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051.

 待ち合わせ場所に行くと、そこに待っていたのは、ま。予想通りといいますか。

 多少はありえるのかなぁと思った相手だった。銀香で美咲ちゃんと話をしているときの内容で、あいなさんが佐伯さんのところの人間なのは知っている。もちろん「佐伯さんが誰なのかはルイは知らない」設定なので、いろんな人に囲まれて仕事してるんだなぁ程度の反応しかしなかったけれど。

「あいなさん?」

「あら。ルイちゃんきてたん?」

 珍しいところで会ったと思っているのだろう。彼女は一瞬呆然としながらそれでも、笑顔でこんなところでどうしたのーと近寄ってきてくれた。

 さて、そうはいっても佐伯さんの顔を知らない設定な人間としては、ここはあいなさんが来るはずがないと思っていた方がいいのだろう。まさに偶然。ばったり。驚きを隠せないと思っていた方が絶対にいい。  

「って、その腕章……話にでてた現地の子ってルイちゃんだったか……」

「えっと……佐伯さんと同じスタジオってことですか?」

「ああ。前に話したことあるでしょ? あれがあたしのスタジオのおやっさん。ま、それはともかく朝撮った写真、チェックさせてもらってもいいかな?」

 言われるままにカメラのメモリーカードをあいなさんに手渡す。

 おやっさんは撮影が押しているのかまだ待ち合わせ場所に来ていない。腕章で見つけて話をしておいてくれとでも言っていたのかもしれない。

 どのみちあのスケジュールリストをみるに、そんなに時間的余裕はない。一時から休憩が20分ほど入っていたけれど、もともとはその時間にご飯を食べたりといったことをするつもりだったのだろう。

「枚数もうちょっとあってもよかったかもだけど、参加しながら撮影するスタイルは悪くない。十分使えそう」

 よっし。

 とりあえず、二時間分に撮影したデータを根こそぎ手持ちの端末に移動していく。その前の分の学校の入り口やら学園祭が始まる雰囲気なところのデータもまるまるコピーしていくのは、すがすがしいほどだ。さすがにここに来るまでの写真には手をつけない。今までもスタッフが風邪引いてというようなことはあったのかもしれない。あまりにもあいなさんの手際が良すぎてどれだけ慣れてるんだろうと思ってしまう。

「あとは引き継ぐから。腕章もくださいな。それと学園祭終了時間になったらここに集合でいいかな? おねーさんの普段のお仕事を見せてあげる」

 風景のほうが好きだけど、そんだけじゃ食っていけないのです、とあいなさんはいって、スケジュールの時間どおりに目的地に向かっていくようだった。ちょうど部屋を出ようとしたところ、佐伯さんと鉢合わせておつかれさまですーとか、あんにゃろー体調管理しっかりさせてやりますだの、いろんな声が聞こえた。




「おまたせー」

「ああ、ルイちゃん。もうお仕事の方はいいの?」

「それはこっちのセリフ」

 教室に向かうと笑顔のエレンがとことここちらに寄って来る。

 どうやら案内のほうは他の子がやっているらしく、今はもうフリーらしい。

「なんとか代理の人も来てくれて、午後はその人とおやっさんが撮影だって。なので、これからはエレンの雄姿を撮ることができる」

「雄姿っていえばそうだけど、できれば僕じゃなくて教室の気配とかそういうのとって欲しいかも」

 それ、雄っぽい意味合いで言ってるでしょーと言われて、てへーと返事をしておく。勇姿と雄姿両方漢字があるけれど、今回は男装ということで、雄っぽい姿の意味合いでもちろん使っている。

「今は腕章も返しちゃってるし、撮るのにちょっと躊躇します」

 さっきまでばしばし撮っていられたのはあれがあったからである。

 むはーとか言いながら撮影しまくっていても、腕章の力は偉大。シャッターを切りまくっていても、ああ、お仕事の人かーと素通りしてくれるのだ。

「なら、代わってもらったっていう相手に撮ってもらうしかない?」

「うぅん。あいなさんならいくらでも撮ってくれるだろうけどね。前半と後半で写真が違うなんていう話になったらちょっとドキドキかなー」

 あいなさんなら申し分なく、撮ってとおねだりをすれば撮ってくれるに違いない。

 何も言わなくても、ちょっと頑張ってる所だとか、良い瞬間をあの人は狙って撮るだろう。

 もちろんルイだってそういうところは狙っているし、目についたところは確実に押さえたと思う。

 でも、果たしてどの程度の差になってしまうのか。使えるのだけ使ってもらえればいいっていう風には思っていたけれど、並べて比較されるとなるとそれはそれでダメージが大きい。

 いや。いいんだ。きちんと差をはかれるのはむしろ、良い機会だと思っておこう。

「あいなさんって、ルイちゃんやさくらちゃんが教わってるっていう人じゃなかったっけ?」

「そ。だから偶然こんなはなしになっちゃって、逆にこうドキドキというか興奮気味というか」

 やれるだけのことはやったにしても、それがお金をもらっての仕事になるのかどうかというのは、やはり難しい。佐伯さんには出来高でという話をさせてもらったけれど、実際どこまでが採用されるのかがわからないので、今からどきどきしてしまうのだ。

「写真は好きだけど、たとえばそれを仕事にするのだとしたら、何が必要になってくるのか、とかね。そういうのも合わせて、経験がつめるといいなって」

 あいなさんはおねーさんの仕事モードを見せてやるみたいな感じだったけれど、実際どういう風に働いているのかはかなり興味はある。私的なつきあいはあっても、仕事としての姿なんて写真展で何回か見たくらいしかない。

「あはっ。ほんとルイちゃんったら写真のことばっかり」

 本当にぶれないねぇと称賛の声が上がった。もしかしたらあきれも半分くらい入っているのかもしれない。

 わかっております、というエレンの言いぐさに、まーその通りですよねーと思わせられる。もはやいうまでもなくルイは写真のことしか考えられないのだ。

 そんな会話をしていたら、不意に視線を感じた。こちらを伺ってるような視線の先を確認すると、ぴくりとその相手と目があった。このクラスの生徒さんだった気がする。エレンと話している自分に興味でもあるのか、彼は目が合ったとたんに、うわうわとそっぽを向いてしまった。なんだろう。女子慣れしてないのか、そんな仕草がかわいらしい。

 こちとら女子ではないのだが。

 エレンがちらりとそちらを見て手招きする。来ていいよという合図だろう。

「春井洋次といいます。エレンの親友な僕としては、その。ルイさんをエスコートさせていただきたいなと」

 がちがちに固まりながら、女子と話をしようと必死な姿はむしろ称賛に価してしまう。

 共学で生活している身としてはそれなりに女子と話すこと自体は難しくもないのだけれど、慣れてないとこんなものなのかもしれない。慣れというのは恐ろしいものだ。

「エレンがいいっていうなら、別に私としてはかまいませんけど」

 いけない世界を見ちゃうかもしれませんけど? と苦笑を漏らすとよーじくんは、ぜひ見たいっすとかわいい反応をしてくれる。

 実をいえばエレナとルイの間では一つ取り決めがある。といってもエレナがそれを理解しているかは疑問ではあるのだが……言うだけは言ったしこちらはそれくらいの心持ちなのである。

 それは、お互いが男女の立場で一緒に居る場合の話。男同士や女同士ならば別に、あんまり気にする必要はなく、普通に付き合えばいいだけの話だ。けれども世間的には一応、男女の中にはそれなりの距離感というものを取ってるべきという考え方があり、それが狭いのが恋人だったり家族だったりするわけで。

 ルイだって、男の人相手にどの程度の距離感で話せばいいのか、未だによくわかっていないところがあるくらいで、自然に対応すれば相手に勘違いさせるし、とはいえ距離を置きすぎるのも意識していますという意思表示みたいで嫌なのだ。

 そんなわけで、お互いが見た目上異性として会う場合、一定の距離は取ろうと伝えて置いたはずなのだけれど。

 今までのことを見てもらってわかるとおり、エレナ×木戸だろうと、エレン×ルイだろうと、はっきりいってまったくお構いなしな距離感である。ただ、本人が言うには感情が高ぶると親愛の表現自体は隠しようがないんだよーってことらしいのだが。

 おまえはどこのアメリカンだよってつっこみを入れたら、北欧の血がそうさせるのかもみたいなことを言っていた気がする。お母さんがハーフなのだったよねたしか。そしてそのお母様はもう。ということらしい。

 もちろんそんなエレンだって、家がらみのことになれば気を遣うし、家のパーティーの時なんかは紳士を取り繕ってくれるのだけれど、基本的には、ルイとエレンという組み合わせでも、女子同士のノリになりがちなのだった。

 もう少し自重しないと、いろいろ危ないと思うのだけれど、まったく改善してくれる気配はない。

 そんなのつまんないよーと、ふくれられてしまってはあのきめごともいまさらという話になるのかもしれない。

「ルイちゃんといけない世界って。たとえばこうやってきゅーって密着しちゃったりとか?」

「おふっ。お前いくらなんでもそれは、ちょっと、やり過ぎというか」

 背後で同意のうなずきがいくつも見えた。どんだけ仲良しですかといった感じだ。純真な男子高校生のみなさまには刺激が強すぎるらしい。

「でもルイちゃんいやがらないもーん」

 そりゃ、そうですよ。恋人ではないけれど同性の相手だ。しかもこんなかわいい子に抱き着かれて嫌な気になる人がいるのかと思う。いや、まあ男同士で抱き合うってそうそうないだろうけど。

「あんまりはしゃぎすぎるのもね。刺激が強すぎちゃうから」

 落ち着こう。とエレンの両肩に手を置いてなだめる。

「えと、二人は実は恋仲とかそういう」

「まさかそんな」

「それはないよー」

 二人して同じように否定の言葉がでて、なおさらよーじくんは困惑しているようだった。

 男女の友情ははたしてあるのかとか、そういった感じなのだろう。

「ルイちゃんは大切なお友達。ちょこっとこうやってスキンシップしちゃうのは、別段嫌がられないし大丈夫」

 ああ、でもよーじが触ったらさすがにセクハラだから! と一応釘もさしてくれる。

「それで、よーじさん、でしたか。なにかおすすめの出し物とかあります?」

「はいっ。そりゃもう。食事がすんでなければそちらのほうへ、三時から演劇部の舞台がありますからそちらにご案内でも」

「それなら、とりあえずはご飯かな。エレンはなにか食べたの?」

「ん。僕もまだ。じゃあそれにしようか」

 無料販売だからたくさん食べていくといいよ、とエレンがこそりと耳打ちをしてくれる。

 そう。食事に関しては入口でもらった冊子についていた一番後ろのチケットで無料でいただけるシステムになっているという、なんとも経済的にありがたい学校なのであった。

 うちはちゃんとお金もらってたはずだけどなぁと、少し遠い目をする。

 いや。いけない。そういうのは考えるとドツボにはまるだけだ。

 食事もいただける喫茶があるというので、そこに案内してもらうことになったのだった。




「ええ、と」

「どうしてこうなっちゃったか」

 笑顔を張り付けながら、それでもうわぁーという思いが内心に渦巻いていた。

 男子校。それはいわば、無法地帯というところだろうか。エレンもそこがそうなっていると知らなかったらしく、おやまぁと笑顔を固まらせていた。

「カフェ、クララへようこそっ!」

 少し野太い声で、口調だけはかわいらしくそんな声が聞こえた。

 ピンクの店内。フリルたんまりの装飾に、小物類もずいぶんと凝ったものが置かれてある。

 だがしかし。そう。ここは男子校なのである。

 案内にでてくれた人は、フリルのエプロンをつけた、狙ったようにごつまっちょなメイドさんなのだった。

 ネタ女装が文化祭にはつきものだ、というのは知識として知っているし、去年木戸の学校でもやっていたところはあったし、忌避感自体はないのだけれど、なまじ綺麗な女装ばかり見てる身としてはショッキングな光景である。

「別にこれ、まっちょを集めたわけじゃなくて、くじ引きと役割分担だって話で」

「ええと、どうして運動部に偏っちゃったんでしょうねぇ……」

「文化部のほうが料理担当になるみたいな感じだったのかな、あはは」

 苦笑気味にエレンからメニューを受け取ると、ぺらっと一枚だけのそこには名前が載っているだけだった。けれども一般的なものばかりなので特別わからないというようなことはない。内装や給仕はこうだけれど、庶民の定食屋という感じのラインナップだった。そちらをちらちらと見ながら決めなきゃと思いつつも、どうしても視線はまっちょメイドさんたちに向かってしまう。

「でも、いちおうは足の処理とかやってるんだね。けっこー密林状態って人もいるって話は聞いたことあるけど」

「そこのところは、料理店という部分もあって徹底的にやったって話らしいな」

 ときおりあごのラインが赤く腫れてる子がいるのだけれど、どんなケアをしたんだろう。

 ルイはいちおう一般男性より毛は薄いほうだが、処理してないわけでもないので、そのしんどさは分かるつもりだ。

 皮膚を冷やしすぎると毛穴がきゅっとなってしまうので、抜く前は温めて抜いてから冷やすのがベストなんだろうか。抜き方の基本は毛穴の方向に向かって抜く。無理に反対に引っ張ると皮膚がこすれて赤くなるのだ。そもそも抜くと一口にいっても、ルイくらい薄ければ良いのだろうが普通の男子が抜くとなると一大事業だろうと思う。口周りだけしか生えない人でも最低300本くらいは抜かないといけないのではないか? あまりにも本数が多ければ剃るしかないのだろうけど、剃ると毛の断面積が広くなるので黒く跡が残りやすい。その上にファンデーションをのせると青っぽくなるという弱点もあるので、断然ルイは剃るより抜く派である。

 ルイとしての活動をこれから続けるのなら、三年になった段階でレーザー脱毛をしようかとも考えるほどだ。金銭的には必要経費だと思う。今の段階ではそうそう泊まりにいくということが少ないけれど、大学に入ったら泊まり込みで撮影ということもあるかもしれない。

「ルイちゃんのすべすべな足はやっぱり剃ったり抜いたりしてるのでしょうか?」

 エレンがちらりと足をじぃと見ながら面白半分で聞いてくる。

 だから苦笑を漏らしながら、

「それは内緒。いちおうスキンケアは気を使ってるけど、男の子の前でする話じゃないもの」

 メニューを上から下までじっくりと眺めながら余裕で返す。こちらとしてはエレンのスキンケアの仕方のほうが気になるくらいだが、お風呂の入浴剤が大変にゴージャスだったりしたらそれはそれで真似できないので、自分なりの方法を繰り返すだけだ。

「ルイさんの足って……確かにきれいですよね」

「ありがとうございます」

 ちらりと彼の視線が下に向いたので、くすりと笑いながらお礼をいう。

 そうしたらよーじくんはびくりとして、メニューの方に視線を移した。無意識に視線をやってしまってびくりとなるなんて、かわいい男の子である。

「二人はきまった? それなら注文しちゃうけど」

 さすがはルイちゃんとエレンに褒められたけれど、別にこちらは男を手玉にとる魔性の女ではないのだ。とはいえただ見せすぎるのもあまりよくないのは、青木の件で重々理解している。

 注文はすでに決まっているので、まっちょなおねーさんに声をかけてオーダーをお願いした。

「おまたせしやしたー、クララ特性、残念カレーです」

 それからさほどまたずに、注文の品が届けられた。もはや可愛くしようという考えはないらしく、全力で男らしく鋼の肉体が動いていた。もちろん一緒にフリルも揺れていた。

 カレーの上にマヨネーズだろうか「残念でしたな」と書かれているのがとても斬新である。

 カレーの辛さによっては残念デス、になっていたりするらしい。

「うっ。カレー自体はすごくスパイスもきいてていいお味」

 スプーンの上にルーとごはんをほどよい比率ですくって口の中にいれる。

 お米の炊き方もしっかり少し硬めに炊かれていてルイの好みの味だ。

「ほんと。料理作れる子がいたってことなのかな。ルイちゃんのとこは料理の監修って誰がやったの?」

「うちは、料理研究会の子が一人いたからねぇ……ま、ご存じの通りケーキは外からの仕入れだったし、飲み物とサンドイッチくらいならなんとかって感じだよ。男子校じゃないしね」

 男子校でこの味が出せるとはっ、と感動ぎみにいって見せると、よーじくんが口を挟む。

「男子校だから、じゃないかな。女子って割と普段からやってるとアバウトになるだろうし、その点、あんまり日常的にやらない男子の方が職人気質っていうか、そんな感じ?」

「身近な女子は、たいてい料理できないので、普段からやってるっていうのには同意できないけど……言わんとしてるところはなんとなくわかります」

 なんというか。料理できない女子症候群でもあるんだろうか。ルイの身近にいる女子は、女子力が極端に低い。ルイが高いのではなく相手が低いのだ。そして彼女達はたいてい適当にご飯を作る。

 レシピ無視で思うままにやらかしてしまって失敗というのがたいがいなのだ。

「このギャップはなんとも言えませんけど、おいしいです」

 はふはふとあついご飯を咀嚼しながらその深い味わいに舌鼓をうつ。

 そして視界にはいるのは、ごついおねーさんたちなのだ。 

 けれど、視線を巡らせていると、その中に一つの発見があったのだった。

「あんな逸材がいるとは」

 ほぅ。少し離れたところでちょこちょこと動いている影があった。

 他のごついウェイトレスさんに混ざって一人だけやけに華奢な子がいる。

 身長はルイよりも少し高いくらいか。髪は他の人に比べてずいぶん控えめな肩くらいまでの地毛で、真っ黒ではなく光を浴びると少しだけ茶色に輝く柔らかそうなものだ。

「僕も割と学校の行事の参加率低いから、全然気づかなかったけど、あんなにかわいい子入ってたんだ」

「えーと、エレンさん? さらっと言ってるけど、あれ、女子じゃねーの?」

 よーじくんがエプロン巨人たちの中に見つけた小さな花をめでるように鼻の下を伸ばしながらいった。

 けれど、それは原則ない話だ。

「男子校の学園祭の助っ人に女の子が一人なんていう状況、私なら勘弁してほしいところです」

 そこらへんを考えるとちゃんとその子は男の子なのだ。もちろんルイなら見た目でわかるが。

 たしかに肩幅やらといった全体的な作りは小さめだし、男子特有の横幅という感じがまったくない。けれども足の筋肉の付き方だとかは若い男の子の足という感じもする。

 身長に関してはルイは小さいほうから数えて何番目、エレナは一番小さいくらいな感じなので、たぶん男子の背の低い方というカテゴリだろう。

「そりゃそうだけど、めちゃくちゃかわいいじゃん……いやエレンもかわいいけど」

 でも女の子の格好なんて全然してくれないし、とよーじくんは少ししょんぼりした。

 なるほど。エレナの存在は学校にも内緒ということなのか。ちょっとくらいならこういうイベントなら出してしまってもいいのにと思うものの、性別不明の男の娘コスプレイヤーの秘密は厳重に保管されているらしい。

 ちなみに木戸に女装の話が来たことは一度もない。来ても全力で断るつもりだが。

「男の人が多ければその中に一人くらいはかわいい子がいるってことなんでしょうか」

 うちの学校にも後輩で一人すさまじくかわいい男の子がいるから、男子の人数というよりもあくまでも偶然の産物なのだろうけれども。こっちの学校で一年二年にそんな人がいるなら三年生でもいるんじゃないのとも思ってしまう。

「でも、うるおいっていう意味では、エレンみたいなのは本当に癒しっていうか……いえ。他校の女子と付き合えるなら、それはもうそれが一番なのですがっ」

 本音をきりっと話しながらも、うわ、かわいいとよーじくんの目は後輩の子に注がれっぱなしだ。

「これで小学校なら、いじめの対象になったりとかもするんでしょうけど。まともにやれててちょっと安心です」

 少しだけおねーさんぶってぽふぽふエレンの髪をなでる。

 さらっさらのストレートの髪は普段のウィッグよりも肌触りが最高だ。

 ウィッグよりもやっぱり髪質という意味合いでは地毛のほうがいいのではないかと思う。

 お互い、学校生活がある以上無理だし、エレナにしてみればいろいろなキャラをやる手前ウィッグは必須なのだろうけれど。

「こんなかわいい子をいじめるとか、もうわけがわからないですね。たしかに一年の時はちょっとおどおどしたりってこともあったし、もうちょっと自己主張してほしいって思ったりもしたんだけど、今年になってからは特に明るくなってさ」

「ん。それはルイちゃんのおかげ」

「えーそこで、あたしの名前が出てくるっていうのはどうなの?」

 いらぬ誤解を生みますよと苦笑を浮かべると、だって本当のことだもんと腕にきゅっと抱き着いてくる。

 男子への恐怖心。出会ったころのエレンはもう本当に子ウサギのようにびくびくして、男の子に対してはかなり人見知りするようなタイプだった。エレナ状態ならばいくらでも男の人をさばけてもいざ衣装をはぎ取られてしまえば、おびえることしかできないようになる。

 正直木戸はそんなに暗い小中学校生活を送ってきたわけではない。

 確かに小柄なほうだけれど、スポーツができないわけでもないし、普通の男子並みな生活だった……と思いたい。男子からラブレターが何通もくるのが普通かといわれたら微妙ではあるのだが、特別いじめられてたりということはなかったし、男子はあほだけれど怖くないという認識はある。だから本当のところエレンの怯えの本質はわからないのだけれど、木戸と一緒にいることでなにかが吹っ切れたのだとしたら、それはそれで嬉しいことだ。

「いいなぁ。ていうかエレンはいくらなんでもルイさんにひっつきすぎだろ」

 けしからんと、よーじくんはエレンをひっぺがす。

 やんと、エレンは少しだけかわいい声を漏らしながらそれでもあむりとあつあつのピラフを口にいれて笑顔を浮かべていた。

 ほほえましい学園風景である。

 祭りでなければ女装なんて出来ないという常識が昔はございました。そんなわけでネタ女装話であります。いままで華奢な子ばかりでてきてましたので、今回はごつめで! 毛の処理は女装技術の基礎中の基礎で、これをきちんとやりこなせるようになると精度が上がります。

 そして調べたんだけど、髭って1㎠で120本くらいの密度なんだそうで、口周りに生えるのなら1000本くらいはみっしりいってしまう計算に……orz 

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