中田さんとうんうん頷いておく。

 もちろん、あのときもやったように、カマドの下の方には焼き芋を仕込んであったりする。今日は人数もいることだし楽しんでくれることだろう。


「中田さんって誰!? なに、アウトドアの達人とかなの?」

 誰さそれ、といわれて、うーん、とちょっと思考を巡らせておく。

 有能な人ではあるけれど、本当のことを言って良いものだろうか。


「友達の家の執事さん、かな。まあ気のいいおっちゃんって感じではあるけど」

 いろいろお世話になっております、というと、おぅ、執事、とみなさんちょっとその単語に驚きながらも、納得はしてくれたようだった。

 先ほどから、玉の輿がどうだという話もしているから、その延長上でそろそろ驚かなくなってきているのかも知れない。


 とりあえず落ち着いたところで、みなさんの下ごしらえの技前をしっかりと観察させてもらう。

 同学年の二人は危なげなく包丁を扱っている。

 さゆみちゃんはそのサポートという感じだ。

 上級生達はといえば、その様子を見たり、すでに火が入っているカマドのほうに手をかざして、あったかーいなんてことをやっていたりする。

 もちろん、その姿もカシャリと撮影。


 やっぱり志鶴先輩は料理には手を出さないつもりなようで、食べる係! をやる気満々なようだ。

 こりゃ、斉藤さんには料理上手くなってもらって彼氏の胃袋をわしづかみだね! とかメールしておかねばならない。もちろん今回の旅行の写真も友人として何枚か送るつもりだ。


「ほほぅ、あの執事さん、中田さんっていうのか」

 耳元でこそりとそんな声が漏れた。

 奈留先輩がつま先立ちで、横に立っていた。


「そうですよー。あれマジモンですから」

「ほー、そしてそれを従えるお嬢様……」

 ああ、いいっ、と奈留先輩は頬に手を当ててなにやら妄想に耽っているようだった。

 まあ、アニメとかコスプレ好きな人は割と執事とか、ああいう日常から離れた空気も好きだから、うっとりしているのだろう。

 もしかしたら奈留先輩なら執事カフェとかも好きなのかもしれない。


「下ごしらえかんりょー! で、木戸くんはご飯のほうはどう?」

「ああ、蒸らし段階まで入ってるから、焼ける頃には出来てるよ」

 じゃあ、焼くがいい! と偉そうに言ってやると、みなさまはそのノリで、いこーぜ! みたいなテンションになった。

 まあ、肉を焼くと言う行為は誰しもテンションが上がるというものである。


「肉肉野菜、肉野菜でよろしくでござるぅー!」

「いや、そこは野菜野菜魚介、野菜肉、ご飯がいいですよ、先生」

 健康診断やべぇって言ってたじゃないですか、と長谷川先生につっこみを入れると、ケイ氏がおかんみたいでござると、身を小さくしてしまった。


「でも、お腹に子供が居るときに野菜を食べると女の子が生まれるっていう噂は本当なんでしょうか?」

 そんなアニメありましたよね、とさゆみちゃんは豪快にお肉をトングで掴みながら、網の上に並べた。もう野菜から食べようという気配はゼロである。


「それはナンセンスなんじゃない? 性別なんて受精時に決まるんだし。父親由来の遺伝子にY染色体が入ってるかどうか、って話じゃない?」

「でも、それが活性化する条件として、肉がいるとかそういう話は?」

 どうでしょうか? と志鶴先輩の前に茄子を配置しながら尋ねてみる。

 世の中には半陰陽の人もいるわけで、厳密に遺伝子だけで見た目が変わるわけでは無いというのがこの業界のお話である。


 え、木戸がここらへんに詳しいのは、調べたのと、千歳から泣き言を言われてるからである。自分の中にY染色体がうようよしてるかと思うと、身の毛もよだつーとかなんとか。視認できないんだからいーじゃん、とその時は答えたのだけど。

 なんにせよ、育った身でそこまで変えられる訳もないので気にしないようにするのが一番である。


 その上で、どーせ木戸先輩はY染色体なんてないんでしょー? とかふてくされながら言ってきたんだけど、さすがに、そこはあると思うんだよね。検査はしたことないけど。


「活性化しなかったのが、僕みたいなのだっていいたいわけ、それ?」

 ほどよく焼け上がったお肉に箸をつけながら、志鶴先輩はこちらに、むーとモノ言いたげな顔を向けた。

 その姿ももちろん一枚撮影。

 さすがに斉藤さんに上げるかどうかは保留である。


「それいったら、活性化しなかった最たる人が木戸くんじゃない?」

「そうだと思います! ってか本当にY染色体入ってるのか疑問です」

 きっと、本当は女性で、お母様が小さい頃にお肉食べ過ぎちゃったんですよ! とさゆみちゃんまで元気に言い切ってくれた。


 もー、母様に限ってお肉ばっかり食べるってことはないと思うけれど。


「なにを言ってるでござるかっ! ケイ氏はY染色体が入った上でこの美貌だからレア価値が高まるのでござる! いまさら実は女子でしたっ、みたいなこと言われてもげんなりするだけでござるよ……エレナたんに継ぐ逸材っ」

「ああ、長谷川先生はそうでしょうね。でも、男の娘なんて幻想ですって! 入学したときから、私なんてずーっとしの先輩のことばっかり見てるんだから」

 あれが男の娘であるはずがない、とさゆみちゃんは、長谷川先生と言い合いをしながら、カボチャとタマネギを並べていた。


「まあ、んなこといいから、肉食おう。火力強いから下手すると炭になるぞ」

 ほれ、肉はたっぷりあるから、ちょっとは食って肉をつけろと、時宗先輩はこちらに焼き上がったお肉を差し出してきた。

 ううむ。野菜から行きたいのだけど、こうなったらしかたがないか。


「じゃー、とりあえず、焼き上がりということで」

 いただきます! とみなさんで唱和をしてからバーベキューが始まった。


 お肉ははっぱに巻いて食べたのだけど、ほどよい焼け具合で口の中に甘い油の味が感じられて幸せだ。


「肉をつけるなら志鶴先輩もだと思うんですよね。あんなにほっそいとか、彼女をお姫様抱っことかできないですよ」

 ほれ、お肉をお食べとすすめると、みなさんからも彼女をお姫様抱っこか! とキラキラした目を向けられていた。

 お肉並に食いつきやすいネタである。


「お姫様抱っことかできなくてもいいじゃん! てか、それで評価決まるってちょっとみんな夢見すぎだよ」

「えええ、でもお姫様抱っことか、木戸先輩も憧れますよね?」

 ほらほら、と言われていや、憧れはしないなぁと首をひねる。


「撮影する被写体としてはとてもいいかな! タキシードとウェディングで、新婦が抱えられてるところとか、すごく絵になりそう!」

 姉様の時やってもらえないかな……いや、新宮さんでは無理か、なんてちょっと思考を巡らせる。


「こいつ、また写真の話だよ……まあ、いまさらだけど」

「でも、やっぱりできないよりできたほうがいいと思うんですよ! ほら、腕の筋肉のためにもお肉を! タンパク質を!」

「って、僕にプロテイン飲めって? やだよっ。腕太くなったら可愛い服きれな……あ……」

 周りがお姫様抱っこのボディづくりについて話をしていたら、なんとまぁ、志鶴先輩ったら、うっかりぽろっとこぼしやがりましたよ。

 お肉を、ではなくて本音を、ね。


「あーー! やっぱり志鶴ったら女装やめたいわけじゃないんじゃん!」

 可愛い服着たいんじゃない! と花実先輩から盛大な突っ込みが入った。

 思わず、お肉を取る手が止まるくらいの衝撃告白である。


「うう、べ、別に、我慢してるわけじゃないし。その……ちょっとは彼氏っぽくしておきたいなっていうか、就職だってスーツきないとだし!」

 あわあわとしながら、自然と女声で話している志鶴先輩に、おまえもか……と木戸は思いつつ、はむりと焼けたカボチャを口に入れた。ああ、甘くて美味しい。


「もー、彼女っていうなら、私達にも紹介してくださいよ!」

「そうですよ、ほら、学校に連れてくるとか。今度の新入生歓迎会あたりいかがですか!?」

 さて、そのネタに大幅に食いついたのは、女性陣達でありました。

 恋愛ネタに飢えている彼女達は、思い切り前のめりになりながらキラキラした目を向けていた。

 いや、隣からつめよるのはいいけど、カマドの上に顔を出すのはやめようか、危ないから。


「馨には会わせたし……みんなにまでお披露目しなくてよくない?」

 みんなだって恋人できてもわざわざ学校に連れてこないでしょ? と言われて、どうだろう? とみんなは顔を見合わせていた。


「相手が、優しいさわやか系イケメンなら連れてきます!」

 みんなに自慢しまくりますっ、と鍋島さんがあり得ない妄想を曝露してくれた。

「私はカメラが趣味な彼氏とかできたら、特撮研に紹介かなぁ。同じ趣味で盛り上がれそうだし」

 そうじゃない人だったら、ちょっとこの特異な環境に引かれるかもしれないし、と花ちゃんは悩ましげな答えを返していた。


「ほらほら、木戸くんからもなにか先輩に言ってあげてよ。はしっこでキノコばっかり食べてないでさ」

「いや、カボチャとかタマネギとかいろいろいただいてるよ?」

 キノコばっかり食べるとかはないから、というと、バランス良く食べるのはいいことにござるな、と長谷川先生はびしっと親指を上に上げていた。

 その隣で時宗先輩が、顔を押さえているのだけれど、なにかあったのだろうか。

 もしややけどでもしたのか。大丈夫だろうか。


「まあ、俺から言えるのはあれですね……」

 周りがこちらに期待を込めたような視線を向けてくるので、木戸はふむ、とあごを軽く撫でてから言うことにした。


「彼女に会うときと、リクルート活動の時以外に女装すればいいじゃないですか。週末女装みたいな感じで。パートタイムで女装するのもそれはそれで楽しいものですよ」

 そもそも、今までフルタイムだったのが驚きなぐらいです、と軽く肩をすくめて見せると、周りの視線が妙に冷たい感じがした。

 え、志鶴先輩が女装したいけど、我慢してるーってことについてじゃないの?


「どうして木戸くんはこう……いい? 私達は志鶴先輩の彼女が見たいの! そりゃ木戸くんからしてみたら、顔なじみなのかもしれないけど、私達にとっては大イベントなの!」

 それがどうして、女装の方になってしまうかなぁ、とみんなに変な目を向けられた。

 うぐ。むしろどうして恋愛話の方に夢中になるのかがこちらにはわからない。


「志鶴先輩にとって大切なのは、女装の方だと思います」

 こそっと言ったら、先輩一人はとてもいい顔をしてくれた。

 一枚いただいたので、あとで斉藤さんにプレゼントである。


「さぁ、写真だけじゃなくて、僕が育ててた肉もお食べよ!」

 タンの良いところだから! とお肉まで一枚いただいてしまった。

 よっぽどいい反応をしたらしい。


「もぅ、せっかくあのままの雰囲気で問い詰めながら連れてくる言質でも取ろうとおもってたのにー」

 木戸君の甲斐性なしー! と同期の二人にぶーぶー文句を言われてしまったものの。


「ま、そこらへんはあとで本人としっかり交渉すればいいと思うよ」

 会いたいのならば、押していくしか! と言いながらも、先輩からいただいたタンをいただいた。

 塩とレモンの味が付いているのでそのまま噛みきると、酸味のきいた良い味が口に広がった。幸せである。


「写真ならいくらでも見せるからさ」

 ほれ、我慢しようか、というと、みんなの顔がぱぁーっと明るくなった。

 写真だけでも是非とも! みたいな感じだ。

 幸いこちらには斉藤さんの写真のストックは山ほどあるのである。

 それこそ、最初にルイとして彼女と接した写真すら、ブルーレイの中にしっかり焼いて保管してあるのだ。

 

「んなっ。馨! それは反則! ちーの写真見せびらかすとか駄目っ、やめてっ」

 ってか、僕の肉を返せー! なんて言われてしまったけれど、そればっかりはもう無理なのです。残りもぱくりと口の中に放りこんで、あわあわする先輩の姿を一枚抑えた。

  

「じゃ、写真の公開も先輩の許可を取ってということで。それよりもみんなご飯はどうする?」

 良い感じに炊きあがってるけど、というと、みなさんからはごはーん! と盛大に手が上がった。すでに興味は食欲の方に向かったようだ。


 うんうん。香ばしく焼けたお肉を食べていると、ご飯を欲しくなるのが日本人というものである。とくに飯盒でつくったご飯って、家で炊くのとはまた違う良さがあるからね。


 かくして、飯盒の中に入ったご飯はみなさんに行き渡り、志鶴先輩の彼女の話、は一段落したのだった。

 食欲が満たされると、割となんだかどーでもよくなるのは、人間の習性というやつなのかもしれなかった。


 さて、夜に写真をねだる声を受け続けることになるわけだけれど。

 とりあえず今は、食卓を囲むその顔を、思う存分撮ることができたのだった。

自分の染色体が嫌だ! というトランスさんがどの程度いるのか私は存じませんが、そこまでいってるなら身体嫌悪強かろうなぁと思うばかりです。

そして恋バナの末路はこんなんですよね。

野菜食べると元気な子をうめーる。

ああ、焼き肉いいなぁ。


さて次話はお風呂と男子会っすね。

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