465.懐かしいメンバーと女子会3
ちらりと居間のほうを見てみると、いっぱい食べたねーと、女の子三人がお腹をさすっていた。
まったく、時間の流れなど関係なく三人は仲良しさんである。
「さてと」
とりあえず、メインの料理は終了ということで、いまはテーブルの上は綺麗に片付けたあとだ。
そして、いまはやかんでお湯を沸かしているところ。
デザートタイムということでシフォレのケーキを出そうと思っている。
一緒にチョコもって思ったけど、さくらを筆頭に、けーくんがもらったのはちゃんと自分で食えとぶーぶー言われてしまった。
あんたら、男からのチョコはガンガン食べてましたよね? それにだってルイへの思いはたっぷりだったと思いますけどね? ちょっと残念なのがいっぱいなわけですが。
「ま、でも、いっか」
ふふ、と取り出したケーキを見るとにんまりしてしまった。
本日用意しているケーキは、最初山田さんも参加だと思って10ピースである。
ええ、最後の二個を奪い合いになるのがいまから予想済みではあるのだけど、それは仕方ないと思うことにしよう。
「おぉ、今日のケーキは見事に真っ黒だねぇ」
「それ、季節限定だったりする?」
テーブルに持っていったらみなさん思い切りその茶色のやつらを凝視していた。
シフォレのケーキといったら、アップルパイやら、苺ショートやら、モンブランやらいろいろあるわけだけど、茶色いこいつらは初めての登場である。
ルイも数年通っているけれど、実は今年初めてという商品なのだった。
「うん。なんかいづもさんがよーやく、バレンタインイベントやる決心がついたとかでね。今年はカボチャもやったし割とチャレンジな年みたいだね」
「へぇ。せっかくの売り出し時期なんだからもっと早く始めてればよかったのに」
あそこもできてもうけっこう経つでしょ? といわれて、まあね、と答えた。
高校時代から公園の端にあるあの店は、今では町の人気店である。
「彼女もあれでいろいろとトラウマとかあるからなぁ。バレンタインなんて女の子が主役のイベントに手をつける気にはならなかったんだって」
普段はチョコムースとか出してたりはするんだけどね、ルイは軽く肩を竦める。
気持ちはわからないではないけど、これだけの種類のケーキを作るくらいに興味があるならもうちょっと早くに折れてもよかったのにと思うのは、しかたないことだと思う。
だってさ! チョコケーキの類いで十種類もあるんだよ!? 今回のこれ、一つのケーキをホールで買ってきたわけじゃなくて、全部違うのを一個ずつ十種類なのです。
いやぁ、やらかしたわー、と本人はいい顔をしていたけど、やりすぎだと思う。
「ん? あれ? でもこれって今日の朝買ってきたの?」
「うん。ちょい開店前だったけど、うちらの仲だしね。あのルイちゃんがこんなにたっぷりケーキを買ってくれるだなんて! とか愕然とされちゃったけどね」
「たしかに、あんたがこれだけの量をっていうのは珍しいわよね」
昔はコロッケ一個買うのに躊躇するこだったというのにっ、とさくらはわざとらしく驚いて見せた。
いやぁ、さすがに今は収入もちゃんとあるし、これくらいなら大丈夫ですよ。お外にもってくご飯はお弁当ですけどね。
「今日15日なんだけど、まだバレンタインなの?」
それはそれでミステリーと、佐々木さんが首をかしげている。
ああ、なるほど。基本的にバレンタインデーを過ぎたらバレンタインフェアは終了という印象が強いのだろう。
「いづもさんなりのポリシーだってさ。バレンタインフェアに乗っかる気分にはなれたけど、その日で終了みたいなマネはしない! 抗ってみせるっ、くっ、だそうで」
一週間きっちりやるんだって、というと、おぉそれはそれで需要がありそうかも……という声が上がった。
実を言えばバレンタインフェアは明日までやるということなので、それまではこれらのケーキはいただけるのだ。
普段はでないメニューにみなさん喜んでいたし、バレンタイン当日に彼氏と一緒に食べるという人はもちろんのこと、あげるだけじゃなくて自分でも食べたい子達の心理的には、翌日なら自分で食べてもいいよね、という気にもなるだろう。
「さてと、紅茶も入ったし、みなさん気に入った物をまず一個ずつ選ぼうか」
ちょっと一口が嫌な人、手をあげてー、というと、誰からも手が上がらなかった。
ふむ。このメンバーはシェアがオッケーということらしい。
「その確認はいるものなの?」
「いるんじゃない? 女同士ならオッケーかと思いきや……ねぇ」
お察しくださいと肩を竦めると、あぁそういやそうだっけか、といまさらながら、気まずそうな、あーという声が漏れた。
「それに、女子同士だってそういうの嫌な人もいるって前に見たことあるし」
それなら個別に堪能するだけなのです、と言い切ると、んー、私はいろんなの試したい派かなぁと佐々木さんがちらりとケーキに熱っぽい視線を向けながら一つをえいやと選んだ。
「アーモンドチョコ風味ってな感じだったかな、それも美味しそうだよね」
「うん。ちょっと大人っぽい感じかなと思って」
そんな佐々木さんの勢いにおされて、他の二人もチョコケーキをそれぞれ選ぶ。
最後にルイさんは自分の分も確保した。
二巡目は、これが食べ終わってからである。
「んぅ。ほろ苦くておいしー。スポンジふわっふわ」
幸せすぎるーと、みなさんとろんとろんな表情をしてくださったので、そこはばっちりと撮らせていただきました。
ザ・女子会という感じでいい絵になったと思う。
「さてと、では斉藤さんにここでクエスチョンです。昨日のバレンタインはお手製チョコでもあげたのかな?」
ふふ、と幸せそうな顔をしている彼女にようやくこの質問をすることができた。
前に学校の帰りに会った時から、この質問はこの会でしようと思っていたのだ。
「え? なにちづ彼氏できたって話はきいたけど、こんにゃろーとは面識ある感じなの?」
「いやぁ、実は木戸くん、大学で彼と仲良しなんだっ……にょわっ、さくらどうしたの」
さくらが思い切り、斉藤さんの両肩を掴んだ。
そして目線を合わせて、マジ顔である。
「その彼氏、実は木戸くんのことが大好きですとか、ない? 大丈夫? 取られない?」
「ちょ、人を寝取り専門みたいに言わないでくれるかな……」
「こんな可愛い子と仲良しって、勘違いとかするかもしれないし」
うちのはびた一文勘違いしないだろうけど、とさくらはちょっと遠い目をした。
「って、先輩とは男同士として……いや、まあ時々女装はしたけれど、別に恋仲とかそういうのは全然ないっての」
そういう気にはなりませんから、というと、うんうんと斉藤さんが肯いた。
「なにげにルイさんは女子にはいろいろ気配りできるけど、男の人には気配りできないから、あんまり心配してないよ」
それに、と斉藤さんはちょっとはにかんだ顔をしながら、言った。
「別に、外見でお互い好きになったわけじゃないしね」
「おぅ、それって、ちづっちの彼氏さんはイケメンということなの?」
写真があったら是非見たい見たい、と佐々木さんはケーキをいただきつつ、テンションを上げてきた。
友人の彼氏を見たいとは、やはり乙女である。
「写真はあるよー。斉藤さん、公開してもOKな感じ?」
「う……はい、どうぞ」
佐々木さんにキラキラした目を向けられて、斉藤さんははずかしそうに、それでもOKを出した。
あとは、こちらのお話だ。
タブレットから、男子状態の志鶴先輩の姿をピックアップする。
「これが、斉藤千鶴嬢の彼氏どのです。ほら、どうよこのイケメン。身長あり、しかもやわらか系男子」
「おぉ! たしかにすっごい綺麗な人」
これは……ただし美女とイケメンに限るカップルか! と佐々木さんは変なコメントをつけてくれた。
いや、確かに斉藤さんも美人さんだし、二人で並ぶと絵にはなるんだけどね。
どうしても、普段の志鶴先輩の姿がちらついて、女同士できゃっきゃやってる風にしか見えないという……
「でも、ちょっと影がある、そんな感じでね……」
「へぇ。ちづったら、面倒見は良い方だったけど、男の趣味もそんな感じなんだ?」
「趣味っていうか……出会っちゃったからなぁ」
こればっかりはしょーがないなぁ、と斉藤さんは恥ずかしがりながら、それでもちょっとドキっとさせられるような柔らかい顔を浮かべた。もちろん今のは撮らせていただきました。
「きちんと向かい合って彼が元気になってくれるといいなって思ってるの。まだまだ付き合ってそんなに経ってないからなーんにも彼が抱えてることはわからないけどさ」
「それじゃ、斉藤さんも自分が演技してるところとか、見せなきゃだね」
お互いがいろいろ知り合うのが大切って、前になんかの本で見たよ? というと、お前がいうなよーとさくらからクレームが入った。
そうは言われましてもさ……
「演劇は、まぁ、好きは好きだけど、前にも言ったけど今はもう力いれてないの」
「えぇー、ちづちゃんやめちゃったの?」
もったいない、と事情をあまり知らない佐々木さんはしょんぼりした声を上げていた。
彼女は輝いている人を見るのが好きだから、たしかにそこは残念に思うのかもしれない。
「かおたんとさくらには話したんだけど、私が演劇をやってる理由って人を喜ばせたいからでね。その方法が演劇だったってわけ」
うんうんとさくらが肯いているけど、すみません、かおたんそこまで聞いてないですよ。
「あ、そういえば。よし、今の機会に切り出すのがベストかな……」
よし、と斉藤さんはなにかを決意したように、こちらにじっと視線を向けた。
「実は私、今、保育園でアルバイトしてるんだけどね、ちょっとルイさんにお願いしたいことがありまして」
「え……保育園って……またどうしてそうなった」
演劇ばりばりやってた人がいきなりそっちとか、どういうことなのだろう。
さくらは知っていたのか、あんまり驚いた様子はない。
というか、ちょっと悔しそうにしてる?
「別に変な事じゃないよ? さっきも言ったけど人の喜んでる顔を見るのが好きなんだから、保育園の先生とかすごく合ってると思うし」
実際、すっごい大変だけど、かわいい顔みれて幸せ、と斉藤さんはちょっと緩んだ顔を見せた。
はい、その顔いただきます。
「それで三月に卒園式があるんだけど、そのときに写真担当してもらえないかな?」
できれば、リーズナブルな価格でお願いしたい、と言われて、んー、と少し考えを巡らせる。
三月はいろいろと卒業式シーズンと被るものだけれど、日程が合えば受けることは可能だ。
ただし、リーズナブルとなると、どうしようか。
「それは、あたし向けってことでいいのかな? そうなると写真店に記載された金額プランになっちゃうんだけど」
こんな感じ、とホームページを表示させると、佐々木さんから、おぅ、これがプロってやつか……とちょっと羨望まじりの声が漏れた。
「馨が担当するなら、お友達価格になります。でもそれならさくらに声をかけてもいい案件かなぁって思う」
「んー、ん? これ価格表、ルイさんだけ安くない?」
「そりゃ、まだセミプロだもん。他の人達と同じ値段は取れないよねってことで、まだその値段」
入ってまだ半年経ってないし見習いなのさ、と言ってあげると、そういうもんかー、と彼女は納得したようだった。
でも、安いとはいっても、一回の撮影で万単位のお金にはなる。
馨としてのお友達価格だと、じゃがいもの詰め合わせとか、みかん一箱とかなので、それに比べれば破格である。
「じゃあ、この金額表を元に、他の先生達と話をしてみるね」
予算は厳しいけど、ちゃんとしたカメラマンさん入れてあげたいって思いはみんなにあるみたいだから、というと斉藤さんは、卒園式の日付も教えてくれた。
うん。これなら今の所予定はいってないから、大丈夫だ。保育園の卒園式ってけっこう後のほうなんだね。
まあ、親が共働きだったりするんだろうから、そうなるのも納得だけど。
「ちなみに、予算の都合が合わなかったら、あたしが撮ったげるから、候補にちゃんといれておいてよね」
是非にもっ、というさくらの強いメッセージを、斉藤さんは、うんいちおう考えとく、とさらりと流した。
ちょっとしょんぼりした顔をしていたので、ケーキ一個多く食べて良いよ、とルイさんは言ってあげたのだった。
ご飯のあとは別腹もね! ということでチョコレートケーキ十種でございました。
いづもさんがんばりすぎであろう。
さて、そんなわけで、斉藤さんの演劇関連のお話大公開ということで。
保育園行きの話はどうなるんでしょうね? 以前男の娘もので、保育園にお手伝いに行って母性にめざめる系のがあったような……
さて、次話はかおたんルームにまいりますよ。




